北村の政治活動

 第72回(平成16年2月16日) 怖い人畜共通感染症(下) 鳥から人へ突然変異

 米国が日本の要求する牛の全頭検査を拒否しているため、米国産牛肉の輸入禁止が続き、「280円牛丼」販売の打ち切りが続出している。すき家、なか卯が2月早々、豚丼に切り替えたのを初め、老舗の吉野家や松屋も同中旬から牛丼を取りやめ、カレー丼、焼き鶏丼、いくら鮭丼、豚キムチ丼などにメニューを変えている。ところがアジアを中心に鳥インフルエンザがはやり、鶏肉も一時輸入禁止となるなど、焼き鶏丼にも影響が出、サラリーマンの不満を募らせている。春節(旧正月)前には中国で新型肺炎のSARS患者が発覚、昨年同様、猛威を振るうのではないかと心配された。SARSウイルスは、鳥類と哺乳類のウイルスが合体して出来た可能性が強いと、カナダの研究チームが発表しているそうだ。幸い、SARS感染の拡大は見られず、各国の保健・衛生当局は安堵しているが、ウイルスはペット、家禽、野生動物が媒介する。流感シーズンはこれから。皆様、呉々もご用心。

 広東でSARSが2人目

 中国の広東省でSARSの感染が確認されたのは今冬2人目。1人は広州市に住むフリーのテレビ番組制作者の男性(32)で、昨年12月20日に隔離され、治療を受けた後1月8日に退院。もう1人は同市でレストランに勤務する女性(20)で、やはり昨年末に体の不調を訴えて発熱、隔離された。同レストランにあったハクビシンの檻からはSARSウイルス遺伝子の1部が検出されたという。北京市が昨年6月にWHO(世界保健機関)の感染地域リストから外されて以来、中国での患者発生は初めて。SARSは重症急性呼吸器症候群と呼ぶ。風邪の原因となるコロナウイルスの一種、SARSウイルスが病原体。WHOによると、02年11月に広東省で初めて発生、昨年7月に終息宣言が出されるまでに世界29カ国・地域から8098人の発生が報告され、774人が死亡している。このため、中国(香港を含む)はもとより、台湾、日本などアジア全域で、出入国ともに観光客が激減するなど大きな影響が出た。

 ハクビシンが感染源か

 SARSウイルスとハクビシンのコロナウイルスの塩基配列が酷似していることから、ハクビシンが感染源と見られ、広東省衛生庁が広州郊外の食用野生動物市場から85匹のハクビシンを回収・処分したほか、業者に対し、食用として出回っている約1万匹の冷凍肉を処分するよう求めた。ハクビシンは子狸に似た可愛いらしさから、日本ではペットとして飼われていると聞くが、“食の国”中国は、東北部(旧満州)で赤犬を好んで食べる習慣があるように、広東の市場ではハクビシンのほかにも蛇、亀、狐、クジャクなどが食用として売られている。広東省では開放経済で生活が豊かになるにつれ、高価な野生動物が接待に使われるようになり、ハクビシンはとくに強壮剤として珍重されているという。このため、衛生庁が回収しても、動物商が「生きたのは品薄だが、冷凍肉なら要るだけ用意できる」と漏らしているように、闇取引が横行しているようだ。でも、今年の感染者は少なく、予防対策も十分なため、昨シーズンのような爆発的な流行はないと見られる。

 致死性高い鳥のウイルス

 むしろ、心配なのは「鳥インフルエンザ」の発生。農水省は1月12日、山口県阿東町の採卵養鶏場で、約半月間に約3万5千羽の鶏のうち約6千羽が、致死性が高い鳥のインフルエンザのウイルス(高病原性H5N1型)で死亡したと発表。さらに同22日には「タイで鶏が大量死したのは、高病原性の鳥インフルエンザが発生した疑いがある」として同国からの鶏肉など家禽肉の輸入を停止した。高病原性ウイルスの発生は、国内では1925(大正14)年以来79年ぶり。人への感染は、生きた鶏との接触による例はあるが、卵や肉を食べての感染報告はない。同省は「過度の心配は必要ない」としているが、山口県は念のために、約100店を通じて売りに出された約36万4700個の卵を回収した。

 高温高圧処理なら安心

 タイ産鶏肉は日本で消費される全体の約1割を占めており、輸入停止が長引くと米国産牛肉と同様に、消費者に大きな影響を与えることになる。鶏肉そのものは食べても人に感染したケースはなく、ウイルスは75度で1分以上加熱すれば死滅するといわれ、高温高圧で処理すれば安全なため、現地で加工した、から揚げや焼き鳥の材料を売る大手スーパーなどは静観の構え。だが、生鶏肉については、ダイエーや東急ストアがタイ産の販売を中止し、店頭から撤去したことで価格が次第に高騰し始めた。1部にタイ産鶏肉を使用してきた日本ケンタッキー・フライド・チキンもすべて国産に切り替えていく方針だが、折角、焼き鶏丼をメニューに加えた吉野家など外食産業はまたも災難に見舞われている。鳥インフルエンザは、鶏、アヒル、カモ、七面鳥などに感染するA型のウイルスが原因。

 人のウイルスに突然変異

 病原性が強くて致死率が高いものは高病原性鳥インフルエンザとして、家畜伝染病予防法で法定伝染病に指定される。問題なのは突然変異で人のインフルエンザの起源になるウイルス。人に感染すると発熱や咳などの症状が出るが、ウイルスのタイプは、構成する2種類のタンパク質(ヘマグルチニン=H、ノイラミニダーゼ=N)の差により、H1〜15,N1〜9に分けられ、病原性も違う。人に流行を繰り返すソ連型はH1N1、香港型はH3N2に分類される。ここ数年は山口で発生したH5N1と、H9N2、H7N7が人に感染した例として報告されている。人が鳥インフルエンザに感染するのは、病気の鶏と密接な接触した場合に限られ、人から人への感染もほとんどないが、万一感染した人の体内で、ウイルスが人の感染しやすいタイプに突然変異すれば、人類が免疫をもたない「新型インフルエンザ」となる。これにはウイルス感染の豚が、間に介在するケースが多い。

 間に合わぬワクチン研究

 病気を引き起こす病原体で王者格は、細菌とウイルスだ。科学技術ジャーナリストの尾崎正直氏によれば、「細菌は人体に入ると、人間の細胞の栄養を吸い取って代わりに毒を出して細胞を殺してしまう。栄養を得た細菌は、分裂して仲間を増やす。細菌よりずっと小さいウイルスは、自分で細胞を持っていないので、人体に入ると細胞の中に入り込み、その細胞に自分のコピーを作らせる。細胞は大量にコピーを作られると破壊されて死ぬ。その時、細胞の中から大量のウイルスが飛び出し他の細胞に入り込み、ウイルスは増殖していく。細胞を持つ細菌をやっつけるには抗生物質などの薬を作ることが出来るが、細胞がないウイルスを攻撃すると、ウイルスの入り込んだ人間の細胞まで壊してしまう」という。世界中でワクチンを作る研究が進められているが、新型のウイルスには治療薬も予防薬もないのが現状だ。4、5千万人の死者が出たというスペイン風邪(H1N1型)など過去に大流行したインフルエンザも、こうした経過をたどって爆発的な感染を引き起こした。

 13カ国発生、16人死亡

 鳥インフルエンザは97年に香港で18人が発症し6人が死亡して以降、数十人の感染者が確認された。読売新聞は「ベトナム・ハノイ周辺では昨秋以来、14人が重い肺炎を発症、12人が死亡し、うち4人はH5N1の感染が確認され、解剖結果には多臓器不全を起こした例が含まれ、全身がエボラ出血熱を思わせる状態だった」と報じた。ベトナムは11人死亡と公式に発表している。タイの保健省によると、鳥インフルエンザに感染したと疑われたのは、タイ中部ナコンサワンの養鶏場で、死んだ鶏70羽を処理していた大人1人が、高熱などの症状で入院した後に死亡。別に子供2人も感染したとされる。実際の死亡者は5人を数えているようだ。山口県に先立つ昨年12月には、韓国中部でH5N1による鶏の大量死が発生、今年に入っては上述の日本、タイ、ベトナム、韓国のほか、中国、台湾、インドネシア、カンボジア、ラオス、パキスタンなどアジアで計13カ国・地域に広がり、中国では計13の省・自治区・直轄市に広がった。中国では鳥インフルエンザに強いはずのアヒルが200羽も死んだというし、渡り鳥が死んで落ちてきたとの話もある。

 豚の鼻粘膜にウイルス付着

 さらに米国でも別の型のウイルスだが、1万2千羽が感染したため、これを処分した。米国産鶏・家禽肉も当然、輸入禁止とされたが、米鶏肉は日本国内消費の3%を占めていて、食生活に与える影響は大きい。ベトナムでは豚の鼻の粘膜に鳥インフルエンザが付着しいたという。朝日新聞が報じた北海道大獣医学部の喜田宏教授の話によると、「最初の68年に出現した香港風邪(H3N2)の場合、カモが運んだウイルスが中国南部でアヒルに感染、アヒルから豚にうつり、豚の体内で人のウイルスと交じり合って出来たと考えられる」そうだ。このようにウイルスは呼吸器系粘膜などを拠点に感染が進むが、鳥インフルエンザの遺伝子が突然変異を起こしたり、人のインフルエンザと交じり合って二重感染を起こしている。

 4つの被害対策に全力投球

 アジアは新型ウイルスの危険がいっぱいだが、渡り鳥がウイルスを媒介するのか、人やトラック、飼料などにウイルスが付着して国外から持ち込まれたのか、感染ルートは未だにはっきりしていない。政府は既に対策委を設置し、@抗ウイルス薬の備蓄A予防ワクチンの開発と生産体制の整備Bワクチン接種対象者の優先順位確定――など突然変異の新型インフルエンザ発生や二重感染に備えている。これとは別に、昨年10月以降、茨城・霞ヶ浦など日本各地で鯉のエラにウイルスが付着して大量死するコイヘルペスが大流行し、業者が続々と廃業した。イラクの自衛隊派遣問題は重要だが、私は衆院農水委理事として、危険なBSE、野生動物媒介のSARS、深刻なコイヘルペス、大流行の恐れがある鳥インフルエンザの4課題についても、予防と被害対策に全力を上げたいと考えている。