北村の政治活動

 第61回(平成15年8月1日) WTO農業交渉で質疑 関税で米国の厚い壁

 イラク、北朝鮮が保有すると見られる大量破壊兵器の拡散防止で米英と日本は一枚岩だが、農林水産問題では、米・豪と日・EU(欧州連合)が対立するなど先進国の足並みがひどく乱れている。6月にドイツ・ベルリンで開かれた国際捕鯨委(IWC)の年次総会は、商業捕鯨の再開を期待する日本の主張に米欧は耳を貸さず、逆に保護委員会の設置を決議した。世界貿易機関(WTO)の農業委特別会合も、6月26日〜7月1日、同16〜18日の2回、スイス・ジュネーブで開かれたが輸出入国間の対立が解けず、9月にメキシコ・カンクンで開催の第5回閣僚会議に結論を持ち越した。04年末までに新多角的貿易交渉(新ラウンド)は合意できるだろうか。農水業は安全保障とともに国政の基本である。WTO問題は先のホームページで、ハービンソン農業交渉議長案などを詳しく取り上げたが、農水業界の不満と悩みは大きい。衆院農水委員会は7月10日、JA全中(全国農協組中央会)の宮田勇会長ら3氏の参考人質疑を行い、私がトップに立って質問した。

 多面的機能を反映

 宮田会長は、ハービンソン議長案について、「関税の大幅引き下げやミニマム・アクセス(MA=最低輸入機会)の大幅な拡大を盛り込むなど、輸出国に偏った内容で絶対に受け入れられない」と批判、輸出入国のバランスが取れるよう、農業の多面的機能反映などの主張を続けていくことを強く訴えた。次に全国森林組合連合会の飯塚昌男代表理事会長は「大幅な関税の引き下げや撤廃が進むと外材輸入量が増え続け、日本の林産業は決定的打撃を受けるし、地球規模の環境問題の解決が困難になる」と述べ、林産品の関税撤廃は断固拒否すべきだと強調した。最後に全国漁協組連合会の植村正治代表理事会長は「水産物の自由化は漁獲競争に拍車をかけ、再生能力を超えた乱獲や環境破壊をもたらし、輸出入国の双方に被害を生む」とし、各国が共存できる貿易の仕組みを作るよう主張した。

 議長案は産業基盤失う

 これに対し私は、「ハービンソン議長案を受け入れると日本農業は産業基盤を失う」、「農業が持つ国土保全など多面的機能が喪失すればその影響は計り知れない」、「2国間の自由貿易協定(FTA)は、我が国の農業・林業・水産業を脅かすとの危機意識を持つ」などと、農業交渉の実態を私なりに分析したうえ、
@ 全中は国際的な農業団体との連携をどう展開するか
A 具体的な行動面で国会、政府に対する要望は何か
B 林業の持続的発展には林産物にかかる関税の設定はいかにあるべきか――などを質すとともに、カンクンの第5回閣僚会議などでの亀井善之農水相の活躍を激励、我々国会議員が関係団体と共同歩調をとりWTO交渉を成功させたい、と支援のエールを送った。宮田会長は「日本提案を実現するには多数派形成が重要であり、関税は品目ごとの柔軟性を確保できるウルグアイ・ラウンド方式を採用すべきだ」と答え、加盟国への議員外交を展開してほしいと要望した。

 7月10日の衆院農水委委会で、私が関わった質疑応答は次の通り。

 食料安保や環境保全に配慮

 北 村 WTO(世界貿易機関)農業交渉についてまず宮田参考人に聞きたい。農業交渉は3月末のモダリティー(保護削減の基準)を確立することが出来ず、9月にメキシコのカンクンで開催の第5回WTO閣僚会議に向けて、農業委員会特別会合などの場で議論されている。モダリティーについての我が国の主張は、食料安全保障や国土環境保全などの非貿易的関心事項に配慮して、農政改革の進捗に合わせた漸進的な緩やかな保護の削減方式にあると思う。しかし、交渉の触媒と位置づけられたハービンソン議長のモダリティー案は、我が国にとって大変厳しく、これを受け入れると日本の農業は、産業として存在できないほどの影響を受けることは必至だ。さらに、農業が持つ国土保全、その他の多面的機能が喪失すれば、その影響ははかり知れず、我が国がこの案を到底受け入れられないことは明白であると私も認識している。一方、外国は自国の農業を守ることを最大の国益と位置づけており、米国は、国内農業保護のため、2002年農業法で不足払いを復活させるなど、なりふり構わぬ措置をとる半面、WTOの農業交渉では保護の削減を主張しており、言動がまるで正反対ではないかと思う。こうした中でEUは、EUの共通農業政策(CAP)改革が、本年6月26日の農相理事会で政治的合意に達したということだ。これは、今後の農業交渉の新たな展開の兆しとも考えられる。
 そこで尋ねたい。農業団体の皆さんの役割は大変重要であり、全中は国際的な農業団体との連携、あるいは国内の理解・協力を求める運動を展開しているということだが、この交渉は、関係者が一丸となって当たらなければ、我々が主張する方向は一歩も進まない。私ども国会、政府に対し、農業団体を代表する立場から、具体的にこう行動してもらいたい、あるいは、こうした活動が有効であるとの考えがあれば聞かせてほしい。
 そして、WTO交渉が進まない中で、2国間の自由貿易協定、例のFTAがある。この動きが我が国の農業、林業、水産業を脅かすとの危機意識を私も持つ。5月30日に今日おいでのお三方が連名で声明を発して警鐘を鳴らされたが、これは大変重要で、FTAのみならずWTOにも深く関わる。この辺も含めて意見を聞かせてほしい。

 加盟国の仲間づくり重要

 宮田勇・全国農協中央会会長 まず第1点は、WTOの農業交渉では、多国間で共通したルールづくりを目指す場であると思うし、日本提案を実現するには同じ主張を行う加盟国政府との仲間づくり、多数派の形成が極めて重要であると認識している。関税については、品目ごとの柔軟性を確保できるウルグアイ・ラウンド方式を採用すべきで、このための仲間づくりが大変重要になる。現在、WTO加盟146カ国のうち、過半数の76カ国がウルグアイ・ラウンド方式を賛成・支持しており、これらを大きく増やして行くことが重要な点であろうと思う。議員外交によってさらに拡大することをお願いしたいし、例えば、ウルグアイ・ラウンド方式を支持する政府間会議を開催するといった取り組みをぜひお願いしたい。対外的な取り組みと同時に、国内の理解と協力を得ることも極めて重要だ。JAグループも、多様な国民各層と連携したフォーラム開催などに取り組んでいるが、国会、政府もWTO交渉に関わる国民の理解促進と合意形成に、一層のご尽力をお願いしたい。

 第2点のWTOに関連したFTAの問題。これも非常に重要なご指摘であって、今、2国間のFTA推進のために農業が犠牲になるのもやむを得ないといった考え、論調が一部にあると認識しているが、こうした考えは、いたずらに国内の混乱を招くと思う。我々は2国間のFTA交渉を否定するものでは決してない。それらはWTO日本提案の基本である各国の多様な農業の共存を実現するものでなければならない。つまり、FTAは当然、WTOにおける日本提案との整合性が必要で、その内容を十分踏まえてFTAの交渉をすることが一番重要であると思う。そのために、自給率が低い現状や品目の特殊性、重要性を十分に検討する必要があり、これは既にFTAの交渉をしている他の国でも実際にあることだけれども、国内農業に影響が大きい農産物を初め重要品目については、関税撤廃の例外を設けるべきだと私どもは考えているので、ひとつご理解を頂きたい。

 林業の持続的発展策は

 北 村 私の基本的な考え方は今述べたので、飯塚参考人には単刀直入に質問したい。林産物に関する関税は、どんな考え方で設定されるべきか。関税がゼロになる、あるいはさらに引き下げられるようなときに、先ほどの多面的機能の発揮、林業の持続的な発展、森林・林業基本法の理念というものの実現について、どんな影響があるか、具体的に聞きたい。

 放置林で山村崩壊

 飯塚昌男・全国森林組連合会代表理事会長 昭和36年に門戸を開き、貿易が自由化された。自来、だんだん関税率が引き下がった結果として、現在では82%が外材で占められている。土地政策では、土地を手に入れることで精一杯だと住宅を作るにしても安かろう悪かろうの外材で我慢しなくてはならない。そんな考えが先行した結果だと予測しているけれども、非常に残念な結果を招いている。それが山村の崩壊に繋がり、そろばんに合わないからやらずに放置林が生まれてしまい、今日の山林振興が大変大きなダメージを受けている。外国の状況と日本の置かれた立場を考えるとある程度はやむを得ないが、これ以上後退することは、手入れの行き届かない林分が多くなるに従って、多面的機能の発揮が求めにくい状況下に置かれてしまう。国民が求める澄んだ空気、水資源、国土の保全、教育の場所提供等々が滅んでしまう。もっと大きな問題は、京都議定書で日本が世界に約束したCO2の固定を6%、そのうち3・9%を森林からやりますという約束も守れない状況下に置かれる。従って、これ以上の関税率の引き下げ、あるいはゼロ・ゼロみたいな一方的な要望に対しては、ぜひ阻止して頂きたいし、現状維持で進んで頂くようお願いしたい。もっと言えば、関税を上げて頂くようにやってもらえば、これに越した喜びはない。

 農水、経産省の連携重要

 北 村 植村参考人に尋ねたい。今回のジラール(スイス大使=林産・水産品を含む非農産品市場アクセス・グループ)議長案は、水産物と同様に関税撤廃の品目として挙げたものの中に、皮革その他の鉱工業製品も含まれている。これらは経済産業省の所管だが、今後は農水省と経産省が連携をとって当たる必要があると考える。ジラール提案の評価について確認したいので、さらに具体的な意見があれば、先ほどの意見の追加として聞きたい。鉱工業分野との連携について、今後の交渉でどのように連携していくか示して頂きたい。

 前年比30%の魚価低落

 植村正治・全漁連代表理事会長 私は非農産品交渉に関わる外国の反応を見てきたが、1999年にはケベック、そして横浜、ソウル、セブ等々で毎年、柔軟性のある貿易ルールの策定、節度ある貿易の確立が地域産業に不可欠の要素を持っているということで、色々国際会議での決議をしてきた。この点では、生産者団体においては同一の考え方をしている。しかし、貿易業者の声が強い国では生産者の声が反映されないし、組織としてそこまでのウエートを持っていない国が多いわけだ。我々はそういう国々も訪問し、友好国づくりに一生懸命努力した結果、それぞれ多くの賛同を得ている。地域産業、漁業のあるべき姿として、無限の貿易関税、ゼロは絶対反対だ。漁業不信の原因は、我が国の生産額と輸入水産物の量がほぼ匹敵する状況になっており、我が国生産の魚価が低落してきたからだ。前年対比で30%の低落を見ている魚種もある。この結果は、資源管理型漁業の推進を根幹としてきた水産基本法を根底から揺さぶるものだ。
 また、ジラール議長案は、ドーハ閣僚宣言の総則にある持続可能な開発を無視したもので、一旦ペーパーとして出された以上、この要素案が今後のモダリティー決定に重要な役割を果たす可能性が大きいと思う。我々業界は、死力を尽くして反対しなければならないということで、漁業者の緊急集会も開催した。WTOのルールは、輸出国と輸入国に公正なものでなければならない。このような提案は漁業の実態、漁村の在り方にあまりにも無知な点があると思うほどで、漁業に対する影響は極めて重大な要素になると認識している。

 エール交換し頑張ろう

 北 村 実は今日11時過ぎには、亀井善之農林水産大臣もアメリカ、カナダに向け出発する。この両国は、残念ながらWTO交渉では衝突することが多いようだが、お三方の申された趣旨と、大事なポイントを踏まえて交渉されるよう、農水大臣の仕事ぶりを注視したいと思う。お三方は大変苦しい事情にあろうが、本当に国益に沿うよう、将来の国民のために、ぜひそれぞれの分野でご活躍をして頂きたい。特に昨日は、WTO危機突破全国漁民緊急集会のデモ行進が行われ、私どももエールを交換したわけだが、今後とも共々に頑張って参るので、健康に留意され、ご活躍のほどをお願い申しあげ、私の質問を終える。