第349回(11月1日)切れ目ない安保法制(26) 法成立後の国際情勢
 安倍首相は 10月 18日、神奈川 ・ 相模湾の海自観艦式で訓示、安保関連法の意義を強調した後、現職首相として初めて米空母に乗艦し日米同盟体制の進化を内外に誇示した。 9月の米中首脳会談でオバマ大統領が南シナ海での中国の内海化に懸念を表明したのに対し、習近平国家主席は 「漢時代からの固有の領土」 と反論、溝は埋まらなかった。このため、カーター米国防長官は13日、中国が南沙諸島に造成した人工島の 12カイリの海域に米艦を派遣すると宣言、27日に横須賀基地配備のイージス駆逐艦 「ラッセン」 が巡視活動を行い、中国が猛反発した。 首相が乗艦した原子力空母は南シナ海担当の旗艦でもある。 4月に再改定された日米防衛ガイドラインと今回成立した安保関連法で、軍事的協力は進展し、米国から自衛隊派遣を要請されれば、 断るのが難しくなった。 17日にはベンガル湾で実施された日米印海軍連携の共同訓練 「マラバール」 が報道陣に公開された。 先号では安保法成立を機に 「切れ目ない安保シリーズ」 は完了すると述べたが、 日本は 「経済最優先」 の政策に転換する一方、 着々と抑止力強化の道を歩み出して野党が益々反対を強めている。 転換期の安保は来夏の参院選の最大争点になるので、 2、3回追加して皆さんと検討したい。

中国、「赤い舌」 で南沙を実効支配
 「日本を取り巻く安保環境は一層厳しさを増している。 望むと望まざるとに関わらず、 脅威は容易に国境を越えてくる。 国民の命と平和な暮らしは断固守り抜く」 ―― 首相は海自観艦式で訓示 し、 積極的平和主義の旗を高く掲げ、 世界平和と繁栄に貢献していく決意を表明した。 3.11東日本災害直後の 「トモダチ作戦」 で復旧に参加し、このほど横須賀港所属となった米原子力空母 ロナルド ・ レーガンに乗艦したのは 「日米一体化が強まり抑止力が高まる」 ことを象徴的に示し、海洋進出を強める中国や核装備を急ぐ北朝鮮を牽制したものだ。 中国は南シナ海に 「九段線」 と呼ぶ境界線を勝手に引き、 南沙 (スプラトリー) 諸島の岩礁を埋め立て、「赤い舌」 のように垂れ下がった海域を実効支配化し、 旧ソ連軍の空母を改造した 「遼寧」 の配備を目指すほか、 大連と上海の造船施設で 2隻の国産空母の建造を急ピッチで進めているという。 共和党はオバマ大統領の 「弱腰」 を責め、 超党派の米下院議員は 9月の米中首脳会談前にオバマ氏に書簡を送り、艦船 ・ 航空機の派遣を要求した。

米 「航行の自由作戦」 に協力要請も
 首脳会談では米国が中国のサイバー攻撃や南シナ海の内海化に懸念を表明したのに対し、 中国は 「領海を守るのは核心的利益」 と主張して譲らず、 両国関係は険悪化した。 国際法上、 満潮時に水没する岩礁を埋め立てても領有権は認められない。 このため、 米政権は 「航行の自由作戦」 と称し、 中国が南沙諸島の領有を既成事実化する前に、 人工島から 12カイリの自由航行海域に駆逐艦を派遣し、 示威行動を展開した。 米国は中国がミサイル演習で台湾を威嚇した1996年の 「台湾海峡危機」 の際に空母 2隻を派遣したが、 今回は戦闘能力の高いイージス艦で不測の事態に備えた。 中国は 「南沙諸島は争う余地のない中国の領土であり米国は関与すべきではない」 (外務省) と米国を非難し、人民日報系紙も 「米軍の挑発程度に応じず報復する」 と牽制した。 一触即発の危機事態を迎え、 米中両国の海軍トップは 29日、約 1時間にわたってテレビ会談を開き協議したが、中国は当面 ①監視 ②追尾 ③警告 ― の態勢で睨みあっている。 直ちに自衛隊が有事で米軍の輸送 ・ 補給などで支援する 「重要影響事態」 や集団的自衛権の行使は考えにくいが、 この緊張状態が続けば成立した安保法の 「平時の米艦防護」 は可能で、 米国が監視パトロールなど共同行動を求めてきそうだ。

印は 「ダイヤのネックレス」 で中国に対抗
 中国は 「一帯一路」 の海のシルクロード構想で、 インド洋周辺のスリランカやバングラデシュ、パキスタンの港湾建設などを支援し、 対印包囲網の 「真珠の首飾り戦略」 を推進している。 これに対抗し、 インドは日米と海上安保協力を強化し、 真珠より高質の 「ダイヤのネックレス戦略」 を構築、 9月下旬に日米印 3カ国外相会議を開いて南シナ海などの航行の自由を協議したほか海上訓練 「マラバール」 を実施している。日本は既に尖閣諸島など東シナ海で中国と緊張関係にあり、有事に至らない 「グレーゾーン事態」 での米軍などの防護が自衛隊法改正で可能になった。だが南シナ海も日本にとっては迂回路の少ない原油輸送の重要な 「シーレーン (海上輸送路) 」 である。米国が南沙諸島に海軍を派遣する際に警戒監視活動を要請したり武力衝突など不測の事態が起きる場合は、日本が脅かされる 「存立危機事態」 として、当然、集団的自衛権の限定行使を容認する 「武力行使の新 3要件」 に沿って支援に向かうことになる。法改正と同時に自衛隊のリスクも高くなってきた。

中露の地域覇権で新冷戦時代到来
 中国による南シナ海の内海化と同様、クリミア半島を一方的に編入したロシアがウクライナ紛争で欧米を敵に回し、中露の地域覇権主義は冷戦崩壊後 25年の 4半世紀を経て、新たな冷戦に入ろうとしている。 厄介なのはイラク戦争の置き土産のテロ組織 「イスラム国」 (IS) が誕生、新冷戦に中東の宗教戦争が絡んでいることだ。 ロシアは 9月末からシリアでの空爆に参加、過激派 IS だけでなく米国が退陣を求めるアサド政権の反体制派も攻撃し、アサド氏は 10月中旬に訪露し感謝した。 さらに複雑にしたのは中国の習国家首席の訪英。 キャメロン英首相との 10月 21日の会談で、総額約 400億ポンド (約 7兆 4千億円)の投資 ・ 経済案件について協議、英南西部サマセット州に新設する原発に 60億ポンド (約 1兆 1千億円) 出資で合意。 英東部プラッドウェル原発では中国独自の原子炉技術を導入する方針も決めた。 安全保障への脅威となる原発に中国の技術を導入するとは驚きだ。 しかも、 国賓として公式訪問した習首席はエリザベス女王と馬車に同乗、 女王の住居であるバッキンガム宮殿を宿舎に提供され、 「ウイン、ウイン (双方がうまくいく関係)の黄金時代を復活した」 (英首相) と大歓迎された。 オバマ大統領の空港出迎えもなく、形式的な国賓待遇を受けた訪米とは大違いだ。 注目されるのは経済の減速が続く中国に 10月末からメルケル独首相、オランド仏大統領が相次ぎ訪問すること。 両国とも中国と経済交流が活発で経済第2大国に成長した中国を無視できないからだが、かつての冷戦時代とは様変わりの光景だ。

安保に経済絡め首相地球俯瞰外交 
 オバマ米大統領は 「TPPがないと価値観を共有しない中国が世界貿易のルールを作ることになる」 と大筋合意を歓迎したが、英国は中国の 「アジアインフラ投資銀行」 (AIIB) 設立に欧州では真っ先に加盟しており世界平和には経済問題が深く関わってきた。 首相はそうした中国の影響を受けないようモンゴル、中央アジアの 6カ国を歴訪するなど財界人を引き連れ新幹線、原発技術のトップセールスをする地球俯瞰外交を続けている。 安保法制化後の各紙世論調査で内閣支持率は 40%台を回復してきた。 参院選勝利に向けて安保法制へ国民のさらなる理解を求め、どう経済再生の来年度予算を組むか。 まさに正念場である。 (以下次号)