北村の政治活動

 第58回(平成15年6月16日) 三位一体の財政改革 3すくみの攻防打開

 地方財政の「三位一体」改革は、審議の大詰めを迎えている。小泉改革の大きな柱である地方行財政改革は、首相が昨年6月、地方交付税と国庫補助負担金の削減、国から地方への税源移譲を「三位一体」で進める方針を打ち出したことに始まる。それから1年、地方分権改革推進会議(首相の諮問機関、西室泰三議長=東芝会長)が6月6日、ようやく改革の意見書を提出、これを受けて政府は今月下旬に経済財政諮問会議で具体案を決定する。「地方で出来ることは地方へ」と首相が意気込む地方分権の改革だが、税源移譲を巡る財務、総務両省の対立に加え、補助金削減を阻止したい関係省庁が“3すくみ”の状態で抗争、閣僚折衝は難航している。自民党団体総局の地方自治関係団体副委員長を務める私としては、地方議員の経験を生かして、うまく着地出来るよう努力したいと考えている。

 地方分権会議が迷走

 地方財政は今年度だけで約17兆円もの赤字国債や地方債に頼る危機的状況。3改革は必要だが、改革には「総論賛成、各論反対」が付きもの。総務省と地方自治体は、「分権が進めば仕事が増え、自主財源を確保する必要がある」と税源移譲を強く主張、自治体間の収入差額を埋める交付税削減には反対、中央のお墨付きを得る形の補助金削減にも抵抗する。財務省は、地方交付税と補助金を削減することで財政再建のテコ入れを図ろうとし、税源移譲には慎重姿勢。文科省など関係省庁にとっても補助金の削減は、既得権益が奪われ、地方への支配・関与が減るだけに激しく反発する。しかし、首相は「省益打破で政治決着を」と関係閣僚に指示、同一テーマを複数の機関に諮問するなど、いわゆる“小泉流丸投げ”の姿が目立った。このため、総務省寄りの地方制度調査会(諸井虔会長)、財務省支援の財政制度審議会などが続々と意見書を提出、政府内の調整は混乱を極めた。特にひどいのは、両省の系列委員の内部対立が表面化した地方分権改革推進会議の迷走ぶりだ。

 先送り怒り辞任要求

 迷走の発端は、地方分権推進会議の水口弘一議長代理が5月14日、「税源移譲を含む税源配分の見直しは国税、地方税とも増税を伴う税制改革の中で行う」と、税源移譲を事実上先送りし、補助金と交付税の大幅削減を先行する意見書の試案を提示したことだ。これは財務省の差し金と受け取られ、委員の神野直彦東大教授が「地方分権のための改革ではなく、行政改革しか意識していない」と反論したほか、谷本正憲石川県知事らが対立した。地方自治体も地方より国の財政再建を優先する案だとして一斉に反対、片山虎之助総務総が西室議長と水口議長代理の辞任を要求すれば、西室氏らは「我々の任命権者は首相だ」と応酬する一幕もあった。結局、推進会議は最終案を一部手直しして6月6日、「三位一体」改革の意見書を首相に提出したが、「将来の増税時に先送りする」との基調は変わらず、委員11人のうち、谷本知事ら4人が「意見書に反対」を明記、1人が態度を留保した。

 11項目の補助金削減

 意見書は「税源配分は税制改革時に先送り」のほか、
@ 国庫補助負担金は中長期的には廃止・縮減
A 地方交付税は地方歳出を徹底的に見直し、総額を抑制
B 自治体間の財政格差を調整し、都道府県を課税主体とする「地方共同税」(仮称)は中長期的地方交付税改革の1つの選択肢
C 課税自主権が活用されやすい制度改革を検討――など地方の歳出削減、税収確保の自助努力を骨子としている。国庫負担制度では、公立小中学校の教員給与などの半額を国が補助する義務教育費や、国が運営経費の半額を補助する保育所運営費など11項目の補助金を減らして自治体の一般財源からの支出に切り替える「一般財源化」などを重点項目に挙げている。義務教育費の見直しは、地域の実情に合わせて教員配置などを工夫でき、自治体の裁量が広がるメリットがある。これには文科省が強く反対した。

 塩川財務相のくさい球

 この迷走劇の最中、塩川正十郎財務相が投げた“くさい球”がたばこ税、酒税、揮発油税の税収の1部を地方税に移す構想。03年度の国の税収見込額は、たばこ税9170億円、酒税1兆7330億円、揮発油税2兆1330億円の計4兆7830億円で、税収全体の1割強を占める。たばこの税収は総額で約2兆円あるが、半分の約1兆1千億円が既に地方に配分され、残り半分(約9千億円)の国税分のうち25%が地方交付税として自治体に配分されるなど、地方税の色合いが強い。だが、酒税と揮発油税はともに、酒造業者や石油精製業者が出荷段階で課税される「蔵出し課税」で、酒や石油の工場がない地域では税収が望めないため、地域差が生じるとして反発があった。揮発油税は道路特定財源であり、移譲するには道路建設に対する国と地方の役割分担を大幅に見直さなければならず、これまた厄介な問題が起きる。財務省内では「受益と負担の関係が明確になることが地方分権の望ましい姿だ」と、塩川構想が独り歩きしないよう消極的意見が唱えられた。

 交付税の権益堅持

 これに対し、片山総務相は、補助金削減で浮く所得税3兆円と消費税2・5兆円を、地方財源の基幹税目である個人住民税と地方消費税に振り向けるよう提案している。自治体間でのばらつきが小さく、移譲額も大きくなるからだ。これは地方制度調査会の意見書に沿ったもので、同調査会はほかに「地方交付税の財源調整・保障機能は重要、その1部は地方税へ振り替えるべきだ」と総務省権益の地方交付税を堅持する姿勢を打ち出すとともに、補助金についても「[改革と展望]期間(06年度)中に数兆円規模を削減、存続するものは統合補助金化すべきだ」と、同省寄りの意見書をまとめている。また、経済財政諮問会議の民間議員、本間正明阪大教授は、「06年度までに補助金を6兆円以上廃止・削減し、04年度予算でその3分の1程度実現。圧縮される補助金の7〜8%をメドに税源移譲。地方財政計画の歳出規模を今後3年間で6%程度削減」する独自案を発表している。さらに、塩川財務相の諮問機関・財政制度審議会は地方財政改革に関連し「国が抱える約5百兆円の長期債務の1部を地方が肩代わりする」よう求める意見書をまとめている。

 保育・教育一元化浮上

 一方、補助金の削減に対し国土交通、厚生労働、文部科学省などは、与党の部会族議員の応援を得て強く抵抗、関係省庁の事務次官級協議でも各省の利害や思惑が絡み、ほとんどがゼロ回答と暗礁に乗り上げたままだ。文科省は、小中校の義務教育費を見直した場合、国の関与が薄まるばかりでなく、地方が一定の教育水準を保てるかなどの懸念を示した。地方への補助金で地方をコントロールしてきた厚労省も保育所の負担金削減には強く反発した。こうした役所の抵抗から「三位一体」改革の一環として浮上したのが、小学校入学前の児童を対象とした保育所・幼稚園の総合施設構想だ。保育・教育を一元化した総合施設は、厚労省所管の保育所と文科省所管の幼稚園の両制度を超えた新しい施設を作り、働く女性の悩みであった長時間育児を肩代わりするもので、少子高齢化対策にも役立つ。政府は経済の集中調整期間である[改革と展望]期の06年度までに方向付けしたい考えだ。

 補助金2兆円削減

 「三位一体」改革を含めた小泉改革の「骨太の方針第3弾」は23日に決定するが、財務、総務両省は、本間教授の独自案などを踏まえ、焦点の国庫補助負担金削減については、06年度までに全体の1割強の2兆円超を減らす方向で調整に入っている。その整理合理化に向けて、04年度予算から具体的な数値目標を設定して削減する。同時に地方の独自財源を増やすため、たばこ税の国の税収分約9千億円を税源移譲、次いで07年度から消費税率引き上げや他の税目など2段階方式の税源移譲を検討している。塩川財務相は4日の衆院決算監視委員会で「国の所得税を減税し、その分を地方が住民税として徴収するやり方もある」と発言、やや柔軟な姿勢に転じている。しかし、国庫補助金は社会保障関係(厚労省)が6割、文教関係(文科省)が2割、公共事業関係(国交省)が2割弱を占めていて、削減には各省の抵抗が強く、関係閣僚の調整は最後まで難航しそうだ。

 地方分権に相応しく

 「使途の無駄を省けば削る補助金額の80%を税源移譲するだけでやれる」(片山善博鳥取県知事)と言うように、「三位一体」改革の狙いは、地方が補助金や交付税という国の財源に頼る割合を極力減らして地方税中心の仕組みにし、住民が自治体の公共サービスの質や量を高めることにある。だが、地方分権の時代に相応しく、地方は自己責任と自己決定権、実行する人的能力を併せ持っているだろうか。地元教育界からの陳情では「義務教育費の削減は地域格差が生じ,地方の教育を混乱させる恐れがある」として、現行制度の堅持を要請してきているのが現状だ。通り一遍の地方財政改革ではなく、地方の実情を点検し、多くの課題を十分に調整し、豊かな地域社会を構築していかなければならない。地方行財政改革の結論を出す日が刻々と近づいているが、私は党の関係部会で大いに議論し、最良の策をまとめたいと思っている。