北村からのメッセージ

  第123回(元旦)小泉改革総仕上げ 郵政民営化が始動

 明けましておめでとうございます。皆さま健やかに新春をお迎えのこととお慶び申し上げます。酉年は激動の年といわれた通り、昨年は総選挙で自民党が大勝、保守政権基盤が盤石になった半面、醜悪な耐震強度偽装事件や残忍な通校中の小学女児殺害事件が全国で相次ぎ、国民を不安に陥れました。サラリーマン生涯の「夢の館」が手抜き工事どころか、建築の基本である構造設計の偽造により、心張り棒抜きの「砂上の楼閣」と化していたとは言語道断。戦後の高度成長を支えたのは優れた技術とその信頼性でしたが、バブル経済の崩壊を契機に企業に蔓延したコンプライアンス(法令順守)の欠落が、一部建設業界を安全無視のコスト削減競争に狂わせ、戦後教育の荒廃が若者を「劇画の世界」の冷血な幼児殺戮に追いやって、どす黒い犯罪を生み出しています。ようやく建築士、建設・施工業者、売り主の「悪意に満ちた偽装の輪」に司直のメスが入りましたが、異常寒波と不安の中で年を越した住民の怒りを思う時、詐欺罪などあらゆる法令を適用して捜査の実を挙げることを願わずにはいられません。国家防衛に限らず国民の生命・財産を守るのが政治家の使命。私は結党50年の新しい「05年体制」で再出発した自民党の政調会担当の副幹事長として、偽装事件でも早急な再発防止策を確立すべく努力しており、今年は存分に働く決意を固めています。年頭に当たり倍旧のご指導とご鞭撻をお願い申し上げます。

 3位の長期政権で院政目指す

 さて、1月20日から通常国会が始まります。今年は景気も回復基調にありますが、小泉首相は、経費削減・小さな政府を念頭に「緊縮・抑制型」の06年度予算案や憲法改正に必要な国民投票法案、医療制度、三位一体、政策金融など小泉改革の「総仕上げ」となる関連法案を続々提出する構えです。主要閣僚も秋の総裁選に備え、答弁では独自路線を発揮しようと晴れの出番を手ぐすね引いて待っています。しかし、首相は昨秋来、保守勢力結集の憲法改正を意識してか、民主党との大連立を水面下で呼びかけたり、最大派閥の森派をしのぐ83人の小泉チルドレンを忘年会(50人出席)に呼んで新人教育に励むなど、秋の総裁選でも強い影響力を行使しようと懸命です。同盟国の盟友、ブッシュ米大統領は@イラク情勢の悪化Aハリケーン「カトリーナ」来襲での対応の遅れBCIA工作員の実名リーク疑惑による首席補佐官の起訴・辞任C側近のマイヤーズ女史の最高裁判事指名と撤回――など次々と襲い来る「パーフェクト・ストーム」(最大の嵐)で窮地に立たされています。これに比べ、9月に総裁任期が切れる首相には、レームダック(死に体)の懸念が全くなく意気軒高です。 5月には中曽根康弘元首相の任期を越えて吉田茂、佐藤栄作両首相に次ぐ戦後第三位の長期政権を確立、院政を目指すことは間違いないでしょう。

 初代社長は旧敵のバンカー

 それもこれも、小泉首相が「政界の奇跡だ」と自画自賛した郵政民営化が実現に向かうからです。「国民は民営化の中身を知らされていない」とマスコミは総選挙中、首相の説明責任を追及しましたが、首相は小泉劇場の演出で圧勝しました。そこで、今年のホームページは、皆さまのご理解を深めるため、小泉改革の総仕上げである郵政民営化から始めることにしました。少し長めですが、肝腎の部分には政府・与党の合意、国会決議などを盛り込み、解説を加えています。まず1月には、持ち株会社「日本郵政株式会社」の前身「準備企画会社」と新会社の経営陣で構成する「経営委員会(最大7人)」が発足し、いよいよ民営化は動き出します。初代社長(経営委員長を兼ねる)には、三井住友銀行特別顧問(前頭取)の西川善文氏が就任、取締役(経営委員)には、民営化後の郵便事業会社担当として團宏明日本郵政公社副総裁(佐世保市出身)が、郵貯銀行、保険会社担当として高木祥吉・前金融庁長官(前郵政民営化推進室副室長)が起用されました。経営委員のうち5人は新会社の社長候補です。「官僚出身より民間の有能な人材を起用する」との首相方針に基づく人事ですが、生田正治公社総裁が固辞したため、予想外にも郵貯のライバルのメガバンクから抜擢されました。西川氏は旧住友銀出身で旧さくら銀との合併やバブル崩壊後の不良債権処理で剛腕を発揮した「最後のバンカー」といわれる人です。

 4分社化で準備企画会社

 「渾身の努力で民営化を完成させたい。金融も物流もリスクをとれるかどうかが民営化と公社の違い。リスクをとって得た利益を国民、従業員に還元する。銀行業界とは建設的な競争をする」が就任の弁。全銀協会長を2度も務め、郵貯の規模縮小を唱えてきた人ですが、今度は攻守ところを変えて銀行のライバルに回ります。準備企画会社は、「経営の効率化や新規事業進出などで収益性の向上を図る」との郵政民営化の狙いに沿って、4事業のビジネスモデルを検討し、分社化に備えます。また、06年度中は、4事業会社への職員配置や業務・資産の振り分けなどの「承認計画」を策定します。郵政公社は、これまで郵貯資金を国債中心に安定運用してきましたが、準備企画会社では@政府部門に偏った郵貯資金などを民間に振り向けるため、郵貯銀行は民間金融と組んで高収益が期待できる住宅ローンや企業向け融資への本格参入を検討A保険会社は成長分野の外資系医療保険などの販売にも着手B郵便物が急減傾向にある郵便事業は、新法の施行でこの4月からの参入が認められる国際物流事業の準備作業を加速――などと取り組みます。

 TNTと合弁で物流子会社

 公社は全日空と共同で4月をめどに貨物機運航会社を設立しますが、オランダの物流大手TNTポストグループ(TPG)とも合弁の物流子会社を06年度中に設立する方針です。TNTは89年に民営化された郵政事業会社で、米フェデラル・エクスプレス、ドイツポストグループのDHLと並ぶ世界の4大物流会社の一つ。国際物流事業のノウハウを持たない公社は、全日空やTNTとの提携で、物流需要の多い中国を中心とするアジア市場に事業を展開する考えです。この分野では民営化先輩のドイツポストに先を越されましたが、生田総裁の目も中国市場に向いています。合弁子会社が日本企業から中国向けの部品・機材などの搬送を受注する場合、委託を受けた公社が全国ネットを活かして企業の拠点から集荷し、航空機や船で現地に輸送。中国ではTNTの輸送網に乗せて迅速に配達する仕組みを想定しています。07年10月の民営化後は、段階的に国内物流事業にも進出できる見通しです。世界26カ国に51工場、従業員計27万人を擁するトヨタ自動車が「もの作り世界一」を目指すハードの国際企業なら、同じ27万職員を抱える郵政は「サービス世界一」を目指せるソフト部門のマンモス企業です。商品やサービスの新規事業が民業圧迫とならないよう監視する「郵政民営化委員会」も4月には設置されますが、当面の国際物流事業は、国内での民業圧迫批判を受けずに済みます。郵便斜陽化の中にあって、郵政がドメスティック企業からインターナショナル企業へ脱皮する切り札となるでしょう。

 郵便認証司を4万人配置

 日本郵政公社は07年(平成19年)10月に政府全額出資の持ち株会社と4つの事業会社に分割されます。民営化で郵便局の窓口、郵貯、簡保などはどう変わるのか、おさらいしてみましょう。同年10月に公社が解散し、政府が百%出資する持ち株会社(日本郵便会社)の下に、全国の郵便局をまとめる郵便局(窓口)会社、郵便事業会社、郵便貯金銀行、郵便保険会社が置かれます。27万の全職員は国家公務員でなくなりますが、内容証明、裁判所の特別送達などの公的業務を続行するため、新たな国家資格の「郵便認証司」を設けます。資格試験はありませんが郵便、窓口両社が推薦し総務相が任命します。特定郵便局長や普通局の郵便配達現場責任者を対象に4万人程度配置する予定で、資格手当の支給も検討されています。各新会社の職員は「日本郵政共済組合」を設立したうえで当分の間、国家公務員共済組合の一員として年金、医療費の給付を受けます。郵便事業中心にリストラが進み、民営化直前の職員数は25万2千人と見込まれます。振り分け計画では窓口5割強、郵便4割強、持ち株、貯金、保険の3社合計で5〜6%程度になるでしょう。

 7千2百の過疎地郵便局維持

 完全民営化後も国は、持ち株会社に3分の1超の出資(株保有)を続け、持ち株会社は郵便、窓口両社の株を百%保有しますが、郵貯銀行、保険会社の株については、2017年9月末までに完全売却します。全株売却の場合、国庫収入は3兆9千億円を見込み、これが完了すれば完全民営化が実現します。ただし、政府・与党は郵貯、保険株の「連続的保有を妨げない」ことで合意しており、完全売却直後に持ち株会社が両会社の株を買い戻したり、各会社間で株を持ち合うのは自由なので、これまで通り一体的経営が出来ることになります。郵便局の設置では、民営化法は「あまねく全国で利用できるよう設置を義務づける」との表現で、郵便局の利便性を低下させないと確約しています。国会審議で「不採算局の切り捨てにつながるのではないか」と強い不安が示されましたが、「郵便局の現行水準の維持」という国会の付帯決議もあって、過疎地関連法の基準を適用し、約7220カ所で「過疎地の郵便局の維持」を総務省令に追加しました。竹中平蔵総務・郵政民営化相も「郵便局網はライフラインにも匹敵する」と強調しました。だが、民営化する以上、郵便局網の維持が新会社の負担になるなら、いずれ統廃合を進めなければなりません。今でも全国で年に40局程度減少していますが、都市部近接のオフィスビル内小規模局は、効率的物差しで統廃合の可能性があることを、首相も国会答弁で肯定しました。

 コンビニ化で二億円目標

 郵便事業会社には、全国一律料金ではがき、封書を集配する画一サービスの維持を義務づけていますが、現在、総務相の認可料金は、事前届出制になり、自由に料金を決めやすくなります。だが、郵便小包は、民間の宅配業者と同じ競争条件にするため、全国一律サービスを義務づけず、所管も総務省から国土交通省に移り、民間の宅配便と同じ扱いとなります。競争の結果、儲かる都市部では料金が安くなる半面、不採算地域では値上げや撤退が出来るようになりますが、過当競争が続くことから、値上げの可能制は薄いでしょう。一方、大規模局の1部は文房具、日用雑貨の販売や旅行・映画・サッカーのチケットも取り扱う「コンビニ化」を進め、1局当たり民間並みの年2億円の売り上げを目指す予定です。だが、余剰スペースがある局は1300局程度で、サービスの地域格差が生じる恐れがあります。市町村合併が進んで、役所の出先機関が減っているため、住民票の写しや印鑑証明などの証明書交付の代行など、ワンストップサービスの受託業務が増えるでしょう。資産価値の高いJR東京駅前の東京中央郵便局やJR大阪駅前の大阪中央郵便局など一等地の集配施設は、高層ビルに建て替えて企業に貸したり、売却してトラック輸送に適した幹線道路沿いに移転するなど、NTT同様に不動産子会社の設立も検討されています。

 過疎地サービス維持に基金制度

 郵貯と保険についても民間と競争条件を同じにするため、全国一律サービスの義務は課していません。ただし、郵貯、保険両会社に対しては、営業免許を与える条件として、完全民営化までの10年間は、窓口会社との代理店契約を事実上義務づけ、政府・与党合意で、この規定を完全民営化後も継続できることにしました。さらに、郵貯、保険両社の株売却益の一部を「社会・地域貢献基金」として、一兆円規模まで持ち株会社内に積み立て、過疎地の金融サービス維持に使うことにしました。これも政府・与党合意では最大2兆円規模に膨らみました。この基金には今回の税制改正で優遇措置がとられています。07年10月の民営化までに郵貯・簡保が受け入れた政府保証付きの資金のうち、流動性貯金を除く約3百兆円は「旧勘定」として独立行政法人の「郵貯・簡保管理機構」が継承します。郵貯、保険会社の「新勘定」は残りの約40兆円に民営化後の資金が加わり、運用は新旧一体で両社が担います。郵貯の1人当たり1千万円の預入限度額は当面変わりませんが、株売却につれて段階的に引き上げられ、いずれ撤廃されます。金利も郵貯銀行の経営判断で決められますが、郵貯の主力商品である定額貯金は、法人税の免除などの官業の特典が外れるため、商品性が変わる公算が大きいです。竹中担当相は「郵貯、保険の残高は今後3分の2程度に小さくなる」と試算しています。

 ファミリーバンク構想

 「新しい郵便窓口会社の個性を『ワンストップ・コンビニエンス・オフィス』にしようと私は言ってきた。貯金から保険、遺産相続まで家庭のお金の問題に何でも相談に乗る『ファミリーバンク』構想だ。まだ希望だが、投信がその柱になる。将来が楽しみだ」――。生田総裁は昨年10月から始めた投信販売について日経新聞のインタビューでこう語りました。投信は低リターン低リスクの商品を扱っていますが、取り扱い局が約1500局に増える3年目から単年度黒字に転じ、5年目には累積赤字が消えると総裁は見ています。保険も1千万円の死亡保障の上限は当面維持されますが、将来は上限撤廃や、ガン・医療保険など「第三分野」の保険も視野に入れた業務範囲の拡大が徐々に進みます。業務拡大を審査する「郵政民営化委員会」は、首相が任命する5人の有識者で構成し、3年ごとに民業圧迫も含め、民営化の進捗状況を総合的に検証します。完全民営化までに10年以上の歳月がありますが、検証の過程で、政府・与党合意を逸脱したり、過疎地の郵便局切り捨ての事態が予想される場合は、片山虎之助参院幹事長が政府・与党合意で汗をかいた際に述べたように、「法体系を見直す」ことだって可能です。首相は民間の郵便参入を促進するため、気楽に「ポスト10万本の緩和」などと唱え出していますが、郵便局の皆さんはこの際、ガードを固めて仕事に打ち込み、民営化の推移を見守ることが肝要でしょう。