北村の政治活動

 第46回(平成14年12月16日) イージス艦中東派遣 北東アジアの視点も


 政府は12月4日、テロ対策特別措置法に基づく米軍支援のため、イージス護衛艦をインド洋に派遣することを決め、同法で定めた基本計画の実施要綱にイージス艦を追加した。イージス艦「きりしま」は同月16日に横須賀基地を出港、派遣中の従来型護衛艦「ひえい」と交代する予定。これで米海軍などに洋上補給をする海上自衛隊補給艦の乗組員の安全が確保されることになる。まずは小泉首相、石破茂防衛庁長官の英断に敬意を表したい。イージス艦は抜群の攻撃力と高い戦術情報伝達能力を兼ね備えており、憲法解釈上禁じられている集団的自衛権の行使に繋がるとして野党が反発、与党内部にも慎重論があった。それだけに年明けの通常国会でもイ−ジス艦論議は尾を引きそうだ。

 10以上の目標を撃つ

イージスは、ギリシャ神話の「神の盾」が語源。昨年11月1日の北村ホームページに「こんごう、ちょうかいの出番」の副題を付けて詳しく紹介したので重複は避けるが、航空機からの対艦攻撃に対抗するため、米国が開発した高性能の防空システムを装備した巡洋艦や駆逐艦だ。基準排水量は7250トン、全長161m、速力約30ノット、乗員約280人。同艦の多機能レーダーは数百キロ先までの200以上の飛行機やミサイルを同時に探知し、艦対空ミサイルSM―2や高性能20mm機関砲、127mm速射砲などで10以上の目標を同時に撃ち落とせる。防空能力は通常の護衛艦の4−5隻に相当するといわれる。艦対艦ミサイル(ハープーン)や短魚雷も装備し、海からの攻撃も排除出来る。

 与党内にも慎重論

 米海軍は60隻のイージス艦を保有、主として空母機動部隊の防空に使っているが、米国以外で配備しているのは日本とスペインだけ。海上自衛隊は93年に就役した「こんごう」(佐世保)を筆頭に「ちょうかい」(同)「きりしま」(横須賀)「みょうこう」(舞鶴)の4隻を保有。現行の中期防衛計画でさらに2隻を調達することが決まっている。このように高度なレーダーを持つイージス艦は、対艦ミサイルや周囲の艦船の探知・識別能力や、情報を米軍と共有する「情報ネットワークシステム」が通常の護衛艦より遙かに優れている。それだけに、「データリンクを通じた共有情報に基づき、米軍が艦船や飛行機などを攻撃した場合は集団的自衛権の行使に抵触する」として、野党ばかりか与党内部にも慎重論が高まっていた。イージス艦派遣の是非は、1年前のテロ対策特措法成立当時から議論の的となり、先月に特措法の「実行計画」が半年延長された際にも検討されたが、政府は公明党などへの配慮から、過去に3回も派遣の決断を先送りしてきた。

 艦内居住性など3点

 しかし、インドネシアのバリ島のホテル爆破に次いで、先月28日にケニアで連続テロが発生するなど、海上自衛隊艦船の活動海域周辺でテロの可能性が高まってきた。また、イラク攻撃を着々と準備している米軍の警戒活動が同海域では手薄になる見通しもある。米国は先月下旬、イラク攻撃について日本など約50カ国に協力要請してきた。日本政府としても、テロ特措法では困難な“直接支援”の代わりに、継続中のテロ支援策を強化し、側面からの“間接支援”を明確にしたいとの思惑があった。福田康夫官房長官は「(同時多発テロの首謀組織)アルカイダがアフガニスタンから海路で国外へ逃亡する恐れが指摘されている。イージス艦は調査能力も正確で、警護の観点からこれに優るものはない」と述べ、派遣の理由に@ 護衛艦のローテーション A 艦艇内の居住性 B 調査能力――を挙げた。

 集団的自衛権に当たらず

 10月末にインド洋から佐世保に帰港した護衛艦「あさかぜ」の乗組員に聞いても同海域の暑さは大変なもの。確かに、イージス艦は強力な冷房装置を持ち、酷暑海域での居住性に優れているし、防衛機能が高いことから給油活動の安全性が高まる。石破防衛庁長官も
@ 派遣の艦船が交代時期にきている
A 高い情報処理能力を活用して補給作業の安全を確保する
B 厳しい勤務環境にある隊員の負担軽減を図る――の3点を派遣理由に挙げ、「データリンクには誤差があり、実際に攻撃する場合は米側が情報を取り直す。攻撃するためには各艦が独自に標的を捕捉する必要がある」とし、「一般的な情報交換は武力行使の一体化ではなく、データを共有しても集団的自衛権の行使に当たる活動は考えられない」と主張している。海上自衛隊が給油活動をしている海域はイラクから約2千キロも離れていることも戦闘の直接支援ではなく、「側面支援の域を出ていない」と同庁は解説している。

 公明党内に容認論

 保守党は当初から派遣に賛成しているが、反対を唱えてきた公明党内にも、「自衛艦の安全のため(派遣が)ベターだと国民のコンセンサスになるならば、十分考慮してもいい」と冬柴鉄三幹事長が述べるなど、国際情勢の変化から派遣容認論に傾いていた。同党はイージス艦を日本近海の防衛に当たらせるべきだとして、党の常任役員会で「派遣反対」を確認したが、神崎武法代表は「政府の判断による派遣なら政府の所管事項であり、連立問題とは別次元」として事実上派遣を黙認している。むしろ、与党内で最も強い慎重論を唱えていたのは自民党の野中広務元幹事長と古賀誠前幹事長。野中氏は派遣決定前の講演で「保守党や公明党が派遣に同意するなら(両党への)私の友情は捨てねばならない」としきりに公明、保守両党を牽制していたが、公明の容認姿勢には不満を募らせている。

 喜ぶブッシュ政権

 野党は「基本計画延長を十分説明せず派遣するのは少々乱暴だ」(中野寛成・民主党前幹事長)、「米国単独の戦争に自衛隊を派遣すべきではない。国連の平和活動にのみ自衛隊を派遣しうる」(小沢一郎・自由党党首)、「米国のイラク攻撃計画に事実上協力、支援することで許せない」(市田忠義・共産党書記局長)、「米軍と情報を共有し、集団自衛権の行使に当たる」(土井たか子・社民党党首)と一様に反対したが、民主党のお家騒動もあり終盤国会での野党追及は迫力がなかった。喜んだのはブッシュ政権である。8日の来日を前にアーミテージ米国務副長官は「米政府は派遣に深く感謝している」と述べた。16日にワシントンで開く日米外交・防衛担当閣僚会議(2プラス2)に好影響をもたらしそうだ。政府はイラクがペルシャ湾に敷設する可能性がある機雷を除去するため、海自の掃海艇を派遣、日本のタンカーなど船舶の安全を図ることや、紛争後のイラクに対する復興支援の新法などを検討している。

 対北朝鮮への抑止力

 対テロ支援で日本が高性能の艦艇を投入すれば、イラク攻撃に向かう米軍の負担は軽くなり、これまで強く派遣を要請してきた米政府にとってこれほどありがたい援軍はない。だが、米政府の要請以上に大事なことは、緊迫した中東情勢よりも核保有をほのめかした北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)の出方、つまり北東アジア情勢の緊張である。北朝鮮の核兵器開発も絡まって日朝交渉の再開はめどが立たない状況にあるが、業を煮やした北朝鮮が暴発した場合は、日本全土を射程に百基の配備を終えたとするノドンの“威嚇実験”をしないとも限らない。その場合、国内世論は過去のテポドン実験の時よりも混乱しそうだ。防衛庁内では、日米両国が共同で技術研究を進めているミサイル防衛計画(MD)を加速し、北朝鮮の核開発や弾道ミサイルに対し日本の抑止力を高める動きが強まっている。

 ミサイル撃墜の訓練も

 石破防衛庁長官は11月5日の衆院安保委員会で「抑止が効かない冒険主義国家に対してMDは1つの選択肢だ。研究成果が役立つなら開発に移る。護衛艦もイージス艦が入ればやりくりが楽になる。支援も大事だが、日本近海の(防衛の)こともきちんとやりたい」と述べ、日本周辺での護衛艦の運用態勢にイージス艦を活用する前向きな姿勢を示した。私も全く同感だ。MDが開発されるまでのミサイル防衛策としてイージス艦ほど優れた護衛艦はない。北朝鮮のミサイルが飛来すれば直ちに撃墜するだけの訓練が必要だ。同時に、北朝鮮の工作船が原発破壊用の対戦車砲を搭載していたとなれば、その抑止策も不可欠。イージス艦の中東派遣は、単に護衛艦のローテーションや乗組員の居住性、安全性を勘案しての措置ではなく、北東アジアの安全に寄与するよう訓練の課程を盛り込むべきだろう。これらの点を衆院安保委員会や党の国防部会、安保調査会などで、私は主張していきたい。