北村の政治活動

 第88回(10月16日) 国民保護法を施行 年内に基本方針策定

 ロシアでは9月1日に凄惨な学校占拠事件が起き、一瞬のうちに3百数十人もの犠牲者を出した。北朝鮮では同23日、弾道ミサイル「ノドン」発射の兆候が判明した。こうした大規模テロや武力攻撃に対処し、日本政府は同月17日、国や自治体の役割を定めた国民保護法を施行した。国と協力して有事での避難・救援に従事する指定公共機関には、JR・民鉄、NHK・民間放送、電気、ガス、電気通信など160事業者を選定した。施行令では、市町村長が避難住民の氏名、生年月日、住所、負傷・疾病の状況などの安否情報を収集し、照会者に提供する手続きを定めている。政府は有事の協力内容などを定める「基本方針の要旨」を年内に公表、本年度中に「基本方針」を策定する。指定公共機関は、有事や大規模テロの際、国民保護のために国や都道府県との協力が義務づけられるが、具体的な対応を盛り込んだ「国民保護業務計画」を2005年度中に策定し、政府に報告することになった。私は衆院武力攻撃事態対処特委理事として、有事法制にタッチしてきた。今度は防衛庁長官政務官に就任し、公務として国民の安全に携わることになったが、「基本方針」策定作業を側面から支援、万全な対策を早急にまとめ上げたいと考えている。

 チエチエン武力テロが多発

 ロシア北オセチア学校占拠事件に先立つ8月24日、ロシアでは旅客機2機が連続墜落し、2機の乗客・乗員計89人が死亡した。2002年10月のモスクワ劇場爆破テロで129人の犠牲者を出して以来、03年5月のチエチエン共和国首都グローズヌイの内務省ビル爆破テロ、04年2月のモスクワ地下鉄の爆弾テロなど15件もの爆破テロが相次ぎ、プーチン政権を激しく揺さぶっている。いずれもチエチエン・イスラム武力勢力による自爆テロが主体だが、その背後には3年前の9・11米同時テロの犯行グループ・アルカイダなど国際テロ組織との連携がある。アルカイダは、日本を名指しして、再三に渡り攻撃を予告している。政府は法務、警察、防衛、外務、国土交通など関係省庁によるテロ対策推進本部を設置し、年内に対策をまとめる方針である。

 島国でも安心は禁物

 それにしても、泥沼化したチエチエン紛争ほど恐ろしいものはない。ロシア北オセチヤ共和国の学校占拠事件は、犯人グループが熱暑の狭い体育館に千人を超す弱い人質を詰め込み、窓を閉め、水も食事も与えず、手洗いにも行かせず監禁した。すし詰めの人質の頭上には爆弾がワイヤーで吊され、いたるところに起爆装置を置き、爆弾を腹に巻いた覆面・黒装束の女兵士が短銃を構えた。テロに抗議した少年は問答無用で射殺され、子供をかばって「自分を撃て」といった老人も即座に射殺されたという。挙げ句の果てに特殊部隊との戦闘の最中、爆薬が炸裂し、テロリストは逃げまどう学童を容赦なく狙撃し、床は3百数十人の新入学児童、母親、教師の血で染まった。新学期の学校を標的に獣にも劣る残虐、野蛮な虐殺を繰り広げたテロリストに、世界は怒り、哀悼の祈りを捧げたが、日本だっていつ国際テロに襲われないとも限らない。隔離された島国だからといって安心は禁物だ。

 テロ・弾道弾対処の国民保護計画

 政府は10月10日、各都道府県が策定する「国民保護事業計画」の内容について、ゲリラによるテロや弾道ミサイルという「新たな脅威」を対処目標とする方針を固めた。それによると、国民保護が必要となる武力攻撃事態を@着陸・上陸の侵攻A空軍による攻撃B46カ国もの多くの国が保有している弾道ミサイルによる攻撃Cゲリラの攻撃――の4類型に分類、このうち国民の不安が高まっているBとCを保護計画の主な対処目標としている。政府は今年度中にモデル計画をまとめ都道府県に示すが、ミサイル攻撃の際の避難手順など一般向けのマニュアルも作成、配布する予定だ。モデル計画などは、自治体首長や有識者らで構成する「地方公共団体の国民保護に関する懇談会」(座長=石原信雄・元内閣官房副長官)で具体的に検討する段取りである。

 米路線旅客機に警官搭乗

 警察庁、海上保安庁などは、船舶密航者に対しては爆薬密輸の水際作戦で監視の目を光らしているが、空からの攻撃には手ぬるい現状だ。そこで、警察庁は日本航空と全日空が運行する米国路線の旅客機に、拳銃を携帯した私服警官を同情させることにした。成田空港と関西国際空港を管轄する千葉県警と大阪府警にテロ対策部隊を新設、両社の米国便に交代で搭乗させる方針。既に両府県警の幹部数人をドイツに派遣、同国の「スカイマーシャル」と称する航空保安官制度を学ばせている。年内にも搭乗を開始する方向で、国土交通省などと協議中だ。これはテロ情報がある場合、民間航空機に乗り込み、ハイジャックなどに対応する保安要員制度。米国が1960年度に導入、英、独、豪、イスラエルなどが搭乗させている。米は同時テロ後大幅に増員しており、6月のシーアイランドサミットで必要性が指摘され、年内に主要8カ国の共通指針にまとめることが決まっている。

 ハイジャック対応訓練も

 同時テロを契機に創設された米国土安全保障省が「米国に乗り入れる航空機に武装要員の搭乗を必要に応じて求める」と表明、日本航空と全日空に要請してきたため、警察庁は国交省と協議を重ね、両府県警に部隊を新設することにした。また、国交省は、「約6割の空港が99年度からの4年間に1度もハイジャック訓練を行っていない」との総務省の勧告を受け、旅客利用されている94ヶ所の国内空港全部で、今年度中にハイジャック対応訓練を実施することを決めた。日本全土を射程に入れた北朝鮮の弾道ミサイルの脅威ばかりでなく、サリン事件のような化学・生物兵器のスーツケース爆弾などが都市や基地、原発などで炸裂する危険は一杯だ。有事法制の整備は一瞬たりとも怠ってはならない。

 民放連は放送規制に反発

 今回の国民保護法の制定・施行に当たって、日本民間放送連盟(民放連)は、国、地方への協力に反対した経緯がある。その民放連傘下のテレビ・ラジオ放送会社のうち、大都市圏の19社が指定公共機関の指定を受けた。5月の衆院有事法制特別委員会では、放送を所管する麻生太郎総務相が「軍の装備や人員、輸送道路などが報道されるということは、敵を利するだけだ。ある程度放送が制限されることは十分あり得る」と言明したのに対し、民主党の細野豪志氏が「敵を利する、というだけの論理では、被害状況の報道でも規制される可能性はある。戦時中の大本営発表と同じだ」と反論する場面があった。これはマスコミの意向を代弁したものだ。

 「報道の自由確保」と首相

 小泉首相は「今の世の中にあって、政府の言うことを聴く報道機関はない。何より政府としては、報道の自由は確保しなければならないと思っている」と述べ、井上喜一前有事法制担当相も「言論の自由を制限することは一切考えていない」と明言した。国民保護法は、指定公共機関が国や都道府県からの「指示」に従わなかった場合の罰則は設けていない。内閣官房も「指定公共機関への指示は強制ではない」と説明してきた。しかし、マスコミや野党は、具体的な協力内容を定める「国民保護計画」や「国民保護業務計画」を策定する過程で、政府が強力な指導力を発揮するのではないかと警戒している。特にテレビ・ラジオの場合、放送で求められた政府公報と、独自取材に基づく報道の兼ね合いが難しい。政府公報と報道の自由との間に曖昧な線引きが残されたままだと、有事の際に混乱を招くことにもなりそうだ。これらの点をしっかり見据えて、対応策を立てたいと思っている。
なお、施行令では、救援に加わる外国人医療関係者について@医療に関する資格を母国で取得後、実際に従事した経験が3年以上あるA支障がない程度の日本語の会話能力があるか、通訳確保が見込める――などの基準を満たせば、厚生労働相が許可することにした。

 政府が政令で定めた指定公共機関160事業者は次の通り。

 【災害研究機関】海上技術安全研、建築研、港湾空港技術研、産業技術総合研、森林総合研、水産総合研、消防研、土木研、農業工学研、放射線医学総合研、日本原子力研、原子力安全基盤機構、情報処理推進機構、情報通信研究機構、核燃料サイクル開発機構など18機関【医療事業者】日本赤十字、国立病院機構【公的施設管理者】水資源機構、首都高速道路公団、日本道路公団、阪神高速道路公団、本四連絡橋公団、関西国際空港、中部国際空港、成田国際空港【電気事業者】沖縄、関西、九州、四国、中国、中部、東京、東北、北陸、北海道の各電力、電源開発、日本原子力発電【ガス事業者】大阪、西部、東京、東邦の各ガス【国内旅客船事業者】オ―シャン東九、名門大洋、商船三井、新日本海、太平洋、ダイヤモンド、阪九、東日本の各フェリー、大島運輸、関西汽船、マリンエキスプレス

 【バス事業者】JRバス関東などJR系8社、小田急バスなど民鉄系17社【航空事業者】日本航空ジャパン、全日本空輸など基幹路線9社【鉄道事業者】JR東日本などJR系7社、京王、京成など民鉄系16社【内航海運業者】井本商運、川崎近海汽船、近海郵船物流、栗林商船、琉球海運【トラック事業者】佐川急便、西濃運輸、日本通運、福山通運、ヤマト運輸【電気通信事業者】NTT東日本、NTTドコモなどNTT系13社、KDDI、日本テレコム、ボーダフォン【放送事業者】日本放送協会、朝日放送、テレビ朝日、テレビ東京、東海テレビ放送、東京放送、富士テレビジョン、毎日放送、関西テレビ、中京テレビ、中部日本、名古屋テレビ、日本テレビ、読売テレビ、大阪放送、日経ラジオ、ニッポン放送、TBSラジオ、東海ラジオ、文化放送【その他】日本銀行、日本郵政公社