第127回(3月1日)ガセネタで民主迷走 敵失に予算順調
  本物なら小泉政権に大打撃、「ガセネタ」なら民主党首脳の大失態――。どちらに転んでも政局に響くと、国民の耳目を集めたのが「送信メール」でした。ところが、火付け役の永田寿康民主党議員が辞意を表明後に謝罪して自滅、野田佳彦国対委員長が引責辞任。オセロゲームのように攻守ところを変え、同党内外から前原誠司代表の責任論が噴出し、同党は迷走を続けています。逆に小泉政権は敵失で安定度を増し、国会は衆院予算委での4回に渡る集中審議、2月24、27日の公聴会・分科会などを淡々とこなし、予定通り年度内成立を目指し、3日までに06年度予算案を衆院通過させることが確実となりました。民主党は、耐震強度偽証、ライブドア、米牛肉再禁輸、防衛庁官製談合の「4点セット」で責め立てましたが、永田氏の「自爆テロ」で攻勢は不発に終わり、「送信メール」質問の根拠の乏しさをチェック出来なかった党執行部の責任が厳しく問われています。「送信メール」は「札付き記者の謀略メール」(週刊新潮)と言われていますが、真贋論争で一番迷惑を被ったはずの武部勤幹事長は、沈着冷静にことを処理し「災いを転じて福と為」して、大いに評価されています。


チキンレースの始まり
「シークレット・至急扱いで処理して欲しいんだけれど、おそくても31日できれば29日までに〇さん(武部幹事長次男名)宛てに3000万円を振り込むように手配してください(前回、振り込んだ口座と同じでOK) 項目は選挙コンサルティング費で処理してね。 〇〇〇〇、宮内の指示を仰いで。〇〇には、こちらからも伝えておくので心配しないで。〇堀江」――。永田氏は2月16日の衆院予算委で、ライブドアの堀江貴文前社長=証取法違反の罪で起訴=が社内メールでこう指示したと指摘。総選挙当時、自民党の選挙対策を担当する総務局長だった二階俊博経産相に事実関係を質しました。武部幹事長次男の実名も挙げ、「お金のやりとりがあったから、選挙応援に行ったのではないか」と絶叫調で武部氏を批判し、武部氏や次男の参考人招致を求めました。これには自民党議員からヤジと怒号が飛び、大島理森委員長が「私人の名前を出すことには慎重になって欲しい」と促したほど、議場は騒然としました。翌17日のライブドア集中審議を前に、永田氏は前景気を煽ったわけですが、この爆弾質問が両党間チキンレースの始まりでした。


悠然と構えた幹事長
なぜなら、永田氏の質問が真実なら、武部幹事長の責任が問われるのは当然だからです。武部氏は、昨年9月の総選挙で堀江氏が広島6区から無所属で立候補した際、竹中平蔵総務相とともに選挙区入りし「弟です、息子です」と応援演説し、民社党から「堀江氏を自民党の広告塔に利用した」と批判されました。仮にライブドアのカネが武部氏側に流れたとしたら、公職選挙法や税法上の問題が生じ、幹事長の辞任はもとより、小泉首相の政局運営にも支障を来すことになっていたでしよう。しかし、武部幹事長は爆弾質問の直後、「衆院予算委理事が私の息子と連絡を取り、そういう事実は全くないということで、そのことを明確にしておく。永田君への対応は、予算委あるいは院に任せたい」と、記者会見で悠然と語りました。武部氏の次男も「全く身に覚えのない話。なぜそんな疑念をかけられるのか、全く理解できない」と否定。首相も機敏に情報を分析したらしく、夕刻には「根拠のないガセネタを委員会で取り上げるのはおかしい」と切り捨てました。


集中審議で反転攻勢
首相が送信メールをガセネタと決めつけたのには、いくつかの理由があります。第1に、永田氏は「8月26日の社内メールは15時21分35秒に受信されたもの」とメールのコピーを記者会見で説明しましたが、その時刻に堀江氏は街頭演説の合間か、演説会場を移動中で、携帯パソコンを利用する暇もありません。第2に、永田氏はメールの入手経路について「関係者からフリーの記者を通じてもらった」と語りましたが、「詳細は情報源の安全のために明らかに出来ない」と繰り返すばかり。メールそのものも実物のコピーではなく、A4の用紙にメールの内容を打ち直したもの。メールソフトのバージョンは古いもので、パソコン操作上の習慣とは違う記号が使われていたり、通常は帳簿の費目に使わない「選挙コンサルティング費」とか、普段は堀江氏が「さん」づけで呼ぶ側近を「宮内」と呼び捨てにしたり、不自然な点が多く信憑性が乏しいものでした。そこで、自民党は首相以下、17日の集中審議を反転攻勢の場として最大限に活用しました。


逢沢氏がアリバイ証明
まず、委員を差し替えて、逢沢一郎幹事長代理が質問に立ち、「メール受信の日時に堀江前社長が広島市内で街頭活動していたのは、テレビ局の映像記録でも明らか」と、民主党が信用度を高めるために持ち出した時刻を逆手にとって、アリバイ証明を行いました。さらに「押収メールの記録の中に指摘メールは存在し、金銭授受は把握されているのか」と質し、杉浦正健法相から「検察当局では、指摘のメール、事実関係について全く把握していない」と捜査状況を示す異例の答弁を引き出しました。このため、他の民主党議員が怒り、「今までに捜査中の個別事案で押収した証拠について答えたことがあるか」と食い下がりました。他の閣僚も「メール自体の存在を明確にしなければ、ただの怪文書と同じ」(安倍晋三官房長官)、「(政府・与党の挙証責任と言うより)資料を出す方に立証責任があるのは当然。出来ない場合は、単なる風説を根拠に議論をしていたことになる」(谷垣禎一財務相)、「指摘する側に責任があるのは、政治家以前の一般的な社会常識ではないか」(竹中総務相)――と答えるなど、証拠に基づく立証を相次いで求め、武部氏を援護しました。


首相「辞書で調べた」と余裕
余裕たっぷりなのが小泉首相。ポケットから「辞書で調べた」という紙片を取り出して、「ガセとは偽物。ガセネタは転じて警察や報道関係でインチキな情報を言う」と答えました。自・公与党は同日、永田議員への懲罰動議を衆院に提出。民主党も対抗上、逢沢氏への懲罰動議を出しました。民主党はさらに予算委理事会で「銀行に振り込みの有無を明らかにするよう求める国政調査権を発動すれば、出入金の口座情報を明らかにする」との意向を示しましたが調整がつかず、同党は予算委後、自民党が存在自体に疑問を持つメールを公表しました。印字したメールは16日に公表した内容と同じ文面で、差出人、受取人、本文中の人名の1部が黒く塗りつぶされたもので、当初から情報提供者が塗りつぶしたものに永田氏がさらに手を加えたと言います。しかし、わが党の平沢勝栄衆院議員は民主党と同様のメールを独自に入手しており、20日夜から21日昼にかけてテレビ局をハシゴして堀江氏が使っているメールソフトと違う点を指摘し「偽物だ」と広言して回りました。


民主党に厳しい新聞論調
このため、民主党に対するマスコミの論調は厳しく変化していきました。18日の朝日は社説で、@自民党は素早く対応し次男と会社の銀行口座と通帳を調べ、3千万円の入金履歴もライブドアからの振り込みもなかったと発表A東京地検次席検事のコメントのほかに、堀江被告も接見した弁護士にメールの送付や送金の事実を否定した――などを取り上げ、「これだけの重大疑惑を公の場で指摘したのだから、民主も自民の対応は覚悟しているのが当然だが、永田質問の『二の矢』は全くの期待はずれに終わった。ガセネタなら永田氏の信用失墜だけでは済まない。『確度の高い情報』と追及を後押しした前原代表はじめ民主党そのものが信用を失い、能力を厳しく問われる」との趣旨で厳しく批判。さらに24日の社説では「永田氏を休養させて決着を先送りしたが、メールの信憑性に疑問があるなら執行部は何らかの形で責任を明らかにすべきだ。けじめをつけて出直せ」と迫りました。


私人への名誉毀損許さない
「私人に対する一方的な名誉毀損、誹謗中傷は許されない。民間人が甚大な被害を受けている。懲罰問題は国対に任せるが、厳正な対処をお願いする。今国会では民主党の根拠なき発言が極めて目に付く。国会議員の院内発言に免責特権があるというのは、それだけに慎重さと重い責任が求められていることだ。噂、風聞等に基づき、軽率な議論を行うことや、民間人を軽々に巻き込むことがあってはならない。国会の品位、権威に関わる問題なので党としては毅然とした対応をしなければならない」――。武部幹事長は21日の役員連絡会でこう檄を飛ばしました。永田氏は旧大蔵省出身で当選3回。2000年の参院選挙制度改革審議の際、参院側に乗り込んで自民党議員ともみ合い、懲罰動議を受けたことがあります。最近も耐震強度偽装事件で住民に対し過激な言動をし、自民党内から同氏の衆院除名を求める動きがありました。


捏造記事常習の札つき記者
週刊誌も一斉に堀江メールが「捏造である」と書き立てていますが、週刊新潮は「札つき記者の正体」を特集。永田代議士にメールを持ち込んだ情報提供者は、「福沢諭吉の孫、叔父は元長野県知事、母親が笹川良一の隠し子、オレゴン大卒などという虚言癖で、フリーランスのルポライター。巨人在籍中の清原和博選手らがゴシップ・ネタで被害を受けた」とし、数々の捏造記事をばらまいた男で、「平沢代議士とも接点があった」と記者の素顔を取り上げています。こうした中で22日、前原代表がマスコミに「楽しみにして」と予告した党首討論が開かれました。だが、前原代表が堀江メールを取り上げたのは最後の僅か10分間だけ。しかも、資金提供に「確証を得ている」と言い切りながら、何一つ証拠を示せないままあっけなく終了しました。当の永田議員は、新証拠探しと称して報道陣から姿をくらまし、23日には議員辞職の意向を野田氏に伝え都内の病院に入院しました。


ドミノ倒し恐れ懸命に庇う
鳩山由紀夫幹事長は同日の記者会見で、「現時点で、メールの信憑性を百%証明するに至っていないことは本人も認めている」と落ち度を認め、「永田議員は肉体的・精神的に憔悴した状態にあるので一旦休養を取らせ、本人の去就については、回復を待って結論を出す」と苦しい談話を発表しました。このように、永田議員が仕掛けた毒矢は、ブーメランとなって民主党を直撃。本人の辞職どころか、野田、鳩山、前原氏ら同党執行部の責任論に発展してドミノ倒しの様相を深めています。窮地に立つ前原代表は「メール問題を徹底的に解明する中で、国民の疑問を晴らしていくことが大きな説明責任だ」と党内に訴え、記者会見では「議員辞職の必要はない」と永田議員を懸命に庇っています。民主党は鳩山幹事長や小沢一郎氏のように旧自民党系、労組出身議員の旧社会、旧民社党系の寄り合い所帯であるうえ、小沢氏らベテラン組と松下政経塾出身で若手エリートの前原、野田氏らの間には政策面でも溝があり、老・壮・青のバランスは十分に取れていないと言われています。


「逆境によい風」とにんまり
この弱点を突いて、中川秀直政調会長は25日、福岡市の講演で「ウソの材料でやりこめようと言うなら、その政党はゲームセットになってしまう。抵抗路線というか、追及路線に戻ってしまった」と民社党を批判しつつも、「行革国会に戻り、(前原流の)改革・競争路線に転換するのが民意に応える道ではないか」と前原氏をわざとらしく“激励”しました。これは、自民党にとって戦いやすい相手の前原体制がドミノ倒しにならないよう、やんわりエールを送り、けん制したものです。首相も「逆境になると私には不思議とよい風が吹いてくる」と記者団に語り、にんまりしています。しかし、自民党はメールの不毛な真贋論争などは程々にして、墓穴を掘った民主党の動きを静観しつつ、国民生活に重要な予算と改革を加速する関連法案を一刻も早く成立させるべきだと、私は考えています。