第353回(1月元旦)切れ目ない安保法制(30) 3月29日に新法施行
 安保関連法は昨年 9月末に交付されたが、政府は 3月29日に施行する方針だ。施行後は自衛隊による集団的自衛権の行使や、他国軍に対する後方支援の拡大などが可能になるため、防衛省は武器使用方法などを定める部隊行動基準の見直しを進めている。新安保法改正では学者が 「違憲法制」 と唱え、学生グループ 「SEALDs」 や 「安保関連法に反対する学者の会」 など市民連合5団体が立ち上がり、樺 美智子・東大生が圧死した時の60年安保を想起するようなデモが連日国会を包囲した。安倍首相の祖父・岸信介元首相は安保改定批准の直後に退陣したが、首相は安保法成立後、直ちに 「1にも 2にも経済だ」と経済優先にシフトし、政局を乗り切ろうとしている。岸退陣の後、わが派 「宏池会」 創始者の池田勇人元首相は 「軽武装・経済優先」 の吉田茂元首相路線に沿って 「寛容と忍耐」 「所得倍増論」 を打ち出し日本を高度成長に導いた。首相はこれにあやかり両道を達成、長期政権を目指している。池田、大平正芳、宮沢喜一の歴代首相を輩出した保守本流・宏池会のリベラル・ハト派と違って、改憲志向が強く、外交・安保でタカ派色の強い首相には国内の平和勢力だけでなく中韓など近隣諸国が警戒を強めている。だが中国の海洋進出、北朝鮮の核武装化などを見れば日米同盟の進化による抑止力の強化が何よりも重要。来年度予算案には離島防衛強化など初めて 5兆円を突破する防衛費を計上した。安保法制を総点検してみよう。

日米同盟と国際連携強化し抑止力
 「日本を取り巻く安全保障環境は一層厳しさを増している。脅威は容易に国境を越えてくる。国民の命と平和な暮らしは断固として守り抜く」 ―― 首相は昨年10月18日、海上自衛隊観艦式でこう訓示し、現職首相として初めて米空母に乗艦した。これに先立つ 9月末には国連のPKO首脳会合で、「多様化する業務に対応できるように法改正し、従事可能な任務が広がった」 と PKOに積極的な貢献をする考えを表明した。成立した安保法制は日米同盟と国際連携を強化し、隙間なく抑止力を高めるため、集団的自衛権を容認し、自衛隊の国際協力活動を拡充するもの。自衛隊法、武力攻撃事態法、国連平和維持活動 (PKO) 協力法、重要影響事態法 (周辺事態法の改名)、船舶検査活動法、米軍行動円滑化法、特定公共施設利用法、外国軍用品海上輸送規正法、捕虜取り扱い法、国家安全保障会議 (NSC) 設置法 ―― の10本を束ねて一括改正した 【平和安全法制整備法】 と、自衛隊による他国軍の戦闘支援を随時可能にする恒久法の 【国際平和支援法】 の 2本立てで構成された。

集団的自衛権に武力行使新3要件
 法改正の最大の柱は集団的自衛権の限定行使。政府は1昨年 7月の閣議決定で、新たな憲法解釈に基づき、限定行使を容認する 「武力行使の新 3要件」 を定めた。これにより、日本と密接な関係にある他国が攻撃を受け、日本の存立が脅かされる 「存立危機事態」 の場合、必要最小限の武力行使が出来るようになった。朝鮮半島有事における米軍艦船防護などを想定している。中東・ホルムズ海峡での機雷掃海でも集団的自衛権の行使が可能となる。中東に原油の輸入を頼る日本が 「シーレーン(海上輸送路)」 に機雷がまかれて封鎖され、エネルギー源の供給が滞って国民生活に死活的な影響が出る場合と認定される。だが、欧米によるイランへの経済制裁が解除され、原油輸出が再開された直後に、駐日イラン大使は 「イランによる機雷敷設は、根拠がない」 と釈明。首相は国会で 「ある特定の生活物資が不足するだけでは存立危機事態に該当しない」 と答弁。機雷掃海や米艦防護については、柔軟に対処する考えを表明している。

陸自の後方支援に地理的制約撤廃
 注目されるのは、自衛隊による米軍などへの後方支援に地理的な制約がなくなることだ。日本に重要な影響がある場合、世界中の何処でも自衛隊の派遣が可能となる。新たに弾薬の提供、発進準備中の航空機への給油なども認められる。参院審議では野党が 「核兵器も弾薬に含まれるのではないか」 と追及したのに対し、中谷元防衛相は、核兵器の輸送や核兵器を搭載した爆撃機への給油が法文上は排除されていない、としながらも、「わが国には非核 3原則がある」 として否定した。活動範囲は 「現に戦闘を行っている現場以外」 だが、後方支援を行うかどうかは、政府の主体的判断に任される。また、国連決議に基づいて活動する米軍や多国籍軍に対する支援は、これまでも時限的な特別措置法で対応してきたが、今回新設された国際平和支援法によって、自衛隊の後方支援が随時可能になった。平時の体制強化に繋がると期待されるのは、自衛隊による防護対象が米軍など外国軍の装備にも広がることだ。従来の自衛隊法では、自衛隊の武器だけの防護しか認められていなかったが、今後は米軍などの装備も守ることが出来る。ただし、適用される場合には、自衛隊と連携し、「日本の防衛に繋がる活動」 をすることが条件となる。具体的なケースとしては ①共同訓練 ②警戒監視 ③後方支援 ―― などが想定される。これで自衛隊と米軍の連携強化はより緊密になるが、国会で野党からは 「集団的自衛権行使の抜け道だ」 との批判が相次いだ。

参院選配慮し駆けつけ警護先送り
 政府は2012年以来南スーダンPKOに陸自の施設部隊を派遣し、約350人が幹線道路のインフラ整備や避難民への給水活動を継続しているが、PKO協力法改正により、住民の保護、巡回、検問、警護など 「安全確保業務」 と、他国軍や非政府組織 (NGO) などの民間人が襲撃された場合、自衛隊が駆けつける 「駆けつけ警護」 の仕事が加わり、武器使用の権限が拡大される。野党は自衛隊員が攻撃を受ける可能性が高まると批判してきた。「平和の党」 を標榜する公明党も支持母体の創価学会が自衛隊員のリスクに懸念を表明している。政府は改正法の 3月末施行に向けて、防衛省を中心に具体施策を煮詰めているが、野党の反発が予想されるため、7月の参院選に与える影響を配慮し、当初予定した南スーダンPKO部隊の 「駆けつけ警護」 などは、5月の交代期からの実施は見送り、次の交代期となる11月以降に延期する考えが強まっている。また、自衛隊と米軍が燃料や弾丸など物資を融通し合う物品役務相互提供協定 (ACSA) も通常国会への改定案提出を見送る調整に入った。皆様には大変お世話になりましたが、4日の国会召集日から、私は衆院安保委員長の職責を離れることになりました。これを機に委員長就任時から続けた 「北村の政治活動」 の 「切れ目ない安保法制」 シリーズは30回でひとまず完了します。ご愛読を感謝申し上げます。 (完)