北村の政治活動

 第71回(平成16年2月1日) 怖い人畜共通感染症(上) 水際作戦で汚染防止

 BSE(牛海綿状脳症)、SARS(新型肺炎)、鳥インフルエンザ――。昨年末から新春にかけ、健康や食生活を脅かす病原体が日本列島を襲う兆しにあり、暗い冬景色に包まれている。どこかの週刊誌が「家畜の復讐」の見出しで報じていたが、家畜や野生動物から人間にウイルスなどが移る「人畜共通感染症」は、21世紀に入って益々猛威を振るっているようだ。元はといえば、肥らせるため草食動物に仲間の牛の肉骨粉を食べさせて腰砕け状態にさせたり、SARSを媒介したと見られるハクビシンを、強壮剤と称して食用にするなど、神の摂理にそむく行為をした人間に対し、天罰が下ったといえよう。衆院農水委理事として私は、暮から何度もBSE輸入禁止の善後策を協議、水際作戦で汚染牛肉の拡散を防止しているが、外食産業の被害は大きく、解決策に苦慮している。鳥インフルエンザは大正末期以来79年ぶりの騒動で、人への感染がないとされているものの、かつてのスペイン風邪のようにウイルスが人体内で突然変異する恐れも多分にあり、厳重注意が必要だ。

 消費牛肉の3割が米国産

 ベネマン米農務長官が、「米国北西部のワシントン州で飼育された牛1頭にBSE感染の疑いがある」と発表したのは昨年12月23日。この牛はホルスタイン種で、食肉処理の際に歩けなかったことから、米国では初めてBSEの疑いが持たれた。米国産牛肉は日本で消費される牛肉の約3割を占めており、日本の消費者に大きな影響を与えるため、日本政府は家畜伝染病予防法に基づき、直ちに米国からの牛肉輸入を停止した。BSEは、牛の脳がスポンジ状に変化し、全身が麻痺して死に至る病気で、86年に英国で初めて報告され、フランスなど欧州各国に広がった。病原体は異常プリオンというタンパク質。これに感染すると、もともと正常な脳や眼球、脊髄などに異常プリオンが蓄積される。この異常プリオンに汚染された肉骨粉が流通し、日本でも01年9月に欧州から輸入した肉骨粉混入の飼料を食べていた牛が感染牛と確認され、その後感染牛は計9頭に増えた。農水省は牛の全頭検査を実施するなど感染防止に万全を期している。

 北米大陸で発覚相次ぐ

 北米大陸では初めてカナダで昨年5月、感染した肉牛1頭が確認された。米国のBSE第1号はこれに次ぐもので、カナダの牧場から100キロ足らずの国境に近い畜舎から見つかった。日本の農畜産業振興機構によると、わが国の02年度の推定牛肉消費量は93万2千トンで、そのうち輸入品は55万8千トンと6割を占めている。国別では豪州の26万2千トンに次いで、米国からは24万トンで、輸入の4割強だ。従って、日本の消費量に占める米国からの輸入牛肉は約3割に達するわけだ。厚生労働省は、既に流通している肉でも、脳や脊髄などBSE感染の危険性が高いとされる「特定危険部位」を含まない肉については、「異常プリオンは蓄積されない、と国際的に認められている。健康への影響はない」として牛肉の回収はしていない。農水省も初めは「民間の牛肉の在庫は、流通量の1・5ヶ月分あり、当面の需給に問題はない」と楽観していた。

 打撃の外食産業と仙台市

 しかし、01年のBSE騒動以来、焼肉店やスーパーの牛肉売り上げが落ち込み、安値競争に走るなど、消費者の「食の安全、安心」に対する反応は極めて敏感だった。今回は首都圏の中堅スーパーが全店の売場から米国産牛肉や牛タンなどを撤去したため、逆に豪州産牛肉や豚肉、鶏肉などが値上がりを始めた。米国産牛の輸入停止で一番打撃を受けているのが外食産業。280円の牛丼が売り物の吉野家ディー・アンド・シーは、米国産牛肉を年約3万トン使用しているが、在庫は2月末までの1ヶ月足らず。やむなく焼き鶏丼やイクラ丼などメニューの変更を始めた。ファミリーレストランのすかいら−くも1部のステーキや焼き肉用に米国産を利用。ロイヤル、フオルクス、デニーズジャパンなども米国産牛肉が多いため、産地切り替えや国産牛使用なども検討している。地域の問題としては、牛タンの歌まで作り、「牛タン横町」を大々的に宣伝している仙台市が、米国からの食材が入らず弱りきっている。

 安全は日本より充実と自負

 このため、農水省と厚労省は米国・カナダに合同調査団を派遣、米国からの牛肉輸入再開の最低条件として、脳など「特定危険部位」の除去徹底や、日本向け輸出分の全頭検査を求めた。これに対し米政府は、「生後30ヶ月以上の牛の特定危険部位や歩けない牛については食品化しない」と表明したが、「科学的に安全だから」と全頭検査には応じようとしない。米国はこれまで政府の負担で年間約2万頭の検査をしてきたが、これは「サーベイランス(調査監視)のためにやっている」だけで、「安全対策ではない」という。米国は日本より6年も早く90年から調査監視を始め、肉骨粉も4年早い97年8月に牛への使用を禁止しており、BSE対策は日本より充実しているとの自負があるようだ。しかも、米国で食肉処理される頭数は、日本の年間124万頭に比べ、約28倍の3500万頭にも達しており、安全だからこそ米国民は消費していると考えている。

 背骨原料食品が573トン

 また、米国は肉骨粉の使用禁止について、「99%以上守られている」と自慢している。だが、日本の調査団報告書によると、実際には飼料の自家配合をしている多くの小規模農家が検査対象から漏れていたり、肉骨粉を豚や鶏などに与えることは禁じていないため、飼料工場などで牛の餌に混入する可能性もあると見ている。こうした検査態勢の甘さから、安易に輸入を再開して、米国で感染牛が次々に発覚すれば、米国産牛肉への信頼はゼロになり、騒ぎは益々大きくなる。読売新聞は、「昨年1月以降に米国から輸入された牛肉加工品の中に、背骨を原材料に使った恐れのあるカプセル入りの健康食品が604件、計573トン輸入されていることが厚労省の調査で分かった」と報じた。風評被害やパニックを避けるためにも、日本としては輸入牛の全頭検査を迫る以外にない。衆院農水委としては、外食産業に与える影響、牛肉のコスト上昇面、産地切り替えの可能性などを見極めつつ、米国牛の輸入再開に結論を出さねばならないと考えている。(続く)