北村の政治活動

 第59回(平成15年7月1日) 21世紀は水の時代 減反政策継続でよいか

 「北村からのメッセージ」では鬱陶しい梅雨空を書いたが、21世紀は水不足の時代。今年ほど日本列島が雨に恵まれた年はなかろう。4月16日のホームページに、私は京都で開催された「世界水フォーラム」を取り上げたが、それを読んだ親しい政治記者から、同フォーラムに関与したレスター・ブラウン地球政策研究所長の講演メモが届けられた。「水の不足は食糧の不足へ」と題する講演の骨子は、
@ 中国、インド、米国の3大穀倉地帯や中東、メキシコでは灌漑用水を汲み上げるため、地下の水位が急速に低下している
A 中国は早晩、世界最大の穀物輸入国となり、生産地である米国の消費者と穀物を奪い合うだろう
B 中東での今後の戦争は石油ではなく水を巡る戦争になろう
C 灌漑用水のシステムを向上させ、都市用水をリサイクルするなど水の生産性を高める必要がある――という内容。

 中国が最大の穀物輸入国

 中国最長の大河、長江(揚子江)をせき止める国家的プロジェクト・三峡ダム(湖北省)は6月1日から貯水を開始した。09年完成予定の同ダムは、上流での森林乱伐の結果、多発するようになった大洪水の防止と水運、水力発電により内陸部開発の拠点とするため93年に着工された。だが、専門家の間では、長江の浄化能力低下、下流域での水不足、とりわけ農業灌漑用水の枯渇など、環境面への影響が懸念されている。ブラウン氏が指摘するように、中国の穀物生産が減退し、世界最大の穀物輸入国に転じ、穀物価格が高騰したらどうなるか。日本は30年以上も国の主導で続けてきたコメの減反政策を08年度にも廃止し、生産者の自主的な生産調整制度に移行する。減反政策は昭和40年代半ば、コメが大量に余り、買い上げる国の財政に深刻な影響を与えたことと、自主流通しようにも生産コストが高く、米国やタイなどの輸入米と太刀打ち出来なかったことから促進された。

 食糧安保論議再燃へ

 この結果、69年に317万ヘクタールあった作付面積は、01年に170万ヘクタールまで減少した。豊富な食物、食生活の欧米化などで、コメの消費は減る一方だった。しかし、今世紀半ばに世界の人口は30億人の5割増で、93億人になると予想されるし、世界的な水不足で食糧市場の高騰が不安要因となる。いずれ食糧安全保障論議が再燃しよう。山口県など各県ではコメ文化フォーラムが開かれているが、減反で荒廃した休耕田をどのように修復し、傾斜地に開けた日本特有の美しい柵田をどう保全していくか。農業後継者の不足をいかに補うか。農林水産議員として、また、自民党の「おいしい水」推進議員連盟(橋本龍太郎会長)の1員として、私の活動分野は極めて広い。ブラウン氏の講演は3月20日に日本記者クラブで行われた。本来は転載禁止だそうだが、記者会見の形をとった公的発言であるため、その要旨をご紹介させて頂く。事後承諾をお許し願いたい。

 <レスター・ブラウン氏略歴> 1934年米ニュージャージー州生まれ。ラドガーズ、ハーバード両大学で農学、行政学を修める。米農務省国際農業開発局長を経て、ワールドウオッチ研究所を創設。84年に「地球白書」、92年に「地球環境データブック」を同研の年次刊行物として出版。89年には「ワールドウオッチ」を創刊した。現在、同研究所理事。01年にアースポリシー研究所を創設、所長に就任。

 ブラウン氏の講演要旨は次の通り。

 帯水層の枯渇進む

 (1) この50年間で世界の水需要は3倍に増えた。ディーゼルや電気で水を汲み上げるようになって各国の帯水層がどんどん枯渇、地下水が低下している。一度帯水層が枯渇すると、食糧が作れなくなる。3大食糧生産国の中国、インド、米国を初め多くの国々でも帯水層の枯渇が進み、食糧のバブル経済を作り出している。上記の3カ国で世界の穀物生産量の半分を生産しているが、米国に比べ中国、インドの灌漑農地の割合が非常に高い。中国では穀物の70%が灌漑農地から生産され、インドは50%、米国は20%以下だ。中国の北部、華北平原は小麦の半分、トウモロコシの3分の1を生産しているが、90年代半ばに地下水位が年間に1・5〜3メートルも低下し、深刻だ。帯水層の持続可能な再補給量を超えると、汲み上げ過ぎの幅がどんどん大きくなる。井戸が枯れて初めて分かる。

 カナダの穀物生産に匹敵

 (2) 黄河と同様、淮河も北京と天津に水を供給しているだけに水不足は深刻、米の生産が出来なくなっている。数年前に周辺農家は貯水池からの引水を禁止されたが、10年以内にはこの河の水すべてが工業・都市用水として引かれてしまい農業用水に回せなくなる。中国では小麦、コメ、トウモロコシの3種類で穀物生産の95%、生産量は1億トン以上になるが、水不足の影響を最も受けるのが小麦だ。小麦生産量のピークは97年で1億2千万トン、それから6年間減り続け、今年は8千8百万トンにまで下がると見られる。穀物生産高のピークは99年で3億9千万トン。それ以来、下がって現在は3億4千万トンほどだ。この減ってしまった5千万トンはカナダ1国の穀物生産量に等しく、またカナダと豪州の穀物輸出量の合計に匹敵する。中国は穀物減少分を備蓄から取り崩しているが、早晩、世界市場に穀類を求めることになろう。そうなると世界最大の穀物輸入国となる。

 米国の食糧価格は高騰

 (3) 現在、世界の穀物輸出量の半分は米国からのものだが、13億人の中国の消費者が8百億ドルの貿易黒字で米国生産の穀物を米国消費者と奪い合うことになれば、米国での食糧価格は必ず高騰する。世界の中で今、唯一伸びているのが中国経済で、世界の経済を動かす機動力、原動力だ。米国は自国の穀物価格が上がっても、自国の穀物を中国の人々と共有し、分け合う状況にならざるを得ない。インド北部の穀倉地帯、バンジャブ州でも地下水の汲み上げで地下水位が低下している。だが、インドは中国のように外貨を稼いでいないから、穀物の輸入が非常に難しい。米国南部のグレートブレーンズや南西部でも、人口の多いカリフォルニアでも水不足状況が起きている。サウスダコタ州からテキサス州までは、水を再補給出来ない化石帯水層だ。そのような土地では灌漑を辞めて、雨に頼る農業に戻らざるを得ず、収穫量は2分の1になる。

 工業用水は農業の70倍

 (4) パキスタンやイラン、イエメン、メキシコなども水不足に悩んでいる。イエメンは毎年2メートル、首都サヌアがある盆地は年間6メートルの勢いで地下水位が下がっている。イエメン政府は、油井に匹敵する2キロの深さまで井戸を掘ったが、水を発見出来なかった。このままでは10年内に首都の水がなくなる。ディーゼルや電動ポンプで、人間はこの50年間に帯水層を枯渇させるほどの能力を手にしたが、灌漑農業は6千年前から行われている。であるのに、農業地帯と都市部の水争いが激化すると、農業が常に負ける側に立つ。その理由は一目瞭然だ。1千トンの水で1トンの小麦が作れ、その収入は2百ドルぐらいだが、同じ1千トンの水を工業の生産に使うと、農業の70倍の1万4千ドルに値する。だから経済の発展や雇用の創出が目的なら、工業用水に使うのが自然な流れだ。

 水千トンで穀物1トン

 (5) 水不足は国境を超える問題になってきたが、最も効率よく水を輸入する方法が実は穀物の輸入だ。水1千トンで穀物1トンを作ることが出来るので、穀物の形で水を大量に輸入している。昨年、北アフリカと中東が輸入した穀物の量を、使用した水の量に換算すると、ナイル川の年間流量に値する。今後の中東での戦争は石油ではなく水を巡る戦争になるとよく言われる。中東での水争いは、世界の穀物市場という土俵で戦われようが、軍事的な強さよりも、財政的に強いか、裕福かどうかで、戦争の勝敗が決まろう。穀物の先物取引は水の先物取引を意味し、穀物は各国間の水不足のやり取りをする時の通貨の役割を担いつつある。現在、川から引水したり、地下から汲み上げる水の70%は灌漑用水に、20%が工業用水に、10%が都市用水として使われている。今や世界各地で、水の生産性をシステマティックに向上させなければならない。

 水の生産性改善の時期

 (6) 水の生産性を改善するには、農業の灌漑効率を高め、下水を含めた都市用水のリサイクルを充実させなければならない。私たちが飲んでいる水は、当然一時は下水の形をとったこともある水で、何度も地球の中を循環している。飲むに相応しいほどクリーンにリサイクルされたかどうか。これからはある都市で何度もその都市の中の水だけを使い回す方向に進んで行くことになろう。世界各地で河川が干上がっている事実を考えると、世界のあらゆる経済、国で、水の生産性を引き上げることに取り組む時期に来ていると思う。