北村の政治活動

 第73回(平成16年3月1日) FTA締結作業が加速 直接補償で体質強化を

 日本とASEAN(東南アジア諸国連合)のFTA(自由貿易協定)締結作業が加速している。通商政策では、モノ、ヒト、サービスの国際的な流れを活発にする貿易自由化の促進が最大の課題。WTO(世界貿易機関)の新ラウンド(新多角的貿易交渉)交渉は昨年秋、農産物の市場開放などを巡る先進国と開発途上国の対立で決裂した。期限の来年1月1日までの一括合意が難しい情勢の中で、一段と進展しているのが、2国間や地域間のFTA締結の動きだ。米国はカナダ、メキシコなどとNAFTA(北米自由貿易協定)を既に締結しているが、昨年初夏に相次ぎ合意したシンガポール、チリとの間でも、2月1日に協定を発効させた。来年1月にはFTAA(米大陸34カ国)の締結を目指している。
<注=FTA問題は「北村の政治活動第70回(1月16日号)」で、対マレーシア交渉(1月13日)までを詳しく取り上げている――このHPのバックナンバーで検索可能――ので、今回を続報としてお読み下さい>

 自由化に取り残される

 EU(欧州連合)もメキシコやアフリカ諸国とのFTAを締結したうえ、アルゼンチン、ブラジル、パラグアイ、ウルグアイとEU・MERCOSUR(南米南部共同市場)の締結交渉を進めている。アジアでは、最近WTOに加盟したばかりの中国が、ASEANと「2010年に完全自由化する」との協定を結び、農産物の関税引き下げ前倒しに踏み切った。インドもASEANと2011年までに自由化を完了する協定を結んでいる。日本の2国間FTAは、一昨年秋に発効したシンガポールしかなく、このままでは、自由化の流れに取り残され、各国の市場から日本製品が閉め出される恐れが出てこよう。遅蒔きながら、日本はASEAN全体との来年からの交渉に備えて2月15日、初の予備交渉をカンボジアのシエムリアップで開いた。予備交渉では、自動車や家電など、域内複数国の生産拠点を経由して製品化される物品の原産地規則を、年内に定めることで合意した。この規則に基づき、原価の一定割合以上が域内の工程で占められていれば、関税自由化の対象に含める――というものだ。

 マレーシア、比、タイと

 ASEANのうち、マレーシアとは1月13日、フィリピンとは2月4日、タイとは同月16日に初交渉を開始した。韓国とも同月23〜25日、東京で第2回交渉を開催。豚肉・オレンジ果汁でこじれたメキシコとも大詰めの折衝に入っている。対マレーシア交渉では、公共事業の政府調達でマレー系資本企業に便宜を図る政策を採っているマレーシア側が、政府調達の自由化に難色を示し、FTAよりも経済協力の支援強化を求めてきた。タイは、農産物の交渉では柔軟な対応を見せたが、フィリピンと同様、「人の移動の自由化に最も関心がある」とし、看護師・介護士の派遣受け入れを要求してきた。WTOの理想の体制は、どの国に対しても同様の条件で、関税などの通商規則を定めることが原則(最恵国待遇)だが、新ラウンド作りに当たっては、昨年9月のメキシコ・カンクン閣僚会議でも、農産物の関税撤廃や輸出補助金の削減ルールなどの交渉が行き詰まり、合意できずに終わっている。FTAは、協定構成国のみを対象として排他的に関税の撤廃等(特恵待遇)を実施する仕組みで、原則として10年以内の関税撤廃を目安に交渉している。

 FTA準備室を強化

 最近のFTA協定は、関税の撤廃だけでなく、フィリピン、タイのようにサービス、人材育成、投資の自由化などを含む包括的な内容に変化しており、農産物には関税撤廃の除外品目、関税撤廃までの経過期間の設定といった柔軟な取り扱いが加味されてきた。政府は、外務、経済産業、農水各省に担当部署を設けているが、昨年末には内閣府に関係省庁連絡会議を設置し、各省担当者の意思疎通を図っている。自民党もFTA特命委員会を設置した。特に経産省は、通商政策局のアジア大洋州課や通商機構部などの職員をFTA推進室に兼務・異動させ、同室を現行の5人から一気に約80人に増やして強化したほか、副大臣、政務官の4人を韓国、マレーシア、フィリピン、タイの国別担当として指揮を執らせるなどの熱の入れようだ。対メキシコ交渉は、豚肉、オレンジ果汁の自由化をめぐって決裂したが、これはメキシコがNAFTAを締結した結果、米国の農産物がどっと自国に流入して農業に打撃を与えたことから、日本に対しても安易な妥協はしない態度を固持しているからだ。

 肉輸入禁止で豚肉決着を

 昨年10月の閣僚折衝で、日本は豚肉の低関税枠を現行の2倍の年約7〜8万トンと提案したが、メキシコは25万トンの要求を貫いた。メキシコの豚肉は対日農産物輸出の約半分を占めている。米国のBSE(牛海面状脳症)発覚や鳥インフルエンザの世界的流行で、牛肉、鶏肉の輸入がストップしている時期である。交渉の仕切り直しをやる口実に現下の諸情勢はもってこいだ。ぜひにも「豚肉の決着」を図ってほしい。新ラウンドやFTA交渉で最大の課題となっている農業分野の自由化では、自由化推進の旗を振る経産省と、これに抵抗する農水省が激しく対立している。このため、日本でも貿易問題を一手に処理する米国の通商代表部(USTR)のような組織を作り、戦略的な通商交渉を行うべきだとの意見もある。しかし、組織の変更は官が肥大化するばかりで、解決策にはならない。

 競争力強化の抜本改革

 小泉首相は昨秋、「農業を聖域視せず、経済全体を考えて譲るべきは譲る。改革すべきは改革する」と述べたが、農業の衰退をくい止め、一方でFTA交渉を推進するには農業の競争力を高める抜本改革に踏み切るしかない。農水省もようやく昨年暮れ、食料・農業・農村基本計画の改定に着手したが、何よりも競争力の高い農業を目指す政策転換が必要だ。それには、関税障壁で国内農業を守るのではなく、不振な建設業を農業分野に投入して大規模農業化など構造改革を達成するとともに、中核的な農家に対し、貿易自由化によって失われた利益を補償する「所得補償方式」を適用するのが最良だろう。一定以上の耕作面積あるいは飼育頭数を持つコメ、食肉など基幹品目の生産に絞って、意欲のある生産者に直接所得補償を実施すべきではなかろうか。前にも書いたが、私は衆院農水委の筆頭理事として今後のFTA交渉の推移を見守り、適正な農業政策作りに貢献したいと考えている。