北村の政治活動

 第65回(平成15年10月1日) 農業交渉決裂・コメ第2弾 局面打開探る


 9月中旬にメキシコ・カンクンで開かれた世界貿易機関(WTO)閣僚会合は、投資ルールと農業を巡り先進国と開発途上国が激しく対立、交渉は決裂した。99年の米・シアトル会合に続く失敗だ。12月15日までにジュネーブで一般理事会を開き、今後の交渉日程を協議するが、04年末を合意期限とする新多角的貿易交渉(新ラウンド)は、事実上暗礁に乗り上げた。焦点の農業分野では、デルベス議長(メキシコ外相)が示した新たな閣僚宣言案に対し、コメなどの関税引き上げと最低輸入義務枠(ミニマムアクセス)拡充を求める米・豪・加などと日本が鋭く対立、補助金撤廃を巡っては、米・欧と途上国が激しい攻防を展開した。日本はコメの輸入拡大を迫られた10年前のウルグアイ・ラウンドの反省に立ち、農産品の上限関税設定反対などの主張で途上国などと共闘を組もうとしたが、3すくみの攻防で孤立化し、力も分散されてカンクン会合での成果は上がらなかった。コメ、水産物の関税は深刻な問題だ。秋政局が安定すれば、私は衆院農水委員として、局面打開に向け、精力的に活動したいと考えている。

 容認できぬ内容

 農業に関するデルベス議長の新閣僚宣言案は、@農産品の関税に上限を設け、この水準まで削減するか、最低輸入義務枠を拡大するAただし、極めて限られた品目には配慮するB補助金は国内向けに品目別上限を設定、輸出向けの段階的撤廃を交渉する――などを骨子としている。これは、当初に農業交渉のハービンソン議長が提示した案や、8月のWTO一般理事会で示された閣僚宣言案の修正案を踏襲したもので、「一定以上の高い関税を一律カットするための上限を設け、その上限が守れない場合はミニマムアクセスを拡大する」とのスキームと変わらず、日本が「とても容認できない」内容だ。具体的な関税上限はこれからの交渉事項とされるが、米国などは200%程度の水準を想定している。200%になれば、輸入米の平均価格は現在の1キロ当たり450円前後から250円前後に値下げ出来、国産米の平均価格270円を下回ることになり、国内農家の打撃は大きい。

 米・EUが妥協案

 日本と連携してきた欧州連合(EU)は突如米国に歩み寄り、米・EU妥協案を8月の一般理事会に持ち込み、日本は孤立した。米・EU妥協案は、農産品が加盟国にとってどの程度重要かによって、@平均と最低の削減率を設定し、品目ごとに柔軟に引き下げるA一定水準未満に一律引き下げるB撤廃する――に3分類、関税を削減するよう求めている。そのうえで、関税の上限を設定し、超過する品目は、上限まで関税を引き下げるか、代わりに2国間交渉でミニマムアクセス(MA)の拡大などの措置を講じるとしている。このように米・EU妥協案は、具体的な選択肢を示したが、その大要がカンクンの新閣僚宣言案に盛り込まれた。新宣言案を飲めば、日本のコメや小麦、乳製品などの高関税品目は、関税の引き下げに加え、最低輸入義務枠の拡大を迫られ、貿易自由化の荒波に襲われる。

 救いは但し書き

 日本農産物の関税率はこんにゃく芋990%を筆頭に、落花生500%、コメ490%、小豆など雑豆460%、バター330%、澱粉290%、小麦210%、脱脂粉乳200%、大麦・生糸190%――の順で約200種類が200%の高水準にある。いずれも、食糧自給率の維持や、地域農業を支える基幹的な作物の保護などの観点から高い関税をかけてきた。若干の救いは、新宣言案に関税の上限設定に関連して「ごく限られた品目について追加的な柔軟性が与えられる」との“但し書き”が盛られたことだ。コメの例外的扱いを示唆したものとして、川口外相は「十分ではないが、わずかながら前進した」と受け止めている。この例外扱い品目は、輸出国との個別折衝に委ねられるが、強硬にコメの市場開放を迫っている米国のほか、輸出国のタイや中国などとも調整が必要になりそうだ。日本は今回の農業交渉に当たり、農産品の上限関税設定に反対する国々のグループ作りに力を入れたが、集まったのは韓国、台湾、ノルウェー、スイス、モーリシャスぐらいで大勢力を結集出来なかった。

 途上国は補助金削除狙う

 途上国はむしろ、欧米との間で大きな争点となっていた農業補助金の削減問題で結束した。交渉に参加した国・地域は、前回のウルグアイ・ラウンド(UR)の125カ国から、今回の新ラウンドで146カ国に膨れ上がり、途上国が3分の2以上を占めている。途上国は、EUなどの国内向け補助金の大幅削減と輸出補助金の撤廃を求めていたが、ジュネーブの一般理事会での案は当初のハービンソン議長案よりも後退したとして一斉に反発、ブラジルなど途上国23カ国が共同の新提案を提出した。ブラジルは、中南米を軸に中国やインドと「G23」を結成、途上国の盟主的役割を演じた。このため、カンクンでの新閣僚宣言案は、国内向け補助金について、農業技術の基礎研究など貿易や生産への直接的な影響がない補助金を、新たに見直しの対象に付け加えた。輸出補助金についても、これまで「検討課題」としてきた撤廃時期を明確な交渉事項と位置づけるなど、旧案よりも、農産品輸出の多い途上国に若干の配慮を示している。

 EUの農家は強く反発

 主要国の補助金は99年度ベースで、EUが国内向け5兆8186億円、輸出8352億円、米国が国内向け1兆8172億円、輸出6262億円と多いのに対し、日本は国内だけで7478億円と金額が少なく、大勢に影響はない。しかし、農業大国のフランスなどは、補助金を削減すると主要農産物の穀物生産が大幅に落ち込むことが予想されることから、農家の反発が強く、EUとしては合意出来ない内容だ。一方、途上国は農業分野で優遇措置を求める以上に、閣僚会合が目指す投資ルールの整備に難色を示している。閣僚会合の主目的は、投資、貿易円滑化、政府調達の透明性、競争――の新しい4分野のルール作りにあるが、投資ルールが整備されると、途上国は、自国産業が外資企業に侵略されると懸念しているからだ。非農産品分野で日本は、関税の一律引き下げには応じるが、林・水産品、履き物、皮革製品は関税撤廃を目指す品目から外すよう求めていた。だが、この主張も通らなかった。

 コメ開国以来10年

 こうして米・欧・豪・加の連携と、日本、途上国が3すくみで対立したため、カンクン会合は決裂した。10月会合でも打開できるかどうかの見通しは立たず、全て霧の中だ。細川内閣が、ウルグアイ・ラウンド(UR)でのコメ市場部分開放受け入れを発表してから10年が経つ。当時は「断腸の思い」(細川氏)の「コメ開国」だった。前回のURは、貿易自由化を進めるため、農産品を含め「例外なき関税化」に踏み切ると同時に、国内生産者を保護するため、ミニマムアクセス(MA)が認められた。「最低限の輸入を実施させるため、一定量については無税か、低い関税をかける。残りは一般に高い関税をかける」というもので、この中に日本のコメが含まれた。読売新聞が報じたMAの仕組みと米生産への影響を要約すると次のようになる。

 最終年に輸入米8%の増

 「MAの無税か低い関税をかける一定量は、国内消費量の5%以下の品目について、初年に3%の輸入を義務づけ、95年から2000年の6年間に、段階的に拡大し最終年に5%の達成が求められた。日本はMA以外の輸入を拒む「関税化の例外措置」を選んだため、MA枠に毎年1〜0・8%が加重され、最終年に8%まで増やす必要があった。2000年以降の輸入量は基準年ベースで毎年7・2%(76万7千トン)に固定された。昨年の国内収穫量は約888万トンで、一番多い新潟県で約65万トンだから、米国や中国からの輸入米約77万トンは新潟米を上回る。輸入米の用途の多くは加工用と国際援助用で、外食産業などの業務用に回るのは、年間10万トン程度に抑えられている。これは「MA導入に伴う転作の強化は行わない」との閣議了解によるもの。輸入米でコメが過剰になっても、国産米の生産には影響させず、減反も増やさないと言う建て前によるものだった」