第132回(5月16日)総裁選に分裂傾向 世代間抗争激化
国会の残る会期は1カ月。首相は小泉改革の総仕上げとなる行革推進法案、教育基本法改正案など重要法案の成立に全力投球中ですが、会期延長を巡る与野党の駆け引きが活発化してきました。同時に9月の自民党総裁選に向けて、「麻垣康三」のポスト小泉候補は、連休中に外遊先などで出馬の意向を相次ぎ表明、事実上総裁選に突入しました。いずれの候補も小泉改革路線を継承しながら、内政、外交面で首相とはひと味違った政策を打ち出そうと懸命です。各候補を支持する勉強会、研究会も続々誕生しています。そうした中で、首相の「森派の候補者一本化不要論」を受けて、党内では参院選や総選挙など国政選挙を勝ち抜く「顔」として、国民人気の高い安倍晋三官房長官を推す中堅・若手と、アジア外交で独自色を強める福田康夫元官房長官を擁立し、主流派入りを目指す派閥やベテラン議員の世代間抗争が一段と強まり,両候補を抱える森派の分裂傾向が強まってきました。


「古い自民壊れた」と首相
アフリカ、北欧を歴訪した小泉首相は5月2日、ガーナ・アクラのホテルで同行記者団と懇談し、森喜朗前首相が望んでいる森派候補の一本化に関し、「(派閥単位では)まとまりにくい状況になっている」と述べ、困難との認識を示したうえで「推薦人が集まれば(安倍・福田の両氏が2人出ても)構わない。本人が出たいというのを止める方法はない。最終的には本人が決めることだ」と強調しました。自民党各派の連携を模索する動きに対しては「派閥同志で決めても何の効果もない。そういう意味で古い自民党はもう壊れている」と牽制しました。さらに、民主党の鳩山由紀夫幹事長が、自民党の総裁選で敗れた候補がその後の国会での首相指名選挙で、民主党と連携する可能性に言及していることには「敗れた候補が民主党に担がれることはなく、勝った(自民党)総裁に協力する状況になる」と明確に否定しました。国会会期については「今の時点(大型連休中)で延長の政治決断をした首相がいたか。先のことは分からない」と延長の可能性に含みを持たせました。


「派閥役割は変化」と安倍氏
この首相発言は党内に波紋を描いています。まず、連休明けに武部勤幹事長は「派閥解体を唱える首相の下で、従来型派閥はなくなった。純粋な政策グループの集まりの派閥はガタつかない。自分の考えで決断する改革政党だ」と同調。「我立たん!という人があれば、政策研究グループから複数出ても良い。1つの派閥から1人しか立候補できない狭い自民党ではない。20人の推薦があれば誰でも立てる」と開かれた政党を強調しました。安倍官房長官も首相発言と派閥の機能について「現在の自民党の情勢や派閥についての首相の認識を述べたのではないか。かつてのように強烈な派閥の領袖がいて、そのもとに一致結束、全くの乱れなく前に進んで行くという性格ではなくなっている。そういう状況の中での総裁選だから派閥の果たす役割、機能も変化している」と述べ、首相の「一本化不要発言」に賛同しました。ただし、自らの出馬については、「総裁選まで時間があるので、私はまず官房長官の役割を果たしていくことに専念したい」と慎重な姿勢を示しています。


安倍援護か福田エールか
党所属衆院議員の6割強は、2大政党に収斂されていく小選挙区比例代表併立制に切り替わった後に当選してきており、中選挙区時代の「選挙互助会」的な役割を持った派閥の恩恵はほとんど受けていません。若手にとって、選挙基盤が固まるまでは党首の「顔」が頼りです。そこで、森派の中堅・若手には首相発言が、国民人気の高い安倍氏への“援護射撃”と聞こえ、「安倍氏は何があっても出馬する」「安倍人気が秋まで続けば、森派が分裂しても安倍氏が勝つ」と勇み立っています。父親の安倍晋太郎氏が総裁を目前にして病に倒れた無念さから、側近の山本一太参院議員は「チャンスを逃すな」と、総裁選出馬の応援曲「チャレンジャーに捧げる詩(うた)」を大いに宣伝し、安倍陣営の支持者を集めています。読売新聞は「逆に、首相発言を、『派内事情に遠慮して沈黙していた福田氏が最近、動き出したことにエールを送った』と分析する向きもある」と解説しました。確かに、恩師・福田赳夫元首相と安倍晋太郎元幹事長に恩義を感じる首相が、その板挟みの中で、「開かれた党」を大義名分に、2人の遺児を自由に競わせる心境になったのかも知れません。



森会長、2人出馬を容認
福田―安倍―三塚―森派と続いた清和会は、三塚(博)派時代に総裁選や人事の不満から、加藤六月元農相や亀井静香元建設相らが離脱した歴史があります。派閥分裂は避けたいと考える森会長は、「同じ会社の中で代表権を争う会社はうまくいかない」と安倍、福田両氏の話し合いによる一本化を促してきました。それでいて、厳しい参院選や消費税引き上げ論争から安倍氏を守るため、“安倍温存論”を持ち出し、年功序列に従って福田氏を先行させる意向をにじませていました。しかし、無理に一本化を図れば、かえって派内に亀裂が走ると判断、11日の森派総会で「2人がともに出馬を決断すれば、これを容認する」との見解を明示しました。2人がどの時点で出馬を正式表明するか、今のところ不明です。しかし、福田氏は4月25日の都内講演で「77年の『福田ドクトリン』(父の赳夫元首相提言)を踏まえ新アジア政策を打ち出すべきだ」と述べ、事実上の出馬表明をしました。安倍氏も国会の閉幕など機が熟せば、躊躇なく立候補を宣言するでしょう。



 新「福田外交」をアピール
福田氏は同30日のNHK番組でも、出馬について「将来のことだ。その段階で国民に判断してもらうということ」と出馬の意向を否定せず、「(次の首相の靖国参拝は)我々自身の解決すべき問題だ。大局的な判断をするしかない」と述べ、自らは参拝を避ける考えを示しました。中曽根康弘元首相と一緒に3月16日に訪韓し、廬武鉉大統領と会談した福田氏は、5月2日にはヨルダン西部の死海沿岸で開幕した「OBサミット」(赳夫元首相らが提唱したインターアクション・カウンシル)の第24回総会に出席して中国の銭其しん前副首相らと意見交換、その後は4日からアラブ首長国連邦を訪問、10日からの訪米では、チェイニー副大統領、ライス国務長官、懇意なラムズフェルド国防長官らと会談するなど、次期首相を印象づける旅を続け、着々と「福田外交」をアピールしています。


「共通DNA大切に」と谷垣氏
谷垣禎一財務相は4月30日、宇都宮市で開いた谷垣派研修会で、「6月には歳出・歳入一体改革の取りまとめがあり、財務相の職責に当面は全力を尽くす。ただ、その先は私も腹を固めているので支えてほしい」と述べ、出馬への強い意欲を表明しました。研修会後、記者団には「小泉政権も5年を迎え、色々点検をしてこれからの道筋を開く中で、それなりの覚悟を固めてやっていきたい。課題の一つはアジア外交だ。中韓両国と関係改善の余地はあるのではないか」と語り、丹羽・古賀派などとの連携については「共通のDNAを大切にする必要がある」と述べました。同派の所属議員は谷垣氏を除いて14人で、出馬に必要な推薦人20人を集めるには、無派閥の新人議員や、かつて同じ派閥だった我が宏池会(丹羽・古賀派)などの協力を呼びかけていくしかありません。


日中外相会議に期待する麻生氏
既に出馬の意向を表明している麻生太郎外相は5月1日夜、日米安保協議委(2プラス2)が開かれたワシントンで同行記者団と懇談し、総裁選の推薦人集めについて、「5年前(に出馬した時の総裁選)でも20人集まったから、(自信は)ある。(私には)思想信条があり、派閥で動きはしない」と述べ、重ねて出馬の意欲を示すとともに、派閥横断で推薦人を集める考えを強調しました。麻生外相は23日からカタールで開かれるアジア協力対話(ACD)の際、中国の李肇星外相と会談し、膠着状態にある東シナ海の天然ガス田開発問題や北朝鮮の核問題を巡る6カ国協議問題などを協議する予定です。日中外相会議は昨年5月の京都でのアジア欧州会議(ASEM)以来のこと。約1年ぶりに外相同士が日中改善を話し合い、首脳会談復活につなぐことが出来れば総裁候補としてポイントを稼ぐことになります。しかし、麻生外相の属する河野グループからは河野洋平衆院議長の長男・太郎氏(法務副大臣)が11日、総裁選出馬を表明しました。教育、年金政策を掲げ、党内若手議員の支持を呼びかけています。麻生氏にはマイナス要因になりそうです。


政策連携の横断勉強会花盛り
こうした総裁候補の発言が続く中で、派閥横断的な勉強会が花盛りです。4月のホームページで紹介したように、かつての大宏池会の流れを汲む旧宮沢派の3派が中心になって3月15日に旗揚げした「アジア戦略研究会」の4月18日の会合には、3派の出席者20人以外に他派や無派閥から15人が参加しました。山崎派の甘利明政調会長代理ら他派の中堅・ベテラン議員も「顧問」に名を連ねています。これとは別に津島派、丹羽・古賀派、伊吹派などの中堅・若手に無派閥を加えた「構造改革フォーラム」も4月に発足しました。山崎派は4月19日、先に政策提言を発表した高村派の高村正彦会長を招き、提言内容について意見を交わしています。席上、山崎拓氏は「新政権のスタートでは挙党一致体制が必要だ。その要は政策で、政策連携が非常に大事だ」と強調しました。高村氏は会合後、「基本的に目指す方向が大きく離れているとは思わない」と記者団に語り、山崎派との政策連携を匂わせています。


「アジア外交が争点」と山崎氏
連休中に韓国を訪問した山崎氏は、ソウル市で記者団の質問に答え、「派閥間の政策連携が行われる。候補者間で必ず政策の相違が出てくる」との認識を重ねて強調、「総裁候補たるもの、アジアの一国(の代表)としての考え方を持つだろう」と述べ、アジア外交が争点となると指摘しました。このほか、初当選が50歳を超える約30人の各派議員で作る「知命立志会」は2月の会合で福田氏を新会長に選びました。昨年の総選挙で初当選した無派閥の新人議員23人も4月19日、「新政治研究会」の初会合を開いています。5月9日には新人議員12人がアジア外交を議論する勉強会「新アジア連携フォーラム」(平将明代表)の初会合を開きました。これには森、山崎、高村、谷垣各派と無派閥の議員が参加し、中国や韓国との関係改善を目指すことを確認しました。11日には加藤紘一元幹事長、二階俊博経済産業相、高村正彦元外相、鳩山邦夫元文相、河村健夫元文科相ら派閥領袖・幹部クラス6人が「第2次大戦勉強会」を結成しました。アジア外交や歴史認識が争点になると睨んだ動きで、これらはすべて福田支持の「安倍包囲網」といえるでしょう。


野党陣営内でも福田氏に期待
一方、郵政民営化問題で離党した平沼赳夫元経産相らも4月19日、「真の保守政治の確立」を掲げ、超党派の勉強会「正しい日本を創る会」を旗揚げしました。メンバー17人のうち10人は自民党議員で伊吹派(亀井派を継承)の中川義雄、桜井新両参院議員や森派の若手議員が参加しています。読売新聞によると、事務局長の古屋圭司氏(無所属)は、「政局的な意図はない。かつて一緒にに活動した安倍氏と考えが似るのは仕方がない」と話した――と報じています。平沼、古屋、桜井氏らは、福田―安倍―亀井派の系譜の中で活躍してきており、平沼氏が小泉首相に造反したとはいえ、安倍2世とは親しい間柄で、安倍包囲網とは関係ない立場です。このように、派閥連携の内情は色々な思惑絡みで極めて複雑。同床異夢のケースも多いようです。野党陣営ながら、民主党議員を引退した藤井裕久元蔵相(元自由党幹事長)はTBSの時事放談で、「講和の吉田の後は日ソの鳩山、沖縄の佐藤の後は日中の田中、といったように政権交代では外交路線がドラマティックに変わる人でなければならない」と述べ、山崎氏らと同様にアジア外交の転換を目指す福田候補に期待をかけています。このような情勢から、総裁選が仮に福田、安倍(上位2人)の決選投票に持ち込まれる場合は、急激な世代交代を望まない麻生、谷垣両候補を含め、ベテラン議員が重厚・調整型でアジア外交重視の福田氏を選ぶとの見方が強まっています。