北村の政治活動

 第99回(4月1日) 解決持ち越す米牛肉輸入 苛立つ米が対日制裁

 日米間の経済摩擦に発展しつつある米国産牛肉の輸入再開問題は、ライス米国務長官の来日でも意見がかみ合わず、決着は早くても夏以降に持ち越すことになった。内閣府の食品安全委員会が全頭検査の見直しに慎重であり、日本政府が安易に妥協すれば、「消費者・国民の安全よりも対米配慮を優先させた」との批判を招きかねないからだ。しかし、ブッシュ米大統領は、先の大統領選で「小泉首相が米牛肉の輸入再開に最大限努力すると約束した」ことを宣伝して再選を果たした。このため、生産業者や議会から「公約を果たせ」と迫られている。とくに大統領は2期目の政策目標に、70年ぶりの公的年金改革を掲げており、強い政治力を持つ食肉業界が「公約違反」と反旗を翻せば、目標達成は危うくなる。そこで米議会の要請を受け、対日制裁を視野に日本政府へ強い圧力をかけているわけだ。一方、基準緩和に向けた食品安全委の審議は長期化したものの、米側は日本側が容認できる妥協案を示し、既に輸入再開の展望が開けている。これ以上米国の苛立ちが高まれば1980年代の経済摩擦の再現となりかねない。私は農水関係議員の1人として重大な関心を持っているが、良好な日米同盟関係を維持するためにも早期解決に努力したい。

 全頭検査は“世界の非常識”

 昨年までの大ざっぱな経過を振り返ると、米牛肉の輸入が停止されたのは、米国でBSE(牛海綿状脳症)の発生が確認された2003年12月24日。米国が、日本並みの全頭検査を実施していないことが停止の理由だ。これには当然、米食肉業界が反発した。日本国内で初のBSEを確認したのは2001年9月。同年10月にはすかさず全頭検査を導入した。食品安全委員会が全頭検査という厳しい措置を選択したのは、パニック的な風評被害による牛肉離れを阻止するための緊急措置だった。しかし、島村宣伸農水相が衆院予算委で「全頭検査は世界の非常識」と思わず本音をもらし、野党の辞任要求から慌てて、後に発言を取り消したように、全頭検査の実施は世界で日本だけ。欧州では大半の国が、月齢30ヶ月以上の牛だけを対象としている。それより若い牛では、BSEの原因となる異常プリオンの蓄積が不十分で、検出が困難だからだ。BSE感染を防ぐ最も有効な手段は、脳や脊髄などの危険部位を徹底的に除去することが“世界の常識”である。

 月齢20カ月以下は判定困難

 昨春以降、日本でも全頭検査の見直し論が出てきて、安全委は昨年9月、月齢20ヶ月以下の牛に対し「BSE感染の有無を判定するのは困難」との報告書を自主的にまとめ、全頭検査見直しを容認する姿勢を示した。これを受けて、米大統領選たけなわの同月21日の日米首脳会談で「早期に輸入再開」することで一致。同年10月23日の日米局長級協議では、生後20ヶ月以下の月齢を照明できる牛に限り、輸入再開で基本合意した。この後、日米両政府は1月19日、専門家、実務者協議を開いた結果、米側は、焦点とされる牛の月齢判別方法について新たな妥協案を提示、同案に沿って日米協議が決着する可能性が高まってきた。米国は「肉質と月齢には相関関係がある」とし、月齢ではなく肉質や骨の成熟度による判別を求めてきていたが、実務者協議では、判断基準を大幅に厳しく運用し、「肉質で生後17ヶ月以下と見なされる牛」を輸入対象とする妥協案を提示した。

 米が生後17カ月の妥協案

 米国が提示した3300頭のサンプルデータでは、成熟度を全16段階に分けた中で、3番目に若い生後17〜12カ月の「A40」という格付けで線引きすれば、生後21カ月以上の牛が混入する確率はほとんど排除でき、日本が輸入の条件とした「生後20カ月の月齢以下」をクリア出来ることになる。米国は昨年12月の協議で、米牛3500万頭の8割程度を占めるA60による線引きを求めていたが、A40以下は、米産食肉の2、3割に過ぎず、大量輸出には到底結びつかない。米国にしてみれば、輸出再開の突破口を切り開くための譲歩であったわけだ。これを受けて、農水、厚労両省は2月8日、「牛の月齢判定に関する検討会」を開いた結果、データ分布の正確性に疑問はあるが、専門家も「肉質と月齢には相関関係がある」ことを認め「肉質で、生後21カ月以上の牛を排除することは可能だ」(沖谷明紘座長)とし、「追加的な検証または(輸入再開後の)フォローアップが必要」との留保条件を付け、米国提案の肉質などによる牛の月齢判別方法を容認した。

 意見交換会はいつも激論

 しかし、牛の月齢判別方法が固まっても、食品安全委員会が全頭検査の緩和を容認しなければ輸入再開は出来ない。同委は昨秋の日米局長級協議に基づき、農水省や厚生労働省から正式な検査緩和の諮問を受けたが、同委の開催間隔が4週間に1度で集中審議が出来ないうえ専門家グループが慎重審議を重ねるため、本格的な論議を始めて半年経過しても最終的な結論には至らなかった。おまけに安全委主宰の意見交換会「食品に関するリスクコミュニケーション」ではいつも激論が交わされている。安全委の発足以来、「食」の信頼を回復するため、消費者、生産者、研究者など多様な人たちが参加して全国で120回以上も意見交換会は開催されてきたが、消費者の食の安全に対する警戒心は強く、絶えず真剣な討議が行われ、賛否両論が渦を巻いた。これも同委の意見調整が難航した原因だ。

 ヤコブ病死者確認で慎重

 さらに、日本人初の変異型クロイツフェルト・ヤコブ病の患者が昨年末に死亡していたことが2月に確認された。変異型ヤコブ病はBSEにかかった牛を食べた人が発症する。この患者は1990年前半に英国に24日間滞在、ハンバーガーなどを食べたことが感染の原因とみられている。英国では89〜91年に毎年7千〜2万5千頭のBSE牛が出た。英国政府は89年、変異型の病原体・異常プリオンがたまる脳や脊髄など特定危険部位の食用販売を禁止したが、異常プリオンの混入が懸念される頭の肉と背骨を砕いて作るひき肉は、96年まで制限していなかった。日本は2001年10月以降、全ての食用牛から特定危険部位を除去している。だが、牛の解体処理の際、砕けた脳や脊髄の組織が枝肉に飛び散り汚染する危険性が指摘されている。こうしたことから安全委は慎重姿勢に転じた。

 上下両院で対日制裁決議案

 米牛肉輸入停止の長期化に苛立つ米国では、「日本の輸入再開が遅れれば、米政府に対日経済制裁を求める」との決議案が上下両院で出そろうなど、議会や生産者団体からは対日制裁の圧力が日増しに強まっている。米政府が3月1日に発表した05年版通商年次報告では、日本の輸入再開に向け「米国は全ての適切な措置を執る」との強い決意が示されている。「米国の一方的な譲歩は限界」と考えるマイク・ジョハンズ農務長官は、2月23日に加藤良三駐米大使を呼び、畜産業の盛んなコロラド州選出の上院議員ら超党派議員20人が署名した書簡を手渡した。書簡は「米議会は日本に対し(米国が受けた損害と)同等の経済的な報復措置を検討する可能性がある」との経済制裁の“脅し文”的内容だった。ブッシュ政権に強い影響力を持つ全米肉牛生産者協会(NCBA)も下院公聴会で、「必要なら制裁を求める」と言明し、議会とスクラムを組んで対日要求を強めてきた。小泉首相は昨秋「最大限の努力」を約束し、これをブッシュ大統領は大統領選で大いに宣伝したが、首相が未だに公約を果たさないのは背信行為と映る。大統領はNCBAへの借りを返すためにも動かざるを得ない立場だ。

 「解決の時」とライス長官
「(食肉の安全には)世界共通の科学的基準がある。米国産牛肉は安全だと保証する。この問題を解決すべき時がきた」――。3月19日に来日したライス米国務長官は、上智大での講演でこう第一声を放った。ライス長官はブッシュ大統領の名代として米肉輸入の直談判に乗り込んだものだが、小泉首相、町村信孝外相との相次ぐ会談でも、米牛肉の安全性を訴え、輸入の早期再開に向けて日本側の政治決断を求めた。ライス長官は「1980年代に、日本市場には不公正な慣行があるとの議論があったが、今日になって対日制裁を論じる人々が出て、日米関係に悪影響をもたらしつつある」と指摘、日本側が畜産業者保護のため、意図的に輸入再開を遅らせているとの懸念を表明した。これに対し首相は、先にブッシュ大統領に電話で「輸入再開の期日はいえないが、食の安全の視点からしっかりと国内手続きを踏み、基準に基づき進めていく問題だ」と説明したことを繰り返し伝え、「日米関係を害しないよう適切に対応したい」と強調、理解を求めた。

 食品安全委ようやく了承

 日本側はライス長官に、食品安全委が科学的な知見に基づき、客観的、中立の立場で食の安全を判断する組織であると説明。「必要な手続きを踏む」ことで了承を求めたわけだ。幸い同委のプリオン専門調査会は、ようやく3月28日、「国産牛の全頭検査を見直し、検査対象から生後20カ月以下の牛を除外する」ことを了承、同委に報告書を提出した。食品安全委は一般からの意見募集を経て、4月下旬にも厚労、農水両省に答申するが、全頭検査が緩和されても、米国産牛肉の安全性について、特定危険部位の除去方法などを改めて同委に諮問し、答申を得る手続きが必要となる。政府は5月にも再諮問するが、肉質で牛の月齢をどう正確に判定するかや、感染源となる肉骨粉の混入防止策など懸案の事項を除外して諮問項目を絞り込んだり、審議の間隔を狭め審議期間の圧縮を図る方針だ。このように努力するが、政府がいかに努力しても輸入再開は今夏以降になる見通しである。

 トゲは抜かぬと膿が出る

 NBCAの幹部は、日本市場を豪州産肉に奪われることに、危機感を強めている。苛立つ米国が悠長な日本の輸入再開手続きを見守る可能性は低く、対日圧力を日増しに強めてきそうだ。既に米国はBSEの国際的な安全基準を決める国際獣疫事務局(OIE)の5月末総会で、米国をほぼ全てのBSE輸入規制の対象外とする「暫定清浄国」とするよう求める方針を表明している。OIEは対象月齢を30カ月以上としており、欧州では大半がこの基準に基づいて検査している。首相は「(ライス長官は)ビーフの問題だけで来たわけではない。名前がライスだから」と記者団を意味不明のジョークで煙に巻いたが、同盟関係を機軸とする良好な日米関係を維持していくには、深く突き刺さってトゲを早急に抜かなければ思わぬところに膿が出る。農水省には輸入再開を求める120万人の署名簿も届いたというが、私は党農林部会で大いに是非を論じ、早期決着を図りたいと考えている。