第351回(12月1日)切れ目ない安保法制(28) 沖縄で訴訟合戦突入
 日米同盟にとって沖縄の米軍基地は最大の抑止力である。中国は南シナ海の岩礁を埋め立てて空港を建設。 沖縄県石垣市の尖閣諸島も古来の領土であるとして、南シナ海に加え東シナ海でも領有権を主張。海警船による尖閣周辺の領海侵入はほぼ月 3回に定着、漁船や海洋調査船による活動も増加させている。中国は米軍がフィリピン基地から 1990年代初めに撤退した後の空白を埋めるように南シナ海に浸入、比の占有していた島嶼を占領した。西沙諸島での中国との海上戦闘で敗れたベトナムが南沙諸島に転進したのも力による変更。尖閣諸島も中国の武装漁民が上陸 ・ 占拠すれば、日本の主権が脅かされかねない 「グレーゾーン事態」 であり、日本の海上保安庁と中国海警局が睨み合っている。世界の警察国家を返上し、アジアのリバランス (再均衡) 政策に切り替えた米国にとって沖縄の海兵隊基地はアジア、中東の安全に欠かせない要の拠点だ。その米軍普天間飛行場の辺野古移設がこじれて 17日、国と沖縄県が訴訟合戦に突入した。 1996年 4月に日米間で普天間基地返還を合意して 19年経過した。 今回は新安保法制化でも中核となる辺野古問題を取り上げたい。

 「自己決定権を踏み躙る」 と翁長氏
 名護市辺野古への移設は 1995年 9月の米兵 3人による少女暴行事件がきっかけ。住宅密集地に危険な飛行場があるのに加え治安上の問題から、当時の橋本龍太郎首相とクリントン米大統領が協議し、代替施設の用意を条件に 5 ~ 7年の間に普天間飛行場を返還することで合意した。日本政府は 99年、名護市への移設方針を閣議決定したが、受け入れ条件を巡り地元と折り合えず難航した。 その後、騒音防止や安全性を重視して滑走路のV字型施設を作ることで 06年に日米間で合意、埋め立て地の環境影響評価も実施された。小渕恵三政権は沖縄でサミットを開くなど地元優遇の姿勢で協議を進め、 受け入れ環境が整ってきた。 ところが 09年に発足した鳩山由紀夫政権が 「最低でも県外」 を公約に掲げたため普天間移設は振り出しに戻り、 2013年末にようやく仲井眞弘多前知事が埋め立てを承認した。だが、仲井真氏は 14年末の知事選で反対派の翁長雄志氏に 10万票の大差で敗れた。翁長県知事は 「戦後、住民の土地が強制収用され、米軍基地が作られたのが原点で、代替施設を求められるのは理不尽だ」 とし、政府と沖縄県の 5回にわたる集中協議でも溝は埋まらず決裂。 9月 21日にスイスの国連人権理事会で 「かつての琉球王国は日本に併合され、戦後は米施政権化に置かれ、自己決定権を踏み躙られてきた」 と、歪められた沖縄の人権を訴えた。

「琉球処分」 に重なると地元激昂
 このような対立状態の中で翁長県知事は 10月 13日、埋め立て承認を取り消した。石井啓一国土交通相はこの取り消し処分の効力を停止し、同 29日に辺野古での作業を再開した。 同時に新基地建設予定地隣接の地元 3地区に、移設反対の名護市を通さず、補助金を直接交付する考えを伝達した。 このようにアメとムチの手法を使い分ける政府に抗議、座り込む名護市民を東京から 150人も派遣された警視庁機動隊が排除したため、 「明治時代に政府が警官らを派遣した 『琉球処分』 に重なる」 と受け止めた市民も多かったようだ。 沖縄県は 11月 2日、処分の効力停止を不服として総務省の第 3者機関 「国地方係争処理委員会」 に申し立て、同委は 13日の初会合では国と県の双方から意見を聞くことを決めたが、県側は主張が認められなければ福岡高裁に提訴する方針。これに対し政府は同 17日、翁長知事の辺野古沿岸部の埋め立て承認取り消し処分を撤回する代執行に向けた訴訟を福岡高裁那覇支部に起こした。埋め立て承認を取り消した知事の処分を、知事に代わって国が撤回する 「代執行」 に向けた訴訟である。政府が沖縄県知事を提訴するのは 1995年、米軍用地強制使用の代理署名を拒んだ大田昌秀知事を当時の村山富一首相が訴えて以来 20年ぶりだ。

裁判中も工事継続、20年完工目指す
 12月2日に第 1回口頭弁論が開かれ、勝訴すれば知事に代わって処分を撤回し埋め立てを進める。最高裁まで争われるとしても、国交相による知事決定の効力停止を根拠に裁判中も工事を継続、20年完工を目指す構えだ。こうして政府と県の訴訟合戦は始まった。グアム島視察から帰ったばかりの菅義偉官房長官は記者会見で 「我が国は法治国家」 と提訴を正当化した上、沖縄に駐留する米軍のうち約 3分の 1の 9千人がグアムをはじめ国外に駐留する」 と訴え、米軍嘉手納基地以南の施設 ・ 区域の変換も軌道に乗ることを強調した。 これに対し、翁長知事は 「沖縄差別の表れだ。 (米国統治下に) 『銃剣とブルドーザー』 による強制接収を思い起させる」 と怒りを露わにした。 第 2次世界大戦の米軍上陸で県民 4人に 1人が戦死したのに加え 「国土面積の0.6%に過ぎない沖縄に占める在日米軍専用施設の割合が 74%と言うのはいかにも理不尽だ」 と翁長氏らは主張、県民の厚い支持を得ている。 確かに戦中、戦後に多大な苦難を受けた県民の負担軽減に国は総力を挙げ取り組むべきだ。

尖閣国有化から中国が領有権主張
 しかし、9月の米中首脳会談で中国は 「南沙 (スプラトリー) 諸島は漢時代からの固有の領土」 として岩礁を埋め立て、人工島をつくり 「領土 ・ 領海を守るのは核心的利益」 と主張。 これに反発した米国がイージス駆逐艦を派遣し巡視活動に入ったことで、両国関係は緊迫している。中国の中華思想では明時代から朝貢貿易を求める近隣諸国を属国扱いにし、 領土の一部とみなしてきた。 かつての琉球王国もその範疇に入れられており、 沖縄県石垣市の尖閣諸島も釣魚島と呼んで領有権を主張している。 特に民主党政権が 2012年 9月、尖閣 3島 (魚釣島、北小島、南小島) を国有化して以来、中国の領有権主張は激しく、中国公船による領海侵入を繰り返し、海上保安庁の巡視船が領海外に押し返すイタチゴッコが続いている。 米国は尖閣諸島で紛争が起きれば、「日米安保条約第 5条で守る」 と確約しているが、領有権問題にはコミットしていない。 従って米軍基地機能が弱体化すれば、90年代初頭に南シナ海でフィリピンの島嶼が中国に奪われたように、今度は南沙諸島から東シナ海に矛先を転じ、尖閣ばかりか同市の西表島、竹取島にも侵入しないとも限らない。 防衛省は中国を強く意識し、陸自の空白地域であった宮古 ・ 石垣両市、与那国町の離島への部隊配備を進めており、九州 ・ 沖縄で 19日まで南西防衛を目的にした陸自の実動演習を行った。米海兵隊の機能を維持する辺野古移設は喫緊の課題。移設問題で菅官房長官が連発した 「粛々と」 は年末の流行語大賞にノミネートされたが、政府は沖縄県民、全国民のためにも誠意を尽くして真摯に地元の説得に当たり、早期決着を図らねばならない。  (以下次号)