北村の政治活動

 第96回(2月16日) 再開のWTO新ラウンド 5分野で開放加速

 冬眠状態にあった世界貿易機関(WTO)の新多角的貿易交渉(新ラウンド)が、ようやくうごめきだした。交渉は昨年夏以来、事実上、中断していたが、日米欧やインドなど主要23カ国・地域が1月29日、スイスの保養地・ダボスで非公式閣僚会合を開き、2006年中に最終決着させることで一致した。決着には、148の全加盟国・地域が参加して12月に開く香港閣僚会議で各分野の細目にわたり基本合意に達する必要があるとし、今夏までに原案をまとめることを確認した。新ラウンドの交渉は、農産物や鉱工業製品、サービスなど幅広い世界貿易の自由化促進に向けた新たな環境作りを目指し、2001年に始まった。だが、農産物の関税率引き下げや輸出促進の国内助成撤廃・削減などを巡って先進国と開発途上国、農産物輸入国と輸出国が激しく対立、暗礁に乗り上げていた。私は衆院農水委理事を勤めた関係から、こうした事態を憂慮していたが、本番の新ラウンド交渉が再開の軌道に乗った以上、農産物交渉の道筋をとりつけるため、防衛庁の公務の傍ら農林水産、経済産業両省を督励し、積極的な役割を果たしていきたいと考えている。

 7月末までに基本合意案

 WTOの非公式閣僚会合は、昨年8月の枠組み合意後初の閣僚会合で、ダボス会議(世界経済フォーラム年次総会)に合わせて開かれ、中川昭一経済産業相、ゼーリック米通商代表(現国務副長官)、マンデルソン欧州連合(EU)委員(通商担当)ら23カ国・地域の代表が出席した。議長国スイスのダイス経済相が議長総括を発表し、焦点の農業、非農産品の市場開放など5分野で交渉を加速させる方針を強調。新ラウンドの合意期限を06年末とすることで概ね一致した。さらに、会合では12月の香港閣僚会議での合意目標として、@農業・鉱工業品のモダリティー(市場開放の大枠=保護削減の基準)Aサービス分野の活性化B反ダンピング(廉価販売)措置の規制強化や、関税手続きの簡素化(貿易円滑化)といった重要分野での進展C貿易を通じた途上国支援――が挙げられた。この目標達成に向け、3月の非公式閣僚会合(ケニア)、5月の経済協力開発機構(OECD=フランス)閣僚理事会、6月のアジア太平洋経済協力会議(APEC=韓国)貿易相会合、7月の主要国首脳会議(サミット=英国)などを経て、7月末までに交渉の基本合意案(モダリティーのたたき台)をまとめることを確認した。

 年末の香港閣僚会議で合意

 基本合意案には、農産物や工業品の平均関税引き上げ幅など具体的な数字を盛り込むが、今秋から同案の修正交渉を行い、「香港に持ち込む政治的問題は数点に絞り込む」(ダイス議長)方針だ。ダイス議長の総括は、@会議はWTO香港閣僚会議への道を開く目的で、交渉を軌道に乗せる政治的プロセスの出発点Aイ=農業、ロ=非農産品の市場開放、ハ=サービス、ニ=途上国への特別で異なる取り扱い、ホ=貿易円滑化を含むルール、の5分野の問題解決に精力を集中B香港会議では農業と非農産品の両分野での数次を含むモダリティー基本合意など大幅な前進が必要との認識を共有――がポイントで、これらを06年中の最終決着への必要条件としている。これらの確認により、農業に比べ遅れている鉱工業品やサービスなどの分野の交渉が加速されることになった。自由化促進の新たな環境が整えば、WTO全加盟国・地域共通のルールで貿易が円滑に拡大し、世界経済の持続的な発展が可能になる。

 農産物関税下げが最大課題

 新ラウンドは先進国と発展途上国などの対立で難航を重ねた末、昨年夏にルール作りの前提となる枠組みで合意したものの、昨年秋の米大統領選や欧州委員会の委員交代があったため、昨年夏以来中断していた。それが欧州委は新体制でスタートし、米国も第2次ブッシュ政権の通商代表が決まったことで、ようやく交渉活動が再開された。焦点とされるのは、農産物の関税率引き下げが最大課題であるほか、低関税輸入数量枠の数値、例外品目の設定、輸出補助や輸出促進的な国内助成の撤廃・削減の実施方法などの詰めが残されている。新ラウンドの非公式閣僚会合が東京で開かれたのは、丁度2年前の03年2月中旬だ。会議の直前にハービンソン農業交渉委議長の1次案が示されたが、農業分野で大幅な関税引き下げを内容とするものであったため、日本、欧州連合(EU)など輸入側と米、豪など輸出側との意見が対立し決裂した。これにより、同3月末に決着を目指していた農業自由化ルール交渉の大枠(モダリティー)合意は、決着できなかった。

 稲作に大打撃の1次案

 日本、EU側が「安い輸入米が出回り、国内農業が甚大な影響を受ける」、「農産物生産は、食糧安全保障や環境保全などの側面があり、工業品と同列に扱えない」と拒否したからだ。ハービンソン議長の1次案は、農産物関税を高関税のものほど引き上げ幅を大きくし、関税率90%以上のものは、削減率を平均で60%、最低でも45%とする削減案を提示した。我が国の関税品目は、コメ、バター、澱粉、小麦、脱脂粉乳、大麦などの順に穀物・酪農分野の関税が高い。1次案で、コメの現行490%が最低の45%に削減されるとなれば、270%程度への大幅引き下げとなり、国際競争力がない日本の稲作は大打撃を受けることになる。1キロ100円前後の米国や中国産米は、490%の高関税込みの輸入価格で437〜450円だが、270%で試算すると、輸入価格が300円以下に値下がりし、国産米平均卸売価格の1キロ299円とほぼ同水準か、下回る結果になる。

 進展しないFTA交渉

 このため、全国農業協同組合中央会など農業7団体は同年2月、都内で2万5千人規模のデモ行進を行い、自由化阻止を訴えたが、政府もコメの減反政策を08年度に廃止する食糧法改正案の提出準備をしていた折でもあり、東京の閣僚会合では強い姿勢で臨んでいた。EU側は、後に出された修正案に歩み寄ったが、同年9月のメキシコ・カンクンの公式閣僚会議も決裂、「05年1月に合意を目指す」とされた新ラウンド交渉は頓挫した。その後、新ラウンド交渉が冬眠状態に入ったため、その間に2国間の自由貿易協定(FTA)交渉が加速したが、日本は先行する米国や欧州、中南米諸国に後れていた。例えば日韓は、今年1月17,18の両日、鹿児島県指宿市で首脳会談を開いたが、本年中に実質合意を目指すはずのFTA交渉については、一向に進展しなかった。日本政府は今年に入り、韓国の半導体メーカーが補助金を受けて不当な安値販売を続けているとし、関税を上乗せする相殺関税の発動準備に入った。民間でも松下電器産業や富士通が、特許侵害を理由に韓国企業のプラズマディスプレーパネル(PDP)の販売差し止め訴訟を起こしている。

 ASEAN交渉も難航

 これに対し、韓国は1月上旬、日本のノリ輸入割当が協定違反であるとしてWTOに提訴した。韓国テレビの“韓流”ブームで日韓友好ムードが高まっているが、FTAには“寒流”が流れている。このような状況から日韓の政府間交渉は03年12月から始まったものの、現在でも互いに関税の撤廃品目を要求、提示する「リクエスト・オファー」の段階にすら至っていない。水面下の交渉で日本側は農産物に、韓国側は自動車産業などに影響がある工業品中心に、それぞれの関税を撤廃することに難色を示している。日本とのFTA締結で先頭を切ったのはシンガポールだが、メキシコとは豚肉、オレンジの関税で手を焼き、昨年1月から始まったASEAN(東南ア諸国連合)のマレーシア、タイ、フィリピンのFTA交渉では、コメ、鶏肉、タピオカ、砂糖など農産品の他、マッサージ師資格の相互承認、観光面の配慮などヒトやサービスの交流自由化を持ち出され、難航している。

 農産物の輸出拡大を

 苦労してFTAを促進しても、新ラウンドとの整合性を保たなければ、国別、地域別のルールが入り乱れ、協定から外れた国は自由化の恩恵にあずかれない。逆に世界貿易の自由化、円滑化の妨げとなる。我が党の松岡利勝議員は先の衆院予算委で、「日本食が世界に普及し、北京ではササニシキやリンゴが驚くほどの高値で売れている。農産物の輸出を拡大すべきだ」と述べたが、中国などでは資産階級が急激に増えて購買欲が高まっている。日本の農業も国際競争力を高めるため、企業が農業経営に参入するなど、守りから「攻めの農政」(首相の施政方針演説)に転じる時がきたようだ。政府は新ラウンドについて途上国の理解と協力を促そうと、APECとWTOが貿易を円滑に進める円卓会議を共催で開くことを提案、初会議が2月10日、ジュネーブで開かれた。12月の香港閣僚会議までに全分野の細目で基本合意するのは至難としても、貿易立国日本の貿易をさらに拡大するためには、まず農業など核となる部分について、対立を克服していく努力が必要だ。