北村からのメッセージ

 

 第13回 “森降ろし”政局 (3月1日) 予算大詰めの攻防

 今通常国会は与野党攻防の最大ヤマ場を迎えています。連立与党にとって、景気を本格的な回復軌道に乗せるための、平成13年度予算の年度内成立は最優先課題。私は自民党の国会対策委員として、3月早々にも予算案を衆院通過させるべく、日夜励んでおります。

 森喜朗首相は冒頭の施政方針演説で、夏の参院選勝利を目指し、今国会を「日本新生のための改革国会」と位置付け、景気に軸足を置きつつ、財政構造改革論議を進め、教育、司法、公務員、特殊法人、社会保障制度などの改革に取り組む決意を表明しました。

 しかし、残念ながら政局は“森降ろし”の風圧が強まり、76年の「三木降ろし」(三木政権)、79年の「40日抗争」(大平政権)に似た混迷と、重苦しい雰囲気が自民党内に漂っています。連立友党の公明、保守両党までも首相の政治姿勢に批判を強めています。

 不幸にも混迷の要因は、「KSD」、「株価」、「機密費」の3Kに、米原潜による事故の「危機管理」対応と、首相のゴルフ「会員権」問題が加わったことです。野球なら3Kでも三振アウトですが、5Kとなれば首相は完全に四面楚歌。野党は,5Kの攻撃目標を得て予算案審議もそっちのけで、自民党にダメージを与えようと、森首相を攻め立てました。

 森首相は懸命に釈明し防戦に大童ですが、米原潜と漁業実習船「えひめ」丸が衝突した第一報を受けながら、2時間もゴルフのラウンドを重ね、しかも同ゴルフ場の会員権を知人社長から無償で名義借りしていたとあっては、国民の耳には弁明が空疎に響きます。

 私は国会対策の合間に交代で衆院予算委に出席していますが、野党議員は『ゴルフのプレー継続は、9年間監禁された少女の話を聞いて、温泉宿で雪見酒や麻雀をしながら指揮を執った新潟県警本部長の行動と同じだ』と首相の対応のまずさを責め、『会員権の無償譲渡は譲与税の対象にならないのか』と、厳しく追及しました。

 時あたかも、所得税の確定申告期。首相の会員権に譲与税の納入義務違反の疑いがもたれたり、外務省職員の機密費横領事件を契機に、同省幹部の飲食費が年間600万円などと機密費の乱脈使途が明るみに出るようでは税金の無駄遣いと映り、納税者の怒りは募るばかりです。悪い時期に首相には不運な事態が重なりました。

 野党が首相の“資質”を攻撃するあまり、朝日の世論調査は支持率が9%に下がり、株価も1万3千円台を浮き沈みしています。支持率一ケタ台、株価が1万3千円台を割れば政権は赤ランプです。自民党内には『これでは参院選は戦えない』との危機感が一気に高まり、改選期を迎えた参院議員や中堅・若手から公然と首相の退陣要求が出されています。

 公明党もKSD事件などで曖昧な態度を取ることは、クリーン政党のイメージが傷つけられると受け止め、有力幹部が『名誉ある撤退を』と首相に自発的な辞意表明を迫っています。野党4党もそのあたりを読んで、内閣不信任案は公明党が同調出来るような効果的なタイミングで提出しようと目論み、連立政権の分断を図っています。

 野党は、予算とは関わりない外交問題で、個人的な発言をした野呂田芳成衆院予算委員長の解任決議案を提出したり、KSD事件で村上正邦・元労相、額賀福志郎・前経済財政担当相ら数人の証人喚問を執拗に要求するなど予算案審議の引き延ばしを続けています。

 内憂外患の厳しい立場ですが、逆風に強く、打たれ強い森首相は、国会で強気の答弁に終始し、引き続き政権運営の意欲を示しつつ、党内外で加速する首相退陣論に歯止めをかけようとしています。森首相の強気には、ポスト森の受け皿がないことが背景にあります。

有力候補とされた河野洋平・外相は機密費問題で傷つき、「加藤の乱」で挫折した加藤紘一・元幹事長や山崎拓・元政調会長は出番を失った形です。マスコミは皆様ご存知の通り、森派会長の小泉純一郎・元郵政相、野中広務・前自民党幹事長、橋本龍太郎・行政改革担当相(元首相)を暫定政権の下馬評に上げています。

 しかし、国民的人気の小泉氏は解党的出直しを唱えながらも、持論の郵政民営化を行革の柱に据えており、郵政族の多い主流派・橋本派を中心に党内の反発を買っております。
 公明、保守の友党が期待する野中氏は、本人が『200%ない』と否定するように、行政改革に意欲を燃やし、苦労の多い現政局での総理は引き受けたくないようです。

 橋本氏は前回の参院選で敗北して退陣しただけに、二度と同じ轍を踏みたくないのが偽らぬ心境でしょう。かといって、平沼赳夫・経済産業相や高村正彦・法相ら若手に世代交代する考えには、YKKをはじめ中堅以上の層に抵抗があるようです。

 こうした中で森首相が内外の圧力に屈していち早く退陣表明をするのか、それとも予算成立を花道に引退するのか、あるいは3月中に設定した日米、日露両首脳会談をこなし、外交を成果に政権維持の巻き返しを図るか、まったく予断を許さぬ情勢です。自民党大会は予定通り13日に開催されますが、そこでは総裁選の繰り上げ論議が火を噴きそうです。

 いずれにしても平成13年度予算案は早急に衆院を通過させなければなりません。諸般の情勢をつぶさに見極め、私は国会対策に全力を挙げ、しかる後に自民党の自浄作用を高める党改革、諸制度の改革に取り組みたいと念じております。

 それにしても、宇和島水産高校の漁業実習船と米原潜の衝突事故は、日米の外交問題に発展する気配が濃厚になりました。ブッシュ新政権は、防衛大学校の客員教授を務めたコンドリーザ・ライス氏を安保担当の、日本企業のコンサルタント業務をしていたローレンス・リンゼー氏を経済担当の、それぞれ大統領補佐官に据えるなど政権を知日派で固め、日米同盟枢軸路線を歩み始めていました。それだけに、極めて残念な事故といえましょう。

 米原潜のソナー担当者の一人は訓練生で、司令塔に同乗中の民間人16人に遠慮して、本来業務が出来なかったことが事故に結びついたようです。焼津市上空の日航機ニアミス事件も訓練中の管制官が操作した人的ミスの疑いが持たれています。奇妙なことに、日米とも訓練生の素人が重大な事件に関わりました。極めて無責任なゆゆしい事態です。

 森首相は原潜衝突を『あれは危機管理でなく事故だ』と軽視し波紋を描きました。国民の生命・財産を守ることこそが政治の使命です。私は週1回飛行機を利用していますが、まさか訓練生の素人に生命を預けているとは予想もしませんでした。日航機が接触事故を起こしていたら数百人の犠牲者が出て、森政権は瞬時に吹っ飛んだでしょう。

 日米ともに安全面や行政サイドで為政者の緊張感がゆるんでいます。緊張感の欠如、倫理感覚の喪失は、日本の行政、立法、司法の三権の全てに及んでいます。福岡では高裁判事の妻がテレクラで知り合った相手の愛人にストーカーまがいの行為を繰り返したのに、こともあろうに、地検の次席検事がその判事に、妻の捜査情報を漏らし、更迭されました。

 社会正義の守護神であるべき検事と法の番人である判事か、国民の目を恐れて打った“かばい合い”。驚くべき法曹界の断面に国民は呆れました。今や三権の柱石にはひび割れが生じつつあります。これ以上に行政の機能不全、司法の堕落、政治の後退は許せません。

 政治と有権者の意識の離反は際だってきましたが、信なくば立たず。政治への国民の信頼回復を目指し、私は党改革、政治改革の理想を掲げ、嵐の中を突き進む決意を固めています。ようやく景気回復の兆しにある日本経済を一刻も早く安定させるため、さらに努力を重ねますが、皆さんも予算案の成立にご支援下さるようお願い申しあげます。