北村の政治活動

 第69回(平成16年元旦) 年金改革特集(2) 攻防は厚労に軍パイ

 年金改革を巡る厚生労働省と財務・経済産業両省の対立の中で、最後まで残ったのが年金の保険料率と給付水準の攻防だ。22年度以降は20%(労使折半)とする「保険料固定方式」を唱え、給付水準を現役世代年収の50%以上を主張する厚労省に対し、財務省は「生産性のない者に60%近くも保障しているから保険料が高くなり、公的負担も大きくなる。給付は40%でよいのではないか」と早くから反対し、現行法の付則に定めた基礎年金の国庫負担割合を3分の1から2分の1に引き上げる案についても、「現状でも年金の国庫負担は毎年1千億円ずつ増えるのに、2分の1だと年間2兆7千億円の巨額財源が必要になる」と難色を示した。経産省は「現行の13・58%(労使折半)でも企業の負担が重いのに、20%に固定すれば企業はリストラを進め、商品価格に保険料コストを転嫁するようになる。景気対策として取り入れた所得税の定率減税を公明党の主張に沿って廃止するのには反対だ」との財界の声をバックに、保険料は16%が限度と主張した。

  18・35%を労使折半

 厚労省には党の年金制度調査会と公明党が後押しし、財務・経産両省には財界が支援する図式だった。このため、20%固定と16%の間を取った18%案や、厚労省案に近づける18・2%の額賀福志郎政調会長案も示されたが、結局、昨年末の大詰め折衝で、保険料率は2017年度までかけて年収の18・35%(労使折半)に引き上げることで政府・与党が合意した。毎年0・354%(本人分は0・177%)ずつの負担増となる。これにより04年度の厚生年金特別会計は約2500億円の増収となる見通し。また、基礎年金の国庫負担割合は09年度までに段階的に2分の1に引き上げることが決まり、増収分はこれに振り向けられる。それでも2分の1引き上げを完全実施する場合、年に2兆7千億円の財源捻出は容易でなく、早晩、福祉を目的とした消費税の引き上げが論議されよう。

  物価スライドは前年だけ

 年金給付額は前年に続き、物価下落を反映した0・2〜0・3%(1月末確定)のマイナス改定が4月から実施される。年金支給額を年平均の消費者物価に応じて加減する物価スライド制度は、狂乱物価時代の1973年に導入され、インフレ期は物価上昇に合わせて給付額が上がったが、デフレで物価が下落した99−01年は逆に給付額の目減りを防ぐため、特例法により1昨年まで同制度の適用を凍結してきた。03年度は前年の物価(マイナス0・9%)を適用し、初めて給付額が引き下げられた。そこで財務省は過去3年分まで遡って実施しようと、昨年の消費者物価下落見通しの前年比0・3%と、凍結された3年間の下落分1・7%を合わせた2%分の給付引き下げを目指した。スライドの完全実施で国庫負担を1千億円圧縮する考えからだ。これに対し厚労省は、昨年分の0・3%引き下げはやむを得ないとしても、過去の1・7%は凍結の継続を主張した。昨年分だけスライドを実施すれば、厚生年金の夫婦月額(23万6千円)は月約700円、国民年金の夫婦月額(13万2千円)は月約400円減るだけで済むが、過去の凍結分を解除すれば厚生年金が月約5千円、国民年金が月約2千8百円の減額となり高齢者の不満を招くからだ。これも保険料の固定、国庫負担アップの道筋明示と同様、厚労省に軍パイが揚がった。

  問題は国民年金空洞化

 予算上の年金改革は一応の決着を見たが、問題なのは国民年金の空洞化だ。国民年金は、満20歳以上65歳未満の全国民が加入を義務づけられた「皆保険制度」。給与から保険料を天引きされる企業サラリーマンの厚生年金とは違って、自家営業者や学生らは自ら保険料を支払うが、納付率は01年度の70・9%から昨年度は62・8%に落ち込み、加入対象者2270万人の4割が未払いだった。91年度の85・7%をピークに96年度まで8割以上の納付率を保ってきた国民年金がなぜ空洞化するのか。1つは市町村が代行していた徴収業務が、地方分権の一環として、02年度に国の社会保険庁に移管され、自治会などの協力団体との連携が切れたことだ。同庁は未納者に対し、年6回の催告状送付や電話での納付依頼の外部委託など、徴収態勢を強化しているが、人手不足で市町村時代のような細かな対応が出来なくなっている。厚労省の「国民年金特別対策本部」(本部長・坂口厚労相)は、今後5年間で国民年金の納付率80%を目指し、滞納者への強制徴収、国民年金推進員を3年で倍増、郵政公社に保険料収納業務の委託など、収納体制の強化策を打ち出している。

  年金消滅する不信感

 もう1つは、景気低迷や企業のリストラでパートタイマーや失業者が増加、月1万3千3百円(定額)の保険料負担が重く感じられるようになった。現行の公的年金制度は、全国民共通の国民(基礎)年金と、所得に応じて受給額が上乗せされるサラリーマンの厚生年金の二階建てが基本の社会保険方式だ。厚生年金の給付額は夫婦月額平均23万6千円だが、国民年金の給付は満額でも夫婦月額13万2千円でしかない。これも若い世代が保険料納付を嫌がる原因となっている。それよりも重大なのは、年金に対する不信感だ。「将来、年金は維持できなくなるのでは」との不安から、未納率は若い世代ほど高い。20代で5割を超えている。85年の改正前には現役の平均賃金を年金世帯の平均収入が上回るほど厚遇する一方、保険料は低く抑えられてきた。保険料は受け取る年金額の約6割を賄うに過ぎず、不足分の4割は後継世代へつけ回しされた。これには、選挙目当ての「年金ばらまき」政策を与野党ともに容認してきた過去の悪い政治体質があったことは否めない。

  既得権利犯される不安

 それが85年の改正以降、給付水準の引き下げや支給開始年齢の引き下げなどで、給付削減が続き、現役世代の“既得権利”が犯される印象が強まった。公的年金制度は5年に1回、将来の人口推計などに応じて保険料や給付水準を見直す「財政再計算」を行う。5年前の前回改革で、政府は保険料率を13・58%、給付水準を62%から59%に引き下げるなど本格的な改革に踏み切り、年金支給が近づいた団塊の世代の不満を煽った。若い世代ほど給付が減り、負担が増える構図も明らかにされ、先細りの年金制度に現役世代の焦りと不信感は一層高まった。若い世代は年功序列型賃金や退職金制度など将来の保障には無関心で、能力本位の年俸制や、退職金先取りの給与体系も平気で受け入れるなど、現実の生活を楽しむ傾向が強まっている。こうした感情が国民年金の保険料不払い現象にも現れていよう。政府は少子・高齢化やデフレ不況による財政悪化を改善するため、大幅な改革案を策定し、通常国会に関連法案を提出する方針だ。

  公平な年金制度実現

 私と同じ団塊の世代が間もなく高齢者になるが、年金は、特定の世代に偏らず広く薄く負担し、多くの高齢者が快適に老後を送るような公平な給付が出来るシステムを構築しなければならないと思う。それには、@年金と国民健康保険の保険料徴収1元化A6つの基金に分けて運用するスウェーデン方式など積立金の運用方法改善B共稼ぎや婦女子パートタイマーと専業主婦の年金給付格差是正――など、検討項目は税制改正も絡んで山ほどある。前通常国会まで衆院厚生労働委の委員を務めた私は、党年金制度調査会などにも頻繁に出席して、これらの課題を十分精査し、歴史に残る公平な年金制度改革を実現したいと考えている。