北村からのメッセージ

  メッセージ第119回(11月1日)総裁レース号砲 医療費改革なるか


 小泉首相は10月31日、特別国会の閉幕を待たず党三役人事・内閣改造を断行しました。新三役には総選挙大勝の功労者で忠臣の武部勤幹事長と久間章生総務会長が留任,側近の中川秀直国対委員長が政調会長に就任。官房長官に安倍晋三氏、11月中旬に相次ぐ日米、日露の両首脳会議をお膳立てする外相に麻生太郎氏が横滑り、政策金融改革の財務相に谷垣禎一氏が留任するなど、福田康夫氏を除く3総裁候補が勢揃い。構造改革を競わせながら後継首相を育成し小泉政治路線を継承させようとする首相の思惑通り、総裁レースの号砲が鳴り響きました。また、郵政改革をフォローし三位一体の改革と取り組む総務相に竹中平蔵氏が横滑り、経済財政担当相に与謝野馨氏、経産相に二階俊博氏が起用され、郵政民営化の論功行賞が行われました。新人の猪口邦子氏を男女共同参画相に充てるなどサプライズ人事もありました。医療制度改革の厚生労働相には川崎二郎氏が起用されましたが、新閣僚は、11月から待ったなしの諸改革と取り組みます。小泉改革の中でも「少子高齢化のなかで急増する医療費をどう抑制するか」の医療改革と年金改革は来年度予算編成の焦点です。新厚労相がいかに力量を発揮し、問題の決着を図るか注目されます。医療問題は1カ月前のHPでも取り上げましたが、再び問題点を検証することにしました。

 56兆円を7兆円圧縮

 厚生労働省は10月19日、医療制度改革試案を発表しました。お年寄りへの負担増を迫る内容だけに高齢者や医師会、健保組合、地方自治体の間で激しい論議を呼んでいます。経済財政諮問会議で民間議員が経済指標に応じた「医療費の総枠管理」(キャップ制)を求めたのに対し、尾辻秀久前厚労相が強く反発、改造前の現職のうちに決着しようと試案を提出したものです。厚労省の試案は、2025年度に56兆円と予想される医療給付費(年間)を49兆円に抑えることを目標に、短期策では「長期入院患者の食住費の自己負担化や一定所得以上高齢者の窓口負担引き上げ、高額療養費制度の上限見直し」などで1兆円。中長期策では「生活習慣病対策、入院日数短縮などの数値目標を都道府県ごとに決める」などで6兆円、計7兆円抑制する方針です。

 高齢者に3段階の負担増

 現在の窓口負担割合は69歳までが3割、70歳以上が原則1割ですが、高齢者には医療費の自己負担分引き上げが多く、3つの施策が挙げられています。1つは、夫婦で年収620万円以上の「現役並み所得者」は、2割から3割に引き上げる(06年10月から)。現在の「70歳以上は原則1割」から「65〜74歳は2割、75歳以上は1割」へと改める(08年4月から)。2番目は、介護保険で施設入居者の食住費が今年10月から自己負担となったのと均衡を図るため、長期入院者の食住費を自己負担(06年10月から)とし、70歳以上の場合約3万2千円負担増となります。3番目が、75歳以上を対象に新たな医療保険制度を設け、保険料負担も求める。これを市町村単位で運営し、医療費が膨らめば保険料が上がる仕組みも導入する――という内容です。これとは別に、65〜74歳を対象とした「前期高齢者医療制度」を新設(08年度から)するため、健保組合は全体で負担増となり、加入者1人当たりの年間保険料は8千円(労使折半)増える見通しです。

 年1兆円ペースで伸びる

 さらに、政管健保は現在、全国一律の保険料率ですが、08年10月から都道府県単位で運営されるのに伴い、保険料率もその地域でかかった医療費を反映した形で都道府県ごとに設定されます。試案には、会社員の健康保険料を計算する「標準報酬月額」の上限を現在の98万円から120万円程度にまで引き上げ、賞与も1回当たり200万円の上限を年間合計で400万円に改める案も盛り込んでいます。上限引き上げの背景には、所得の二極化が進んで高額所得者が増えている実態があります。税や保険料から支払われる医療給付費は、04年度が26兆円。毎年ほぼ1兆円のペースで伸び続け、06年度は28・3兆円に膨らみ、対国内総生産(GDP)比では5・4%。これが25年度には同比7・7%で、医療給付費はほぼ2倍の56兆円に達すると見込まれています。

 学者は総枠管理を提案

 少子高齢化により、支え手の現役世代が減り続けると、広く国民に医療サービスを提供する現制度は立ちゆかなくなる恐れがあります。経済財政諮問会議の民間議員は、経済成長率などを物差しにして上限(キャップ)を設け、公費負担部分の伸びを抑える「医療費の総枠管理」を提案、厚労省の7兆円圧縮案よりさらに7兆円少ない42兆円の試算を提示しています。総枠管理は、既に英、独、仏、デンマーク、アイルランドなどで実施されています。吉川洋東大大学院教授は10月4日の経済財政諮問会議で医療費を「体重」にたとえ、経済成長に見合った規模に減量すべきだと訴えました。尾辻前厚労相は「体重計に乗ってここまで落とせ、落とすためにはもう飯は食うな、死んでしまえというのは困る」と、同日の会議ですかさずこう反論。減量では医療が崩壊しかねないとの懸念を強調しました。試案では諮問会議が求めるような数値目標は設けず、診療報酬の引き下げなど短期、中長期の施策を組み合わせた抑制策を打ち出しており、医療費の増加原因を「糖尿病等の生活習慣病の患者増大と入院期間の長さにある」と位置づけています。

 保険免責制度の導入も

 このため、40歳以上の全国民が健康診断を受けられるようにし、生活習慣病対策としては、糖尿病、高血圧症、高脂血症の抑制に焦点を当て、国の基本方針の下で都道府県が健康増進計画を策定。また、糖尿病やガンなどの入院日数、外来受診回数などの「医療費適正化計画」を策定させ、一定期間で目標を見直す規定も設置することにしています。これらの政策目標が達成できない場合の罰則的な措置も盛り込んでいます。さらに、「参考」の追加的な抑制策として、@外来1回当たり千円を医療保険から外す「保険免責制度」の導入なら3・2兆円減、5百円なら1・9兆円減A診療報酬を10%減額なら3・7兆円減B食住費の自己負担化をすべての入院患者に拡大なら0・5兆円減――などの選択肢を示しています。財務省が、欧米のように費用が少ない風邪などの診察を、保険対象外にする保険免責制度導入や入院日数の短縮を主張しているのに応えたものです。

 与党は総枠管理に異論

 自民党の丹羽雄哉社会保障制度調査会長や公明党の坂口力前厚労相らが、与党社会保障政策会議を開いた結果、この保険免責制度について、「国民皆保険の理念に反する」との意見が出され、総枠管理についても「経済成長の変動で医療費の適正規模が変わる総額管理はおかしい」などの異論が出され、同政策会議はこの2点に反対していくことで合意しました。また、自民党の医療委員会では、都道府県が策定する医療費適正化計画についても「医療費が全国バラバラになる」「計画が達成できず補助金が削減されるのはペナルティーで、認められない」などの批判が続出しました。厚労省試案に対し、日本医師会は「高齢者の負担増は受診抑制に繋がるし、金持ちだけが十分な医療を受ける事態を招きかねない」との懸念を表明、「患者に過重な負担を求めるのは間違いだ」と反発。健康保険組合連合会も生活習慣病体策などは評価しながらも、「新高齢者医療保険制度は、健保組合の負担が大きく、容認できない」と反対しています。

 美濃部都政の後遺症

 一方、野党は20年後の医療給付費が「推計56兆円になるというのは過大な見積もりだ」とし、弱者の負担増をあおる試案に反対しています。もともと、医療費の増大は、高度成長期に革新陣営の美濃部亮吉都政が「老人医療の無料化」を打ち出してからの後遺症。病院はお年寄りのサロン化し、薬漬け治療が習慣となり、「薬を飲むのを止めたら体調が良くなった」と言う笑えない話が横行するほど、無駄な医療費が膨張してきました。先進国では、70歳以上の医療費は現役世代の3倍ですが、日本は5倍以上に膨らんでいます。その意味で、厚労試案は急膨張する医療費の歯止め策となっており、経済財政諮問会議や財務省の幹部も、保険免責制や診療報酬見直しに言及したことについては一定の評価を下しています。しかし、「医療費が試算通りに抑制できる保証がない」と批判しました。

 渦巻く賛否両論で難航予想

 このように厚労試案には賛否両論が渦を巻いており、11月中に医療制度改革案をまとめるのは容易でありません。政府は次期通常国会に関連法案を提出しますが難航が予想されます。年金改革でも政府は、サラリーマン加入の厚生年金と公務員共済年金の一元化について、「06年秋までに成案を得て、07年国会での成案を目指す」方針を打ち出していますが、両年金の間には公務員に有利な「官民格差」があり、この是正が大きな問題。
厚生年金から抜け出す企業が増えたり、派遣のフリーター・ニート族などの急増で国民年金の未納・未加入が増えており、年金制度の根幹が揺らいでいます。民主党は、国民年金を含めた一元化と消費税を社会保障目的税化してアップするよう唱えていますが、衆院解散で途絶えている「社会保障制度改革に関する両院合同会議」も再開に至っていません。自民党内でも社会保障目的税化の論議が高まっていますが、これら医療、年金改革の成否は、次期政権の担い手候補とされる新厚労相の腕の見せ所となるでしょう。