北村からのメッセージ

  第124回(1月16日)通常国会開幕 早くも総裁レース

 年末から第5波の寒波到来。88年ぶりの大雪で100人近くの老人が死亡する一方、嬰児の営利誘拐事件が発生するなど、老いも若きも被害を受けて新年は暗い幕開けとなりました。自治体の要請を受け、各地で雪下ろしに励む自衛隊の皆さんのご苦労に、まずは感謝したいと思います。建設業界も耐震強度偽装事件の汚名挽回のために、ボランティアで重機を動かし雪解け支援を展開して欲しいものです。さて、激動の酉年に次いで、戌年も12年前の細川護煕政権の崩壊、24年前の中曽根康弘政権の誕生など激変の多い年。いよいよ20日から首相が「構造改革総決算の国会」と意気込む通常国会が開幕します。秋の自民党総裁選を控え、ポスト小泉の有力候補である麻生太郎外相、谷垣禎一財務相、安倍晋三官房長官が激しく国会答弁を競い合うでしょう。正月紙面でマスコミは福田康夫元官房長官を加えた“麻垣晋康”4氏による総裁選の前哨戦を詳しく伝えましたが、急激な世代交代を警戒する山崎拓元幹事長ら実力者も発言を強めるなど、なかなか賑やかです。

 4月に総裁選へ突入か

 20日召集の通常国会は6月18日まで150間の会期ですが、首相は小泉構造改革を加速化する総決算の国会と位置づけ、3分の2以上の圧倒的な与党議席を背景に06年度予算案の年度内成立を目指しますが、我々も行政改革、医療制度改革などの関連法案を一気に成立させる覚悟です。また、アスベスト対策、耐震偽装対策などを盛り込んだ約4兆5千億円の05年度補正予算案を冒頭に処理する方針です。このほか、行政改革推進法案、皇室典範改正案、教育基本法改正案、建築基準法改正案、防衛省設置法案、米軍再編関連法案、国民投票法案など重要法案が目白押しです。これに対し、民主党などは「『安全』国会」に置き換えようとして、耐震偽装問題の真相究明や、首相の靖国神社参拝でしこりを生じたアジア外交などを攻め立て、論戦を展開しようとしています。とくに9月には自民党の総裁選、民主党の代表選を控えているため、構造改革や消費税引き上げ、外交路線を巡って激しい応酬が予想されますが、ポスト小泉の総裁候補は独自性を出そうと答弁を競い合い、予算案成立後の4月以降は事実上の総裁選に突入することになりそうです。

 脱派閥、国民に直接訴え

 自民党総裁選は5年半ぶりですが、今年の運動方針案に「(小泉総裁は)9月の任期満了で退陣」と明記されているため、いかに「強いカーテンコール」(森喜朗前首相)があっても、中曽根康弘元総裁のような「1年延長」は9割方なくなっています。それでも首相の退陣は、重要法案不成立の引責や不祥事、党内抗争によるものではなく、逆に先の総選挙で大勝し、余力を持って定められた総裁任期を満了するため、首相交代まで半年以上もあって後継者は絶えず首相の意向を意識しなければならず、極めて戦いにくい総裁選です。読売新聞は「半年以上もの間、次期総裁候補は指導力や政策を、同僚議員や国民からじっくりと観察されるのが今回の特徴」とし、「似たような状況は1987年の中曽根元首相の後継争いにも見られる。当時は派閥を率いていた竹下登、安倍晋太郎、宮沢喜一の3氏が競った。総裁候補を中心に派閥の力関係で物事が決まるという党内力学が中曽根氏による竹下氏の後継指名を可能にした。今回は、“脱派閥”を掲げ、国民に直接支持を訴えかける手法を進めた小泉首相の後継選びだ。派閥が政治力を欠く点が“ポスト中曽根時代”とは決定的に違う」と解説しています。

 世論は安倍氏断トツだが

 確かに、派閥の領袖は谷垣氏だけで、麻生氏は11人の河野グループ、福田、安倍両氏は大派閥の森派ながらいずれも幹部に過ぎず、谷垣派も総裁選の立候補に必要な推薦人20人に満たない15人の小派閥でしかありません。武部勤幹事長が属する山崎派も弱小派閥の範疇です。各紙世論調査の国民人気では、安倍氏が群を抜いていますが、3代続けて同じ派閥から総裁が選ばれたケースはなく、安倍、福田氏のいずれが出馬しても「反森派連合」は出来やすいと見られています。また、外交タカ派の安倍氏とハト派の福田氏という2人の候補を抱えていること自体、森派の内情は複雑です。首相は安倍氏に決起を促すよう盛んにエールを送っていますが、安倍氏に近い森前首相や中川秀直政調会長らは07年の参院選での苦戦を見越して総裁選を見送らせる「温存論」を唱えています。ただ、福田氏は森派を分裂させてまで立候補をする考えはないとされ、安倍氏の出馬断念の緊急事態を除いて、出馬の意思はなさそうです。

 対中姿勢が大きな焦点

 ポスト小泉の対中姿勢も総裁選では大きな焦点に浮上しつつあります。首相の靖国神社参拝に中韓両国が反発、とりわけ日中両国の首脳や閣僚級の対話が途絶えていますが、昨年暮れから「中国脅威論」が新たな火種になりつつあります。これは民主党の前原代表が昨年12月に訪米した際、中国の軍事力増強などについて「現実的脅威」だと発言したため、続いて訪問した中国では首脳との会談を拒否されたのが発端です。外交用語で「現実的脅威」とは「侵略」を意味するからです。ところが、麻生外相も前原氏の発言に関連して「かなりの脅威になりつつある。前原氏の言っているのは確かだと思う」と同調したことで、日中関係はさらに険悪化しました。山崎前副総裁はすかさず昨年暮れ、「中国の軍事力が脅威だと言うと、わが国に対する侵略の意図があるということになってしまう」と批判しましたが、中国は年明けの日中非公式局長級協議で中国脅威論に懸念を表明、日本のマスコミ報道を規制するよう求めるなど一層態度を硬化させています。

 靖国を争点にすべきでない

 首相は年頭の記者会見で、「一国の首相が、一政治家として一国民として戦没者に感謝と敬意を捧げる。精神の自由、心の問題について、政治が関与することを嫌う言論人、知識人が批判することは理解できない。まして外国政府が介入して、外交問題にしようとする姿勢も理解できない」と“内政干渉”的な外圧を批判し、国民の共感を求めました。11日にも外遊先のイスタンブールで、記者団の質問に“心の問題”を強調、「批判される方も、靖国参拝自体がいけないのか、中国や韓国がいけない(と言う)からいけないのか、今後はっきりして頂きたい」と答え、総裁選の争点とすべきでないとの考えを示しました。安倍氏も入閣前に月刊誌などで、「誰がリーダーとなっても国のために尊い命を犠牲にした人たちのために手を合わせることは、指導者としての責務だと思う」と首相の参拝を強く支持してきました。最近の民放番組でも、靖国参拝を巡る日中関係の悪化について、「首脳、外相の交流をしない、相手側が意に沿わない場合は会わない、という外交は間違っている」とし、会談に応じない中国政府を批判、「靖国問題を総裁選の基本的なテーマにするべきではないと思う」と述べました。

 小泉路線から抜け出せず

 麻生外相は祖父の吉田茂元首相に連れられて靖国参拝した幼児の体験を引き合いに、「靖国で感謝と敬意を捧げるのは当然だ」と述べるなど、首相の靖国参拝に賛意を示しています。しかし手詰まり状態の中韓両国との外交関係をどう立て直していくかの外交針路は明確でなく、安倍官房長官とともに日中、日韓関係では小泉路線から抜け出せずにいます。これに対し、山崎氏は「新しい首相が靖国参拝をせず、国立追悼施設の方に参拝すれば外交問題は一件落着」というのが持論で、「争点になるかどうかは世論が決めこと」と述べ、首相、安倍氏をしきりに牽制しています。山崎氏が会長を務める超党派の「国立追悼施設を考える会」には同氏に近い加藤紘一元幹事長、福田元官房長官が中核メンバーとして参加していますが、加藤氏も「アジア外交が壊れてしまっており、それでいいのかという議論をすべきだ。中韓両国首脳と話が出来ないのは国益を害する」と述べ、アジア外交の修復を重視しています。山崎氏は急激な世代交代を阻止するため、首相の参拝に批判的な福田氏を総裁に担ぎ出すか、あるいは自らが出馬する環境作りをしているのではないか、と見られています。友党の神崎武法公明党代表も「次の総理は靖国参拝をすべきではない」と自粛論を唱え始めています。

 谷垣氏、消費税アップで存在感

 こうした中で、谷垣財務相は「(靖国の争点化は)戦略的アンビギュイティー(曖昧さ)が必要な分野ではないか」と静観の構えですが、消費税率の引き上げを真っ先に訴え、財政再建派として増税の必要性を説き、存在感を高めようとしています。急激な少子高齢化社会を控え、消費税率アップは不可避との見方が党内の共通認識となっていますが、谷垣氏が正論を唱えたことは政府・与党内で集中砲火を浴び、総裁選の大きな争点になってきました。前にも書いたように、与謝野馨経済財政担当相は谷垣氏の政策に理解を示したものの、安倍官房長官は「今、消費税を議論する必要はない」との姿勢。竹中平蔵総務相は「増税論議だけを先にするのは順序が違う。形を変えた抵抗勢力だ」と谷垣氏を真っ向批判し、中川政調会長と組んで増税よりも歳出削減路線を推進しています。このように、ポスト小泉の政権争奪戦は、自民党内で早くも火花が散っていますが、朝日新聞によると、森元首相は、「安倍―純真、谷垣―まじめ、福田―沈着冷静、麻生―政策通」など特徴を捉え、候補の力量について気楽な寸評を加えていることを紹介しています。各派閥がどのような合従連衡を進めていくか、ベテラン、若手がどのように連携を深めていくか。私は混戦模様の総裁レースを今後もしっかりウオッチし、最良の総裁を選びたいと考えています。