第356回(2月16日)北朝鮮が弾道ミサイル発射 政府は素早く対応
 北朝鮮は 2月 7日午前 9時 31分、人工衛星と称する長距離弾道ミサイルを発射した。北朝鮮は金正日総書記の死後、総書記の誕生日の 2月 16日を 「光明星節」 と定めたが、地球観測衛星 「光明星4号」 と名付けたミサイルの発射を成功させ、金正恩第 1書記の実績を強調し、求心力を高めることを狙ったものだ。ミサイルは北朝鮮北西部 ・ 東倉里の西海衛星発射場から南に向けて発射され、沖縄県先島諸島の上空を通過し、切り離された 4つの部品は東シナ海やフィリピン沖の太平洋に落下した。国連安保理事会は度重なる決議で、北朝鮮に対し弾道ミサイル技術を使った発射を禁じている。発射 12分後に安倍首相は官邸で記者団に 「決議違反だ。繰り返し自制を求めたにも関わらず、発射したのは断じて容認できない。国際社会と連携し毅然と対応していく」 と厳重に抗議。僅か 45分後に国家安全保障会議 (NSC) の 4閣僚会議を招集、独自制裁を含め、国民の安心、安全に万全の態勢を取るよう指示。このように安倍政権の対応は素早い。北朝鮮が 2日、国際海事機関 (IMO) などに 8 ~ 25日間に人工衛星を発射すると通告したのを受けて、「わが国の安全保障上の重大な挑発行為だ」 と国会答弁で自制を求め、直ちに NSC を開き、日米韓 3カ国が連携して自制を求めていくとともに情報収集や警戒監視、国民の安全に万全を期すよう関係閣僚に指示した。

発射前に沖縄先島に PAC3 配備
 岸田文雄外相は直ちに 3カ国連携に動き、中谷元防衛相もミサイルの 「破壊措置命令」 を発令。ミサイルや破片の落下に備え、海自のイージス艦の迎撃ミサイル、空自の地上配備型地対空誘導弾 「PAC3」 を沖縄県石垣島と宮古島や朝霞 (埼玉)、習志野 (千葉) 駐屯地など首都圏にも配備、全ての作業はミサイル発射前に完了した。さらに防衛省は核 ・ 生物化学 (NBC) 兵器に対する陸自の化学防護部隊を沖縄県に展開した。防衛省はミサイルが 2012年 12月の発射時とほぼ同じ方角で、機体も前回と同じ 「テポドン 2改良型」 の 3段式ミサイルを用いると見て厳重監視、ミサイルが予告通りの航跡で、10数分間内に第 1落下物が 150キロの黄海、カバーと見られる第 2と第 3の落下物が 250キロの東シナ海、第 4落下物が 2000キロの太平洋に落ちたことを詳細に観測、安全を確認した上で破壊措置命令に基づく迎撃措置は見合わせた。北朝鮮のTVは 「衛星は軌道に乗った」 と報道した。国交省航空局は各航空会社に呼びかけ日航や全日空はミサイル発射時のルート変更に備え、韓国、中国便の一部で燃料を増やすなどの対応を取っていた。総務省消防庁は 「エムネット」 情報をもとに沖縄の全 41市町村で全国瞬時警報システム 「Jアラート」 の緊急放送を行った。

面子潰され苛立つ習近平中国政権
 問題なのは北朝鮮を制御できない中国の態度だ。北朝鮮は中国に対する事前通告なしに 1月 6日に核実験を実施したが、今回も中国政府高官である武大偉 ・ 朝鮮半島事務特別代表 ( 6カ国協議の議長) が北朝鮮滞在中の 2日にミサイル発射実験を通知した。武代表は、習近平国家主席が北朝鮮にミサイル発射の自制を促すため、事態打開を探る 「名代」 として北朝鮮に派遣されていた。その訪問中に通知されたもので、習政権は痛く面子を潰された。北朝鮮は過去にまず長距離ミサイル発射を実施した上で、これに対する国連安保理制裁に反発する形で核実験を実施してきたが、今回はこのパターンを逆転させ、「通告なし」 に核実験を実施し、続けてミサイルを発射した。その理由について読売は、韓国政府関係者が 「わが道を行くという姿勢を内外に示す狙いだ」 として、 ①正恩氏は中国よりも核保有国になることを優先し、中国の指図は受けないことを決断した ②中国が強い制裁に加わらない見通しとなり、嵩 (かさ) にかかった ③発射日の 1日前倒しは国際社会のかく乱を狙った可能性がある ―― と分析した、と報じた。確かに北朝鮮は核実験で弾頭の小型化を進め、長距離弾道ミサイル性能向上を図り、今回の発射でニューヨークなど米本土を攻撃できる 1万 2~3000キロにまで射程を延伸、文字通り 「核保有国」 となることを目指している。金第 1書記は 36年ぶりとなる 5月の朝鮮労働党大会を前にミサイルを発射、貧困に苦しむ国民を無視して、金王朝歴代の 「強盛大国」 「先軍政治」 「チエ(主体)思想」 のもと、内外に国威発揚を誇示する独裁的な強硬姿勢を貫いている。

難民の流入や経済の悪影響恐れる
 これに中国は苛立ちを強めているが、国連安保理では日米が求める制裁の強度を巡って温度差がある。日米韓の制裁決議案には北朝鮮の鉱物禁輸や北朝鮮船舶の世界中での入港禁止、石油の禁輸などを盛り込み、モノやカネの動きを遮断して核開発を断念させる狙いだ。欧州 (EU) でも北朝鮮がミサイルを発射すれば、 「中国の面子は丸つぶれとなり、強力な内容の制裁に向けた議論は加速する」 との期待感があった。しかし、核実験から 1ヶ月経過しながら安保理の制裁決議は未だに採択されていない。中国は安保理の追加制裁の議論には加わるが、 「人道主義の部分に影響しないようにするのが必須だ」 と指摘、原油や食糧支援の見直しは北朝鮮の国民生活に動揺を与えるため受け入れは困難と主張しているからだ。前々回の HP で書いたように、中国は朝鮮戦争以来の 「血の同盟国」 である北朝鮮が 「通告なし」 に核実験を行ったことに対し、不快感を募らせたが、強硬な制裁措置を採れば、北朝鮮の体制不安化による難民の中国流入や経済への悪影響を及ぼすことを恐れている。北朝鮮を西側との緩衝地帯、防波堤と考えている中国は、米国との制裁に相乗りすると北朝鮮への影響力を失うため、過去 3回の北朝鮮の核実験に対して行ったと同様、安保理制裁とは別に中朝国境や港湾での貨物検査強化など独自の制裁に動くことも予想される。

長く続いた国家でも安泰保証なし
 著名な東大名誉教授が昨年秋、 「日本が世界地図から消滅しないための戦略」 と題して、関東で大変興味深い講演をされている。教授は冒頭から 「作者不詳だが、日本列島が消滅し海面になっている地図がある。同様に出所不明の極東アジアを表現した地図では、朝鮮半島が統合されて中国人民共和国朝鮮省、日本は東西に 2分され、西側が東海省、東側は日本自治区と表記されている。列島消滅はともかく、国家消滅の事態が 100%ないとの保証はない」 とショッキングな発言から講演を始め ①日本は神武から続いた国だが、カルタゴは紀元前約 670年繁栄しながらローマとの 3回の大戦争で滅びた ②ベネチアは小国ながら約 1500 年間続いたが、ゲルマン民族に敗れた ③メソポタミアで 6000 年前に建設された世界最古の都市 「ウル」 はイギリスの考古学者が 1920 年代に発掘するまで砂漠だった ④インダス文明を象徴する 「モヘンジョ ・ ダロ」は下水道やゴミ回収システムまで存在した高度都市だが、インドの考古学者が発掘するまで赤茶色の丘陵でしかなかった ―― など具体例を挙げ、 「現在の日本人は自国を自分で守る意識が世界最低」 と平和ボケに警鐘を鳴らされた。さらに 「若者の独身比率は 16世紀から 18世紀のベネチアより高く、現状に安住したい意識の反映で、全てが衰退し、消滅したベネチアと瓜 2つだ」と嘆いておられる。

 独自制裁に拉致調査委解体で対抗
 日米韓政府は 10日、北朝鮮のミサイル発射に対しそれぞれ独自制裁の強化策を発表した。日本の独自制裁は ①在日外国人の核・ミサイル技術者が北朝鮮に渡航後、再入国を禁止 ②北朝鮮への送金は 10万円以下の人道目的を除き、原則禁止 ③北朝鮮に寄港した第三国籍船舶は入港禁止 ―― の 3項目で、2014年に解除された 「北朝鮮籍者の入国の原則禁止」 「人道目的を含む北朝鮮籍船舶の入港禁止」 なども復活した。米国は資産凍結と渡航禁止の法案を米議会に提出。韓国は南北経済協力の象徴である 「開城工業団地」 の操業を全面中断。日韓は北朝鮮の幅広い防衛秘密を共有するための軍事情報包括保護協定 (GSOMIA) の締結について協議。米韓は中露までが安全上、懸念する最新鋭のミサイル防衛システム 「最終段階高高度地域防衛 (THAAD )」 の在韓米軍配備について正式協議に入った。北朝鮮は 12日、日本の独自制裁に対する措置として、日本人拉致被害者の安否を調査中の 「特別調査委員会」 の解体を宣言した。ブッシュ元米大統領が 「ならず者国家」 と称した北朝鮮である。日本全土を照準としたノドン ・ ミサイル数百発を配備した金第 1 書記が、日本の旧関東軍が謀略で鉄道を爆壊して満州事変を起こしたように、突如奇襲攻撃を仕掛けてきたらどうなるか。それこそ東大教授の講演通りに日本は東西に 2分され、 「西側が中国人民共和国の東海省、東側は日本自治区」 になりかねない。野党は先に成立した安保法制を 「戦争法」 と非難し今国会で改廃を唱えているが、3月に施行の安保法制こそが、近隣諸国からの脅威に対する抑止力強化の法制であることを、政府は国民にもっと丁寧に説明しなければなるまい。