北村の政治活動

 第70回(平成16年1月16日) 3ヵ国とFTA交渉 農業の構造改革推進


 昨年末に東京で開かれた日本とASEAN(東南アジア諸国連合)特別首脳会議の合意に基づき、政府は13日のマレーシアを皮切りに、今月からタイ、フィリピンの3国とそれぞれ2国間のFTA(自由貿易協定)の交渉に入る。昨年秋の対メキシコとのFTA交渉は、豚肉、オレンジ(ジュースを含む)の関税問題で決裂したが、農産物などモノの貿易自由化だけでなく、FTAには看護師などヒトの移動も含まれて複雑化しており、日本の締結先は現在、シンガポールだけという寂しさだ。韓国など近隣諸国とも交渉は難航している。メキシコ交渉の不首尾に業を煮やした小泉首相が「日本は農業鎖国だ」と漏らしたことで農業団体が怒り、総選挙の結果にも響いたと言われるが、日本農業は市場開放に反対するばかりでなく、農業の構造改革を一層進め、強い体質に改めることが肝要である。衆院農水委は、牛丼の「吉野家」など外食産業に多大な影響を与えた米国BSE(牛海綿状脳症)感染牛の輸入停止の善後策を検討しているが、私はFTA問題にも力を注ぎたいと思っている。

 新R困難でFTAに拍車

 FTAとは、特定の国や地域との間で、モノの関税を撤廃したり、サービスやヒトの交流を自由化して障壁をなくし、貿易を活性化する取り決めをいう。今年中に締結しなければならないWTO(世界貿易機関)の貿易自由化交渉(新ラウンド)が、昨年9月のメキシコ・カンクン会合で失敗に終わり、FTAの動きに拍車が掛かってきた。多国間に比べ小回りが利くので、日本は投資保護ルールなども含む経済連携協定(EPA)を目指している。昨年6月に交渉合意の予定だったタイは、コメ、鶏肉、タピオカ、砂糖などの対日輸出に多大な関心を示すほか、マッサージ師の資格の相互承認、観光面での配慮などを求めている。だが、日本の農林水産団体は、関税撤廃による市場開放に反対している。フィリピンはバナナなど熱帯果実の関税引き下げとともに、看護師や介護師の資格の相互承認を求めている。マレーシアは合板など木材製品と水産物の関税引き下げを要求している。

 GDP押し上げ効果大

 こうした要求には、農協ばかりでなく日本看護協会など業界団体が強く反発している。とくに、看護師、介護師、マッサージ師など、医療、看護分野へ外国人労働者を受け入れる「ヒトの移動」は、医療水準やサービス面の低下などを理由に厚生労働省が、治安の面から法務省がそれぞれ懸念を示し、農業以上に国内調整は難しい。これら要求に対し、日本は免許取得を求めてハードルを上げるほか、自動車や鉄鋼などの高関税引き下げなど投資環境整備と、知的財産権の保護を主張している。東京で開かれたASEAN特別首脳会議では、日本が3カ国とFTAを締結した場合の各国GDP(国内総生産)のプラス効果を試算した経済産業省などの研究報告書が提出された。それによると、いずれもFTAによる関税撤廃が貿易を促し、双方に利益をもたらすと指摘。GDPを押し上げる効果は、タイが20・1%、フィリピン1・7〜3・0%、マレーシア5・1%と試算している。タイは97年の金融危機前のデータが1部含まれていることから、増加率が突出している。

 国際競争力付ける改革を

 一方、日本のGDP押し上げ効果は、対タイで0・2%、対フィリピン0・01〜0・03%、対マレーシア0・1%と増加率は小さいが、GDPの絶対値が大きいため、インパクトは大きいとみている。現在のウルグアイラウンドで日本の米の自由化は一段と進んだが、今年中に新ラウンドが締結されない場合は、コメなど400%近い高関税で保護されている日本の農業は世界の総攻撃を受けて、自動車、半導体など我が国の好況分野にセーフガード(緊急輸入制限措置)の狙い撃ちがかけられる恐れが多分にある。対メキシコのFTA交渉が決裂したことで失われる利益は、年間4千億円にも上るとされるが、「豚肉などの高関税を引き下げても、生産農家に所得補償をすれば軽微な予算で済むのではないか」との声が上がっている。しかし、農水産物の自由化が農・漁業者に与える打撃は極めて大きく、参院選を前に生産農家などはFTA交渉の行方をじっと見つめている。

 所得補償方式を導入

 WTOにようやく加盟した中国は、「農業を犠牲にしても、経済開放による近代化を進めた方が国の利益にかなう」と割り切っているといわれ、ASEAN諸国も中国の経済台頭に脅威を感じ、中国に通商の主役を奪われるよりは、FTAによる貿易を活性化させたいと考えている。産業界や低価格の輸入品を喜ぶ消費者の期待もあり、日本もASEAN諸国に呼応しないわけにはいかない。小泉首相は昨年、「農業を聖域視せず」とFTA重視の姿勢を打ち出し、外務省に次いで農水省や経産省にもFTA対策本部を作った。国際的な市場開放、貿易自由化の荒波に対処するには、関税障壁による守りの姿勢ばかりでなく、中核的な農家、漁業者には自由化で失われる利益を補償する「所得補償方式」の導入や、農業分野の構造改革を促進し国際競争力を強化するための、予算措置が今こそ必要ではなかろうか。私は衆院農水委理事として、FTA問題にも真っ向勝負したいと考えている。