第133回(6月1日)延長絡み攻防ヤマ場 深まる安福対決
 小泉改革の総仕上げとなる行革推進法が5月26日に成立したことで、終盤国会は教育基本法改正案の処理とそれに絡む会期延長の攻防がヤマ場に差し掛かりました。小泉首相は6月末のカナダ・米国訪問と、7月中旬にロシアで開くサンクトペテルブルグ・サミット出席など重要な外交日程が控えているため会期延長には否定的で、重要法案の会期内成立に全力を挙げており、やむなく延長する場合でも、1週間程度に止めたい考えです。しかし、会期延長の場合は教育基本法改正案、「共謀罪」新設の組織犯罪処罰法改正案のほかに、1日の衆院本会議で審議入りする憲法改正手続きの国民投票法案、近く提出予定の防衛省昇格関連法案を審議するため、1―2カ月の大幅延長が必要となります。閣内の総裁候補の言動を縛る思惑もあって、自民党内には大幅延長の期待感もあります。こうした中で安倍晋三官房長官が事実上の出馬を表明、9月の総裁選も激しさを加えてきました。



 外交成果誇り影響力行使 
 首相は「簡素で効率的な小さな政府を作る」道筋を定めた行革推進法が成立して大満足ですが、6月29日にはワシントンで小泉政権最後の日米首脳会談がセットされています。
米牛肉輸入再開と、在日米軍再編計画の閣議決定を手みやげに会談に臨む首相は、日米関係を「共通の価値と議題に基づく同盟」とうたい上げ、対テロ戦争や自由・民主主義の保護、アジア地域の安全保障について幅広く協議する予定です。ブッシュ大統領も「Mr小泉の好きなエルビス・プレスリーの大邸宅に案内する」と大張り切りの様子。その後にはロシア・サミットが続きますが、首相はこれら数々の外交成果とさらに残る重要法案を処理して求心力を保持、9月の総裁選ではキングメーカー的な影響力を行使したいと考えているようです。だが、重要法案の処理は容易ではありません。医療制度改革関連法案に次いで衆院法務委の組織犯罪処罰法改正案でも与党は、委員会強行採決の構えを取りましたが、野党は硬化し「全面対決」の姿勢を見せました。河野洋平衆院議長が「議長差配」を示さなければ、衆参両院の審議は全面ストップし、行革推進法の成立も遅れていたはずです。


共謀罪巡り大詰めの攻防
河野議長が5月19日に示したのは、「マスコミの大関心事で、私も事態を心配している。もう少し協議を尽くすべきだ」との「差配」です。確かに、「共謀罪」新設を柱とした組織犯罪処罰法改正案には、マスコミが「暗黒社会になる」と猛反発しています。後半国会の焦点である教育基本法改正案は今回のホームページの「北村の政治活動」欄に詳しく載せたのでその頁に譲りますが、審議大詰めの組織犯罪処罰法改正案は、03年9月に発効した「国際組織犯罪防止条約」に対応する国内法の整備で極めて重要な案件です。条約署名の147カ国中、既に8割の119カ国が条約を締結、ドイツ、イタリアが議会承認を終え締結作業中。日本でも暴力団による覚醒剤の大量密輸や外国人女性の人身売買、密入国者による強盗・殺人の凶悪犯罪などが多発し、国際的な捜査協力が望まれています。政府は「条約を締結し、各国と協議しながら国際的犯罪と戦う必要がある」と主張しています。


 荒唐無稽な批判キャンペーン
 これに対しマスコミの1部や市民団体などは「犯罪団体以外の団体が取り締まられる」「盗聴社会、監視社会につながる」「日常会話や心の内面まで取り締まられる」と早くから反対運動を展開してきました。批判キャンペーンには、「居酒屋で一気飲みをさせようと相談しても、自治会でマンション建設反対の座り込みを相談しても共謀罪が適用される」との、荒唐無稽な話まで飛び交っています。共謀罪には、戦前の強制連行・拷問自白が常套手段だった「特高警察」や戦後の盗聴が得意の「公安警察」への暗いイメージが連想されるからでしょう。日弁連も@適用団体や処罰対象となる行為が曖昧A実効行為で処罰するのが原則の日本の刑法体系を根本から覆すB対象範囲が600以上で広範C犯罪行為が国境を越える越境性が要件とされていない――などの理由で抜本的な見直しを求めています。


重要4法案は継続審議か
 そこで、与党は同19日に、共謀罪の対象となる「組織的犯罪集団」を原案の「死刑、無期または4年以上の懲役・禁固に当たる重大犯罪」から一歩後退させ、「共同の目的が5年以上の懲役・禁固となる罪を実行することにある団体」と規定し直し、法務委に修正案を提出しました。しかし、民主党は共産党とともに3年前の条約承認では賛成していながら、@国内犯罪を排除し国際的犯罪の共謀だけを処罰A法定刑が5年を超える犯罪の共謀だけを処罰――の2点を主張して譲らず、修正協議にはなかなか応じようとしません。与党が共同提案を呼び掛けた国民投票法案も、民主党は投票年齢を18歳に引き下げるよう要求し独自案を提出します。防衛省昇格法案は、公明党が国際貢献を前面に打ち出すことを条件に、国連平和維持活動(PKO)や国際緊急援助活動を「本来任務」に格上げしたうえで、名称を防衛省に変更(防衛施設庁廃止も含む)する内容としました。教育を含めたこれら4法案はいずれも重要法案ですが、成立には十分な審議時間が必要なことから、大幅延長が出来なければ、首班指名が行われる秋の臨時国会での継続審議となりそうです。


安倍陣営に「再挑戦支援議連」
 こうしたタイトな政治日程に苛立ったのか、安倍官房長官は5月24日、都内の講演で事実上、総裁選に立候補を表明しました。発言要旨は「世論調査で高い支持を与えてもらっていることは大変光栄だ。官房長官の責任、役職をしっかり努めていくことで、自ずと道が決まってくる。まだ国会もサミットもある。いずれは私の考えを表明しなければならない」というもので、逆にいえばロシアサミット後の7月中にも出馬宣言をする意向を示唆したものです。安倍氏は6月の「経済財政運営と構造改革に関する基本方針」(骨太の方針)の中に「格差社会解消のための再挑戦策」などを盛り込み、「小泉改革の継承」と「憲法改正」を最大の政治課題に、総裁選に臨もうとしています。安倍発言に合わせて中堅・若手議員有志が25日、安倍長官の「再挑戦社会」の政策を具体化するため、「再チャレンジ支援議連」を設立、6月2日に安倍氏も出席して設立総会を開くことになりました。


存在感高め追い上げる福田氏
発起人は山本有二(高村派)、菅義偉(丹羽・古賀派)、中野正志(森派)の各氏らで、安倍氏の総裁選公約作りを目指しており、派閥横断的な安倍支援態勢を固めようとしています。安倍発言の後、もう一人の有力候補・福田康夫元官房長官は、記者団から総裁選への対応を問われ、「生体反応なしだ」とかわしました。だが、安倍氏が正式に立候補宣言をした場合は、自ら出馬の明確な意思表示はしないまま、自然に他派から集まる勢子が担ぐ御輿に乗って悠然と出陣するのが福田流。それを承知で安倍氏は先手を打って観測気球を打ち上げ、福田氏を牽制したものと見られます。各紙、各テレビの世論調査を見ても、国民の人気は依然安倍氏がダントツ、これを福田氏が急ピッチで追い上げ、麻生太郎外相、谷垣禎一財務相が続いていますが、福田氏はもはや“アヒルの水かき“は止め、アジア外交の立て直しを唱えたり、先の訪米では、官房長官当時に親交を深めたべーカー前駐日大使の斡旋で首相訪米並みにチェイニー副大統領ら米首脳と会談するなど存在感を高めています。このように、終盤国会の与野党攻防と並行して,「安福対決」が深まるなど総裁選の前哨戦も日を追って熱気をはらんでおり、政界には暑い夏が訪れつつあります。