第347回(10月1日)切れ目ない安保法制(24) 怒号・ピケで激しい攻防
 国論を2分した安全保障法制は9月19日未明に成立。安倍政権は憲法の 「参院60日ルール」 を使わず、衆参216時間をかけて慎重審議を行った成果であるとして、日米同盟の深化による抑止力の向上を世界に訴え、国際平和に貢献する姿勢を強調している。野党は高校生から高齢者まで幅広く参加した“草の根デモ”を背景に、17日から3日間、強行採決を図ろうとする与党に 「あらゆる手段を講じて阻止する」 とし、鴻池祥肇特別委員長の理事会室入りを怒号とピケ戦術で阻止した上、「職権で委員会を開会した」 として不信任動議を提出、民主党の福山哲郎理事が 「フリーバスター」 と呼ばれる40分の長演説で提案理由をブチ上げるなど採決阻止で徹底抗戦。参院本会議には中谷元防衛相問責、中川雅治議運委員長と鴻池委員長の解任、山崎正昭議長の不信任、首相問責のそれぞれ決議案を連発。衆院本会議には内閣不信任案を提出したがいずれも否決された。岡田克也民主党代表は 「これからが勝負だ」 と5連休中も街頭演説に繰り出し、「来夏の参院選は安保法制を争点に違憲、廃案を唱えて戦い、政権奪還する」 と決意を述べた。共産党は参院選で統一比例候補を立て選挙協力すると主張し民主党と協議。生活の党も野党の連合、連携を模索している。違憲を唱えた約200人の憲法学者は違憲訴訟を起こす構え。さて与野党は今後どう戦うか。

平和を子供に引き渡す法基盤整備
 「国民の命と平和な暮らしを守り抜くために必要な法制で、戦争を未然に防ぐためのものだ。未来の子どもたちに平和な日本を引き渡すための法的基盤が整備された。与党だけでなく、野党3党の賛成を得て法案を成立できた。今後も国民に誠実に粘り強く、丁寧に法案を説明していきたい」―― 首相は各紙世論調査で賛成より反対がかなり上回っている現状を懸念し、法案成立直後の記者会見で、今後も国民に懇切丁寧な説明を続けると確約。民主党は野党第1党ながら、集団的自衛権の行使に賛否両論があって対案が出せず、維新の党と 「領域警備法案」 を共同提案しただけで、廃案、違憲を主張するばかり。自公両党は当初、次世代、元気、改革の3野党が出した  「国民の理解を得るには国会での例外なき事前承認が必要」 との修正案を、参院での付帯決議で対応する考えだったが、16日の5党首会談で付帯決議の趣旨を閣議決定することで了承を得、3野党の抱き込みに成功した。これが 「不意打ちの強行採決ではなかった」 ことの大義名分で、法施行の準備を進めている。

他国の武力行使に密接不可分と野党
 成立した安保法制は、他国軍を後方支援するための 「国際平和支援法」 と、既存の自衛隊法など10法を一括して改正する 「平和安全法制整備法」 の2本立て。要約すると、日本の存立が脅かされ、国民の権利が根底から覆される 「存立危機事態」 で3要件を満たせば集団的自衛権の行使が可能となる。 国際平和支援法は、自衛隊の海外派遣を特別措置法の制定なしに可能とするもの。武力行使に至らないグレーゾーン事態で米軍などの防護が可能となる自衛隊法改正や、武器使用基準を緩和する国連平和維持活動 (PKO) 協力法なども盛り込まれた。野党は集中審議で、安保法制が戦闘中の他国軍に行う後方支援のメニューを拡大し、弾薬の提供や戦闘機への給油が可能になるとし、 「他国の武力行使と密接不可分の活動で、世界中の誰が見ても憲法に反する武力行使の一体化だ」 と批判した。これまでの北村HPシリーズで法制の問題点は列挙してきた  が、平時からグレーゾーン事態を含む有事まで、存立危機・武力攻撃事態に対処する、切れ目ない安保体制をどう構築するか。

与野党の賛成・反対討論で一目瞭然
 安保法制を巡り与野党がどのように火花を散らしたかは、 19日未明の参院本会議採決での賛成、反対討論を見れば一目瞭然だ。民主党の福山氏は 「暴力的な強行と言論封殺の末に表決権を奪った17日の委員会採決は無効だ。立憲主義、平和主義、民主主義、戦後70年の歩みにことごとく背く法案だ。立法府で審議中の法案に最高裁の元長官が 『違憲』 と発言するのは極めて異常事態。少なくとも40年以上、集団的自衛権を行使できないと、歴代法制局長官と自民党先輩、首相を含む全ての閣僚が決めてきた。違憲なのは明白。特別委では地方公聴会の報告がなく、公述人の意見は議事録にも載らない。これが政治の信頼をなくす。集団的自衛権の行使は戦争に参加することだ。ごまかしを国民が見抜いたからこそ反対が広がった」 と主張した。しかし、古武士的風格の鴻池委員長が 「参院は、衆院や官邸の下部組織であってはならない」 と公言し、野党が要求した16日の地方公聴会や8月の礒崎陽輔首相補佐官の参考人招致を受け入れ、与党幹部に60日ルールを適用させないよう、慎重審議を進めた鴻池委員長の姿勢を各党は高く評価。不信任動議の趣旨説明をした福山氏は 「野党の意見に耳を傾けて頂いた。委員長に指示をした官邸や与党にこそ、猛烈に抗議したい」 と、まるで信任動議の弁論のように鴻池氏を持ち上げ、謝意を表明した。

中立・公平な委員会運営に野党感謝
 他の野党も鴻池氏の公平な委員会運営には感謝している。維新の党の小野次郎氏は 「議事録を確認しても鴻池委員長の着席と退席の事実記載しかなく、本会議上程などは法的に無効だ。政府案は根本的に不備と欠陥と矛盾だらけ。憲法無視で歯止めが掛からず、対米追従で歯留めない安全保障は許されない」 と述べ、共産党の小池晃氏は 「戦後日本の歩みを大転換し、多くの日本人の命を危険にさらす法案の採決を強行した罪はあまりにも重い。断固糾弾する。戦争放棄、戦力不保持、交戦権否認を規定した憲法9条の下で、他国の戦争に加担する集団的自衛権の行使が認められる余地は寸分たりともない。数の力で押し通すのは立憲主義の破壊、法の支配の否定だ。存立危機事態の要件は極めて曖昧で、武力行使の判断を時の政府に白紙委任することになる」 ―― などと野党はこぞって反対討論をした。この論調で野党は参院選に向けて院外闘争を展開、改憲阻止勢力を構築する考えだ。

安保環境の変化、一刻の猶予もない 
 これに対する賛成討論で、自民党の石井準一氏は 「法の目的は我が国の抑止力を強化し、世界の平和と安定に貢献することだ。抑止力の強化は、我が国の存立が脅かされる事態に限定的な集団的自衛権の行使を可能にすることで日米同盟がより強固になる。国際社会が国連決議の下に一致団結して対応する事態になる。PKOでも自衛隊の活動範囲を拡大し能力に応じた国際社会の責任を果たす。合憲か違憲かを確定する唯一の機関は憲法の番人たる最高裁だ。憲法9条の解釈は変わらず、合憲性と法的安全性は確保されている。我が国を取り巻く安保環境の変化は一刻の猶予もない。5党協議が整ったのは冷静に議論が出来た結果で、強行採決という野党の指摘は当たらない」 と主張。公明党の谷合正昭氏も 「日米防衛協力を強化して抑止力を向上させ、切れ目ない態勢整備で国民の命と平和な暮らしを守っていくことが求められている。憲法9条下の専守防衛の中に入っており戦争法案ではなく戦争防止法案だ」 と平和外交の推進を訴えた。攻防は来夏に向け第2ラウンドに入る。 (以下次号)