第355回(2月1日)ふるさと納税の功罪 地方創生プラス、返礼品加熱
 首相は年頭所感で、2016年を 「 1億総活躍 ・ 元年」 と位置づけ、「国内総生産 (GDP) 600兆円」 などの明確な 「的」 を掲げ、アベノミクス 「新 3 本の矢」 を放ち、挑戦する 1 年とした。昨年 3 月は新幹線の東京 ― 金沢間が開業した。今年は 3 月に東京 ― 新函館間が開通し地方創生が加速する。中でも注目されるのが 「ふるさと納税」 。故郷や応援したい地方自治体に寄付した人に個人住民税や所得税が減額される制度で、菅義偉官房長官が総務相当時の 2008 年に始まった。寄付した人に自治体が高額な返礼品を贈ったり、サービスを提供する 「謝礼競争」 が過熱している。昨年 4月には制度を拡充して減税幅が広がり、競争に拍車がかかった。わが選挙区 ・ 長崎県平戸市は 2014年度に 12億 7884万円の実績を挙げ、トップを飾ったが、高額寄付者に牛 1 頭分の肉を贈る宮崎県三股町のような自治体も現れ、総務省は自粛を呼びかけた。逆に寄付する人が住む東京都、神奈川県などの地方自治体は税収が減り、対抗策に乗り出している。今回はふるさと納税の功罪を取り上げたい。

控除上限額は昨年 4 月から 2 倍に
 ふるさと納税は、応援したい自治体に寄付をすると 2 千円を超える額が所得税や住民税から控除される。確定申告不要の控除上限額は昨年 4 月から控除の上限額が約 2 倍になった。平戸市は昨年秋の 2 日間、横浜市中区の赤レンガ倉庫広場で、「海と山のひらどマルシェ」 を開き、来場者が伊勢エビに劣らない味のうちわエビや平戸和牛に舌鼓を打った。平戸市は焼きうちわエビ、うちわエビスープを詰めたラーメン、シイタケ、平戸和牛の串焼きなどの 「返礼品」 をカタログで選べる制度を導入し、1 昨年は日本一の寄付額を集めた。黒田成彦市長も横浜の場内で盛んに PR、抽選で当たった寄付者に地元産品を使った食事を振舞った。平戸市は東京 ・ 上野に 「平戸漁港六次朗」 、わが出身地の五島列島 ・ 小値賀町も日本橋に 「小値賀」 という居酒屋を出店し、連日賑わっている。沖縄県と名護市が受けた県外からのふるさと納税も、14年 12月に米軍普天間飛行場の名護市辺野古への移設に反対する 翁長雄司知事 が就任したことを契機に、約 77倍にも増えている。しかし、寄付の急増には、基地政策に日ごろから反対する県外の活動家が世論喚起のため寄付と手紙を集中して寄せたと見るべきで、個人の所得税減額とはあまり関わりない。

夕張メロン、宮崎牛 1 頭分と過熱
 だが、ふるさと納税の謝礼は過熱するばかりだ。2007年 3 月に財政再建団体となった北海道夕張市は 14年 4 月から、1万 5千円以上の寄付者に特産の夕張メロンを贈り、14年度の寄付総額は前年度比約 3.6倍の約 9100万円まで増え、年間税収(約 8 億円)の 1 割程度に匹敵する貴重な財源になった。宮崎県三股町は 14年度、300万円以上の寄付をくれた人に対し、200万円相当の宮崎牛 1 頭分の肉を贈る数量限定の 「プレミアムコース」 を設定した。総務省によると、ふるさと納税の利用者は 09年度の約 3 万人から 14年度は約 13万人と 4 倍以上になり、寄付額も 73億円から 142億円と約 2 倍に増えている。最近では、換金性の高いプリペイドカードを用意するなど、制度の趣旨を逸脱していると思われる事例が出てきた。そこで総務省は昨年 4 月、制度拡充と同時に全国の自治体に対し、高額な特産品など過剰な謝礼を自粛するよう通達を出した。これに石川県加賀市、千葉県市川市、静岡県焼津市、三重県伊賀市などが高級腕時計や純金の手裏剣などの提供を取りやめた。

農水省は G I マークの登録で対抗
 しかし、農水省は対抗措置として昨年 11月 22日、北海道の夕張メロンと兵庫県の 「神戸ビーフ」 「但馬牛」 など農林水産物や食品 7 産品を国が地域ブランドとして保護する 「地理的表示保護制度 ( G I )」 に登録した。他の登録は青森市の 「あおもりカシス」、茨城県稲敷市の 「江戸崎かぼちゃ」、福岡県の 「八女伝統本玉露」、鹿児島県霧島市の 「鹿児島の壷造り黒酢」 で、G I マークは消費者にとって一目で 「高品質」 の生産技術や地域との深い結びつきがあると判断できる食品ばかり。地方の隠れた名産品を知る機会になるし、農水省は同様の制度を持つ TPP 参加国を念頭に、相互に相手国の地域ブランドを保護する相互認証も検討しており、昨年 6 月から登録の受け付けを開始した。今回の 7 品目を含め約 50件の申請があり、第 3 者からの意見聴取を終えたものについて順次、専門家による審査をした結果、月 1 回ペースで登録を決めている。ただし世界貿易機関 ( WTO ) の協定により、消費者が本来の産地を誤認する恐れのある表示は禁じられている。地域ブランドとして保護する制度は、酒類については国税庁が、農林水産物や食品は農水省が所管している。

都市 ・ 被災地は特産品で巻き返し
 「ふるさと納税競争には負けない」 と動き出したのが府県レベルである。香川県の 「うどん県」、大分県の 「温泉県」 の向こうを張って打ち出したのが群馬県の 「すき焼き県」 だ。下仁田ネギと上州和牛、シラタキ原料のコンニャク芋の生産量は日本一。シイタケ、白菜などの材料も豊富で、「いい肉の日」 の語呂合わせで、11月 29日を 「群馬 ・ すき焼きの日」 と命名した。群馬は草津、伊香保などの温泉、世界遺産の富岡製糸場などで知名度を上げているが、農産物は今ひとつ。すき焼きの輪を “グングン” 広げたいとしている。こうした、ふるさと納税の獲得競争は都市部や原発被災地も巻き込み過熱している。東京 ・ 八王子市は年 5 千万円ほどの住民税などが他の自治体に流出していると見て 「市の魅力を知ってもらおう」 と、イタリア製ベネチアレースガラス器の複製、高級絹織物、季節ごとの野菜など特産品を揃え、巻き返しを図っている。東京 ・ 墨田区は自主財源の調達手段として美術館の建設費に充てるため、東京スカイツリーの入場券などを返礼品として本格参入した。東電福島原発事故で大規模な住民避難をした福島県内の自治体も、復興を支援したいと言う寄付者らへ、320年の歴史を持つ 「大堀相馬焼」 の湯飲みや 「なみえ焼きそば」 の麺、近隣の山形県が蔵元の日本酒などの特産品をお返しする努力を始めた。

 地方創生の看板政策に省庁移転
 「どうしても東京になければならない機関は何か。財界は考えてほしい」 ―― 石破茂地方創生相は昨年 7 月、経団連のフォーラムで講演し、こう要請した。政府は 「地方創生」 の看板政策として、政府機関の地方移転や耕作放棄地の課税を強化して 「農地中間管理機構 (農地バンク)」 の利用促進などを進めている。政府は昨年 3 月、首都圏の東京、神奈川、埼玉、千葉を除く 43都道府県から誘致したい国の機関を募集。京都府・市は 「国宝の約 5 割、重要文化財の約 4 割が関西に集積している」 として、文化庁の誘致に名乗り上げた。文化庁のほか、消費者庁の徳島県移転や中小企業庁なども有力な移転候補に浮上している。安倍首相は 1 月 14日、山田啓二京都府知事と会談し文化庁の機能の一部を京都に移転させる方針を伝え、石破地方創生相、馳浩文科相も前向きの姿勢で応対した。政府は京都に事務所を新設し先ず文化庁長官を常駐させた後、文化財保護の関係部署を移転させる方向だ。

 政府機関は地方移転に反発強める
  ところがこれにも自民党や政府機関から反発がある。文化庁は ①国会質問への対応が年間約 250件に上る ②国会議員への説明も年間約 500件ある ③府省間の会議が年間 400回以上もある ―― などで出張旅費がかさむことを反対理由に列挙し、京都移転に難色を示した。消費者庁の移転にも、同日に国会内で開催した全国消費者団体連合化の集会で自民党の船田元 ・ 消費者問題調査会長は 「ちょっと待ってくださいと言わざるを得ない。消費者庁を潰すことに繋がる」 と述べ、河野太郎消費者担当相も慎重姿勢を示している。農地バンクにも、見知らぬ他人に農地を貸すことに心理的抵抗があることから、農地の再生に疑問が持たれている。政府は東京五輪開催の 2020年までに訪日外人客 2000万人以上を掲げ、東京 ・ 大田区は空き部屋に旅行客を有料で泊める 「民泊」 を条件付で認め始めた。昨年の訪日外国人旅行者は 1973万人(前年の 1.5 倍) で既に目標の 2000万人は達成されつつある。中国人の 「爆買い」 が話題を呼んだように、昨年落としたおカネは約 3.5 兆円に達し国内景気に大きく貢献している。各自治体がふるさと納税の返礼品を競い合うことに批判もあるが、地方で開発された納税の返礼品は外国人にも人気がある。かつて大分県は 「一村一品運動」 を展開したが、自ら考え行動する地域づくりは重要だ。私は今後も地方産品の開発や九州、北海道などの新観光ルート開発を念頭に、地方創生を推進したいと考えている。