北村からのメッセージ


  第118回(10月16日)民営化法成立 改革の総仕上げへ  


 小泉首相は、政治生命を賭けた郵政民営化法案が10月14日に成立したことで、小泉改革の総仕上げに入りました。首相は特別国会の所信表明演説で、@政府系金融機関の改革A国と地方の税財政を見直す三位一体の改革B公務員制度改革――に「一身を投げ出す」と不退転の決意を表明しました。ポスト郵政の真っ先に取り上げるのが郵貯・簡保資金を運用する「出口」の8政府系金融機関の統廃合です。「国営の金融機関を持つなら1つ」というのが首相の就任前からの持論です。政府・与党は11月をメドに改革案を取りまとめる方針ですが、8機関にはロケット開発に関与する日本政策投資銀行(旧日本開発銀行)を初め、国民生活、中小企業、農林漁業、公営企業向けなどの各金融公庫があるうえ、官僚の天下り先となっているため、大幅な統合には関係省庁の猛反発が予想されます。ところでパキスタン大地震に大野功統防衛長官は陸自輸送ヘリを派遣しました。瓦礫の下から4日ぶりに少年が救出されるなど現地は悲惨ですが、自衛隊諸君の救出作戦に期待します。さて、政策金融の本論に入る前に郵政法案のスピード審議をチラと振り返ってみましょう。


  1週間でスピード成立

 「万が一,赤字になったら税金投入でいいのか。民主党案は小泉改革路線からすると、中途半端な感じが否めない」(片山さつき氏)、「政府保証や税金投入で維持せざるを得ない実質的な国有銀行存続法案だ」(佐藤ゆかり氏)――。落下傘・くの一刺客と騒がれた2人は、7日の衆院民営化特別委員会にデビュー、民主党議員に対し新人らしからぬ激しい論戦を挑みました。これを見守った首相は「民主党は批判することには慣れていても、批判されるとかっかする。少しは勉強になったのじゃないかな」と笑って2人を援護射撃しました。「小泉チルドレン」の中には“緊急公募”に応じ、ろくに選挙運動もしないで南関東比例区で当選した26歳のシンデレラボーイがいて、「2500万円の歳費とJRグリーンパスが貰えるとは知らなかった。早く料亭に行きたい」とはしゃいでテレビ視聴者のひんしゅくを買いました。玉石混淆のチルドレンには困ったものですが、マスコミは83人のチルドレンを追いかけ、はやし立て、総選挙後も小泉劇場が続いています。ともかく総選挙圧勝の結果、衆院では200票の大差で可決、民営化法案は1週間で成立しました。

  ポスト郵政は「出口」改革

 郵政民営化と政策金融の改革は車の両輪。公的金融の「入り口」の改革が郵政民営化なら、政府系金融機関は「出口」の改革に当たるもので、首相が「郵政後」のテーマに取り上げるのは当然です。首相は郵政法案の審議でも「既得権益の排除」を強調しましたが、いよいよ官の権益排除に着手します。9月27日の経済財政諮問会議は、「官のスリム化」の具体策として国家公務員の削減とともに、02年末以降、事実上凍結されてきた政府系8金融機関の統廃合・民営化を議論しました。同会議は、政府系金融、政府の資産・負債の整理、公務員総人件費削減の3つに関し、改革の基本方針をまとめますが、「政府系金融機関の総貸出残高を国内総生産(GDP)比で半分に圧縮」を目標に、各機関の機能と業務を精査することにしました。8機関合計の04年度末の貸出残高は90兆4029億円で、GDPに対する比率は17・9%。竹中平蔵経済財政担当相は、日経新聞のインタビューで、政策金融の改革による融資残高を半減させる目標について「達成時期を含め道筋を明確にする」と答え、8機関の業務を4機能に分けて統廃合する考えを示しました。

  決め手はリスクと公益性

 同会議の民間議員は、「あくまでも民営化が原則。そのうえで、政府系でなければ出来ない業務のみ、引き続き政府系金融機関が手がけるようにすべきだ」と述べています。同会議はこれまでにも、現行の組織を前提としないで、@発展途上国支援など政府系金融でやる必要があるA大企業向けの長期融資などは政府系でやる必要がないB住宅金融など必ずしも政府系金融でやる必要はないが、公益性が高い分野Cリスク評価が難しく民間にはなじまない分野――の4つの機能に分ける作業を進めてきました。竹中氏はこうした機能分類を軸に議論を進めることを、日経に示唆したものです。4機能について産経新聞は社説で、「決め手になるのがリスクと公益性だ。原発建設のように公益性は高いが、計画策定から完成、稼働まで長期にわたり、しかも、リスクを伴う事業への融資を民間に任せるのは難しい。政情不安定な国でのプロジェクト、領土問題がからむ東シナ海の石油ガス田試掘なども同様である。逆に、中小企業向け融資やベンチャー育成などが政府系金融機関の領分かは、厳しく問うべきだろう」と指摘しました。首相は6日、「1つに出来るなら1つがいい」と記者団に語り、さらに1歩進んだ大胆な統廃合を実現させようとしています。

  不良債権処理で3年凍結

 政府系金融機関の改革は、07年度から独立行政法人に移行する住宅金融公庫を除く次の8機関(カッコ内はトップの主な経歴と職員数)が対象です。国際協力銀行(旧大蔵事務次官=872)、日本政策投資銀行(旧大蔵事務次官=1357)、国民生活金融公庫(旧大蔵事務次官=4759)、商工組合中央金庫(旧通産省産業政策局長=4480)、中小企業金融公庫(野村総研社長=2109)、農林漁業金融公庫(農水事務次官=929)、公営企業金融公庫(みずほフィナンシャルグループ副社長=81)、沖縄振興開発金融公庫(同公庫副理事長=224)の8機関ですが、99年(平成11年)の政府系金融機関改革の際は、中央省庁の縄張り争いや族議員の思惑に翻弄されて頓挫しました。02年(同4年)に経済財政諮問会議で議論が再開されましたが、金融システム不安が高まり、民間銀行の不良債権処理を優先するため議論を凍結、3年間先送りされてきました。

  政策的役割洗い直す

 同会議が02年に打ち出した基本方針は@公益性が高く、貸し倒れなどのリスク評価が難しい分野以外は撤退か民営化A貸出残高がGDPに占める割合を将来半減B07年度末に現行の特殊法人形態を廃止し、後継組織は大胆に統合集約――などが柱で、今回もこの方針を踏襲していますが、「統廃合の前にやはり機能論だ」(谷垣禎一財務相)として、まず組織再編より各機関の政策的役割を洗い直そうとしています。これに対し、日本商工会議所などは、バブル崩壊後に民間金融が中小企業に対する貸し渋りや貸しはがしを行ったり、ベンチャー向け融資へ及び腰の姿勢を取り続けていることから、国民生活、中小企業、商工組合の3金融機関を積極活用すべきだとし、統廃合には否定的な見解を示しています。
財務・外務両省は国際協力銀行が政府の途上国援助(ODA)を扱う特殊性から重要と主張、総務・財務両省所管の公営企業金融公庫も地方公共団体に融資する自治体の共同資金調達機関であるとして役割を重視するなど、所管官庁は統廃合、民営化に反対しています。

  官の既得権益崩せるか

 しかし朝日新聞によると、中小金融公庫は、都道府県の信用保証の再保険事業が、保障付き融資の焦げ付きを背景に巨額の赤字を抱え、04年度には政府から370億円の補給金を受けたり、国民金融公庫も不良債権比率が8・9%と高止まりであるなど問題が多いとし、「中小企業向け無担保融資は今、メガバンクや地方銀行にとって業務拡大の主戦場だけに、中小向け公的金融のスリム化には絶好の機会だ」と指摘しています。確かに中小企業向けや農業分野向け融資は、地銀など民間金融が行うのが筋だし、ベンチャー企業育成も銀行に代わる投資ファンドが成長しつつあることから、政府は民間の運用に委ねるべきだと主張、肥大化した複数の機関が類似業務を行う必要はないとの判断です。機能面よりも大きな問題が官僚の天下り。財務、農水、経産、総務、外務など所管官庁は上記の通り大半の金融機関に天下りポストを保有して手放そうとしません。10月1日に民営化した道路公団は、橋梁談合などあれだけ物議を醸しておきながら、分割後の新会社には国交省から天下った公団幹部がなおも居座り続けています。これまで温存されてきた天下りなど官僚の既得権益にどう切り込むか。自民党内の抵抗勢力を一掃し、族議員を弱体化させた首相ですが、果たして蛮勇を発揮できるか。官僚の壁を突き崩すのは容易でなさそうです。