第134回(6月16日)延長なく国会閉幕 走り出す総裁選
 終盤国会は、私が所属する衆院教育基本法特別委員会を中心に連日、与野党論戦を展開してきましたが、国民年金保険料の不正免除が大量に発覚したことや国会対策の手詰まりなどもあり、会期延長を見合わせ、残る重要法案は全て9月総裁選後の臨時国会に継続審議とし、会期通り18日で幕を閉じることになりました。継続は教育基本法改正案、憲法改正手続きを定める国民投票法案、防衛庁の省昇格関連法案、「共謀罪」を創設する組織犯罪処罰法改正案、社会保険庁改革関連法案などです。それでも首相は、最重要法案の行政改革推進法と歳出・歳入一体改革に影響する医療制度改革関連法が成立し満足しています。7月初めに来年度予算案の骨格となる小泉政権最後の「経済財政運営と構造改革に関する基本方針」(骨太の方針)をまとめ上げ、今月末にはカナダ・米国訪問、7月中旬のサンクトペテルブルグ・サミット、その直前にイスラエル、パレスチナ訪問などハードな外交日程をこなし、求心力を保持したまま総裁選をリード、外交を花道に引退する構えです。安倍晋三氏らポスト小泉候補は国会閉幕で重い政務から解放され、総裁選に走り出しました。


保険庁、ファンドで野党攻勢
 社会保険庁による国民年金保険料の不正免除の大量発覚や、ライブドア事件のホリエモン同様、勝ち組・成功者の“ヒルズ族”と称された「村上ファンド」の村上世彰元代表がインサイダー取引に絡み逮捕される事件が摘発され、小泉改革の“影の部分”の「格差社会」に国会論戦が移るなど、終盤国会では野党が一段と攻勢を強めていました。特に首相側近の閣僚が貯蓄より投資を奨励したり、村上ファンドと提携した宮内義彦オリックス会長が政府の規制改革・民間開放推進会議議長を務めていることや、福井俊彦日銀総裁が、村上ファンドに1千万円を拠出していたことがわかるなどで攻撃材料が増え、民主党の小沢一郎代表は記者会見で「問題点は小泉政治そのものだ。首相には責任、使命の自覚が全くなく、モラルやルールを守ることより、自分の金儲けを優先する風潮を助長させた」と批判し、共産党の市田忠義書記局長も「村上ファンドの違法行為を許した政治的、経済的背景を明らかにすべきだ」と記者会見で述べ、野党は関係者の国会招致などを求めました。


延長断念までには曲折も
 また、政府は5月30日の閣議で、在日米軍再編に関する基本方針を決定しており、安保論争も激化する兆しにありました。そこで、首相や党執行部は早めに国会を閉じた方が得策と判断したものです。マスコミは「行革国会」でなく「先送り国会」になったと揶揄し、民主党も内閣不信任決議案を提出する動きを見せましたが、小沢代表は「出すに値する状況があるかどうかが、一般的な考え方だ」と慎重な取り扱いを指示、鳩山幹事長も、「否決されれば内閣を信任したことになる」として提出を見送る腹です。武部勤幹事長は「不良債権の処理、失業率の改善、企業収益の改善など小泉構造改革の成果は明らか。行革国会では行革推進法を成立させ行革の道筋もつけた。内閣支持率は50%前後を維持し、驚異的だ。昨秋の総選挙で小泉改革は支持されている。何が不信任案だ」と小泉政権の成果を記者団に強調しています。しかし、延長断念までにはウルトラHなど曲折がありました。


“丸のみ奇策”のウルトラH
 まず、社会保険庁改革関連法案については、公明党が未審議の「がん対策基本法案」の優先審議を求めたうえ、国民年金保険料の不正事案が今後もさらに発覚すれば野党の反発が強まり、医療制度改革関連法案と薬事法改正案の審議が道連れストップし、来年度予算編成に支障を来たすため、今国会ではこの2法案を優先させることとし、社会保険庁関連法案の成立は断念しました。次ぎに、組織犯罪処罰法改正案は国際公約であり、サンクトペテルブルグ・サミットに間に合わせるべきだとの声があったため、修正問題で民主党の要求を与党が「丸のみ」する“奇策”を細田博之国対委員長が生み出しました。衆院法務委の石原伸晃委員長が細田氏に知恵を授けたともいわれ、「ウルトラH」と呼ばれています。それは河野洋平衆院議長が5月19日に、与党に円満な審議を要請する「議長差配」を出したのを受けて、1日の衆院法務委理事会で「民主党の修正案には全面的に賛成する。その代わり2日の委員会で採決させて欲しい」と提案しました。石原氏が98年の「金融国会」で、金融再生関連法案に関して民主党案を全面的に受け入れた経験に学んだものです。


継続法案は新内閣に委ねる
 民主党案は共謀罪の対象を@「懲役5年超」に絞るA国際的な犯罪に限定する――としており、麻生太郎外相が「国際組織犯罪防止条約を満たしていない。民主党案では批准できない」と記者会見で述べたことから、細田氏は「とりあえず民主党案に乗り、将来、条約が批准できるよう修正すればよい」と考え、「丸のみ」提案をしました。これに民主党は一時動揺しましたが、小沢一郎代表が鳩山由紀夫幹事長に「法案を通しても1文の得にもならない。慎重に事を運ぶべきだ」と伝えたことと、2日朝、「再改正を狙う与党側の本音」が報道されたため、同朝の国対委役員会で「与党の中では、民主党修正案を成立させたうえ、次期国会で再改正を検討する案が出ている。これはおかしい」として、同委での採決に応じないことを決定、2日の法務委を社民党とともに欠席しました。とんだ迷走劇でしたが、民主党は自らの案の採決を拒否する「大義名分」ができ、結局、ウルトラHは不発に終わり、重要法案は軒並み継続審議となりました。野党は重要法案の仕上げを新内閣に委ねるのは筋違いで廃案が当然と主張、自民党内でも延長見送りに不満が高まっています。


 超党派の安倍応援団が旗揚げ
 これにより、政局は総裁選に突入しました。前回のホームページで予告したように、中堅・若手議員による「再チャレンジ支援議員連盟」(山本有二会長=高村派)は6月2日、党本部で安倍氏も出席して設立総会を開き、安倍晋三官房長官が主宰する政府の「再チャレンジ推進会議」がまとめた中間報告を支援することを申し合わせました。「50人集まれば大成功」とみた山本氏ら発起人は、党内の当選6回以下の衆院議員、同2回以下の参院議員に参加を呼びかけましたが、結果は谷垣・二階両派以外から、本人出席94人、代理出席21人の計115人を集め、派閥横断的な「安倍応援団の旗揚げ」の様相を呈しました。山本会長は総裁選への過熱を恐れ、「決して総裁選の準備でなく、政策中心の議連だ」と挨拶しましたが、マスコミは参加者名簿を載せるなど大きく扱いました。ただし、この中には福田康夫元官房長官が会長を務める知名立志会(別名、クローニンの会)にも出席し、「変に色分けされたくないから双方の会合に出席した」という参加者もいたようです。


 TVハシゴし発言エスカレート
 安倍氏は総会で、「(官房長官として)『格差の拡大は数値的には見られない』と言う立場だが、格差を感じている人たちに勇気を与えるのも使命だ。負けた人が固定化されない社会を作ることが大切だ」と語り、小泉改革の「影」の部分の格差是正に意欲を示しました。その後、3,4日の土・日曜はテレビに引っ張りだこで、発言も次第にエスカレート。3日朝の讀賣テレビとTBSの番組では、再チャレンジ中間報告について「失敗しても何度もでも挑戦できる社会を作りたい。再挑戦の施策として、特にパート労働者の厚生年金への加入拡大について経済界と相談して是非実現させたい」と述べ、首相に就任した場合の靖国参拝については、「行く行かないということを言うつもりはない。言うこと自体が外交問題に発展するなら、政局や総裁選に絡んで言うべきではない。明言しない方がいい」と語り、政権公約では言及しない考えを示しました。ただし、「中国は反日教育をやっており、国民の間に反日の気運が高まっている。靖国参拝を辞めなければ首脳会談に応じないという中国の外交は間違いで居丈高だ」とも述べ、改めて中国の姿勢を批判しました。


政治風土に言及し意欲表明
 4日朝はフジ、NHK、テレビ朝日などの番組で“安福対決”について聞かれ、「(同じ)グループの中で相争う事は大変だと思っているが、党全体でオープンな闘いが行われることになるだろう。かつてのように派閥の話し合いで決まっていくことにはならない」と候補の1本化に否定的な考えを示し、首相に就任した場合の消費税率引き上げについては、「財政健全化のために必要なら当然だ。しかし、そのためには、歳出改革をしっかりして、成長戦略も取っていく。経済状況も考えなければならない」と経済運営でも抱負を語りました。安倍氏はさらに6日夕の記者会見では、総裁選に関連し、「山口県は、宰相を7名輩出しており、全ての政治家に、『宰相を目指すべきだ』との期待がある。地元の方々の期待にふさわしい政治家になるべく、努力をしていきたい」と述べ、地元の政治風土にかこつけて次期総裁への強い意欲を表明しました。国会閉幕後は地方遊説も予定しています。


感情的な靖国論は最低と批判
 このように安倍氏が先制攻撃をかけ、着々と総裁選への布石を打ち続けているのを横目に、対抗馬の福田康夫元官房長官は11、12日にニュージーランドのウエリントンで開かれた、「人口と開発に関するアジア議員フォーラム」(福田氏が議長)に出席するなど飄々としています。だが、福田氏は5月27日、名古屋市での講演で、財政再建策について「国有財産を売っても利益は1回きりだ」と政府資産売却の効果を疑問視し、「消費税しかない。嫌だけれど言わねばならない。税率を5%引き上げると(年間)12兆円の税収になる」などと具体的な数字を挙げ、消費税アップに国民の理解を求める決意を表明するなど、小泉路線を継承する安倍氏との違いは明白にしつつあります。また、「靖国にいって何が悪いんだというと、向こう(中国)も感情的になってしまう。トップ同士も国民同士も互いに感情的になる。こういう状況は最低だ」と首相の靖国参拝を厳しく批判しました。


分裂に悩み苦しむ森前首相
 読売は、こうした中で悩み苦しんでいる森喜朗前首相の表情を次の要旨で捉えています。【森氏は5月28日のテレビ朝日番組で「安倍さん支持の方が我が派では多い。福田さんと議論したり話し合ったりした人は少ない」と述べ、派内では安倍氏優勢の見方を示した。両氏がともに立候補する可能性については、「そうなればやむを得ない」と容認の姿勢を示しつつも、「福田さんは安倍さんに圧倒的支持があれば、『後輩でも安倍を支えなければ』という気持ちは働くだろう。安倍さんも(福田氏との)支持率に差がなくなってくれば、『先輩と戦っていいのか』という悩みはある」と述べ、福田氏の支持率が上がれば、逆に安倍氏の出馬断念もあり得るとの考えを示し、依然として一本化への期待感を表明。来年の参院選については「仮に安倍さんで負ければ、絶対的に(党内の1部は安倍氏を)叩き出す。年輩の人は苦々しく思っている。必ずそこから(退陣論が)出る」と述べた】――以上のように派内事情を解説し一本化の望みを捨てない森氏ですが、亀裂は拡大するばかりです。


旧宮沢3派トップが会合
 他の候補や他派の動きはどうか。旧宮沢派(宏池会)の流れを汲む河野派の麻生太郎外相、谷垣派の谷垣禎一財務相、我が丹羽・古賀派の丹羽雄哉元厚相、古賀誠元幹事長は6日昼、都内のホテルで会食し、アジア外交などで意見交換しました。会合仕掛け人の丹羽氏は、記者団に「同じ釜の飯を食べ、『秋の陣』に意欲を持つ2人を激励しようと思った」と趣旨を説明しましたが、3派のトップ級会談は2001年の加藤派(現谷垣派)分裂以来、5年半ぶりに実現。丹羽氏は会合で、3グループの中堅・若手が「アジア戦略研究会」を作って再結集の動きを見せていることを取り上げ、これを支持する考えを示したうえで、「アジア外交の立て直しが重要である」と訴え、古賀氏は独自の政策提言である「A級戦犯の靖国神社からの分祀」について説明。我が宏池会は15日に政策提言をまとめました。アジア戦略研究会は20日の会合に、アジア外交重視の福田氏を講師として招きます。谷垣派は「先頭を走る安倍氏との違いを明確にするためにも有意義だった」(川崎二郎厚労相=会長代行)と3派会合を評価しており、大宏池会復活など合従連衡の模索は今後益々活発化しそうです。また、「第5の候補」として与謝野馨経財相の名が取りざたされています。