北村からのメッセージ

 第106回(3月16日) 郵政民営化は山場 杜撰な政府試算

 郵政民営化を巡る政府・自民党の協議は3月下旬に最大のヤマ場を迎えます。当初は15日までに予定していた関連法案の提出が大幅に遅れたため、小泉首相は7日の党役員会で、「会期内成立を目指し3月内に政府・与党の調整を終えるよう」ハッパをかけました。
政府側は既に妥協のカードを出し切っており、これ以上譲歩は出来ないとの態度です。党執行部は大幅な会期延長を視野に、3月中の調整決着、4月中旬の法案提出、5月連休後の本格審議というスケジュールで、調整を加速させています。武部勤幹事長は、「民営化が実現しない場合は内閣総辞職だ」と危機感を訴え、中川秀直国対委員長は、逆に法案成立後の内閣改造に言及、論功行賞人事を匂わせるなど、硬軟自在の反対派分断策に出て首相を擁護しています。これに対し、反対派の多い参院側は政府案に全く冷ややか。とくに郵政事業懇話会の綿貫民輔会長(前衆院議長)を総帥とする党内反主流派は、会合を重ねる度に結束を固め、かつて三木武夫政権を倒閣に追い込んだ、挙党協的色彩を強めています。

 “妥協の限界”に反対派不満

 前号のホームページで詳報した通り、政府は1月下旬からほぼ10回に上る自民党との協議で、党側が重視した@郵便局設置基準A金融のユニバーサル(全国均一)サービスB社員の身分C第3,第4種郵便物の扱い――などに、多くの妥協案を提示してきました。例えば「過疎地の郵便局網を維持する規定を省令で設ける」「貯金と簡保のユニバーサルサービスなどを、地域の要請があれば継続するための基金を創設する」――などです。これらの政府の提案は、小泉首相が「国の関与を出来るだけ控え、民間企業と同一の条件で自由な経営を可能にする」と唱えてきた基本理念に反するものであり、赤字を穴埋めする基金も、安易な活用で郵貯銀行などを支援すれば、他の民間金融機関との競争条件がゆがめられるとの指摘があり、政府内では「これ以上党の要求に応じて妥協を重ねれば、民営化の意義自体が損なわれる」と“限界”の声が上がっています。しかし、政府がいくら妥協案を示しても、党内の反対論は沈静化されず、むしろ多くの疑問点が噴き上がっています。

 試算は砂上の楼閣と反発

 3月3日の郵政民営化検討委員会では、政府側が民営化10年後の新たな試算を示したのに対し、党側は「試算は現実的でない」「砂上の楼閣だ」と反発しました。政府はその前の1月24日の協議で、2016年までの移行期間中に「新規事業による6千億円の利益」を見込んで、年間1兆円の利益が出るとの試算を提示。党側から「楽観的過ぎる」と突っぱねられました。このため3日は、民営化後、新たに手がける事業の達成度によって3つのパターンに分類して試算を再提出したわけです。新試算は民営化10年後の2017年以降、窓口、郵便、貯金、保険の4社を合わせた税引き前利益は、年間3300億〜9300億円になるという内容です。試算の内訳は、2017年度からの5年間について、新規事業への進出度合いごとに利益予想を出しており、新規事業を一切手がけない達成率0%の場合、4社合計の利益は3300億円、達成率50%は6300億円、10割達成の100%なら9300億円と予測しました。この試案に対しても党側から「国際物流で利益が上がるわけがない」「数字の是非を議論するレベルにない」など不満が続出しました。

 融資は夢物語と疑問視

 積算根拠に国際物流の経常利益を200億円も見込んでいることについて、総務省や党は「日通の連結決算を見ても、米州18億円、欧州13億円、アジア・オセアニア18億円の経常利益でしかないのにそんな高収益が望めるのか」と疑問を呈し、郵貯残高25%の35兆円を融資する点についても、@第2地銀の融資残高は約40兆円もあり、郵貯が今から準備を始めても2016年に融資残高35兆円にするのは難しいA郵貯残高減の中、残高の4分の1も貸付に回すと、国債売却は必至で国債市場に大影響を与えるB融資のようなリスキーなサービスを他人の窓口会社に委託することは考えにくい――などの理由から「融資の経験が乏しく、自社窓口を持たない郵貯銀行が35兆円もの融資を行うのは夢物語」と疑問視しています。さらに保険では、新規保険の3割を第3分野に設定、約230万加入を見込んでいますが、平成15年度の第3分野の新規契約は約390万件で230万件はその6割に相当します。シェアトップのアメリカンファミリーですら約141万件、2位のアリコジャパンは約62万件であることを見れば230万件はトップ2社の合計を上回ります。党側の「計算方法がおおざっぱ。現実的でない」との批判は当然です。

 公社のまま改革と片山氏

 そのほか、「東京、大阪の両中央郵便局を高層ビルに建て替え、オフイス用に賃貸する」はまだしも、説明では、@郵便集配を集約してできる1300普通郵便局のほぼ全局のスペースを24時間営業のコンビニ化し、1店舗当たりの販売額を民間業者並みとするA窓口会社の株式仲介は、商券会社準大手並みに手数料0・4%とする――など超楽観的なシナリオを描いています。こうした点を踏まえ、前総務相で郵政公社化を担当した片山虎之助参院幹事長は、参院予算委で「新規事業展開で6千億円の増益効果があるというが、郵政公社の今の仕組みや役割を変えれば相当できる。4分社化というがコングロマリット(複合企業)化は世界の趨勢。ドイツではバラバラにしてずたずたになった。急がば回れでじっくり議論すべきだ」と公社のままでの改革を強く主張しました。これに対し、竹中平蔵民営化担当相は「新規事業は民間企業の自由な経営だからできる。これだけ大きな事業会社と金融機関が同じ屋根の下にある例はない」と反論、議論はかみ合いませんでした。

 会期内成立を首相指示

 ドイツの郵政民営化を手本とし、マッキンゼー会社顧問など経済人や学者の側近をブレーンに法制化を進める竹中担当相と、地域住民サイドに立って、よりよい改革案を煮詰めようとする党側との間には、埋めがたい深い溝が横たわっています。首相も片山氏の「急がば回れ」発言にいったんは同調していますが、調整の膠着状態が続き、法案提出の日程が4月以降にずれ込めば反対派が勢いづくばかり。与謝野馨政調会長は手詰まり打開に「いつ頃までに仕事を仕上げろと言われれば精も出る」と期限明示を首相に催促しました。これを受けて首相は、7日の党役員会で「会期内に成立させたいので、政府・与党でできるだけ早く調整して欲しい」と指示しました。しかし、青木幹雄参院議員会長は「自民党参院議員の半数以上が反対だ。自公両党の合計は過半数を17議席上回るだけ。法案が通らないと何にもならない。参院の現状に十分配慮して欲しい」と慎重な調整を求めました。

 綿貫氏の熱い闘い紹介

 首相はその翌日、記者団の質問に答え、「会期内に成立しなければ廃案だ」と成立に向け不退転の決意を表明しました。首相は日頃から、「廃案は内閣不信任で倒閣運動」と受け止めており、「廃案イコール国会解散・総選挙」で、国民の審判を仰ぐ決意を固めているようです。これをブラフ(脅し)と受け取るかどうか国会議員の反応はまちまちですが、一様に緊張していることに間違いありません。毎日新聞の「近聞遠見」で岩見隆夫記者は「30年前、三木武夫首相の退陣を求め、自民党の反主流勢力が挙党体制確立協議会に結集して大活劇を演じた、あのシーンを思い起こす。1月8日の当コラムでは、<切り札になった保利(茂元幹事長・衆院議長)のような練達の舞台回し役が見あたらない>と書いたが、保利と綿貫(民輔前衆院議長)が次第に二重写しになってきた」と書いています。岩見記者は、「月刊日本」3月号で、綿貫氏が「あたかも首相公選で選ばれた大統領かのように首相は大きな勘違いをしている」「内閣あって国会・政党なしだ。竹中担当相は副総理になったつもりで官邸を取り仕切っている」などと首相をこき下ろしたことを取り上げ、「国家100年の大計からいっても、小泉君に譲るわけにはいかない」と力む老政治家・綿貫氏の政治人生を懸けた熱い闘いを紹介しました。

 チキンレースは解散・総選挙

 私も故・白浜仁吉先生の秘書当時、激しかった挙党協騒動を実感しています。岩見記者は、3月23日の綿貫氏主宰の「勉強会」に60人も議員が集まり、さらに増えそうな雲行きであること。綿貫氏の憤懣は郵政民営化の中身と同時に、小泉政治の“独裁者の手法”に向けられていることなどを「二重写し」の理由に挙げています。同15日の勉強会には最多の74人が集まり気勢を上げました。参院の17議席差どころか、74議員が造反を起こせば関連法案は通りません。政府と党が突っ張るチキンレースが極限に達すれば、不測の事態が起きないとも限りません。高村正彦元外相は「本当に勢いで解散・総選挙にでもなれば、郵政民営化を成し遂げた首相としてではなく、公約通り自民党をぶっつぶした首相として歴史に記録されるのではないか」と皮肉を交え、高村派の総会で語っています。岩見記者は、司会を務めるテレビの時事放談で、綿貫議長と3年3ヶ月もコンビを組んだ渡部恒三前衆院副議長が「西郷隆盛みたいな。名も、ポストも、お金もいらない綿貫郵政事業懇話会会長の怒りが、一段と募っているのを、小泉君は甘く見ているのではないか」と述べたことも紹介しています。中西一善議員の破廉恥事件も起こり、首相が慢心していると民心は離れ4月24日に行われる宮城2区、福岡2区の衆院統一補選も苦戦を免れないでしょう。こうした政局のヤマ場を迎えていますが、私は地域密着、国民期待の郵政改革が実現できるよう、一層がんばろうと思っています。