第136回(7月16日)北鮮ミサイル6連射 安倍氏有利に
 7・8月は花火のシーズンですが、北朝鮮が打ち上げたミサイル花火7連発は、狂気の沙汰としか思えません。発射日は7月5日で、ブッシュ米大統領が独立記念日(米国時間4日)祝賀の花火見物をしている時間に合わせて威嚇したと見られます。6月末には、北朝鮮の金剛山で韓国人拉致被害者、金英男氏の記者会見をセットして、同じ日に行われた日米首脳会談の“蜜月関係”に水を差そうとしました。今回は、15日のサンクトペテルブルク・サミットの直前に国際緊張を作り出そうと挑発しています。スカッド、ノドン、テポドン3種類のミサイル連射は、@米国との直接交渉A夜間の軍事演習で実戦配備を見せつけるBミサイル貿易拡大――の狙いがあり、北東アジアの緊張が高まっています。基地出身の私としては「北の脅威」を肌身に感じ、地元と東京を激しく“トンボ返り”しながら対応策に追われているところです。北朝鮮に厳しい態度をとってきたタカ派の安倍晋三官房長官は総裁選で有利に立ったとの見方があり、「北の花火」は余波を広げています。

日本射程の実戦配備で恫喝
 北朝鮮は7月5日午前3時30分過ぎから8時過ぎにかけて6発、さらに午後5時20分頃1発、計7発の弾道ミサイルを発射、いずれも新潟県の北西約数百キロの日本海に着弾しました。このうち1発は北東部の舞水端里から発射した「テポドン2号」(射程3500〜6000キロ)と見られますが、額賀福志郎防衛長官は「失敗した可能性がある」と記者会見で述べました。政府関係者も「テポドンは2弾式だが、2弾目が1弾目の落下地点より遠くに飛んだ形跡がない」と失敗を裏付ける発言をしています。残りは南東部の旗対嶺付近から発射されたようで、日本全土を射程に収めるノドン(射程1300キロ)3発と、韓国が射程のスカッド(同300〜500キロ)3発と見られています。一連のミサイル発射は、核開発に加えアラスカ、ハワイなど米本土も射程内に収めるテポドン2号の保有を誇示することで米国を直接交渉に引きずり込むとともに、いつでも韓国にはスカッドを、日本にはノドンを撃ち込めるとの実戦配備を見せつけ、恫喝したと思われます。

万景峰号の即時入港停止
 98年8月31日に「テポドン1号」を発射した時は、1弾目が秋田県沖に落下、2弾目が本土を超えて太平洋に着弾したことから、北朝鮮は「人工衛星の打ち上げ実験だった」と言い張りましたが、今回の2号は北東部の基地から発射。ロシアのナホトカ沖40キロの海上に落下し、弾道がハワイの方角を向いていた点から、失敗しても米本土を狙って威嚇したことは明らかです。政府は直ちに北朝鮮の貨客船・万景峰号の半年間の入港禁止など計12項目の措置に加え、国際社会の協力を求めて、外為・外国貿易法に基づく北朝鮮への送金・貿易の制限・停止など段階的な制裁を実施する構えです。同時に米英仏の賛意を得て、国連の安全保障理事会にミサイル発射を非難し、制裁措置を盛った決議案を提出、これにデンマーク、スロバキア、ギリシャ、ペルーも加わり8カ国で共同提案しました。

武力行使可能の制裁決議案
 決議案は、核開発を宣言している北朝鮮のミサイル発射は「国際平和と安全への脅威」とし、制裁や武力行使を可能にする国連憲章7章下で安保理が行動すると規定。「弾道ミサイルの開発、試験、配備、拡散を即時停止、発射凍結の再確認などを求め、核問題では、6カ国協議への無条件即時復帰と核関連活動の停止を要求しました。制裁措置では、北朝鮮の大量破壊兵器開発につながる資金や物資、技術の移転阻止を国連加盟国に義務づけました。しかし、中国とロシアは「98年に北朝鮮がミサイルを発射した際は、安保理は『プレス声明』の発表でしかなかった。今回はそれより1段階高い『議長声明』で十分だ」と述べ、決議案には反対しました。これに対し、大島賢三国連大使は「98年に比べ今回は7発を発射し、核開発も進行させており、深刻度が異なる」と主張しています。

北支援の中ロも本音は圧力
 日本提案の非難決議案には反対したものの、中ロ両国はともに、北朝鮮にはミサイルを発射しないよう警告し続けてきました。わずか40キロの海上に被弾したロシア極東の町ナホトカ市では、不安に駆られた市民が北朝鮮総領事館に詰めかけ抗議するなど反発が強まっています。サミットの主要議題は@エネルギー安全保障A感染症との闘いB教育――ですが、北朝鮮との関係が深いロシアは、サミット議長国として、当然ミサイル問題を取り上げ、北朝鮮に強硬措置を示すことになるでしょう。とりわけ、中国は94年以来、北朝鮮に食糧、原油、化学肥料などを無償で援助。05年の相互貿易額は前年比約14%増の15億8千万ドルに達するという最大の経済支援国で貿易相手国。しかも6カ国協議の議長国であります。胡錦濤・総書記(国家主席)は昨年10月と今年1月、金正日・総書記と、北朝鮮の核問題を巡る6カ国協議で、半島非核化に関する前向きな立場を確認し合い、その成果に沿って関係各国に同協議再開を呼びかけていただけに、メンツを潰された形です。従って、中国は北朝鮮の暴走に対し、建設分野の基幹物資の輸送凍結に乗り出したらしく、鴨緑江にかかる物流動脈の「中朝友誼大橋」の輸送量が激減したと言われます。

「夫婦への侮辱」と金英男氏
 中国は北朝鮮が2003年に核拡散防止条約(NPT)からの脱退宣言をした時、北朝鮮向け原油パイプラインを一時閉鎖し、対話に応じるよう圧力を掛けましたが、今回も外向的圧力を強めるものと見られます。日米とは一線を画し、太陽政策に基づき南北交流・協力を進めてきた韓国も、韓国が射程内のスカッド・ミサイルを発射したことで国内は騒然とし、追加経済支援の再検討に入ったようです。 このような各国の事情から、中露両国は12日、「ミサイル発射に強い遺憾の表明はするが、国連憲章7章への言及を削除する。」との趣旨の決議案の対案を提示、米英仏中露の5常任理事国と日本が協議した結果、難航の末、両決議案を修正案を採決する運びになりました 北朝鮮は6月29日、南北離散家族再開事業が行われた金剛山で、韓国メディアだけを相手に横田めぐみさんの夫、金英男氏の記者会見を設営しました。金氏は「私は北朝鮮の船に救助された」と拉致被害者であることをまず否定したうえ、「めぐみは幼い時の事故で、脳にひどい損傷を受けて精神疾患に至り、94年4月13日に病院で自殺した。遺骨を別人とした日本政府の鑑定結果も卑怯、幼稚な主張で、夫の私とめぐみへの侮辱。人権蹂躙だ」と、約30分間まくし立てました。

平壌宣言を平然と反古に
 それは、北朝鮮当局が「カラスをサギ」と言い含めるよう演出した「めぐみさん自殺で幕引きする」シナリオを、鞄から取り出したメモを見ながら、緊張した面持ちで読み上げる“腹話術”寸劇の光景でした。娘の生存を信じる横田滋・早紀江さん夫妻は「予想通り、当局に言わされた内容」と冷静に受け止めています。ミサイル発射でも北朝鮮は「今回の成功的なミサイル発射は、自衛的国防力の強化のため我が軍隊が通常行っている軍事訓練の一環だ」と自主権を主張、「日朝平壌宣言や核問題を巡る6カ国協議の共同声明のような合意文書には拘束されない」と、平然と述べました。このように日朝平壌宣言を反古にし、「北東アジアの平和と安定のための共同努力」を確認した昨年9月の6カ国協議共同声明の精神を踏みにじるぐらいは屁の河童で、北朝鮮はクレージーな特異理論を唱えています。

成功に味占め3匹目の泥鰌
 93年5月にノドンを日本海に発射した時は、カーター元米大統領が特使となって翌年、金日成主席と会談し、朝鮮半島エネルギー開発機構(KEDO)設立や原油の年50万トン供給で合意。98年8月のテポドン発射の際には、日和見主義のクリントン前政権が1年後の米朝会談で、経済制裁緩和とミサイル発射凍結の融和策で合意しました。この成功体験に味を占めて3匹目のドジョウを狙い、11月の中間選挙を控えて支持率低下に悩むブッシュ政権に対しても、体当たりのミサイル発射で揺さぶりをかけ、2国間対話に引きずり込もうと、またも瀬戸際外交に出ました。しかし、クリントン政権の軟弱外交を批判して登場したブッシュ米大統領は、北朝鮮、イラク、イランを「悪の枢軸」ときめつけ、ラングーン・大韓航空機テロ、人さらい(拉致)、麻薬製造・密売、偽札・偽たばこ作り――と何でもありの北朝鮮を「ならず者国家」と呼び、厳しい金融制裁を加えました。金融制裁は北朝鮮が偽造したドル札をマネー・ロンダリング(資金洗浄)したとして、金総書記が2千万ドルの個人資産を隠し預金しているマカオの銀行、バンコ・デルタ・アジアを取引停止としたものです。従って北の恫喝で米朝対話が実現するはずがありません。

核搭載弾道弾の実験も示唆
 テポドン2号発射の直後、政府は、午前7時半から安全保障会議を開きましたが、これをあざ笑うかのように、北朝鮮は同会議中にも3発のミサイルを発射。同会議が決めた制裁措置に対しては、宋日昊・日朝交渉担当大使が、ちょうど訪朝中の日本人記者団に「言語道断だ。後に破局的結果を招きかねない。日本の態度を注視し、しかるべき(制裁の)対応を講じる」と述べ、その中身は「ミサイル発射訓練を含めてもっと強い“物理的な対応”を示さねばならない」と脅し、大変な剣幕でした。これは核搭載弾道ミサイルの発射実験なども行うことを示唆したものです。この高圧的な発言に対し、安倍官房長官は「憤りを感じる。誰がこんな関係の原因を作ったか。拉致、核、ミサイルとも全て北朝鮮が引き起こした。国際的な連携を強め、強く圧力を掛けなければならない」と強く反論しました。安倍氏は拉致家族が最も信頼を寄せる対北朝鮮強硬派。連日の記者会見で北朝鮮に強い姿勢を示すテレビの露出度から、世論調査ではさらに人気が上がり50%支持に迫るなど、総裁選で有利に立っています。国連では「日本が主役」となったことから、麻生太郎外相も「拘束力のない中国の議長声明などは駄目だ」と決議案採択に懸命になっています。

新型スカッドの実践的訓練
 「経済制裁をすれば北は我が本土をミサイル攻撃しよう。攻撃部隊を配置すべきだ」――。自民党は5日午後、緊急の国防・外交・内閣関係合同部会を開きましたが、激しい意見が続出。北朝鮮への厳重抗議や制裁措置の発動、国連安保理での対処を求める緊急声明を発表しました。公明党はもとより、野党も経済制裁には理解を示しています。我々国防議員が憂慮するのは、払暁の5時間弱に色々な場所からミサイルを6連射し、ほぼ同じ海域に落下させ、金正日体制下で弾道ミサイルの攻撃能力と指揮系統が確立していることを見せつけたことです。午後の1発を加えた7発の中には「新型スカッド」(射程600〜1000キロ)が含まれたと見られ、額賀防衛長官は「飛距離がノドン(同1300キロ)に近づくだけに脅威となる」と警戒しています。射程600キロ圏は福岡、山口、島根、800キロなら中国・九州・四国の大部分、1000キロなら中部地方の大部分が含まれます。北朝鮮は日本全域に向けて車両に搭載し移動可能なスカッド600基、ノドン200基の配備を終えたと言いますが、より実践的な軍事訓練を行ったことは事実でしょう。

ミサイル輸出で外貨獲得
 テポドン2号は上空で爆発した可能性がありますが、本当に失敗したかどうかは疑問。米国の攻撃を招きかねない米本土への着弾を避け、後の対米交渉を視野に入れて攻撃能力の保持だけを誇示するために飛行距離を計算したとの説もあります。スカッドは旧ソ連製をもとに、開発で連携しているイラン、パキスタンから類似データを手に入れて改良を加えていますが、今回の実践訓練を兼ねた連射実験で自信を得、両国やシリアなどへのミサイル輸出を拡大、外貨獲得に乗り出そうとしています。このように連射は、“死の商人”と米国への恫喝の「2本立て興業」でしたが、ミサイルに搭載可能な核弾道の開発に成功すれば、国際テロ組織の手に渡らないとも限らず、日本はむろん国際社会全体にとって深刻な脅威となります。麻生外相は「昭和10年(35年)代のシナ・満州事変から太平洋戦争に拡大していった軍部(関東軍)の暴走に似ている」と北朝鮮軍部を心配しています。

MDシステムを前倒し
 この点、韓国朝鮮政治学の権威、小此木政夫慶大教授は、6日の読売コラムで@狙いは経済制裁解除を協議するための米国に対する『求愛と恫喝』だA98年の発射は『強盛大国』の名の下で、金正日体制の威信を高める狙いがあったB今回は労働党と軍の内部対立で軍が暴走したとの観測もあるが、党も軍も完全に金総書記が掌握しており根拠が薄いCむしろ、北朝鮮が『我々はならず者国家であり、何でもする。それでいいのか』と開き直った可能性が高い――との趣旨の論文を載せ、第2,第3幕があることを示唆しています。政府は08年3月末をメドとしているミサイル防衛(MD)システムの地対空誘導弾パトリオット・ミサイル3(PAC3)3機の配備を前倒しし、07年中にも実施する方針です。PAC3は4基がセットで、最初の1基は本年度末までに入間基地(埼玉)に、07年度末までに霞ヶ浦(茨城)、習志野(千葉)、武山(埼玉)の3基地に1基ずつ配備し、首都圏の迎撃態勢を万全にします。続いて10年度末までに浜松基地、中部・近畿地方、九州地方の3地域にもそれぞれ4基ずつ計16基の配備を終える予定です。

基地・原発の迎撃態勢強化を
 PAC3は、イージス艦に搭載するスタンダード・ミサイル3(SM3)と一体となって弾道ミサイルを迎撃します。SM3が発車直後から大気圏外に出るまでの迎撃を担当。そこで撃ち漏らしたミサイルを、地上配備のPAC3が大気圏再突入以降に迎撃する仕組みです。正気を失った独裁者と、いつ突出するか分からない「先軍政治(軍事優先の政策)」の軍隊を抱える北朝鮮の危険に対処するには、MDシステムの前倒しは当然ですが、米軍に依存しない情報収集機能、狙われやすい基地・原発の迎撃態勢、日本海沿岸漁業者の保護、万景峰号入港禁止に報復する日本船舶の拿捕に対する警戒――などを強化しなければなりません。また、周辺事態法では「直接の武力攻撃に至る恐れのある事態」と認定すれば、自衛隊の米軍への後方支援が可能ですが、今回の連射はそれに当たるかどうか。米国に向けたテポドン2号を自衛隊が迎撃したら憲法が禁じる集団自衛権に抵触しないか。鳩山一郎内閣以来「座して自滅を待てというのが憲法の趣旨とは考えない」との理由で、「自衛権の範囲」と国会答弁してきた敵基地攻撃の能力をどう保持するか――など法的統一見解を再検討、整備する必要があります。私はこの夏、これら対策に鋭意取り組む決意を固めています。