北村の政治活動

 第55回(平成15年5月1日) 個人情報保護と取り組む 報道の自由も重視

 個人情報の乱用防止か、報道の自由維持か――。法案提出以来2年以上も与野党が対立した個人情報保護法案と関連4法案の審議が4月8日の衆院本会議で再開、同25日に衆院の個人情報保護特別委で可決された。同法案は5月6日に衆院を通過し、今国会で成立の予定。6国会をまたぎ、継続審議、廃案、修正再提案と難航してきた重要法案だが、衆院でも当初の内閣委から総務委に移り、今国会から特別委を新設、初日は全閣僚が出席して予算案を審議する最大規模(50議席)の第1委員会室で審議入りした。私は直ちに同委員会に配属され、同月21日には自民党を代表して参考人の意見聴取に対する質疑を展開した。これで私の所属する委員会は議運、安全保障、農林水産、災害対策、個人情報の5委員会となったが、いずれも今国会の重要案件を抱えた委員会である。多忙な中にも大いに汗をかきたいと思っているので皆様のご支援を頂きたい。質疑内容は次回に報告する。

 様々な名簿から流出

 個人情報保護法案を提案した背景には、IT(情報技術)社会の到来で、インターネット上での個人情報の流出が大きな問題になっているからだ。インターネットの利用者は00年末の約4,700万人から05年には約8、700万人に急増するという。自分の家族構成や出身校などを承知のうえで掛かってくる勧誘電話やダイレクトメール(DM)を受けて不愉快な思いをした経験は数多くあるだろう。特定個人の家族構成や趣味趣向を把握したうえで、特定の消費者を狙い撃ちできれば、画一的に不特定多数の消費者に購買を訴えるより、その人に見合ったセールスが展開でき、より確実な利益に繋がるわけだ。DM市場は年々増加の傾向をたどり、4月に再出発した郵政公社と民間宅配業者の間では激しいDM市場争奪戦が展開されている。こうしたDMや勧誘電話は、様々な名簿の流出が原因だ。中には多重債務者らの性格分析まで載せた「カモリスト」の名簿まであるそうだ。

 個人情報乱用に歯止め

 IT社会では、住所、学歴、家族構成、職業、収入、関心分野、購買履歴――などあらゆる個人情報が、コンピューターで処理できるデータになっている。こうした個人情報の乱用に歯止めを掛けるのが法案の趣旨であり、個人情報の「流通」に対し、本人がデータの利用や第三者への提供をやめるよう請求できる規定を設けてある。また、個人情報を取り扱う事業者の順守すべき義務を定め、個人データを適正に扱っていない事業者に対し、主務大臣が勧告や命令を下し、これに従わない場合、6月以下の懲役または30万円以下の罰金を科す仕組みになっている。規制対象は政令に委ねるが、「5千件程度の個人情報の集積が目安」(内閣府)とされている。情報を自分たちの仲間うちでプライベートに使う場合は問題ないが、事業者は「一定の目的を持って継続・反復して活動し、社会的地位を形成している場合」とし、NGO(民間活動団体)、労働組合、PTA、在野の研究者も事業者扱いになっている。

 言論・出版の自由に制約

 個人情報保護法案が最初に提出されたのは、森喜朗内閣末期の01年3月の通常国会。これに対し、日本新聞協会、フリージャーナリスト・作家の「保護法拒否!共同アピールの会」が言論・出版の自由を侵す法案であると反対した。民放連、NHKも「表現・報道の自由に制約を受ける」と反発、キャスターの筑紫哲也氏は「狐に鶏小屋の番をさせるような法律」と批判した。日弁連は「民間の情報を国家がコントロールする危険性が極めて高い」との反対意見書を発表。日本消費者連盟や主婦連参加の全国消費者団体連絡会も「事業者の都合が優先され、消費者の保護が不十分」と反対した。政府案はもとより、国民の知る権利を重視し、マスコミ規制とならないよう配慮されているが、政府が示した5項目の基本原則に対し、メディア側は「政府案では内部告発者の情報提供が萎縮する」と懸念を表明し、報道機関の生命線である「情報源の秘匿」が守られなくなると警戒を強めた。

 防衛庁独自リストが影響

 具合いが悪いことに、昨年5月の法案審議中に、防衛庁が情報公開請求者の思想信条などをひそかに調べ、独自のリストを作っていることが発覚した。ちょうど、総務委員会には、同年8月から施行される住民基本台帳法とセットにされた行政機関等個人情報保護法案が提案され、民間の個人情報保護法案と一括審議されていた。法曹界は直ちに「民間には利用目的の制限だの、適正な取得をしろだのといっておきながら、行政機関等個人情報保護法案には、思想、信条など『センシティブ情報』の収集制限や罰則の規定がない。国が基本原則を無視するとはけしからん話だ」と抗議した。こうした中で読売新聞を初め、共同アピールの会、日本消費者連盟などが対案を出し、勢いづいた野党は昨年の通常国会で法案を継続審議に、さらには前臨時国会では廃案に持ち込むなど気勢を上げた。

 5つの基本原則を削除

 今回再提出された政府案は、昨年の審議経過を踏まえ、旧法案で「報道に自由を不当に制約する恐れがある」と批判された5項目の基本原則を削除する大幅な修正を施している。5原則は、情報を取り扱うあらゆる個人や事業者が

@ 利用目的を明確にする
A 適正な方法で取得する
B 内容を正確に保つ
C 漏洩などがないよう安全管理する
D 本人が(自分の情報に)適切に関与できる透明性を確保する――という内容だったが、これをすべて削除した。また旧法案は、主務大臣が勧告、命令をする際、表現の自由を「妨げることがないよう配慮しなければならない」としていたが、これでは大臣に広い裁量を与える恐れがあるため、「妨げてはならない」と明記した。マスコミは、Dの「透明性の確保」を根拠に、情報源の開示を報道機関に迫ってくるのではないかと警戒していたが、基本原則全部を削除したことと、大臣の禁止規定を明記したことで報道の自由が保障されたと満足しているようだ。

 行政機関も罰則強化

 さらに、旧法案では、報道分野などに除外されていた義務規定の適用を、新法案では著述業やフリージャーナリストも含め除外すると明記した。これらは「共同アピールの会」など各界から出されていた対案を取り入れたものだ。これにより報道の自由は十分に保障され、ネット社会のプライバシー保護も強化された。行政機関等個人保護法案でも「正当な理由なく個人情報を提供するなどの違法行為をした場合は2年以下の懲役または百万円以下の罰金を科す」と修正し、罰則強化で民間とのバランスを図った。読売の社説は「個人情報保護法案は、あらゆる分野を対象にした包括法でルールづくりの一歩に過ぎない。信用情報や医療情報など、特に慎重な取り扱いが必要な分野は、きめ細かな個別の立法が求められる」と述べている。「すべての市民が国家に管理される法案」と反発していた共同アピールの会も「基本法をまず制定し、それにのっとって各分野の実情に応じた個別法を作るべきだ」と主張している。

 野党主張は付帯決議に

 確かに医療分野の個人情報は高度のプライバシーだ。99年11月には病人リスト売買事件が発覚した。同事件で埼玉県警は民間業者を名誉毀損で書類送検したが、情報の流出元が分からず、守秘義務もないことで起訴猶予処分になっている。手書きで書かれたカルテ、検査の結果、薬の処方箋、診療レセプトなど病気に関わる情報は、全て個人情報に含まれるというのが厚生労働省の見解。そうなると、民間の総合病院、開業医や薬局、検査センター、健保組合なども事業者に含まれることになるが、患者の個人情報は慎重に取り扱わねばならず、今後はきめ細かな個別の立法が求められてきそうだ。野党4党は
@ 思想・信条、犯罪歴、人種・出生地など5種類の「センシティブ情報」を特に慎重な取り扱いを要する個人情報と規定し、本人の同意なしに扱うことを禁止
A 個人情報の取得、利用、第三者へ提供に関して、本人が関与する「自己情報コントロール権」を法の目的に明記
B 主務大臣に代わる「個人情報保護委員会」を内閣府に設置――などの対案を提出した。これをもとに与党は野党との修正協議に応じ、法案修正には至らなかったものの、付帯決議には野党の主張点も盛り込んだ。同法案は6日に衆院を通過させる予定である。