第369回(9月1日)5兆円超の防衛予算 日本海・東シナ海は波高し
 日本海での北朝鮮のノドン発射実験、東シナ海での中国公船による日本の領海侵入 ―― 。極東の日本近海は波高しだ。しかも、中国海軍は8月18日から日本海で軍事演習を開始した。演習にはミサイル護衛艦や補給艦、艦載ヘリコプターなどが参加。米ハワイ沖での多国間海上訓練「リムパック」にも参加した最新鋭ミサイル駆逐艦「西安」も加わり、ハワイから宗谷海峡を通って日本海に入っている。防衛省は8月19日、17年度予算の概算要求で過去最高額となる5兆1,685億円を計上した。これは ①ミサイル防衛システムの強化 ②沖縄県宮古島や鹿児島県奄美大島に警備部隊配置 ③探知能力に優れた新型潜水艦建造 ―― などで、今年度当初予算比は2.3%の増である。米海兵隊による米軍岩国基地への最新鋭ステルス戦闘機F35の配備計画も同日、明らかにされた。選挙区に佐世保基地を抱え五島列島・小値賀出身の私は安全保障、離島・漁業対策に政治活動の重点を置いてきた。中国と北朝鮮の威嚇行動は目に余る。今回は最近頻発する中国の海洋主権拡大などを取り上げたい。

漁船護衛で中国公船が領海侵入
 前回のHPで解説した通り、中国は日本の防衛白書に反発し、8月1日に東シナ海で100隻以上の海軍艦艇が大規模な実弾演習を実施。同6日から8日にかけ、尖閣諸島周辺で操業する中国漁船約400隻の「護衛」や「監督・指導」の名目で、機関砲を搭載した海警局所属の公船計15隻を接続水域に進入させ一部は領海に侵入、今も侵入は続いている。南シナ海での主権の主張を否定した仲裁裁判所の判決受け入れを日本が求めていることに反発したものだ。これは ①オランダ・ハーグの仲裁裁判所が7月12日、中国が主権の根拠とする境界線「九段線」について、「歴史的な権利を主張する法的根拠はない」との判決を下し、南沙諸島で中国が造成した人工島に対してEEZは生じないとの判断を示した ②米韓両国が米最新鋭ミサイル防衛システム「最終段階高高度地域防衛(THAAD)を韓国に配備しようとしている ―― ことに強い抵抗を示した。さらに東シナ海の日中中間線付近にあるガス田にレーダー監視カメラを設置するなど東・南シナ海を領海化し、海洋主権を強めている。

北朝鮮は5月以来弾道ミサイル発射
 中国はガス田の日中共同開発の交渉を拒み、艦船などの偶発的衝突を防ぐ「海上連絡メカニズム」の協議も進んでいない。中国が領海と主張する「九段線」とは、台湾、フイリピン、インドネシアとベトナムに挟まれたベロ(舌)状の南シナ海で、パラセル(西沙)、スプラトリー(南沙)諸島の7つの人工島(岩礁)に飛行場などを建設、軍事拠点化を加速させている。このため、仲裁裁判所の判決には「法律の衣をまとった政治的茶番だ。中国は決して受け入れない」(王毅外相)と判決を“くず紙”扱いし、国際法の遵守を求める日本に対し、沖縄県石垣市の尖閣諸島周辺で操業する中国漁船約400席の護衛・監督・指導の名目で海警局所属の公船計5隻を接続水域や領海の一部に侵入させ、現在も圧力をかけ続けている。一方、北朝鮮は6月22日、中距離弾道ミサイル「ムスダン」2発を発射、内1発は高度1,400キロメートル以上に達して成功。射程距離は日本、グアムなどの米軍基地が入る。北朝鮮は金正恩朝鮮労働党委員長の誕生日(2月16日)を祝い、2月7日に地球観測衛星と称する弾道ミサイルを発射。沖縄県の先島上空を通過し、太平洋に絵落下した。それ以来5月以降、移動発射台から日本海に向け日本の排他的経済水域(EEZ)内に、多数のノドンなどの弾道ミサイルを発射。8月24日には奇襲能力の高い潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の実験にも成功した。これに対し、国連は北朝鮮に追加制裁措置を発動した。

中国はTHAADに反発し北と復縁
 中国も国連制裁には賛同していたが、最近になって、国際社会からの制裁で金正恩政権が不安定化することへの懸念と、米最新鋭ミサイル防衛システム「THAAD」を韓国に配備することに強く反発し、北朝鮮への原油供給や国連制裁で原則禁輸とされた北朝鮮の主力輸出品である鉄鉱石と石炭などの輸入を拡大している。北朝鮮が13年に核実験を実施した際に、中国は北朝鮮への観光は規制したが、今回は逆に拡大して貴重な外貨収入を北朝鮮にもたらし、「復縁」関係にある。また李克強・中国首相は北京でミャンマーのアウン・サン・スー・チー国家顧問権外相と会談し、社会基盤整備支援や両国間の貿易拡大を確約するなど関係修復に努めている。さらに、ロシアなど友好国の支持取り付けや南シナ海で対立するフィリピンのドウテルテ新政権には経済支援を通じ関係改善を図るなど経済力を背景とした2国間、多国間外交で中国包囲網を打破する構え。特に「一帯一路(2つのシルクロード)構想」の推進と、アジアインフラ投資銀行(AIIB)を成功させようとしている。

南西諸島や奄美大島に改良ミサイル
 こうした中国や北朝鮮の海洋進出に対し、防衛省は概算要求で5年連続の増額を要求。日米両政府が共同開発している次世代型迎撃ミサイル「SM3ブロック2A」の購入費147億円を初めて盛り込み、21年頃の配備を目指す。また地対空誘導弾「PAC3」の射程を延ばすため、回収費用1,056億円も計上した。さらに、沖縄県の尖閣諸島など離島の防衛を強化するため、迎撃能力を向上させた改良型地対空ミサイルを南西諸島に配備する費用として746億円を計上した。導入するのは車両搭載型の地対空ミサイル「03式中距離地対空誘導弾」の改良型。戦闘機のほかに高速の巡航ミサイルも迎撃可能で、現在配備されている誘導弾より射程や複数目標への対処能力が高い。配備先は沖縄県の宮古、石垣両島や鹿児島県県・奄美大島に配備予定の陸上自衛隊ミサイル部隊を想定している。尖閣諸島周辺では中国軍機が活動を活発化、空自機による中国軍機への緊急発進(スクランブル)が増加し、6月には中国軍機と空自機の接近事案も起きているため、抑止力を高めたい考えだ。

 PKO派遣部隊に駆けつけ警護訓練
 稲田朋美防衛相は就任早々、東アフリカ・ジブチで南スーダンに派遣されている、国連平和維持活動(PKO)部隊を視察したが、政府は11月に南スーダンに派遣する陸上自衛隊の交代要員に対し、3月に施行された安保関連法で実現可能になった「駆けつけ警護」と「宿営地の共同警護」の任務を付与することを8月14日の閣議で決定、任務実施の訓練を開始した。PKOに派遣されている陸自施設部隊約350人はジュバ近郊で道路補修や施設建設に当たっているが、現地の治安情勢はなお不安定で、防衛省幹部は「治安情勢が悪い時こそ、参加国の連携が求められ、駆けつけ警護の必要性が高まる」と強調している。駆けつけ警護は民間活動団体(NGO)や国連スタッフらが武装集団などに襲われた際、自衛隊が武器を持って助けに行く任務で、自衛隊の身に危険が生じかねない。そこで政府は参院選での争点化を避けるために見合わせていたが、いよいよ、訓練を開始する方針を決定した。