北村の政治活動

 第51回(平成15年3月1日) ヤマ場のWTO農業交渉 食糧安保の視点で


 世界貿易機関(WTO)の新多角的貿易交渉(新ラウンド)を巡り、2月中旬に東京で開かれた非公式閣僚会合は、農業分野で米、豪など輸出側と日本、欧州連合(EU)など輸入側との意見が対立、決着は期限の3月末に持ち越した。東京会合では、WTO農業交渉委議長の1次案が示されたが、大幅な関税引き下げを内容とするものであり、「安い輸入米が出回り、国内農業が甚大な影響を受ける」「農産物生産は、食糧安全保障や環境保全などの側面があり、工業品と同列に扱えない」と日本、EU側は拒否した。私も同感である。政府はコメの生産調整(減反)を08年度に廃止し、生産者が自主的に生産量を調整する食糧法改正案を今国会に提出する。このようにコメ政策は内外の情勢を受け、一大転換期を迎えているが、衆院農水委員会に所属する私は、政策に誤りを来さないよう発言するとともに、生産者を重視してWTOの早期決着に向けて努力を重ねたいと思っている。

 高関税引き下げの1次案

 東京会合は、米、EUなど25カ国・地域の関係閣僚が参加して2月14日から16日まで開かれた。新ラウンドは「05年1月合意」を目指しており、東京会合はその中間段階となる9月のメキシコ・カンクン公式閣僚会議に向け大きなステップになるものだった。中でも最大の焦点は、農業の自由化ルールについて交渉の大枠(モダリティー)合意の期限が3月末に迫っている農業分野である。会議の直前に示されたハービンソン農業交渉委議長の1次案は、農産物の関税を高関税のものほど引き下げ幅を大きくし、現行の関税率が90%以上のものは、削減率を平均で60%、最低でも45%の削減案を提示した。わが国の高関税品目は現在、コメ490%、バター330%、澱粉290%、小麦210%、脱脂粉乳200%、大麦190%など主として穀物・酪農分野の関税が高い。第1次案がそのまま採用されると、コメの関税率は最低45%削減でも、5割から約半分の270%程度へ大幅に下がり、国際競争力がない日本の稲作は大きな打撃を受けると予想される。

 コメの販売競争激化

 490%という高関税率のコメは、1キロ当たり341円の関税が課せられており、現在1キロ100円前後の米国や中国産米は、平均関税込みの輸入価格で437円〜450円になっている。これを最低の45%削減して270%で試算すると、1キロ当たりの平均関税込み輸入価格は米国産米が297円、中国産米が284円(精米60キロ当たり1万7013円)に値下がりし、国産米平均卸売価格の1キロ299円(精米60キロの出荷価格1万7940円)とほぼ同水準か、下回る結果になる。内外のコメ販売競争が激化するのは避けられない情勢だ。このため、全国農業協同組合中央会(全中=宮田勇会長)など農業7団体が2月14日、都内で自由化阻止を訴える2500人規模の集会とデモ行進を行ったのに続き、15日も全中を含む日米欧など9カ国・地域13団体による1万人規模の集会とデモ行進で反対運動を盛り上げた。宮田会長は「日本をはじめ農産物輸入国の農業は存在自体が否定される。1次案は直ちに撤回されるべきだ」と強く訴えた。

 自由化慎重のEUと共闘

 自民党農水部会に所属する我々議員も全中などを支援して、小泉首相や大島農相へ関税引き下げ反対の働きかけをした。19日に開かれた党農林水産物貿易調査会では元閣僚から「(自由化阻止のため)日本に反対する国にはODA(政府開発援助)をやるな」との過激な意見も飛び出した。農業交渉で示した日本案は
@ 現行関税率を平均で36%削減、最低で15%削減
A ミニマム・アクセス(最低輸入量)は消費基準年を見直し、加重分を解消(現行7.2%を5%へ)
B すべての輸出補助金を同等に扱うことを条件に45%削減――など。同じく1次案を不満とし、漸進的な市場開放を求める自由化慎重派のEUと共闘した。これに対し、米国や豪州など輸出国の急進派は、「5年間にすべての関税を25%未満に削減し、アクセス数量を20%拡大、輸出補助金を撤廃せよ」などと主張して譲らなかった。

 たたき台でなく“触媒”

 この対立の中で、東京会合の議長を務めた川口外相は、1次案を議論の中心にするのは避けるべきだと判断、1次案を交渉のたたき台やスタートラインとはせずに、「今後の交渉を促進する“触媒”」とするよう提案して、各国・地域の了解を得た。これは「1次案枠組みの数値修正などで日本は妥協しない」との姿勢を示したものだ。結局、東京会合では歩み寄れず、2月24〜28日のスイス・ジュネーブでの農業委特別会合の交渉経過を踏まえて、ハービンソン議長の2次案が3月10日ごろ出され、同月末の交渉大枠(モダリティー)確立作業は大詰めを迎える。日本は韓国など友邦や途上国とも連携を深め、議長案の大幅修正を求めていく方針だ。コメ市場開放を決断したのは細川政権当時の前回ウルグアイ・ラウンドだが、依然、先進国と途上国の対立の構図や市場開放のルール作りを巡る問題は多く、前回同様に政府は政治決断を迫られる場面も出てきそうだ。

 国の生産調整は廃止

 パン食、麺類愛好など食生活の変化で、日本人の食べるコメが減り続ける半面、栽培技術の進歩で多収穫が進み、コメの過剰生産が問題になってきた。そこで、政府は30年以上続けた国によるコメの生産調整(減反)を08年度に廃止し、生産者が自主的に生産量を調整する食糧法改正案を今国会に提案、成立を目指す。コメは60年代後半から大量に余るようになり、コメの価格は下落した。全国の米相場の指標となる自主流通米の60キロ当たり平均価格は95年産までは2万円を超えていたが、01年産は1万6千円台にまで落ち込んでいる。それに追い討ちをかけるように、関税率の引き下げで安いコメが米、中両国などから上陸してきたら、日本の生産農家はたまったものではない。消費者は喜ぶかもしれないが、需給調整で減反・転作が進んだ後に飢饉など世界の天候異変で米中などの穀物価格が暴騰したらどうなるか。やはり、主食のコメは食糧安保の中心に据えなければならない。さらには農産物の環境保全などを進めるべきだ。私は生産農家と消費者双方の利益、ひいては国益に繋がるよう、農業交渉を成功させたいと念願している。