北村からのメッセージ

  第121回(12月1日)増税・歳出削減論争 小泉後に思惑


 慌ただしい師走。「政府・与党一体による改革の総仕上げ」という首相の指示を受け、政府・与党は06年度の予算編成に大わらわです。予算の基礎となる公務員の総人件費削減、政府系金融機関の統廃合、医療制度改革、三位一体の改革などは、私のホームぺージでも数ヶ月に渡り解説してきましたが、「小さな政府」を目指すそれらの改革は先月末から総仕上げに入っています。しかし、「改革の本丸」とされた郵政民営化以上に役所の壁は厚く、既得権益を守ろうとする官僚の抵抗は強いようです。しかも、「歳出削減が先か、増税が先か」と財政再建の手法を巡り、有力閣僚や党3役の間で確執が生じ、マスコミはポスト小泉レースに絡めて面白おかしく報道を続けています。11月22日の立党50周年記念党大会も終わり、自民党は新たな党改革の1歩を踏み出しました。私は副幹事長として政務調査会を担当、政策全般に目を配る立場から、立派な予算が編成できるよう日夜努力を傾注しています。

 党内論争呼んだ谷垣発言

 「税率を記さない法案はない。07年の国会に法案を提出する」――。谷垣禎一財務相は、第3次小泉改造内閣で留任が決まった10月末の深夜、消費税の引き上げを質問され、こう答えました。さらに「来年6月の骨太の方針で一定の方向感を出し、同年末の07年度税制改正作業で詰める」と具体的スケジュールに言及。その後の記者会見でも「与党の税制改正大綱などを一番素直に解釈した段取りだ」と持論を強調しました。これには前任の党政調会長当時に「党財政改革研究会」を作って消費税率引き上げと社会保障目的税化を唱えた与謝野馨経済財政担当相が同調しました。しかし、消費税制は大平正芳、中曽根康弘両内閣で導入に失敗、竹下登政権でようやく実現したものの橋本龍太郎内閣で税率の引き上げを行った結果、参院選に敗れ退陣したいわく付きの税制です。小泉首相は「在任中は消費税率を引き上げない」と何度も言明、歳出削減を優先してきました。それだけに、首相側近の中川秀直政調会長が「拙速だ」と批判すれば、首相腹心の竹中平蔵総務相も「増税先行論者は形を変えた抵抗勢力だ」と追い打ちを掛け、党内論争を引き起こしました。

 消費税増税は5番打者

 中川政調会長は党3役就任後の読売インタビューで、「まず、歳出削減。それから金融政策でデフレを克服する。増税は3番目に考えるべき選択肢だ。初めに消費税増税ありき、というのはどうか。歳出削減を『そこまでやるか』と思われるくらいまでやってこそ、国民の理解が得られる。安易に増税に言及するのは、首相も望んでいない」と述べました。ついで11月13日の党京都府連パーティで、「野球なら1番打者がデフレ脱却の日銀、2番は政府資産の圧縮、3番は行政改革、4番は歳出削減、5番にようやく消費税増税の議論だ」と増税を5番目に落とし、批判をエスカレートさせました。竹中氏も同日のテレビ朝日番組で「増税を先にやった国は必ず失敗している。国民は増税が先では納得しない」と述べ、国の資産売却や特別会計の規模縮小などを重点的に進めるべきだと強調しました。同じ番組に出演した与謝野氏は、資産売却の必要性は認めつつも、「(資産の)切り売りだけでは限界がある。歳出削減だけで財政再建が出来るという錯覚を国民に与えてはいけない」と直ちに応酬しました。

 与謝野氏援護で意気軒高

 与謝野氏は、「消費税の議論をすると歳出削減の努力が緩むと考える人は、日本の財政の深刻さを十分認識していない」と絶えず谷垣財務相をかばってきましたが、17日のニッポン放送ラジオ番組でも「どちらが先と言うより、両方やんなきゃいけない。ライスカレーとカレーライスの違いでしかない」と述べ、公務員削減や政府系金融機関の統廃合を進めることを説明したうえ、「国有財産も要らないものは売るが、それでも足りなくなる。その時は割り勘にさせて頂きたい」と分かりやすい表現で谷垣氏を援護し続けています。谷垣財務相は論争が起きた当初、四面楚歌の故事になぞらえて、「項羽のような心境というと、ちょっと言いすぎだが、『騅(すい)逝かず(項羽の愛馬も走ろうとしない)』というほどでもない」などと、史記(項羽本記)の1節を披露し、記者団を煙に巻いていましたが、麻布高校、東大の先輩でもある与謝野氏の援護射撃を受けてからは益々意気軒高。ひそかにポスト小泉への意欲を燃やす谷垣財務相は、消費税増税で財政再建の道筋をつけることが次期政権の最重要課題であると位置づけて、積極論を展開しているようです。

 EUは消費税率15%以上

 これが税率引き上げを期待する財務省内で求心力を高めているのは当然です。国の財政赤字は今年度当初予算で34兆円、国と地方を合わせた長期債務残高は今年度末で774兆円に達します。巨額の赤字減らしには、増税と歳出削減の同時進行が望まれます。日本の消費税率は欧州先進国に比べ低いのが現状です。欧州連合(EU)が消費税(付加価値税)率を15%以上に設定するよう求めた統一指令に基づき、ドイツ16%、英国17.5%、フランス19.6%イタリア20%、スウェーデン25%と高水準にあります。このため、国際通貨基金(IMF)は11月中旬に発表した調査レポートで、「日本の消費税率は他国に比べて非常に低く、かなりの引き上げが必要だ」と指摘しました。党財政改革研究会は10月下旬、「将来は12〜15%程度への引き上げが必要」との見解を示し、石弘光政府税調会長も「段階的に10%への引き上げを目指すべきだ」と主張しています。

 消費税上げなら参院選大敗

 しかし、谷垣財務相が言うように、07年の通常国会に消費税率大幅引き上げの税制改正法案を提出すれば、同年春の統一地方選、同年夏の参院選で与党が大敗――新首相退陣の公算が大きくなります。となると同じ森派で国民的人気がある安倍晋三官房長官を推す立場にある中川政調会長は慎重論を唱えざるを得ないわけです。読売は11月21日、「ポスト小泉」思惑交錯――との解説記事を載せ、「中川、竹中両氏が描く財政再建の優先項目は、@デフレ克服、経済成長による税収増A政府資産の圧縮B特別会計見直しなどの制度改革C公務員の総人件費削減などの歳出削減――だ。中川氏は『3〜4%の名目成長率を継続すれば、国と地方の基礎的財政収支(プライマリーバランス)を2010年代初頭に黒字化する政府目標は達成できる』と主張する。約700兆円に上る政府保有資産についても、『売却や民間開放で資産項目の6割は圧縮でき、新たな経済成長も期待できる』という。こうした手順を優先すれば、増税幅は小さく出来ると見ている」と報道しました。

 首相は値上げの世論形成期待

 これに対する谷垣、与謝野両氏の反論も載せていますが、各派閥に広がる消費税論議については、@青木幹雄参院議員会長は谷垣氏に「臆することなくしっかり言いなさい」と激励したが、同じ津島派の片山虎之助参院幹事長は谷垣発言を「時期尚早」と批判したA高村正彦元外相は高村派会合で谷垣氏を「あっぱれ」と称賛したB「首相の偉大なるイエスマン」を自称する武部勤幹事長は首相に近い中川氏に同調――などと党内論議が拡大している様子を伝えています。各マスコミも、積極派と慎重派の対立の背景にはポスト小泉をにらんだ思惑が複雑に絡んでいると一斉に報じています。そうした中で小泉首相は同18日、韓国・釜山での同行記者団との懇談で「構造改革ではいずれ両氏も中川政調会長と協力していく。谷垣さんも与謝野さんも私の意図が分からないから、ちょっと調子外れのことをたまに言うだけ」と中川氏の肩を持ちました。どうやら首相は、党内論議が消費税率引き上げの世論形成に役立つことを楽しんでいる風情ですが、我々としては、国民生活に与える影響を重視し、しっかりした消費税制の改正論議を煮詰めたいと考えています。