北村の政治活動

 第56回(平成15年5月16日) 個人情報保護で質議 プライバシー保護質す

 今国会の焦点の1つである個人情報保護関連5法案は、5月6日の衆院本会議で与党3党の賛成多数で可決、参院に送付された。2年前に提案され、一旦廃案に追い込まれるなど曲折をたどった5法案は、今国会での成立が確実となった。野党4党の対案は否決された。小泉首相は「各党の理解で審議が順調に進み、個人情報の保護と言論の自由が両立して良かった」と手放しに喜んでいる。しかし、昨年5月に、防衛庁が情報公開請求者の思想信条調査リストを作成していたのに加え、今回は自衛官募集の適齢者情報を住民基本台帳から抽出し、健康状態や職業など純然たるプライバシー情報まで自治体に提供するよう要請していたことが審議中に発覚した。そうした経緯もあって、採決の衆院本会議では、衆院個人情報保護特別委の委員長報告に対し、各党が3時間にわたり補足的な討論を行うほどの念の入れようだった。

 “官に甘く民に厳しい”か

 前回のホームページで報告した通り、私は自民党を代表し採決に先立つ4月21日、トップを切って参考人意見聴取に対する質疑を展開した。参考人は堀部政男・中央大法学部教授、宇賀克也・東京大大学院法学政治学研究科教授、田島泰彦・上智大文学部新聞学科教授、清水勉・日弁連個人情報保護問題対策本部事務局長の4氏で、15分ずつ意見を述べた。堀部教授はプライバシー保護の世界的権威で、欧米各国の保護システム、ガイドラインについて意見を開陳した。また、宇賀教授は、行政機関が保有する個人情報の保護に関する法制度を中心に意見を表明した。これに対し、私は
@「プライバシーの保護」と「表現の自由」の両立
A 政府案と野党案の比較
B 苦情処理システムと第3者機関
C 自己情報コントロ−ル権の問題点
D“官に甘く民に厳しい”とされる法制――などについて質した。
堀部教授には「プライバシーの保護と表現の自由」が果たして両立されているかどうかを、宇賀教授には「行政機関保有の個人情報」の重要性に絞って質問しました。

 第三者機関設置は否定

 堀部教授は答弁で、「基本5原則を削除したことで、民間事業者は法的ルールが明確になったと喜んでいる」と与党修正を評価、野党が主張する第三者機関の設置については「ヨーロッパ型の第三者機関は現実的でなく、主務大臣が担当すべきである」と否定的だった。また、宇賀教授は「大量の行政情報を保有する行政機関は、民間以上に厳格な個人情報保護法制が取られなければならない」と法制整備の意義を強調した。衆院の特別委は4月25日の採決に当たり、与野党が合意した
@ 医療、情報通信分野などの個別法を早急に検討する
A 第三者機関の議論も踏まえて全面施行後3年後をメドに見直す――など11項目の付帯決議を付けて、与党多数で可決した。

 私が質した質疑応答の要旨は次の通り。

 プライバシー保護は明確か

 北村 堀部参考人はプライバシー保護の分野で日本の第一人者。昭和63年の行政機関個人情報保護法、情報公開法、今回の基本法制、行政機関法制のみならず、政府のあらゆる情報法制整備の中心的役割を果たしてこられたと聞いており、深く敬意を表する次第。
 さて、堀部参考人もこの法案の検討作業で、プライバシーの保護と表現の自由。この両立に随分心を砕かれたことと思う。今回再提出された法案では、基本原則の削除など修正が施されているが、報道の自由、表現の自由との関係でどのように考えているか。また、個人情報保護検討部会中間報告の考え方から、一昨年の政府案と現在の政府案とを比べ、プライバシーの保護と表現の自由。この両立を図る法案の趣旨がより明確になっているのか。

 表現の自由で調整図る

 堀部政男・中央大学法学部教授 まず、高度情報通信社会推進本部の個人情報検討部会でも表現の自由との関係は色々と議論した。中間報告なので、今後の取り扱いについては法制化専門委員会で検討して頂くことで、基本法であるので基本原則5つを定めるように提案し、その適用の要否は、報道・出版(憲法21条=表現の自由)とかを挙げた。それから学術・研究(憲法23条=学問の自由)などということで、ほかにも基本的人権として保護されるべきものがあるとして、それを挙げた。その後、中間報告と私が座長である法制化専門委員会との関係調整を図る努力をしたが、特に表現の自由との関係は相当議論した。
 1つは、基本原則を設けた場合に、これが全部に適用されたらどうなるかということが問題になり、私自身が基本原則を削る私案を出した。しかし、法制化専門委の先生方は、そういう心配はないということで基本原則をそのまま適用するとの考え方を示し、大綱にまとめられた。それが2001年3月27日閣議決定の政府案だ。これに対し、メディアを初め多くから批判があり、昨年12月4日の内閣委員会で色々議論があり、同6日に与党3党で修正要綱案を出した。3月7日に閣議決定した法案はこの3党修正要綱案を取り入れて出来ているので、表現の自由と個人情報の保護との調整は図られていると感じた。中間報告の段階では基本法であったが、その段階でさえ調整を図るといってきた立場からすると、今の政府案は、むしろ中間報告の段階の議論が取り入れられていると考えている。

 保護と利用のバランス大事

 北村 これからIT(情報技術)社会がまさに進展する中で、個人情報の保護と利用のバランスが大事だと考える。堀部参考人は関係省庁や事業団体について個人情報ガイドラインなどの策定に携わってこられたと聞くが、事業の実態から見て、政府の個人情報保護法案と野党案について、率直にどのように評価されているのか。

 行革との絡みで非現実的

 堀部参考人 事業者には政府案でかなりの部分対応できると思う。特に、01年3月の閣議決定以降、民間事業者は、どのように対応すればいいのかという法的ルールがようやく明確になったことで大変喜んでいる。個人情報保護の説明会を開くと、特に東京会場は申し込みが殺到、大変な状況だ。認定個人情報保護団体についても、積極的に認定を受けて、個人情報保護に努めたいという声は随分聞き、個別な問い合わせも受けている。民間事業者の範囲は政令で定めるが、多くの民間事業者は真摯に法案を受け止め、自主的に対応すべく準備を進めている。野党案でもその点は余り変わらないと理解しているが、扱うところを主務大臣にするか、第三者的な機関にするかが、大きな争点になってきている。
 中間報告の段階でも、ヨーロッパに見られる独立性の強い第三者機関を設けるべきとの議論をしたが、日本の場合は、関係省庁がこの問題にかなり長い間取り組んできており、その経験を持つことは非常に貴重だ。一方では行政改革という非常に重要な課題もあり、新たなものを設けることは現実的でないと考え、第三者的機関の設置は提案しなかった。

 複層的な苦情処理とは

 北村 堀部参考人は検討部会の中間報告をまとめる際に、複層的な苦情処理システムについても提言された。再度、ちょっと視点、角度を変えて、行政組織のうえで行革を進めていかねばならないと考えた時に、どういう制度が一番適していると考えるか。

 主務大臣担当が現実的

 堀部参考人 ヨーロッパ型の第三者機関は、理論的には考えられるが、現実的でない。日本が今後様々な経験を積み重ねていく中で、各行政機関が持っている権限を第三者機関にゆだねるという時期は来るかもしれない。しかし、現段階では、主務大臣が担当し、それぞれの連絡調整を図り、それを内閣総理大臣が行うので極めて現実的な案になっている。
 複層的救済システムは、実際に地方公共団体や民間事業者で問題になっている個人情報、例えば、けしからんダイレクトメールが来るという申し出がかなり多い。しかし、ダイレクトメールが来ることで非常に不快感を持つ方もいるし、また、そういう情報を活用していこうとする人もいる。地方公共団体なり民間の業者団体に対して、こういうものが来て困る、自分の情報がどこかに漏れているのではないかというなら、むしろ、法的な紛争よりも、事実的なものとして、それを扱うことは可能ではないか。色々な段階で相談に乗れる制度を作ることで、国でもきちんと対応できる意味において、複層的というか最終的というか、救済システムを考えてみてはどうかと提案した。

 自己情報コントロール権は

 北村 政府案と野党案の大きな違いがいくつかある中で、自己情報コントロール権の問題がある。一部のメディアからは同権の明記に不安の声があると認識しているが、外国の法律ではこの自己情報コントロール権という文言は必ず書いてあるのか。法律にやはり明記しなければ問題があると考えているのか。

 「権利利益を保護」と規定

 堀部参考人 プライバシーの権利をどのように定義するかで20世紀の最初から色々議論があった。もともと、プライバシーの権利は1人にして置かれる権利、ライト・ツー・ビー・レット・アローンという消極的なものとして1890年のウオーレンとブランダイスの論文で使われている。その後、主としてメディアとの関連で、そっとしておかれる権利、あるいは私生活をみだりに公開されないという法的保障ないし権利として理解されてきた。
 1960年代に入ってコンピューター化が進む中でプライバシーは保護できないというところから、所有権の対象になるかどうかの議論もあるが、自分の情報は自分のものであって、その情報の流れを本人がコントロールできるんだという議論が出てきた。それはむしろ積極的、能動的な権利と位置づけることが出来る。米国、日本の学説でも現代的プライバシー権を見ていくうえでは非常に重要なものということで議論している。具体的には、本人の情報を取得、収集する段階で目的を明確にするとか、目的外に利用しないとか、様々なものによって実質的に保護されるものになっているわけだ。特に、自分の情報を自分で開示請求しそれをみることが出来る。誤っていれば訂正を求めることが出来る。それに応じない場合に意義を申し立てる権利、これをすべて含めて、自己情報コントロール権というふうに理解している。それを政府案では実質的に保障されており、「権利利益を保護」ということで規定されている。その種の規定を明文で定めた外国の立法例は見当たらない。

 保護法制整備の意義は

 北村 宇賀参考人は情報公開法と行政機関個人情報保護法案の両方に随分携わってこられたと聞いているが、まず個人情報保護法制の整備の意義を尋ねたい。さらに、官に甘く民に厳しいという言葉がよく聞こえてくるが、そのことは大変遺憾だ。特に基本法制と比較した時、行政機関法制の特徴などを考えた時に、ここら辺をどのように認識しているか。

 行政機関職員は直罰

 宇賀克也・東京大学大学院法学政治学研究科教授 行政機関は公権力を行使して行政情報を収集し得る立場にあり、重要な行政情報を大量に保有している。従って民間以上に厳格な個人情報保護法制が取られなければならない。まず、行政機関の保有する個人情報保護の一般法が先行したのもこの理由からだが、現行法は今日の先進国の水準から見れば改善すべき点が少なくない。まして、民間部門の個人情報保護の一般法を制定する以上、行政機関の保有する個人情報保護の水準は、民間のそれを超えたものでなければならないから、今回の行政機関個人情報保護法制の整備の意義があると考える。

 次に官民比較の点では、行政機関の関連法案は多くの点で、基本法制である個人情報保護法案の取り扱い事業者に対する規制と比較して、官に厳しい内容になっていると思う。第一に民間部門では、一定規模以上の体系的に整理された個人情報のみが対象になっており、主としてデータベース化された個人情報が対象となるにとどまるのに対して、行政機関の場合は組織として共有する個人情報がすべて対象になるから、体系化されずに紙の文書に散在している個人情報まで含まれることになる。また、行政機関の場合には、個人情報ファイルのうちでデータベースについて、総務大臣に通知が義務づけられ、総務大臣の監督に服するが、民間の場合にはこのような規定はない。民間の場合はファイル管理簿の作成義務はないが、行政機関は、個別のファイル単位で、名称、利用目的、記録項目、提供先等を記載したファイル管理簿の作成、公表が義務づけられている。

 救済制度も、行政機関の場合は行政不服審査法に基づく不服申立制度があり、第三者機関である情報公開・個人情報保護審査会に諮問する仕組みがあるが、民間にはその仕組みがない。さらに、民間の場合、助言、勧告、命令、罰則という慎重な間接罰の仕組みであるのに対して、行政機関の職員の場合には直罰になっている。個人識別性についても、個人情報保護法案、基本法制の方では容易性を要件としているが、これは民間部門にも適用されるために、民間の営業の自由への配慮から、個人情報をある程度限定することが必要だからだ。行政機関の保有する個人情報の保護法案は、行政機関が保有する個人情報を対象とすることから、より厳格な個人情報保護が必要と考えて、容易性を要件とせずに保護される個人情報の範囲を広くしてある。