北村の政治活動

 第64回(平成15年9月16日) 十年ぶり冷夏のコメ不作 備蓄米で十分対応

 「サムサノナツハオロオロアルキ」――。岩手県出身の宮沢賢治は詩集「雨ニモマケズ」の中で冷夏をこう詠った。北海道と東北地方の太平洋側には7,8月、湿った低温の風「ヤマセ」が吹き続けたことで、コメ不作が心配されている。丁度10年前の93年は、「平成の大凶作」と呼ばれ、政府備蓄米が少なかったため、政府はタイや中国などからコメを緊急輸入し、「平成の米騒動」を何とか防止した。今年は備蓄米が豊富にあり、天候も9月以降に回復したため、コメ危機はどうやら乗り越えられそうだ。しかし、10日にメキシコ・カンクンで開幕したWTO(世界貿易機関)閣僚会合では、米、加、豪などが、コメや小麦などの高関税品目の関税引き下げや最低輸入義務枠の拡大を強く主張、日本のコメ不作に乗じて自由化攻勢を掛けている。北海道、東北地方の冷夏被害を救済するには、予算措置など早急な検討が必要で、衆院農林水産委員の私は、内外の対応策に多忙を極めている。

 10年前は作況指数74

 コメ離れの傾向もあって、最近のコメの国内消費量は年間約870万トン、対する生産量は900万トン前後だ。93年8月15日の作況指数は、平年を100として「95のやや不良」と発表されたが、その後も天候が回復せず、最終的には74となり、生産量は766万トンと当時の需要量より180万トンも不足していた。このため、業者の買い占めや売り惜しみ、便乗値上げなどもあって、米穀店やデパートなどからコメが姿を消し、平成の米騒動の様相を呈したことは、まだ記憶に新しい。とくに政府備蓄米は23万トンしか残っておらず、政府はタイ、中国などから加工用を含め259万トンを緊急輸入し、コメのパニックになるのを防いだ。今年はどうか。農水省は未発表だが、民間調査会社の米穀データバンクは、コメの作況指数を全国平均で94と予想、10年前より悪い作柄だ。

 大凶作の二の舞回避

 しかし、今年は10月末時点で備蓄米は民間の在庫分を含めて150万トン程度あり、9月の天候は平均気温、日照時間ともに平年並みに回復している。また、耐冷性の「ひとめぼれ」への転換、稲穂を低温から守る「深水管理」など品種、農耕の改善が進んでいて、平成大凶作の事態は避けられそうだ。農水省が発表した今年8月15日時点の作柄概況は、北海道と青森、岩手、宮城3県を、93年と同じ「著しい不良」と見た。収穫量を示す作況指数は、籾に実際にコメが稔る状況を調べる「不稔調査」を待たなければ分からないが、東北地方は8月上旬以降、比較的幸運に恵まれ、平均気温が20度を超える日が続いたことから、冷夏が続いた93年の東北地方で作況指数が最終的には56にまで落ち込んだのに比べれば、1部地域を除いて平年に近い収穫が期待できると見られている。

 籾つかぬ「白ふ」現象

 読売新聞によると、宮城県では10年前の主力品種であった「ササニシキ」から耐冷性に「極強」の「ひとめぼれ」に切り替えたほか、顔を出す前の稲穂に花粉が付くよう田の畦を高くし、水の深さを20センチ程度に保って、低温から守る「深水管理」を徹底した。それでも、1部地域では、寒さの影響で稲穂の先端が退化し、籾が付かない「白ふ」現象が見られるという。敏感な市場は早くも品薄感を強め、8月8日に行った自主流通米の第1回入札では、60キロ当たりで徳島産「コシヒカリ」が前年より20%高、熊本産「コシヒカリ」が19%高の高値をつけた。同月26日の第2回入札でも、千葉産「ふさおとめ」が32%高の1万9千701円、福井産「ハナエチゼン」が36%高の2万119円と、わずか1,2回目の入札で2,3割も上昇している。米加州産「コシヒカリ」の古米を日本産「コシヒカリ」に混ぜて売り出す悪徳業者も現れた。そこで農水省は8月中旬、コメの品薄感を解消するため、02年産の備蓄米の1部3万8千トンを売却、供給過剰を避けるため調整保管していた自主流通米も8千トン取り崩した。

 備蓄量は常時百万トン

 同省はさらに、業者の買い占め、便乗値上げなどを防止するためコメ流通関係者6団体とで構成する「コメの安定供給連絡会議」を設立、自主流通のブランド米を色々な形にブレンド(混合)して低価格で安定供給するよう行政指導している。政府備蓄米は、95年施行の新食量法で法的に制度化され、備蓄量は常時100万トン程度の在庫を目標に、10年に1度の凶作や通常程度の不作が2年連続した場合でも、国産米で対応できる水準にある。政府備蓄米は昨年10月末時点で、155万トンあり、内訳は新しい年次から逆に見ると、01年産が7万トン、00年産は37万トン、99年産42万トン、98年産16万トン、97年産38万トン、96年産15万トンで、政府は豊作時には多くの備蓄米を買い入れ、不作時には市場へより多く売り出している。これにより、不作で米価が高騰したり、米不足になる事態を避け、備蓄米制度を武器に食糧を管理してきている。

 保管・処理に膨大な負担

 今年10月時点で見込まれる在庫量は、政府備蓄米が140万トン、民間の自主流通米が10万トンあり、計150万トンで、23万トンしかなかった93年当時とは様変わりしている。政府備蓄米は東京、大阪、愛知など9都道府県に10ヶ所ある政府倉庫と、政府と契約した農協など民間の倉庫約9千ヶ所に分散・保管されているが、80年代まではカビや害虫の発生を抑えるため、薬品による薫蒸を行っていた。だが、古いコメが出す古米臭が問題となり、90年代からは、全量を玄米のまま常時15度以下、湿度70−80%で低温保管している。これだと約2年間は新米と変わらない味が保てるが、保管・処理にかかる財政負担は膨大だ。このため、備蓄米は一定期間保管したコメから先に販売する「回転備蓄方式」を採っており、今年が不作なら、97年以前の“古々米”約50万トンを売却できるメリットもある。――以上が読売の報道や農水省が発表した資料の要約だ。

 WTO交渉も絡む

 日本のコメは、獲れ過ぎると過剰供給で豊作貧乏になる一方、消費者のブランド米志向は根強く、麺類を好む若者の間ではコメ離れが一層進んでいる。農水省は過剰在庫の改善策の一環として、来年4月施行の改正食糧法で、コメの買い入れ、売り渡しをこれまでの随意契約から入札方式に改め、より市場価格を反映できることにした。長年取り続けた減反(生産調整)政策も近く廃止し、農協などが自主的に生産調整するのを政府が支援する制度に切り替えることになる。米国やタイなどは、日本人のブランド米志向に合わせ、「ササニシキ」と変わらないほどのうまいコメに品質改良を済ませ、売り込みの外圧をかけている。その最も大きな攻防が、04年末の妥結を目指しメキシコ・カンクンで開催のWTOの新多角的貿易交渉(新ラウンド)だ。農業交渉のハービンソン議長が示した農業自由化枠組み案は、コメなど高関税品目の大幅な関税引き下げに加え、最低輸入義務枠(ミニマムアクセス)の拡大を求めてきたため、日本、欧州連合(EU)が強く反対していた。

 温暖化など環境保全も

 ところが、EUは8月中旬、米国との2国間協議で妥協案を提示し米側に歩み寄った。日本はカンクン会合で、スイス、ノルウエーなど8カ国・地域と共同で修正案を提出、関税の上限設定などの削除を求めて農業自由化に対する巻き返しを図ったが、日本の孤立化は否めない。米国は、日本がコメ不作で供給不足に陥れば、ますますコメの輸出ドライブをかけてくるだろう。日本のコメ生産農家にとっては二重の苦痛となる。日本は冷夏に苦しんだが、欧州は最高気温が41度を超し、フランスでは1万人以上の人が猛暑で亡くなったという。地球の温暖化で世界的に異常気象が起き、CO2の削減などを決めた京都議定書の実施が強く望まれている。米作問題とは別に森林の育成など環境の保全、自然との共生が今ほど必要な時はない。9月後半は波乱の政局だが、WTO閣僚会合の成功、米価抑制とコメの安定的供給、冷夏被害対策の補正予算や環境保全対策の来年度予算編成などに向けて、私は農業団体の要望が実現できるよう、大いに努力したいと考えている。