北村の政治活動

 第78回(平成16年5月16日)防衛大綱見直しへ テロなど新脅威に対応


 国民保護法案など有事関連7法案は、私の属する衆院武力攻撃事態対処特委で19日に可決後、同20日にも衆院本会議を通過する見通しである。大規模テロなどの「緊急対処事態」の認定を国会の事後承認事項とするなど、民主党が求めている国民保護法案の修正を自民、公明両党が大筋で了承したためだ。国会承認以外で大筋合意した修正点は@国会決議で緊急事態の対処措置を終了できるようにするA昨年成立の武力攻撃事態法にも緊急対処事態に関する規定を盛り込む――などである。同法制定の前提とされた「緊急事態基本法」の来年制定についても、与党は首相が緊急事態に閣議を経ずに自衛隊、警察などを指揮できる規定や内閣府に緊急事態対処本部を設置するなどの案を民主党に提示した。合意が進んだことから緊急な防衛対策は一段落し、政府与党は長期的な新防衛大綱策定に向かった。

 荒木東電顧問が座長

 政府は昨年12月、北朝鮮の弾道ミサイルや国際テロなどの「新たな脅威」に対応するため防衛大綱の見直し方針を決め、4月20日、首相の私的諮問機関「安全保障と防衛力に関する懇談会」(座長・荒木浩東京電力顧問)を設置、同27日に初会合を開いた。初会合で小泉首相は「新たな脅威への対応では、防衛力全般の抜本的見直しが重要だ」と強調、自衛隊のあり方については、「国際社会の平和と安定のために主体的にとり組むことが重要」と述べ、国際貢献の役割も重視する考えを示した。懇談会は月2回ペースで会合を開き、今秋をめどに首相に答申する。これを受けて政府は、外交、財政面も含めて抜本的に見直し、年内に新防衛大綱を策定する。

 PKOも本来業務に

 大綱は@1976年に最初の防衛大綱が制定されて以来、引き継がれてきた「独立国として必要最小限」の防衛力を保有するとした「基盤的防衛力構想」を改めるA陸上自衛隊の戦車、火砲を3割程度削減するB国連平和維持活動(PKO)などの国際平和協力業務を自衛隊の本来任務に格上げする――などの内容を盛り込む考えだ。首相官邸が主導する懇談会は、細川護煕内閣が1994年に設置した懇談会のメンバー以外から起用され、東電時代の原発テロ対策の経験も買われて荒木氏が座長に、座長代理には張富士夫・トヨタ自動車社長が就任。五百旗頭真・神戸大教授、佐藤謙・元防衛次官、田中明彦・東大教授、西元徹也・元統合幕僚会議議長、樋渡由美・上智大教授、古川貞二郎・前官房副長官、柳井俊二・前駐米大使、山崎正和・東亜大学学長の計10人のメンバーで構成された。

 中曽根・細川内閣で設置

 防衛計画の大綱は1976年に初めて策定された。これは日本周辺の安全保障を維持するうえで日本が整備すべき具体的な防衛力や防衛政策の基本方針を定めたもので、旧ソ連の脅威を想定し、「力の空白」を生まないため、「限定的かつ小規模な侵略」に対処できる防衛力整備を目指してきた。防衛問題を扱った首相の諮問機関としては、中曽根康弘内閣が「平和問題研究会」(座長・高坂正尭京大教授=故人)を設置、「米ソ軍事バランスの均衡状態と米国経済の弱体化などに対応しつつ、潜水艦、防空システム強化などの防衛力整備を進めるため、防衛費の対国民総生産(GNP)比1%枠を撤廃すべきだ」との報告書を受けた。旧ソ連の崩壊による東西冷戦の終結など 国際情勢の大変化に伴い、細川内閣は、「防衛問題懇談会」(座長・樋口広太郎アサヒビール会長)を設置、「76年決定の防衛大綱見直しを提言。国際平和維持隊(PKF)参加の凍結解除、日米安保体制の機能強化、自衛隊定数の削減、ミサイル防衛構想への積極的な取り組み」の答申を受けた。

 テロ、ミサイルの新脅威

 この間、政権は羽田孜、村山富市内閣と変わったが、95年には大規模災害やテロ、国際平和協力業務など「多様な事態」への対応能力の整備を目標として、「自衛隊のコンパクト化」を盛り込んだ現大綱が策定された。だが、「独立国として必要最小限の防衛力を保持」し、日本周辺の軍事的均衡を保つ「基盤的防衛力構想」という76年策定の基本方針は現大綱でも維持され、約30年間も引き継がれている。そうした中で、01年9・11の米同時多発テロを契機にアフガニスタン、イラクなどでのテロとの戦いや北朝鮮の弾道ミサイルの「新たな脅威」といった国際情勢の変化が生まれてきた。 防衛庁では米同時テロ直後から、中谷元・前防衛長官が「防衛力のあり方検討会議」を設置し、将来の防衛力整備について検討してきた。しかし、今回の大綱見直しの焦点は「多様な危機」への備えだ。その1つが北朝鮮によるミサイルの脅威。同国は日本全土を射程に入れる弾道ミサイル「ノドン」を175〜200基配備しており、ミサイル防衛の本格的な整備が必要だ。

 防衛と外交・財政一体

 小泉首相は今回の懇談会設置に当たり、「新しい時代にどのような防衛が必要か、幅広く識者に意見をうかがって今後の防衛計画を出していきたい」と記者団に語っている。政府は昨年末、これまで防衛の基本となっていた外敵による本格的な着・上陸侵攻への対応から、テロなど新たな脅威への対処に防衛政策を転換する防衛大綱の見直し方針を決めた。読売新聞は、「首相官邸が防衛庁の議論を踏まえ、官僚OBを含む民間有識者をメンバーとする諮問機関を設置したのは、『防衛と外交は一体だ。防衛庁の発想だけでなく、幅広い意見を反映した、新しい安全保障政策を作る必要がある』(首相側近)との認識があったからだ」と解説している。また、「巨額の赤字を抱え、財政面からも予算の削減やコスト削減といった問題も検討する必要があり、防衛庁だけでは出来ない――との指摘が官邸から出ている」とも報じている。

 自衛隊の国際貢献拡大

 27日の懇談会の初会合では、ミサイル防衛システムの整備やテロへの対応に加え、新たな情報収集・評価システムの構築や、イラクの人道復興支援活動を踏まえ自衛隊の国際貢献活動の拡大が大きなテーマとなった。国際貢献を自衛隊の主要任務とする必要性から、国際貢献を定めた恒久法の制定についても検討する見通しである。参加委員からは「冷戦時代の脅威ではなく、大量破壊兵器やテロなどにどう対応するかが大事だ」「情報活動は国際的に行われている。踏み込んだ議論が必要だ」「日本の防衛だけでなく、国際的な平和協力の枠組みを考える必要がある」などの意見が出された。当然、集団的自衛権と現行憲法の問題も今後のテーマとなろう。懇談会は秋までに答申をまとめ、05年度予算案に反映させる方針だ。首相周辺が、焦点の1つである自衛隊の装備削減に期待を寄せているのに対し、防衛庁内には「短期的な情勢をもとに防衛力を大きく変えるのは不適切だ」と反発する声が強く、今後は首相官邸と防衛庁との綱引きが激化することも予想される。