北村からのメッセージ

  第111回(6月1日)またサプライズ人事 郵政後半戦突入
 

 郵政国会は5月20日、衆院に郵政民営化関連法案を審議する特別委員会が設置されたことで後半戦に突入しました。同法案に反対する民主、社民両党は委員会設置の本会議を欠席、その後も衆参両院の全委員会で審議拒否を続けましたが、与党は単独で26日から審議入りしました。首相は17日、総務省の幹部2人を郵政担当ポストから更迭し、衆院特別委の委員長には大方の予想に反して二階俊博氏、筆頭理事に盟友の山崎拓氏を起用するなど、またも小泉流サプライズ人事を敢行しました。これが野党ばかりでなく与党の反対派からファッショ人事と批判され、法案審議でも反発を買う要因になっています。反対派は@持ち株会社と金融2社の株式持ち合いA「地域・社会貢献基金」の規模を2兆円に増額――などを明確に法案修正するよう求めていますが、首相は「今の案がベスト」と強気で修正には難色を示しています。このため、党内で修正問題にどう決着をつけ、19日に会期が切れる国会をどの程度大幅延長出来るかが、与野党攻防の焦点になってきました。

 衝撃の降格人事

 「過去の経緯とか意見が、政府案と若干違うところがあったから、代えた方がいいんじゃないか。ご本人も納得している。麻生太郎総務相と相談して、新体制で審議に臨んだ方がやり安いんじゃないかなと決めた」――。首相は更迭人事を発表した後、記者団に平然と語りました。郵政担当の松井浩総務審議官を、国際担当の高原耕三総務審議官と交代させ、清水英雄郵政行政局長を情報通信担当の鈴木康雄政策統括官と入れ替える人事で、年次から見れば、松井、清水両氏とも明らかに降格人事。総務省ナンバー2の松井氏は温厚な性格で人望も厚く、自治、郵政、総務の旧省庁出身者が交代で次官に就任する「たすき掛け」人事の次期次官候補であっただけに、旧郵政幹部たちの受けた衝撃は大きいようです。橋本政権当時に行革の一環で、正副官房長官による「閣議人事検討会議」が設置され、各省庁の局長級以上や大使、特殊法人の総裁などの人事を事前に審査し首相官邸が各省庁ににらみを利かす制度が出来ました。だが、同会議で省庁提案の人事を拒否するならともかく、今回のように会議以前に首相の意向が省庁側に伝えられたのは初めてのケースです。

 権力乱用の人事

 この人事内定が伝わった13日の郵政事業懇話会(会長=綿貫民輔前衆院議長)拡大役員会では、反対派封じ込めの「見せしめ人事」を断行したとして、「役人の首を差し替えてまで強引にやろうとするのか」(野呂田芳成元農相)、「不当極まりない。政府は堂々と粛正をかけている」(荒井広幸参院議員)、「過去に例のない異常なこと。権力の乱用だ」(山口俊一衆院議員)、「人事検討会議は承認のハンコを押すだけのもの。事前にくちばしを入れるべきではない」(左藤章衆院議員)などと、異例の「政治介入」に批判が相次ぎました。亀井静香元政調会長は「全特(全国特定郵便局長会)は各支部で緊急集会を開き、出席する全代議士の背中に賛否のレッテルを張らせ、本会議で法案に賛成票を投じた者は総選挙で落とすようにしなければだめだ。代議士会はもっと時間をかけ、マスコミ注視の中で、党議拘束問題などで執行部を吊るし上げるべきだ」などと過激な発言で檄を飛ばしました。

 東西2万人の決起集会

 関連法案の審議入りを前に、日本郵政公社労組(JPU)、全日本郵政労組(全郵政)の2労組と全特、郵便局ファンの会は15日に東京で1万人を集め、「STOP!郵政民営化 怒りの反対集会」を開催。22日には大阪で全特が同じく1万人を集め、「理念なき郵政民営化断固反対・総決起大会」と位置づけて総会を開き、労組との連帯で最後まで戦い抜くことを確認しました。大阪の全特総会には郵政事業懇話会のメンバーも多数参加し、綿貫会長が「国の文化形成に大きな役割を果たしてきた郵便局を効率や利益の物差しだけで方向付けることは断じて許されない」と反対を表明。政府代表の麻生総務相が「公社の力があるうちに将来に備えるべきだ」と法案に理解を求めたのに対し、野中広務元幹事長は更迭人事について「なぜ体を張って反対しなかったのか。『解任するなら、俺の首をとれ。俺が辞める』というのが、将来の日本のリーダーたるべき人だ」と同相を批判しました。

 徹底抗戦諦める

 こうした中で、民営化関連法案の廃案を目指す民主、社民両党は「民営化は行わないと規定した中央省庁等改革基本法違反だ。修正含みで妥協した政府・与党合意の法案には瑕疵がある」として、法案を修正して再提出するよう繰り返し要求。特別委設置と法案趣旨説明の2つの本会議を欠席し、審議拒否を続けました。これに対し、中川国対委員長は「野党は対案を示さず、特別委の設置にも、会期延長にも反対している。それで濃密な審議をしろというのは論理矛盾だ。『抵抗野党』に逆戻りなら、民意に淘汰される」と非難。マスコミも「民主党が『政権準備党』というなら、対案を示し徹底審議をすべきだ」と批判しています。やむなく野党も、徹底抗戦を諦め、近々審議に応じる構えです。郵政民営化特別委員会は、社民党にも委員枠を与えるため、当初の40人から45人に増やし、二階委員長(元運輸相)を補佐する自民党理事には、首相補佐官を辞めて筆頭理事に専念する山崎元副総裁・幹事長のほか、反対陣営の中でも穏健派の石破茂前防衛庁長官(旧橋本派)、柳沢伯夫元金融相(掘内派)、松岡利勝元農水副大臣(亀井派)が起用されました。

 造反者は公認せず?

 「一任させてくれるか」――。首相は19日夕、首相官邸に武部勤幹事長、中川秀直国対委員長を呼び出し、こう了解を取り付けると、二階氏の委員長指名を告げたといいます。二階氏は旧竹下派出身で、かつては民主党の小沢一郎副代表の側近ナンバーワン。自由党の国対委員長時代は当時の古賀誠自民、草川昭三公明の両国対委員長と「自自公」連立政権の維持に尽力、流行歌の「ダンゴ3兄弟」と揶揄されたほど。連立政権を巡って小沢氏と対立した後は扇千景参院議長らと共に小沢自由党を離脱して保守新党を結成。今度は幹事長として山崎拓自民、冬柴鉄三公明の両氏とともに「サンカン(3幹)」と呼ばれ、息の合ったところを見せました。自民復党後は選挙対策を仕切る総務局長を務めています。首相は「党や国会の運営で苦労しているし、腹が据わっている人だから成立に全力を挙げてくれる」と期待をかけていますが、反対派や野党にもパイプが通じている点を高く評価しているようです。法案が否決され、解散・総選挙となった場合は、二階総務局長が「造反者は公認せず」と強権発動ができるわけで、人事には脅しの意味合いが含まれています。

 胸突き八丁の政局

 与党の反対派も取り込んだ特別委ですが、首相は最終局面では委員の首をすげ替えてでも会期内に衆院を通過させ、大幅延長後に参院で十分審議して成立を図ろうとしています。しかし、5月連休明けの党総務会では、「法案には党議拘束がかかっている」と認識する執行部に対し、亀井氏や高村正彦元外相、保利耕輔元文相、野田毅元自治相ら反対派から異論が続出。久間章会長が「党議拘束をかける、かけないは、前回の総務会で諮っていないが、国会で実質的な修正をすれば、また総務会にかける」と説明、拘束は曖昧さを残したままとなっています。本来「党議拘束」に背く造反行為は処分対象になりますが、亀井氏らは「武部幹事長だって”加藤の乱”の時は本会議を欠席している。処罰はできない」と述べ、廃案に追い込む姿勢を強めています。中堅、若手議員は解散・総選挙となる事態を警戒していますが、反対派と野党が水面下で連携工作を進めることも予想されます。政局夏の陣ですが、首相のみならず、自民党全体が胸突き八丁の厳しい局面に遭遇しています。