第137回(8月1日)福田不出馬・安倍独走 人事争い激化
イラク南部のサマワで人道復興支援活動に当たってきた陸上自衛隊の皆さんが7月末、帰国しました。本当にご苦労さまでした。約2年半の間、一発の弾も撃たず、1人の犠牲者も出さず、5500人の隊員が一丸となって支援活動に従事し、無事撤収できたことは、隊員の規律の良さと献身的な活動が現地で高く評価された結果によると思います。危険地帯で国益を担って任務を果たしてきた隊員の皆さんに、深い敬意を表します。どうか待ちわびていたお子さんや家族と素晴らしい夏休みを過ごして下さい。集中豪雨災害をもたらした梅雨がようやく明けそうですが、政局は50日後の総裁選に向けて猛暑が続いています。自民党は7月28日の東京地区を皮切りに9月初旬まで、全国10地区で総裁選の前哨戦となるブロック大会を開催中です。既に候補者の多くは政権構想を発表、党員・党友に訴えていますが、早くも党内では派閥の合従連衡や新政権のポスト(党役員・閣僚人事)争奪戦が激しくなっています。これに、サンクトペテルブルグ・サミットなど一連の外交成果を花道に勇退する小泉首相が、どのような影響力を行使するか注目されるところです。

「開かれた保守主義」唱える
第21代目となる総裁選で独走を続けているのが国民的人気の高い安倍晋三官房長官。4年前の官房副長官当時、北朝鮮の日本人拉致事件で毅然たる態度を示し、一躍「将来の首相候補」に躍り出ました。またも今回は弾道ミサイル6連射で果敢に対応、北朝鮮への制裁措置に踏み切るなど一段と株を上げています。7月20日に、自らの国家観や政治信条、政権構想を綴った「美しい国へ」(文春新書)を出版、同書をひっさげて27日から、政府の「再チャレンジ支援政策」の一環として地方視察を開始しました。民主党の小沢一郎代表のお膝元・岩手県を皮切りに、東京、大阪など6都府県を回っています。講演回数も増やし、12日には地元の山口県下関市で立候補の“総決起大会”を開きます。「美しい国へ」では、「日本を自信と誇りの持てる国にしたい」と強調、「国家、国民のためとあれば批判を恐れず行動する『闘う政治家』でありたい」と宣言、政治スタンスを「開かれた保守主義」と位置づけ、安全保障と社会保障が政治家の取り組む政策テーマだとしています。外交では日米印豪の首脳レベル協議の場新設を唱え、内政では「小さな政府と自立した国民」を主張、「セーフティネット」と「自己責任」を両立させると訴えています。

高齢理由に森派分裂回避
安倍氏を追っていたのが国民人気2番手の福田康夫元官房長官でしたが、7月21日に突然、不出馬を表明しました。「ハト派の福田、タカ派の安倍」と外交路線に違いがあるうえ、消費税への取り組みなど内政でも開きがある両者でしたが、靖国神社問題が争点になれば党内を二分する論争となり国益が損なわれるばかりか、“安福対決”で森派が分裂の事態を招くため、70歳の高齢などを理由に、18歳も年下の後輩に道を譲ったものです。慎重な福田氏は、「(出馬表明は)1カ月もあれば十分だ」と述べていたことから、党内では、小泉首相が8月15日の終戦記念日に公約である靖国参拝をするかどうかを見極めて、出馬表明をするものと見ていました。しかし、福田氏は、党が総裁選に向けて開いた28日の東京ブロック大会を欠席。本来はポスト小泉の「麻垣康三」討論会としてセットされた同大会には、安倍官房長官、谷垣禎一財務相、与謝野馨経財・金融担当相が出席し、海外出張中の麻生太郎外相は発言ビデオを放映し、各氏が事実上の政権構想となる「日本の将来像」をぶち上げました。「麻垣康三」ならぬ「麻垣馨三」の顔見世興行です。

福田氏に代わる統一候補模索
かつて首相の盟友だったYKKの山崎拓前副総裁、加藤紘一元幹事長らベテラン議員は急激な世代交代を望まず、「反小泉・非安倍」で福田擁立の勢力結集に動いていました。山崎氏は昨年、自公民3党有志の「国立追悼施設を考える会」を結成し、福田氏をメンバーに加えました。山崎派が7月18日に開いた政治資金パーティで、山崎氏は「アジア諸国との協調」を柱として、新たな戦没者追悼施設建設を明記した政権構想を発表しました。総裁候補を持たない我が丹羽・古賀派の古賀誠元幹事長もアジア外交で考え方が近い福田氏擁立の姿勢を強め、靖国神社のA級戦犯分祀論を唱えていました。それだけに、山崎氏らは、「このままでは総裁選が消化試合になってしまう」と危機感を強めており@福田氏に代わる新たな統一候補擁立を模索するA1回目の投票で安倍氏の過半数獲得を阻止するため、各派が候補者を擁立して安倍氏の票を分散させるB決選投票に持ち込んだ場合の2、3位連合候補を事前に調整する――などを検討、山崎氏自らの出馬も想定しています。

「心得違い」で歴史観の相違明白
最強軍団だった田中派の流れをくむ津島派は、在日米軍再編問題、北朝鮮のミサイル発射などで活躍した額賀福志郎防衛長官を擁立する動きを見せています。山崎氏、二階俊博経産相らもマスコミの人気投票順位争いには常時顔を出しており、いつ「大穴」の候補が浮上するか全く予断を許しません。そこに降って湧いたのが、昭和天皇の発言メモです。昭和天皇はA級戦犯合祀に不快感を示し「あれ以来靖国に参拝していない それが私の心だ」と語ったと、88年4月28日に記した富田朝彦宮内庁長官(故人)の手帳にメモが残されていました。首相は「陛下にも様々な思いがおありになったんだと思う」とまたも「心の問題」で片づけましたが、とんでもない「心得違い」。昭和天皇と首相との間には、歴史観・心の持ち方に大きな相違があることが明白になりました。山崎氏らの国立追悼施設構想や古賀氏のA級戦犯分祀論に弾みがつき、北のミサイル連射で折角、点数を稼いだはずの安倍長官は、逆風が吹いたと感じたのか、広範な支持を狙って森派を離脱しました。

知名度アップに懸命な麻生氏
安倍氏は首相と同様、靖国参拝に前向きで、祖父の岸信介元首相がA級戦犯容疑で巣鴨プリズンに囚われていたこともあって、新著ではA級戦犯合祀の靖国神社参拝の正当性を主張。「天皇陛下の政治利用禁止は常識だ」とし「靖国問題を総選挙の争点にすべきではない」との持論を強く主張しています。森喜朗元首相は、福田、安倍の候補1本化に悩んでいた7月上旬、町村信孝前外相のパーティで、「私はむしろ気楽に、1番劣勢の麻生太郎(外相)を応援しようかと思っている」とジョークを飛ばすほどやけっぱちでした。その麻生氏は、01年の総裁選で勝負して以来、2度目の挑戦。この5年間に政調会長、総務相、外相と重要ポストを歩き、支持者を増やしてきました。前原誠司前民主党代表の「中国は現実的脅威」発言に同調し、「かなりの脅威」と不用意な発言をして中国を刺激したこともありますが、額賀氏と同様、在日米軍再編問題や国連安保理事会での対北朝鮮決議採択で力を発揮、テレビに多く出るなど知名度アップに懸命です。旧宮沢派系3派中堅議員らの「アジア戦略研究会」に参加し、「中国とは“日中共益”を目指すべきだ」と主張。靖国神社を非宗教法人化してA級戦犯分祀の可能性を探ることも提言しています。 

谷垣氏は「大宏池会」復活期待
しかし、所属する旧河野派は10人で、立候補の意思表示をした河野太郎氏と自分を除けば1桁の勢力。しかも、前回の推薦人だった野田聖子元郵政相、山口俊一元総務副大臣らが昨年、郵政民営化法案に反対して離党したとあって、推薦人20人の確保にも苦労しており、旧宮沢系3派の支援に望みをかけています。候補の中では唯一の派閥領袖でありながら、麻生氏と同じく11人の弱小派閥を率いる谷垣氏は7月27日、正式に出馬を表明。@アジア外交の立て直しA地域の活力を回復B消費税率引き上げ-----の3点を重視する政権構想を示しました。「GDP(国内総生産)の150%もの負債を抱え、借金は雪だるま式に増えている」ことを理由に、「消費税を社会保障の財源と位置づけ、10年代半ばまで10%にアップする」と堂々と主張。政権公約のキーワードには「絆」の復活を掲げ、「強者優先、効率優先の風潮の見直し」を求めています。だが、今ひとつ人気が湧かず、各紙の世論調査では絶えず麻生氏の下風に立たされています。そこで、福田氏に集まっていた「反小泉・非安倍」の勢力を何とか自陣営に取り込もうと、麻生氏同様、「DNAは共通だ」として、元々同根の旧宮沢系「大宏池会」の復活に大きな期待をかけています。

福田外相、町村官房長官か
こうした各候補の動きの陰で、新政権の骨格争いが激しくなってきました。福田氏が総裁選で安倍氏を支持するなら、当然安倍政権では外相として入閣するでしょう。そうなると、森派内で安倍支援の旗を振ってきた町村氏は官房長官に、首相側近として小泉構造改革に尽力してきた中川秀直政調会長も主要ポストで入閣することは間違いありません。津島派の本当の狙いは、総裁レースに参加するより額賀氏を幹事長に送り込み主流派の形成にあると見られています。派閥の合従連衡はポスト争奪、主流派狙いの動きも絡んで複雑化しています。任期3年(再選1回可能)の総裁選は、自民党所属国会議員の403票(衆参両院議長は党籍離脱)と一般党員の300票で任期満了前の10日以内に行われますが、今回は9月8日告示、同20日開票に決まりました。一般党員票は各都道府県に1律に3票ずつ配分した後、残りの159票を党員・党友数に比例してドント方式で配分。双方の合計が過半数に達しない場合は、国会議員による上位2人の決選投票に持ち込まれます。

カギ握る小泉チルドレン
だが、党内5分の1の勢力である小泉チルドレン82人の動静が総裁選のカギを握っています。既に半分の38人は森、山崎、二階派などに入会しましたが、残る44人が目下「青田刈り」の対象。各派の幹部から連日、「肩たたき」を受けていますが、チルドレン生みの親である小泉首相の路線を継承する安倍陣営が有利でしょう。党内では年明け以来、総裁選ルールを巡る色々な提案がなされてきました。山本一太参院議員や大村秀章衆院議員ら安倍氏支持の若手議員22人で作る「メークドラマプロジェクト」は2月中旬、簡単な党費納入で投票権が得られる予備選を新設し、推薦人を10人に半減させて出馬のハードルを下げ、総裁選の1カ月前までに実施するよう提案しました。これに対し、ベテラン議員からは、予備選が人気投票的に行われ、総裁選の結果に悪影響を及ぼすとの懸念が表明され、総裁公選規定の「前2年の党費(年間4千円)を納入した党員」の投票要件を「1度に2年分以上の党費を納入した場合にも投票権を認める」よう緩和し、党勢拡大や党費の収入増に役立ててはどうかとの案が出されていました。

国民参加型のブロック大会
こうした経過の末、自民党は5月18日の11衆院比例代表ブロックの代表会議で、総裁選候補が参加するブロック大会の開催について基本的に了承しました。これは「国民参加型」総裁選のプロデューサー・武部勤幹事長が提唱してきたもので、総裁候補による演説会や討論会、模擬投票などを8月中に実施するよう求めました。総裁選出馬に意欲を持つ議員が政策論争をすることで「首相公選」に近いイメージを国民に与えると期待したものです。しかし、代表会議には加藤紘一氏(東北)、中川秀直氏(中国)、山崎拓氏(九州)ら各ブロックの重鎮が出席しており、大会開催自体には前向きな意見を述べるものの、「告示前に開催すると候補者が分からない。候補者の政見発表の場にするなら告示を早めて欲しい」(山崎氏)、「すべての大会を総裁選に絡めるのは難しい。告示後に大会開催場所で立会演説会があればいい」(加藤氏)など告示前の開催に多くの疑義が示されました。

指導者像・政策訴え「前哨戦」
疑義は、@8月中に総裁候補が出そろうかどうか不明A仮に国会が会期延長となれば、総裁候補が名乗り上げる時期が告示直前になるB逆に早すぎると、推薦人20人も確保できない目立ちたがり屋が集まって、政策論争を展開したらどうなるか――などでした。また、北関東ブロック会長の森山真弓元法相も、「開催費用を出す余裕がない。党本部が全部払ってくれるなら考えてもいいが…」と効果の点に疑問を投げかけました。これら意見に対し、執行部は6月20日、大会開催費用の助成に各ブロック1律300万円を支給、北関東は南関東と合同で開催することとし、7月下旬から9月上旬にかけ、衆院比例11ブロックごとにブロック大会を開催することに決めました。党大会は本来、党の地方組織の結束強化や党勢拡大を目的に毎年開き、党員以外にも参加を呼びかけてきましたが、今年は総裁選の「前哨戦」と位置づけ、党員以外の参加者が次期首相に求める指導者像、政策などを8月中にインターネット・アンケートで調べ、総裁選の論争に反映させることにしています。アンケートは『私が総理大臣になったら』をテーマに、200字以内で小学生も含め幅広く意見を求め、福田不出馬で沈滞ムードの総裁選を盛り上げようとしています。

総裁選を巡る日程と各ブロック大会開催場所は下記の通りです。
【東京】7月28日=千代田区、【近畿】8月5日=大阪市、【北関東・南関東】合同 8月22日=横浜市、【北陸信越】8月26日=富山市、【北海道】8月31日=札幌市、【中国】9月1日=広島市、【四国】9月2日=松山市、【東北】9月3日=盛岡市、【九州】9月4日=福岡市、【東海】9月5日=名古屋市
【選挙人名簿の確定】8月28日、【総裁選告示・立候補届け出】9月8日、【党員投票締め切り】9月19日(20日開票)、【国会議員の投・開票、新総裁の承認】同20日