北村からのメッセージ

  第125回(2月1日)2事件で国会緊迫 総裁選争点に浮上


1月20日に開幕した通常国会は、予想もしなかった新事態に揺さぶられ、冒頭から緊迫しています。新事態の1つは、輸入を再開したばかりの米牛肉にBSE(牛海綿状脳症)の危険部位である脊柱(背骨)が混入されていたことが、国会開幕の日に発覚した米国産牛肉の再禁輸問題。もう1つは、IT(情報技術)時代の寵児ともてはやされたライブドアの堀江貴文社長ら4幹部が証券取引法違反の疑いで東京地検に逮捕されたライブドアショックです。首相が「改革総仕上げ国会」と位置づけた今国会を「安全の国会」と呼んだ野党は、代表質問や衆院予算委で、米軍再編による国の安全はもとより、耐震強度偽装事件で被害を受ける居住者の生命財産の保全、ずさん極まりない米牛肉の輸入再開から国民を守る食生活の安全などについて、政府の責任をとことん追及し、気勢を上げています。また、「官から民へ」の一連の規制緩和がホリエモン流のファンド資本家を生み、耐震強度偽装の土壌にもなったとして、小泉構造改革の「負の局面」を厳しく責め立てています。

  演説5時間後に発覚、再禁輸

 「昨年12月、科学的知見を踏まえ、米国産牛肉の輸入を再開しました。消費者の視点に立って、食の安全と安心を確保して参ります」――。首相は20日の施政方針演説の中で「暮らしの安心の確保」についてこう胸を張りました。皮肉なことにその5時間後に、成田空港で検疫手続き中の米国産牛肉から、BSEの原因となる異常プリオンが溜まり安いとして除去が義務づけられている牛の背骨が見つかり、政府は即日、再び禁輸措置に踏み切りました。23日に来日したゼーリック米国務副長官やペン米農務省次官は謝罪に努めましたが、ずさんな米国の牛肉輸出検査に「極めて遺憾だ」と中川昭一農相や安倍晋三官房長官は米側に抗議し、再発防止策の提示を求めました。民主党は「(昨年11月の)米大統領訪日に合わせて再開を進めていた」と外圧に屈した輸入再開を批判しました。輸入再開の決定で動き出した矢先の外食チェーン店や小売業界は、消費者を舐めきった態度に怒りを爆発させています。米牛肉の輸入停止は長期化の様相を呈してきました。

  証取法違反容疑で緊急逮捕
 
 「想定内の範囲」はホリエモン語録で、昨年の流行語大賞もなりましたが、ライブドア社幹部の逮捕は堀江氏の「想定内」にあったかどうか。東京地検は1月16日夕、ライブドアを粉飾決算など証券取引法違反(偽計取引・風説の流布)容疑で強制捜索、同24日には堀江社長ら幹部4人をスピード逮捕しました。このため、東京株式市場は強制捜索後2日間でニクソンショック以来という1200円の株価下落を招き、東京証券取引所は18日午後、システムダウンで処理能力が限界に達し、全銘柄を売買停止にするという前代未聞の緊急措置に追い込まれました。世界第二の株式市場のシステムが脆弱であるとして国際的信用を失墜したことは言うまでもなく、回復基調にあった景気にも多少水がさされる結果になりました。自民党内でも、ライブドアショックの影響は大きく、「簡素で効率化を図る」小さな政府作りの陰で、血も涙もない強度偽装や偽計取引が平然と行われている企業倫理の崩壊、信・義・仁・礼・情といった道徳観念の欠落、“勝ち組”と“負け組”の2極化による格差社会の形成を危惧する声が高まっています。9月の総裁選では、こうした社会風潮の改善、戦後教育の改革が新たな争点に浮上することでしょう。政局の緊迫化で、公明党幹部の中には「織田信長好きの首相が、政権末期に追い込まれる“本能寺の変”になりかねない」と不気味な予言をした人もいるそうです。

  我が弟、改革の申し子と支援

 首相は二年前、「不況と言うが、東京ディズニーランド、新丸ビル、この六本木ヒルズ、みんな大盛況だ。経済は言われるほど悪くない」と述べ、ヒルズのビルを経済回復のシンボルと仰いでいた節がありました。昨年の衆院選で首相は、堀江氏に「時代の息吹を感じる」として、「君のような若者が政治に入ってくるのは素晴らしい」と立候補を促しました。首相の意を受けて、武部幹事長は堀江氏をIT(情報技術)時代の寵児として、郵政民営化反対派の亀井静香・元建設相(広島六区)の「刺客」に無所属で担ぎ出しました。竹中郵政担当相とともに広島応援に乗り込み、「将来の日本を担うリーダーで、小泉総理とは親父と息子のような感じ。わが弟、息子だ」(武部氏)、「郵政改革、構造改革は、首相と私と堀江氏がスクラムを組んで達成する」(竹中氏)と持ち上げ、堀江氏を規制緩和や既得権益打破を掲げる小泉改革の申し子のように支援しました。

  堀江氏は小泉改革の広告塔

 おまけに、武部氏が書いたホリエモンの似顔絵が、ライブドアの株式総会用のパンフレットの表紙を飾り、親密な関係を思わせる記事までが今年になって露呈。民主党の前原誠司代表は衆院の代表質問で「衆院選で自民党は堀江氏を小泉改革の広告塔、票寄せパンダとして利用した。公正なルールや企業人のモラルまで失われつつある。首相、自民党は道義的責任を免れない」と攻撃しました。とはいえ、民主党は衆院解散直後の昨年8月中旬、当時の岡田克也代表が、出馬を要請する選挙区として2つの案を懐に堀江氏と会談しています。民主党内でも、総選挙前は堀江氏の経営手法を「ルールで認められていて、批判は当たらない」と見なす空気が強かったためで、世間で人気のあるホリエモンを自陣営に取り込みたい心理は、与野党共通していました。それが、今回の強制捜索を機に、野党は「小泉改革路線の『官から民へ』、『中央から地方へ』の小さな政府作りは、弱肉強食の『市場経済原理主義』だ」と攻撃材料に使い出し、耐震強度偽装や証券偽計取引に現れた“欺き、騙し”事件の頻発を、小泉改革が生んだ忌まわしい社会風潮として批判したわけです。

  公認せずはせめてもの幸い

 首相は国会答弁で「マスコミが堀江氏をもてはやした責任も大きい」と逆襲しました。ただし、ホリエモン担ぎ出しには、加藤紘一元幹事長が「カネが全てと言う人物を候補者に立てるのはどうか」と反対し、山崎拓前副総裁も福岡選挙区からの立候補に反対、森喜朗元首相も難色を示した経緯があります。それもあって、武部幹事長は、企業家のまま政界出馬を目指す堀江氏に対し「会社と政治は両立できない」と説得、党公認から外しました。武部幹事長は堀江氏逮捕後、「公認したり推薦したわけではない。個人的な応援だった。容疑が事実なら、市場と投資家を欺いた罪は大きい。新時代の経営者として期待していただけに残念だ」と釈明しましたが、 公認しなかったことは、自民党にとってせめてもの幸いでした。加藤氏は、社会問題や企業倫理を総裁選の争点にすべきだと主張しています。

  架空世界の金色夜叉

 確かに堀江氏は「人の心も金で買える。株式時価総額の世界一になる」などと豪語したマネーゲームの大家です。弱冠33歳の堀江氏は、学生時代に友人の親たちから借りた600万円を元手に10年間で株式時価総額を5桁10万倍以上の7300億円に膨らませた「ネットバブル相場」の魔術師。ニッポン放送株の大量取得でフジテレビと攻防を展開、和解した際には1470億円の現金を手に入れています。近鉄や広島球団などプロ野球にも食指を伸ばし、宇宙ビジネスやバイオ産業にも興味を示す時代の風雲児でもありました。ところが、ヒルズ族の“勝ち組”チャンピオンの素顔は、IT関連ベンチャービジネスの起業家なんかではなく、単なる金融・投資事業家で、額に汗して働くことを否定する、「バーチャル(架空)世界の金色夜叉」を思わす拝金主義の虚業家でした。                                                                                                                                                       

  法の抜け穴突く錬金術
 
 その手口は、株価の上昇をもたらしやすい「株価分割」と、現金がなくてもM&A(企業の合併・買収)が出来る「株式交換」とを組み合わせて「法の抜け穴」を突くという錬金術です。これは、不正経理が転落の入り口となって破綻した、米国のエンロンやワールドコムの手口が手本になっています。株式分割の場合、新発行の株券が株主の手元に届くのに50日程度かかり、売れる株式の数が極端に品薄となるため、株価は企業の実力以上に値上がりします。そこで「株式分割」を4度も行い、一株を3万株に増やして株価をつり上げ、株式時価総額が膨れ上がった時に、もっぱら時価総額の大きさで交換比率の決まる「株式交換」によってM&Aを繰り返してきました。違法ではないが、ニッポン放送株の場合は、時間外取引で大量株を取得しています。東京地検は、虚偽の企業買収情報を流して株価をつり上げたとして、証券取引法違反(偽計取引・風説の流布)容疑で捜査に乗り出しました。その結果、ライブドアのバブル株は半額以下に下落、被害を受けた個人投資家は22万人もいます。ホリエモンの実態は「ホラ(法螺)エモン」だったわけです。

  弱肉強食の格差社会が新争点

 道徳、企業倫理を無視したホリエモン流のハゲタカファンドが経済構造を狂わせ、行き過ぎた「規制緩和」が耐震強度偽装事件やゆがんだネット社会を生み出してはいまいか――と言う懸念が政界で広まっています。国会では、野党が首相の靖国参拝で亀裂を深めた「アジア外交」と米産牛肉再開に見られた対米重視の外交姿勢、消費税増税問題などを厳しく追及していますが、ホリエモン騒動のライブドアショックが巻き起こした格差社会の問題も論戦の対象になってきました。自民党大会の挨拶で公明党の神崎武法代表は「富裕層と貧困層の2極化が拡大しつつある」と弱肉強食が生む格差社会の是正を求めています。確かに企業のリストラで派遣社員やニート族が増え、中流意識はなくなって貧富の差が拡大、これが少子化や年金問題に影を落としており、格差社会の是正も総裁選の大きな争点に浮上してきました。谷垣財務相は「絆の社会、活力と信頼に満ちた社会を目指すべきだ」と言い出しましたが、各候補も、小泉路線とは違った独自の政策・理念を明確に打ち出すべき時がきた、といえるでしょう。