第354回(1月16日)切れ目ない安保法制(番外編) 北朝鮮の核実験
 新年早々の 6日午前、北朝鮮は最初の水爆を実験したと発表した。国連安保理事会は直ちに緊急会合を開いて非難声明を出し北朝鮮への禁輸拡大や資産凍結などの新制裁を検討中だ。核実験は隣の韓国ですら兆候が掴めず、朝鮮戦争以来 「血の同盟国」 である中国にも知らされなかった。北朝鮮は 「政府声明」 を出し、「米国の極悪非道な対朝鮮敵視政策が根絶されない限り、核開発の中断や核の放棄は絶対にありえない」 と開き直って挑発。水爆保有国であると認知させて、米国を何とか交渉のテーブルに直接引き出そうとしている。北朝鮮は日本全土を射程に置く中距離弾道ミサイル・ノドンを 100発以上配備したといわれる。実験は水爆の前段階の 「ブースト型原爆」 と見られるが、ミサイルに搭載できる小型化が進んだとすれば、首相が言う「重大な脅威であり、断じて容認できない」 事態。政府は一部解除した北朝鮮への制裁を復活・強化する方針だ。安倍政権は日米同盟強化により安保の抑止力を高めるため安保法制を改正し朝鮮半島有事の際の米軍艦船防護などを整備した。これに学生グループなどの市民連合5団体が反戦運動を展開、国会をデモで埋め尽くした。だが中東のリスク拡大に加え世界で孤立する北朝鮮が追い詰められ “窮鼠猫を噛む” 行動で韓国や日本に核攻撃を仕掛けてきたらどうなるか。安保論争をしている暇はない。新たな脅威に対処するため、「切れ目ない安保法制」 の番外編を追加することにした。

発狂する残虐強盗集団と米を罵る
 北朝鮮は 6日正午、朝鮮中央テレビを通じ 「特別重大報道」 を行い、「最初の水素爆弾(水爆)実験を実施した」 と発表した。核実験は 2013年 2月以来通算 4回目で、金正恩体制下では 2回目。韓国気象庁は同日午前 10時 30分、北朝鮮北東部・豊渓里の核実験場でM 5.0の地震があったと伝えた。北朝鮮の政府声明は 「小型化された水素爆弾の威力を科学的に解明し、最強の核抑止力を備えた」 と強調し 「水爆まで保持した核保有国の前列に立つことになった」 と誇示。「水爆実験は米国と帝国主義敵対勢力からの核の脅威に対する自衛的措置であり、北朝鮮の自主権が侵略されない限り、先に核兵器を使用しない。米帝の敵視政策が根絶されない限り、核開発の中断や核の放棄はない」 とあくまで抑止力として開発・保有する姿勢と自衛手段の正当性を強調している。しかし、冒頭から 「全国千万軍民が朝鮮労働党の戦闘的呼びかけを血のたぎる心臓で受け止め 、主体革命偉業の最後の勝利を早める総突撃戦に果敢に立ち上がり (中略) 5千年の民族史に特筆すべき大きな出来事が起きて天地を揺るがしている」 など宣戦布告のようにおどろしく国民に訴え、米国を 「許しがたい前代未聞の政治的孤立と経済封鎖、軍事的圧力を加えた挙句、核の惨禍までもたらそうと発狂する残虐な強盗の群れ」 などと口汚く罵り、国民の団結と士気高揚を図っている。

中朝 「血の同盟」 関係の修復困難
 2009年に発足したオバマ米政権は 12年 2月に寧辺のウラン濃縮活動の停止で合意するなど直接対話で問題解決を目指してきた。だが北朝鮮はその 1ヶ月半後に長距離弾道ミサイルを発射して合意を破棄、オバマ政権は 「戦略的忍耐」 と称し、北朝鮮が具体的な非核化措置を取らない限り協議には一切応じない方針に切り替えた。その後も弾道ミサイルや核実験を続ける北朝鮮に 6カ国協議の日・中・韓・米・露の5カ国は経済制裁を加え、6者会談は中断したまま。北朝鮮が何よりも望むのは米国との直接対話だが、オバマ大統領は昨年 10月、核実験には制裁強化で応える方針を明確にしている。金正恩第 1書記が最も頼りにする中朝関係も 「血の同盟」 はギクシャクしており就任以来 1度も招かれでいない。昨年 10月の朝鮮労働党創建 70年記念行事に、中国共産党序列 5位の劉雲山政治局常務委員を招き、中朝関係は修復するかに見えたが、劉氏からは核実験などの自制を求められた。

公演ドタキャン後に命令書に署名
 36年ぶりの朝鮮労働党大会が 5月に迫る中で、金第 1書記が公約に掲げた 「人民生活の向上」 は成果がなく、核実験など軍事面での功績作りが国民への素早い説得材料になる。そこで金氏は昨年 12月 10日、「今日、わが国は水素爆弾の爆音を響かせることが出来る強大な核保有国になれた」 と述べ、近く水爆実験を行うことを示唆。2日後に訪中した北朝鮮の女性音楽グループ 「牡丹峰楽団」 (金氏が創設) に核実験を讃える歌を合唱させようとした。美人揃いの楽団員はカラフルな衣装と膝上のミニスカートをはいているが、全員が将校クラスの女性兵士。しかし、中国側は個人崇拝色の強い公演内容であったためクレームを付け、これに怒った北朝鮮側は北京公演をドタキャンして帰国した。金第 1書記が実験の命令書にサインしたのは楽団帰国 3日後の 12月 15日。実験は米中への事前予告なしに年明けに断行、韓国も兆候をつかめず寝耳に水の核実験だった。叔父を含む幹部を相次ぎ粛清し 「恐怖政治」 で権力維持を図る金第 1書記は、核実験が成功しようとしまいと成果を過大に内外に宣伝できると踏んで、ヒットラー的な独断専行に拍車をかけているようだ。

米韓はB52爆撃機で中国を威嚇
 日本は 8日、衆参両院で抗議決議を全会一致で採択。韓国軍は同日、約 10ヶ所に設置した大型拡声機や最新型移動式拡声機を使って宣伝放送を再開した。音声は夜間で約 24キロ、昼間は約 10キロ先まで届く。韓国軍は昨年 8月、韓国兵が負傷した地雷事件への対抗措置として、11年ぶりに宣伝放送を行ったが、同月の南北高官協議で、「異常事態が発生しない限り」 と言う条件付きで中断していた。米軍は 10日正午頃、B52戦略爆撃機をソウル南郊の上空を韓国機とともに低空飛行し北朝鮮を威嚇・牽制した。B52は朝鮮半島まで 4時間で飛来できるグアムの空軍基地に常駐。地下施設を貫通破壊できる 「バンカーバスター」 や射程 3千キロの核弾頭ステルスミサイルが搭載可能。北朝鮮軍司令部や核施設、金第1書記ら指導部の避難施設も対空砲の射程外から狙い撃ちできる。米軍は来月の米韓合同軍事演習に原子力空母レーガンや原子力原潜などを参加させる。朝鮮半島は一触即発の事態で、北朝鮮もこれ以上、挑発行動のチキンレース (瀬戸際作戦) に踏み込むのは危険だ。国連安保理事会の追加制裁決議は船舶入港制限の強化など米国が中心となって起草中だが、慰安婦問題を巡る日韓合意を経たことで日米韓も一体で対応しており、13日にソウルで北朝鮮の核問題を討議する6カ国協議の日米韓首席代表会合を開いたほか、16日には東京で日米韓の外務次官協議を開き、国連安保理決議に向け、多国間 ・ 2国間の対応策を協議する。

中国は難民の大量押し寄せを懸念 
 今後の進展のカギを握るのは中国だ。北朝鮮は石油と食糧の大半を依存し、輸出の 9割を中国に頼っている。中国の習近平政権は 「忠告無視」 「通告なし」 の核実験に不快感を示したが、中国が経済制裁を強化すれば、厳冬で餓死者が続出すると見られ、鴨緑江対岸にある中国吉林省の延辺朝鮮族自治州延吉などを目指す難民が大量に押し寄せそうだ。読売は 10日朝刊で、「中国のネット上には核汚染への懸念などから北朝鮮を非難する書き込みが相次ぎ、『金一族の狂犬に援助を続け、我々を汚染にさらした』 と中国政府にも矛先を向けた。それでも、中朝国境の混乱を恐れる中国は、北朝鮮の体制を脅かすほどには制裁を強められないジレンマがある」 と解説した。同日の NHK日曜討論で野党党首はこぞって安保法制の改廃法案を今国会に提出して統一戦線で参院選を戦い、安倍内閣打倒に追い込むと気勢を上げた。だが独裁者・金氏に効き目はない。追い詰められた金政権が日本の心臓部に小型原爆搭載の弾道ミサイルを撃ち込んだら一体どうなるか。全党あげて対応策を講じる時である。政府は拉致問題に解決の兆しがあったと見て、2年前に制裁を一部解除したが、北朝鮮居従者への送金禁止など制裁の復活と独自制裁の追加を検討している。それよりも朝鮮半島の有事に備え、自衛隊と米軍が燃料や弾丸などを融通し合う物品役務相互協定 (ACSA) の改定案などを早急に国会提出しなければ、安保新法制はうまく機能しないだろう。  (安保シリーズ完)