第346回(9月16日)切れ目ない安保法制(23) 安保環境悪化を中国が例示 
 安保法案の審議は最大の山場を迎えた。維新、民主両党は8日の参院安保法制特別委(鴻池祥肇委員長)で対案の趣旨説明を行ったが、同日の参考人質疑には与党推薦の宮家邦彦立命館大客員教授(外交・安全保障)と神保謙慶応大準教授(国際安全保障論)の2人が出席し合憲性を強調した。野党推薦は大森政輔元法制局長官と伊藤真弁護士の2人だが、大森氏は集団的自衛権の行使を可能にする法案の憲法適合性に疑問を呈した。政府与党は15日に中央公聴会、16日に地方(神奈川)公聴会を開き、5連休前の採決態勢を整えている。終盤までに野党側は①専守防衛との合憲性②集団的自衛権行使による国民と自衛隊のリスク③地球の裏側まで自衛隊を海外派遣するなど後方支援の範囲④国連平和維持活動(PKO)の駆け込み警護⑤グレーゾーン事態の対応――などに争点を絞り憲法違反の戦争法案だと追及した。これに対し政府は安保環境の急激な変化に対応、グレーゾーン事態から有事(武力衝突)に至る切れ目(隙間)ない抑止力を構築すると答弁。「存立危機事態」は自主防衛の新3要件に照らし、政府が「総合的な判断で評価する」と述べ、具体的項目の法案書き込みを避けたため、野党が強く反発し審議は難航した。

維新対案8本提出、民主と一部共同
 民主、維新の両党は4日、安保関連法案の対案として、離党防衛の体制強化を盛り込んだ「領域警備法案」を参院に共同提案した。これで維新の党が準備していた対案は8本全てが提出されたことになる。両党が7月に衆院に提出した法案とほぼ同じ内容で、重武装した漁民が離島を占拠するなど武力攻撃に至らないものの、警察力では対処出来ない「グレー-ゾーン事態」に備え、事前に定める領域警備区域での自衛隊の行動や権限を規定した。政府はグレーゾーン事態には、法改正ではなく運用改善で対処する方針で、自衛隊の海上警備活動や治安出動の手続き迅速化を今年5月に閣議決定している。与党と両党は対案についての修正協議を継続し、特別委で対案の審議も始めたが、維新の対案には曖昧な点が多い上、党が分裂状態では修正合意が困難と見て、対案の趣旨を付帯決議に盛り込むことで決着を図る構えだ。首相は国民に懇切丁寧、真摯に説明したい一心から、4日に大阪を訪れ、テレビで訴えたが、放映後の参院特別委の理事懇談会では、野党理事から「そんなに暇なら毎日でも委員会に出てきて一生懸命に答弁すべきだ。真剣度が足りない」と抗議され、鴻池祥肇委員長(自民)も「一国の首相としてどういったものか」と苦言を呈した。

習国家主席が軍権掌握し国威発揚
 しかし、首相が最も国民に説明したいのは、「集団的自衛権は必要最小限に留まるべきで、行使は許されない」とする1972年の政府見解を、国民の生命・財産を守るため「限定的な行使は容認する」に変更した昨年7月の閣議決定の背景だ。首相らは国会答弁で「北朝鮮が日本全国に到達する弾道ミサイル・ノドンを配備し核開発を促進。中国は軍事費を急激に増大、南沙諸島の岩礁埋め立てや東シナ海の海底ガス開発など海洋進出した」と日本の安保環境は急激に変化したことを訴えてきた。環境変化の典型的な例が中国の「抗日戦争勝利70年」軍事パレードだ。抗日戦争の主役は蒋介石が率いた中華民国の国民党で、毛沢東の共産党ではなかったが、人民の勝利であるとし、中国は日本が降伏文書に調印した翌日の9月3日を記念式典に定め、今年初めて軍事パレードを実施した。習近平国家主席は「この偉大な勝利で日本の軍国主義の企みを徹底的に粉砕した」と式典で演説。日本と欧米先進国首脳は参加を見送ったが、習氏はプーチン露、朴槿恵韓国の両大統領ら20カ国余の元首・首脳と共に、1万2千人の人民解放軍の行進を閲兵した。この日の天安門は「パレードブルー」の青空。北京市内の約2千の工場を20日間操業停止し、半数の交通規制を実施して排ガスを無くし「北京秋天」を取り戻したが、経済損失は2百億元(約3800億円)に達したと香港紙が報じた。このように習政権は独裁的手法で国民を犠牲にし、軍権掌握と軍拡路線、国威発揚を誇示したわけだ。

中国急接近の朴氏と国連事務総長
 問題なのは、朝鮮戦争で北朝鮮を支援した中国の式典に朴大統領が参加し、次期韓国大統領候補と目される潘基文・国連事務総長も出席したこと。潘氏はロシアの「対ドイツ戦勝70年記念式典」など「終戦70年を記念する様々な行事に出席している。中立は不可能で、公平・公正が事務総長の職責だ」と弁明、出席を正当化しているが、米国と朝鮮戦争以来の同盟関係にある韓国が日米韓の連携を離れ、中国と「準同盟」的な関係を結んだ印象を与えるほど中国に急接近していることだ。それにもまして、軍事パレードでは日米を牽制する軍拡の国産兵器が続々登場し注目された。尖閣諸島上陸を念頭に置いたと見られる水陸両用戦車や、新型早期警戒機「空警(KJ)500 」など航空機約200機、米本土に到達する新型の大陸間弾道ミサイル(ICBM)「東風26」(射程4千キロ)、空母キラーと呼ばれる新型対艦弾道ミサイル「東風21D」(射程1千5百キロ)など、いずれも国産の新開発兵器を初公開した。これこそ安倍政権が指摘する安保環境の急激な変化であり、「一国平和主義」を改めた「積極的平和主義」に基づく、日米同盟の進化による抑止力強化の必要性だ。憲法の番人だった山口繁元最高裁長官までが違憲論を唱えたため、野党は徹底抗戦の構えだが、安保法案は国民の理解を得て、必ず今国会で成立させることが強く望まれている。(以下次号)