北村の政治活動

 第82回(7月16日) 中国ガス油田の波紋 資源で緊迫の東シナ海

 梅雨が明け、海の季節が到来した。その海も東シナ海では、中国が沖縄本島の北西海域でガス油田開発を開始、日本の権益が侵される恐れが出てきた。石油資源の枯渇した中国は「大陸棚の先端、沖縄海溝までが中国の排他的経済水域(EEZ)だ」と新海洋秩序を主張し、着々と海底資源の開発に乗り出している。中国が尖閣諸島を、韓国が竹島の領有権をそれぞれ主張するのも、大陸棚やEEZ(沿岸から2百海里以内)を盾に日本固有の歴史的領土を奪取しようとする姿勢の現れだ。ようやく資源エネルギー庁が地質調査を再開したが、これまで外務、経済産業、国土交通、防衛の各省庁は引っ込み思案で縦割り行政が目立ち、日本政府は対応が鈍いと批判されてきた。対応が遅れるとこれら資源がらみの島嶼が日中、日韓紛争の火種にもなり兼ねない。自民党の外交・安保・農水・離党問題が専門分野である私としては、中国ガス田開発への対抗手段など、日本列島周辺の海洋政策立案にも、政治活動の輪を広げたいと考えている。

 年間25億立方の春暁ガス田

 中国が東シナ海で天然ガス田開発の櫓を組んだのは、日本のEEZ境界線(日中中間線)近くの中国側海域。「春暁ガス田」と呼ぶ。日本が主張する境界線の中国側約5キロ、沖縄本島の北西約4百キロの位置にある。中国は1995年、ガスが豊富に埋蔵されていることを確認。昨年8月には、中国が米・英・オランダの石油開発会社4社と開発契約を締結し、施設建設に着手した。2005年に生産を始め、最大で年間25億立方メートルのガスを中国本土に送る予定。これは百万キロ・ワット級の発電所2・5ヶ所分の燃料に相当する。一方の日本側は、読売新聞によると、1960年代から、石油資源開発、帝国石油や商社系2社が、開発の前提となる鉱業権の取得を政府に申請してきたが、政府は許可せず、基礎的な調査だけで試掘は避ける方針を取ってきた。理由はEEZの境界線確定交渉に影響を与えかねないとする配慮から、中国を刺激しないよう努めてきたからだ。

 試掘データの提供要求

 ガス田は海底地下の一定範囲に広がっているため、EEZの境界付近では、埋蔵分布に応じて関係国に配分されるのが国際的な慣例。従って、中国側が春暁ガス田開発を本格化させたことから、日本は正式に日中間の交渉議題とすることにした。6月9日にマニラで開かれたASEANプラス3(東南ア諸国連合と日・中・韓)のエネルギー閣僚会議に出席した中川昭一経産相は中国側に対し、「春暁ガス田の開発がわが国の権益を侵害していないか、埋蔵分布確認のための試掘データを提供してほしい」と要求した。これは、日本のEEZ内にガス田が広がっていれば、当然日本には埋蔵割合に応じた配分を求める権利があるからだ。しかし、中国側は「申し入れは承った」と答えるだけだった。このため、同月21日に中国の青島で開かれた日中外相会談で、川口順子外相は@中国が設定した鉱区が中間線から日本側にはみ出している疑いがあるA中間線の中国側で井戸が掘られても、地下構造上、日本側の資源が採掘される可能性がある――と懸念を表明し、鉱区設定などに関する詳細なデータ提供を再度求めた。

 日中共同開発を逆提案

 これに対し、李肇星・中国外相はデータ提供には明言を避け、「日本が一方的に主張する日中中間線は認めない」と主張したうえで、「相違を棚上げにして東シナ海天然ガス田の日中共同開発も考えていくべきだ」と再度提案、沖縄県の尖閣諸島については、「中国の固有の領土だ。いずれの国も一方的な行動をとるべきではない」と主張した。もともと日本が唱えるEEZの境界線を中国側は認めていないため、従来から鉱区設定に関するデータの提供を拒み続け、具体性のない「日中共同開発」だけをお題目的に唱えてきているわけだ。共同開発の提案は、従来から、EEZ境界(日中中間線)確定のための日中協議で中国側から提案されており、「日本が主張する中間線と、中国が主張する境界の間の区域で、日中両国が50%ずつ分配する」という内容。日本側は尖閣諸島の主権問題が大いに絡むため、「日本の主張する中間線を認めない提案には応じられない」と拒否してきた。

 日本は「等距離の中間線」主張

 日中間では、1998年に開始した審議官級協議で、日本側から「両国の領土から等距離の中間線」を境界とするよう提案したのに対し、中国側は尖閣諸島より東側の沖縄海溝を「中国の大陸棚の縁」として境界にすべきだと主張、議論は今も平行線をたどっている。中国もその経過を承知のうえ、開発中の春暁ガス田を中間線西側の、係争海域ではなく条約違反とはいえない海域に設定。くさい球を投げる一方で、中国人が尖閣諸島に上陸するのを背後で支援するなど日本側を挑発し続けている。経産省・資源エネルギー庁は「中国側の開発は、日本の潜在的な権利の侵害に繋がる。資源の埋蔵状況などデータが提供されない限り、共同開発の検討はあり得ない」と厳しい態度で臨んでいる。同庁の指導で石油公団が1972年以降、2度の地質調査を実施したが、試掘調査は見送ってきた。

 独自の地質調査開始

 それは外務省が、係争中で境界未確定の海域について、「関係国は最終合意への到達を妨げないためにあらゆる努力を払う」と定めた94年に発効の国連海洋法条約に基づき、試掘など本格的調査に消極姿勢を示してきたからだ。日中中間線の境界策定交渉を最優先にしてきた外務省と、海底資源開発を担当する経産省の連携が希薄で、縦割り行政に陥っていたことが、日本の対応を遅らせた原因だろう。「日本が主張する中間線付近に中国側がどのような施設を作り、船が行き来しているのか確認したい」――。中川経産相は6月23日、航空機で春暁ガス田を視察するとともに、日本政府として試掘の検討に入った。資源エネルギー庁は7月7日、日本が設定したEEZの境界線(日中中間線)の日本側海域(中国ガス田から南西に50キロ、沖縄本島の北西370キロ)で独自の地質調査を開始した。これに対し中国側はすかさず遺憾の意を表明している。

 埋蔵量を三次元物理探査

 地質調査は、10月までの約3ヶ月間に約30億円を掛け、「三次元物理探査船」を使い中間線から東に幅約30キロ、南北2百数十キロの海域が対象。船が海底に発射した音波の反射により、地層構造を立体的に把握し、天然ガスや石油が埋蔵されている可能性を探る。過去2回の地質調査と違って、初めての三次元調査で、より詳細な結果を得る方針だ。読売新聞によると、日本の石油開発業界は当初、「ガス田が地中で繋がっていれば、日本側の水域にある天然ガスなどの資源を中国に取られてしまう」と焦っていたが、政府がようやく“宝の海”の試掘検討に入ったことを歓迎するとともに「国際的に見れば境界線問題を棚上げして資源の共同開発に乗り出す例は珍しくない」などと現実的な対応すら求めている――と報道した。さらに同22日の朝刊で「中国は現在、国土資源省などを中心に、エネルギー資源や海洋権益の確保を重点的に取り組んでおり、強固姿勢を取り続ける可能性が強い。また、未確定の日中中間線をどう確定するかという問題も深く絡んでおり、天然ガス田開発問題は今後も、日中間の懸案として尾を引きそうだ」と解説している。

 中華思想で全て「中国の海」

 しからば、なぜ中国が海洋権益の確保に躍起となっているのだろうか。爆発的な経済成長を遂げた中国は、2002年に石油消費量が米国に次いで世界第2位となり、2010年には石油消費量の半分を輸入に頼らざるを得なくなった。『日本人のちから』と題する、東京財団(日下公人会長)の政策研究誌(筆者10人)で、古沢忠彦・三井造船顧問(元統幕会議事務局長)は、@中国は石油の輸出国から輸入国に転じ、93年前後から軍を後ろ盾に海底資源探査を推進しているA中華思想で黄海、東シナ海、南シナ海など周辺の海は中国が専有すべき「中国の海」と考え、その防衛と、政治的威嚇手段として中国海軍が重要な役割を担っているBロシアから軍事技術を導入した中国海軍は艦艇建造能力、洋上補給能力への先行投資で急速に発展、戦略潜水艦、攻撃型潜水艦の充実は周辺国に脅威をもたらしたC中国の海洋調査は潜水艦の作戦データの収拾によるD台湾統一を最大目標に福健省などの沿岸に450基の弾道ミサイルや巡航ミサイルを配備、先制攻撃力を誇示しているE尖閣諸島の領有を主張し3月末に中国人7人の魚釣島上陸を現実化した――と述べている。

 中国海軍が海洋調査

 確かに、海上自衛隊のP3C哨戒機は7月6日、沖ノ鳥島西方約200キロの完全な日本のEEZ内で、中国海軍の測量艦「南調411」がワイヤを曳航しながら海洋調査を行っているのを発見。北京の日本大使館を通じ、中国外務省に経過説明と自制措置を申し入れたが、中国側は、「海軍の活動なので報告は受けていない」と回答してきた。政府が同日に発表した04年版防衛白書を見ても、@中国は軍事力の量から質への転換を図り、近代戦に対応できる核・ミサイル戦力や海・空軍を中心とした全軍の近代化、情報化に力点を置いているA今年度の国防費は218・3億元増加し、伸び率は11・6%増だB我が国のEEZで我が国の同意を得ない海洋調査と見られる活動が相次いでいる――などと指摘している。

 韓国の狙いは海洋保護区

 次に東京財団の「制海力」特集に加わった寺島紘士・SOF海洋政策研所長(元運輸省官房審議官)は、@第二次大戦直後の米国が沿岸漁業資源と大陸棚の鉱物資源についてトルーマン宣言を行ったのを契機に「海の囲い込み」運動が起き、領海は12海里以内、排他的経済海域は200海里以内、大陸棚は350海里まで認める、などの国際海洋法条約が生まれたAこの結果、太平洋に点のように浮かぶ珊瑚礁の沖の鳥島は極めて重要な島となったが、我が国では管轄海域の拠点となる離島の重要性の認識が十分でないB竹島は切手発行で問題化したが、韓国の真の狙いはNGO団体など世界の支援が得られる海上国立公園に指定、海洋保護区として領有する目論みである――などの問題を提起、緊急に「海洋基本法」を制定、海洋問題に総合的に取り組む政策担当官庁を創設せよと提言している。

 数十兆円の資産が眠る

 地球表面の7割を覆っているのが海洋であり、海底にはマンガン団塊、コバルト、ニッケル、固体ガスのメタンハイドレードなど21世紀を動かす資源がゴロゴロと眠っている。我が国大陸棚の200海里以遠だけでも数十兆円に上る埋蔵資源が隠されている。それゆえに中国は中国大陸棚とその上部水域のEEZを重視して、日本の主張する中間線より大幅に日本よりに境界線を考えているわけだ。200海里を超えて我が国の大陸棚を主張するには、大陸棚限界委員会に2009年5月までに、これを証明するデータを提出しなければならない。その調査に今後4年間で1千億円の予算が必要とされるが、政府は今年度予算でようやく調査に着手したものの、海上保安庁、経産省、文部科学省の合計で104億円という、10分の1の予算を確保したに過ぎないし、責任官庁も明確でない。

 総合的海洋政策の推進を

 内閣官房に「大陸棚調査対策室」も出来てはいるが、常勤数人という弱体な体制で、相変わらず各省の縄張り争いが続いている。自民党の「海洋権益に関するワーキングチーム」(武見敬三座長)は、日本の海洋権益保護のための関係閣僚会議の設置を提案した。世界は今、「海の囲い込み」合戦に突入している。新海洋秩序に適合した海洋政策が是非とも必要である。前述したように、外交・安保・資源・農水・離島など全ての問題を勘案した総合的施策の実現に向けて、私は全力を傾注したいと考えている。