北村の政治活動

 第62回(平成15年8月16日) 経済政策の転換を 堀内会長が研修会で講演

 国会は閉会中だが内外の課題が山積、政治には1刻の空白も許さない厳しい情勢が続いている。北朝鮮問題を巡り8月27日開幕の6カ国協議(日米韓中露北)、同じく同月末の04年度予算概算要求締め切り、予算絡みで厚生労働、財務両省が対立している04年の公的年金改革論議、冷夏で10年ぶりのコメ不作、10号台風の列島縦断による被害――。政治の懸案は目白押しだ。いずれも私が専門の外交防衛、農林水産、厚生労働、災害の課題であり、地元での政局講演会を開くいとまもなく金帰火来、いや時には日帰りで党の政調各部会に顔を出し、政策立案に励んでいる。本来ならその模様を私の政治活動としてHPに取り上げたいところだが、次回以降に譲り、政局の焦点である総裁選に我が堀内派がどう対応しているかを報告したい。マスコミは「橋本派内の対立を反映し揺れる堀内派」などと報道しているが、吉田内閣以来の保守本流である宏池会の責任は重く、行動は人一倍慎重だ。

 会長は融和派と連携

 政策集団「宏池会」の生みの親・池田勇人元首相は所得倍増論を掲げ、戦後の混乱経済を高度成長の軌道に乗せた。それは時代の要請に的確に対応したもので、デフレ不況のトンネルから抜け出せない時は、経済政策を転換しなければならない。経済団体主催の夏季セミナーは7月末に全て終了したが、深刻なデフレ状況に危機感を示し、有効なデフレ対策、規制改革、税制改正など小泉改革に多くの注文をつけた。宏池会の堀内光雄現会長は7月27日、自民党の全国研修会で講演し、竹中平蔵経済財政・金融相の経済政策を批判、政策の転換を強く訴えた。堀内会長は橋本派の青木参院幹事長と連携する“融和派”の重鎮。青木氏が人心一新、挙党体制確立の内閣改造を首相再選支持の条件にしているのと同様、堀内氏も竹中氏更迭を含みとした経済政策の転換を、小泉支持の条件としている。

 政策転換求める堀内会長

 一方、橋本派内の“主戦派”の旗頭である野中広務元幹事長に師事する古賀誠前幹事長は、民主、自由両党の合併に危機意識を強め、非主流の統一候補に同期「志士会」の高村正彦、麻生太郎、平沼赳夫氏の中から擁立するしかないと考え、主戦論に傾いていることも事実。とはいえ、宏池会は旧加藤派時代に「加藤の乱」で堀内派、小里派に分裂した苦い経験がある。従って、堀内派内には慎重意見が多く、小泉首相が今月内にまとめるマニフェスト(政権公約)や、橋本派の3候補が月内に実施する政権討論会など他派の動きを十分に見守り、当面は事態を静観することで一致している。保守本流として、政権党を政局の混迷事態から守り抜くことは当然だがらだ。しかし、そう何時までも形勢観望というわけにも参らない。堀内会長も首相再選支持の条件が満たされない場合は、他派の推挽を受け、決然と立つべき時は立たざるを得ないだろう。そこで、政局に臨む堀内会長の「政治への決意」を最後に紹介したい。講演内容が新聞、雑誌に詳報されなかったことは残念である。

 「小泉総理は経済政策の転換を!」と題する堀内講演の要旨は次の通り。

 首相に通じない永田町常識

 (一) [公約の履行責任]小泉首相は「中央公論」8月号で思い切った発言をし、元気がいいなあと感心した。総裁選の公約は国政選挙の公約にするといい、道路公団、郵政事業の民営化を主張したことが党内で問題になり、ある人は[独裁者]といい、ある長老は[ご乱心]といったが、自民党的に考えると確かに極めて不自然な話だ。政調の部会、審議会、総務会に上がってきて党議決定する議院内閣制の枠組みの中では、総理と党の考え方に隔たりがあることは常識的にはありえない。この永田町の常識で考えたら、総理の言い方はもってのほか。しかし、総理は自民党をぶっ潰すといって総裁になったのだから、永田町の常識は小泉総理には通用しないと思う。総理にしてみれば、色々打ち出した改革を仕上げるのが国民に対する責任だと考えるのは当然だ。総理には、就任以来2年余、自分の考える改革は出来なかったとの思いがあり、次の3年間に是非実現しなければ、という使命感を持っていると思う。それを総裁選の公約で打ち出し、「嫌なら私に入れるな。入れる人は私の考えに従ってくれ」というのは永田町では問題だが、一般社会では通用する理屈だ。嫌なら小泉さんに入れなければよい。それだけの話。なかなかユニークで面白い事件だと思っている。

 株を買うのは外人だけ

 (二) [竹中経済政策は間違っている] 株価の反発について、竹中さん(経済財政・金融担当相)は「10日間で30%上がった。昭和27年以来の大変な記録だ。2年間の苦しい状況を乗り切った後の、よくなるサインのように感じる」といった。しかし、株価はなかなか1万円を突破できず、「よくなるサイン」というような楽観できるものではない。4月28日以降、金融機関が2兆円売り越し、生・損保、投信も売り越し、個人でも3兆2千億円を売っている。一方、買っているのは外人だけ。3兆2千億円を買いまくっている。これが株値上りの現状だ。日本人は誰も竹中さんの経済政策を評価していない。実体経済がよくなったと思っている人はいないだろう。竹中さんは大臣就任時、[骨太の方針]に「2年間でデフレを克服する」と公約したが、2年間でデフレは益々ひどくなって日本経済は一層厳しい状態になっている。そのうえ、GDP(国内総生産)は2年前に513兆円あったものが、今は499兆円と14兆円減少した。銀行預金、株式など国民の金融資産は1417兆円から1378兆円に39兆円も減ってしまった。税収は51兆円から43兆円に下がった。土地の値下がり、失業率、自殺者数、ブルーテント数、カード破産とか、どれも悪化している。

 竹中氏は市場中心主義

 何が悪いか。基本的にいうと、経済政策が間違っている。竹中経済政策は市場中心主義だ。効率の悪い会社は競争に敗れて市場から退場、強いものだけが勝ち残る弱肉強食、適者生存のアメリカ式経済だ。日本経済の実態を考えず米国式のグローバルスタンダードをそのまま当てはめようとしただけだ。人間に合わせるのではなく、ベッドに合わせて人間の足を切るから、一部上場の大企業でリストラが出来たところは7割ぐらいの会社が黒字になったり増収、増産、増益で生き残っているが、負けた会社は市場から退場させられている。中小零細事業者は非効率な企業、時代遅れの事業という生産者に分類され、退場する企業に扱われてしまう。だから、日本中の中小企業は、大部分が死ぬ苦しみの経営をし、倒産件数は連続して1万9千件。自殺寸前で店や工場を閉める方は年に20万件ある。老舗、商工業者だとか、ばたばた店をたたんでいるのが現状だ。中小企業白書には74%が負債整理のため自宅を売却していると書いてあるが、倒産原因の40%が貸し剥がし、融資の拒否、または減額だ。金融政策の担当大臣も竹中さんだが、東京の役所で頭の中で考えていては、経済の実態、実物経済はわからない。学者の考えを教室で言う分には差し支えないが、国民生活、国民が命をかけて働いている社会で実験されてはたまらない。だから、私はいつも小泉首相に経済政策を変えてほしいとお願いしている。おそらく総理はその方向で考えて下さると思う。

 消費に始まり消費に終わる

 (三) [消費者・需要重視に政策転換すべきだ]今の経済政策の重心は生産中心にあり、国際競争力強化に重点を置いているが、この考えは今の時代には合わない。私は消費中心の産業政策に転換すべきだと思っている。元来、経済は消費に始まって消費に終わる。消費の動向を見て設備投資や生産量を決めるべきだ。日本経済を振り返ると、明治維新から常に貿易収支の赤字に苦しんできた。大正時代は第1次大戦の4年間だけ戦争景気に便乗して黒字になったが、あとは全部赤字。昭和に入っても、第2次大戦の勃発時から昭和18年までが戦争景気で黒字。しかし、太平洋戦争に入って1年後にまた赤字で、戦後にようやく黒字の兆しが出たのは東京五輪の後だ。貿易赤字に苦しみ抜いてきたから、基本方向として、安い原材料を輸入して、安い人件費で加工して優秀な製品を作る。そして輸出し外貨を稼ぐ。いわゆる貿易立国を目指すのが、明治維新以来、日本人の頭に植え付けられた考え方だ。だから、生産に重点を置いて消費や需要を海外に求めることにしてきたし、貿易紛争が起きて米国やその他の国から何回も圧力が掛かってきた。

 輸出は国内消費の僅か1割

 ところが、現在はもう時代が変わった。昭和51年以降、国際収支がよくなり、世界でも1番貿易黒字の多い国になった。といっても僅か25年間程度だが、黒字大国になったら何をするかという心構えが出来ていない。GDP約500兆円に対し、輸出は皆かき集めても50兆円で、国内の消費に対して輸出は僅か1割でしかない。この1割を最重点にした経済政策が今もずっと続けられている。だから、私は国内需要、国内消費を重視しなければやっていけない時代になったと考えている。<中略>従来の生産本位の政策から消費本位の政策に切り替えなければ、日本の経済は何時までたっても沈滞してしまう。消費本位の政策の中心は、GDPの中でも60%を占める個人消費だ。これを伸ばすことを考えなければ経済は活性化されない。その基本になる経済政策自体が間違っているのだと私は思う。

 中小企業が99%占める

 (四) [中小企業は消費者だ]消費者中心の経済政策とは、弱肉強食でなく助け合う社会、共生の経済政策に転換することだ。日本経済の繁栄は、総企業数160万社の99%を占める中小企業が、ソニーのように伸びてきて、経済を支えてきたことにある。NHKの「プロジェクトX」を挙げるまでもなく、私は日本経済の源泉が中小企業にあると考える。就業者の88%にあたる約560万人が中小企業に勤めている。最大の消費者を抱えているのが中小企業だ。その中小企業を潰して失業者をどんどん増やし、消費者を消費から追い出して、皆さんの保険料と税金で失業手当を払って救済することになる。生産に従事し、生産から所得が流れて消費に繋がっていくのが一番の原則だ。失業手当はセーフティネットとして当然いいが、そこには生産がない。生産がないと経済の拡大には繋がらず、日本経済は成長しない。失業手当で救済できても、消費は益々悪くなる。

 伸びた芽を見つけ育てる

 私のいう中小企業支援は、既存の企業の中で順次積み重なって伸びてきた色々の芽を、見いだし育てていくことだ。例えば、眼鏡が曇らないようにする研究を地方の大学と一緒にやってきた中小企業の工場がある。試作品もでき、大量生産するために経済産業省にお願いに来た。そこで申請したら審査が通り、販売の弾みがつき、自動車のウインドガラスにも使えるようになってきた。経産省の1億円足らずの予算だが、いい研究の助成を受けた企業の多くがどんどん成功して進出している。同省の中小企業地域新生コンソーシアム研究開発事業というもので、全国から年間2千〜3千件の応募がある。ところが、予算は経産省の部分だけだと300億円しかないから、要望した企業の10%足らずしか助成できない。しかし、先に挙げた眼鏡開発の企業など15%が成功しており、2〜3年のスパンで積算すると、1千億円の投資で1兆6千億円の経済効果が見込めている。このように地方でコツコツと努力中の産学連携の技術支援を大々的に行えば、低迷する地方の活性化も出来よう。

 中小企業に微々たる助成金

 我が国の研究開発費は、全体で3兆5444億円。その中で地域企業への助成金は経産省300億円、文科省100億円で計400億円。研究開発費全体の0.01%しか中小企業には助成されていない。将来を眺めた基礎科学に力を入れるのは当然だが、すぐに実用化される中小企業の研究、地域企業の研究に資金を振り向けることが国を富ませる経済政策として必要だ。希望を失いかけた地方の中小企業経営者に、意欲を持ってもらうことが今後の日本経済発展のカギを握る。地方重視、中小企業重視の産業政策は地味だが、圧倒的な企業数があり、地域も3千ぐらいの都市があるから、そこに種をまいて育てていく。中小企業の育成が消費中心の経済政策へ転換する第一であり、大工場が2つや3つ出来るのとは違って、もっと大きな生産と雇用を生み出すことになる。

 転換すれば全力で支える

 (五) [経済政策の目的は国民を豊かにすることだ]明治時代に大久保利通は「国民が豊かになることが富国だ」といったが、私も同感で、そのように考え方を転換しなければならない。<中略>首相は所信表明の中で、明治維新に匹敵する新世紀維新を断行するといわれたが、私は心から賛意を表している。しかし、明治維新でも西欧から直輸入した経済政策が国情に合わなくて国内は大混乱し、国民生活も困窮した。一方では鹿鳴館がありながら、もう一方では大変な経済貧困を生み出した。そして、国内の需要は低迷し、従来の国内需要向けの産業はどんどん衰退してしまった。それを大久保利通が殖産興業政策を打ち出し、内務省を作って在来の産業を改良し、生産力を高め、国民の生活力を高めていった。それが和魂洋才の考え方で、日本人の共生の精神や考え方、魂に、西欧の技術や考え方を取り入れていった。それによって初めて、明治時代には成果を上げることが出来た。これからの日本は、今日お集まりの若い方々によって良くなると思い、大いに期待する。最後に、小泉総理が経済政策を転換して下されば、全力で支えていく覚悟だということを改めて皆様にお約束する次第である。