北村の政治活動

 第94回(1月16日) 観光期待の長崎ルート 在来沿線問題がカギ

 1月21日開幕の通常国会は、定率減税の半減、三位一体の改革、年金改革などを盛り込んだ05年度予算案を巡り与野党が激しい攻防を展開する。予算原案作成のあらましは、これまでのホームページで述べてきたので説明を省くが、政策経費の一般歳出は3年ぶりに前年度当初予算を下回る緊縮予算となった。その中で我々地元代議士が最も苦労したのが整備新幹線の予算獲得だった。長崎ルートは佐賀県側の並行在来線の1部自治体がJRからの経営分離に反対したため、着工時期を明示しないまま合意したが、3区間「同時着工」のお墨付きを得た。歳出削減が小泉内閣の至上命題とされる中で、大規模公共事業である九州新幹線長崎ルートなど3区間の新規着工が認められたのは何故か。これには「この機会を見逃すと10年以上、新線は日の目を見ることはないだろう」と、我々が一丸となって予算獲得に燃えたのに加え、党3役の久間章生総務会長が最終関門に座り、厳しく党の政策をチェックされた功績によるものだ。

 国と地方が2対1で賄う

 「国土の均衡ある発展」をうたった新全国総合開発計画(1969年)を受けて、高速幹線鉄道網を全国に張り巡らす整備新幹線は、高度成長時代の産物で1973年に計画が決まった。2003年の試算では、計画の完成に4兆6千億円の巨額が必要とされた。だが、日本経済は石油危機に続くバブル崩壊で長期低迷に陥り、本格着工は1991年にずれ込んだ。その後は工事の進捗状況を見ながら次の区間に着工する方式に改められ、今回の着工は、東北新幹線(八戸―新青森)などで6年後完成のメドが立ったのを受けて決定された。ただし、昨年暮れの政府・与党申し合わせで、今後の取り扱いは「必要に応じ随時見直す」となったが、@安定的な財源の確保A時間短縮などの投資効果B収支採算性C地元自治体などの同意――が条件とされた。整備新幹線の建設費は、国と地方自治体が2対1の割合で賄い、営業主体のJRは「受益の範囲」で負担することになっている。

 財源集めに智恵絞る

 そこで政府・与党が智恵を集めて解決したのが最大の懸案とされた財源問題。与党・国土交通省が総事業費のうち約3千億円を、JR各社から国庫に毎年入って来る既存新幹線の譲渡収入を担保に、金融機関などから借り入れる。それでも足りない分は国と地方が折半で賄う。政府・与党は1996年に「新幹線建設では利子つきの借り入れはしない」ことを申し合わせている。安易に新線をつくり、赤字を膨らませた旧国鉄の二の舞を避けるためだ。そこで我々3区間の地元代議士は「担保がある」ことを借り入れの理由に挙げた。国は3区間を延伸するための「根元受益」を建設の理由に編み出した。ある区間の開業は、接続する別会社の営業区間(根元)の乗客増をもたらすという発想だ。例えば北海道新幹線(JR北海道)の延伸で、根元の新青森で接続する東北新幹線(JR東日本)の客も増え、年間610億円の利益を生むとして、JR東日本にも延伸費用を負担させようとしているわけだ。これにはJR側が「民間企業の経営判断と相容れない」と猛反発している。

 綱渡り的財源確保策

 こうした中で政府は05年度予算案で、前年度(686億円)より多い700億円超の予算を国費として計上した。国土交通省は、開業後50年間で3区間の地元経済に2兆2230億円の経済波及効果があると試算している。国の負担の内訳は、公共事業費とJRから入る譲渡収入の2本立て。ところが、金融機関からの借り入れるとしても、既に2012年度までの譲渡収入は、着工済み区間の財源に使途が定まっており、新規には回せない。そこで、2013年度以降の収入を先食いする“綱渡り”的な財源確保策であり、これにより2017年度まで、計300億円の金利負担が生じることになる。こうしたやりくりでも不足する約2千億円分は、設計の見直しなどの事業費圧縮で対応する方針だ。

 調整次第で年度内着工も

 このため、「将来の国庫収入を担保に金融機関から借金するのは強引な手法だ」、「国交省が示した地元への経済波及効果も十分な検証は行われていない」などと1部のマスコミが批判している。新幹線ワーキンググループの久間総務会長は「新規3区間の完成年度は、原則として着工から10年がメド」と説明。北海道、北陸の2ルートは「05年度着工」と明記した。佐賀県の1市6町が反対した長崎ルートは、着工や完成時期を明記しなかったものの、地元の調整がつき次第、05年度内でも着工準備を整える。長崎ルートには、新幹線と在来線の双方を走行できるフリーゲージトレイン(軌道間可変電車)を初めて導入することや長崎駅部の調査などが盛り込まれた。並行在来線の在り方は「長崎県の協力を得ながら、佐賀県で検討し速やかに結論を得る」ことになった。そこで、長崎、佐賀両県とJR九州などの代表で構成する協議機関を設置し、並行在来線問題や地域振興策などを検討するが、この問題が早く解決すればこの夏にも着工は可能だ。

 経済波及効果は4千億円超

 政府の試算によると、フリーゲージとレインによる九州新幹線長崎ルートの開業効果は、@博多ー長崎の所要時間が1時間19分で現行特急の最速1時間47分に比べ28分短縮A1日の利用者は6800人(スーパー特急の場合6100人)B開業後30年のJR収支改善効果は年平均75億円(同45億円)C開業後のJR九州の収益や時間短縮で利用者が直接受ける便益は50年間累計で3910億円(同2150億円)D時間短縮に伴う消費活動や企業活動の活性化などの経済波及効果は50年間累計で4300億円(同2760億円)となっている。「3区間同時着工」の決定で、全ての路線は1973年の決定以来、33年目に工事が始まることになる。長崎新幹線の誘致では、1996年に当時の高田勇知事が先頭に立って政府・与党に食い下がり、調査費予算を勝ち取るというヤマ場があった。

 同時着工は10年ぶりのヤマ場

 その意味で今回は、ほぼ10年ぶりに訪れた第2のヤマ場である。だが、着工の前提とされた「並行在来線(肥前山口ー諫早)の経営分離」に反対する佐賀県鹿島市など沿線自治体の1市6町が「JR長崎本線存続期成会」を作り、抵抗を続けている。このため、JR九州は昨年11月、並行在来線の支援策を提示、これを古川康佐賀県知事が「評価する」と発言するなど、事態は好転するかに見えた。長崎市内で佐賀県議らと接触するなど水面下の打診工作を続けてきた金子原二郎長崎県知事も好機到来と捉え、昨年末の県議会一般質問で、建設費の佐賀県分について「要請があれば応分の負担を検討したい」と述べ、長崎県が1部肩代わりをする考えを持つことを初めて公表した。この表明に合わせるように、JR九州が追加の佐賀県支援策を発表した。

 流れ変えた知事の肩代わり案

 長崎新聞によると、「金子知事が表明した肩代わり案は、長崎ルート『着工断念』に傾こうとしていた流れを大きく引き戻した。時間短縮効果が薄いため180億円の建設費負担に難色を示していた佐賀県議会に揺さぶりをかけ、古川佐賀県知事の並行在来線経営分離同意への決断を後押しした」という。同紙はまた、「負担を増やしてまで新幹線は必要なのか。福祉などへのしわ寄せが来ないか。決める前に民意を問うべきだ」など、長崎市民の不安の声も載せている。さらに、並行在来沿線自治体の「JRから経営分離されると、いずれは廃線につながる」との不安に応え、金子知事が「JRが撤退しても列車がなくなることにはならない」と、MR(松浦鉄道)の実績を例に挙げて反論したことも取り上げている。MRは国鉄民営化に伴い地元に譲渡され、1988年に開業した第3セクター。わが選挙区の佐世保市から県北地域を経由して佐賀県有田町まで走っている。

 競合する並行在来線の不安

 だが、MRは始めに黒字経営を続けていたが、2001年度からは連続赤字経営だ。MRは国鉄経営が第3セクターに変わっただけだが、今回は並行在来線が新幹線の長崎ルートと競合関係に入る。そうなるとこれまで沈黙してきた長崎県側の並行在来線沿線自治体からも「地域の足が切り捨てられる」との不安が高まりそうだ。長崎県では市町村合併が進み、昨年の壱岐、対馬の離島地域合併に続き、今年は1月4日に長崎市周辺の香焼、伊王島、高島、野母崎、外海、三和の6町が編入合併し、新「長崎市」が誕生した。4月1日には佐世保と吉井、世知原の1市2町が合併し、新「佐世保市」になる。いずれも観光資源が豊富で、特有の産業、歴史、文化を共有している。3月には佐世保、五島、平戸の3市にまたがる西海国立公園が指定されてから50周年を迎える。また、佐世保市は昨年、環境省のエコツーリズム推進モデル事業築に指定された。

 観光振興の最大武器

 読売新聞は、「整備新幹線には地域開発の要素が濃い。それだけに、活性化策を真剣に模索する地方が寄せる期待は高い。『開業間もない東北、九州は、部分開業でも観光客が大幅に増えており、新幹線信仰に拍車がかかっている』(国交省幹部)との見方がある。実際、国交省は、新規区間の経済波及効果について、北海道は費用の約3・7倍、北陸も約2・3倍とする試算を発表した」と報じた。読売の記事は、長崎ルートが佐賀の沿線自治体問題を抱えることから、意図的に国交省の試算から外したようだが、いうまでもなく、観光振興の最大の武器となるのが新幹線長崎ルートだ。東京五輪の40年前は九州、四国から鉄道で上京するのに丸1日かかった。整備新幹線の3区間が開通すれば、長崎から札幌まで乗り換えなしに、1日もかけずに旅が出来るようになるだろう。着工までにはまだ幾多の障害が控えているが、前述した政府の試算通り、半世紀で4300億円の経済波及効果を生むためにも、私は早期着工を目指し、地元調整に一役買いたいと念じている。