第345回(9月1日)切れ目ない安保法制(22) 参院特別委は終盤波乱含み
 終盤の参院特別委は、野党側が防衛省の内部資料を「文民統制違反」と追求したのに加え、金銭トラブルが発覚し離党した自民党議員の辞任要求、おまけに首相のヤジ発言も飛び出し、鴻池祥肇委員長が公正な委員会運営を心掛けるあまり、首相のヤジを注意したり、参院に相応しい慎重審議を促す1幕も。維新の党は20日、自衛隊法改正案や海外派遣を随時可能にする恒久法案など5つの対案を参院に提出、自公両党に協議の再開を呼びかけた。朝鮮半島で緊張が高まるなど安保環境が激変する中で、27日の会期末まで審議期間は残りわずか。14日以降は憲法の「参院60日ルール」を使って衆院で再可決が出来るか。首相の決断が迫っている。19日の参院特別委で野党側が追及したのは、陸海空を束ねる統合幕僚監部が5月下旬、安保法案の内容を部内に周知させるテレビ会議用に作成した資料。8月の成立を前提に、法改正後の変更点などを記述している。今回も与野党攻防の問題点を探る。

国会軽視、自衛隊独走と野党追及
 独自に内部資料を入手した共産党の小池晃副委員長は11日の参院特別委で、「自衛隊幹部が勢ぞろいしている会議で、国会に示されていない内容を含めて詳細に報告されているのは極めて重大。国会軽視、自衛隊の独走だ」と火をつけ、シビリアンコントロール(文民統制)問題を質し、特別委は1週間空転した。内部資料には南スーダンで国連平和維持活動(PKO)に参加している自衛隊の任務に、離れた場所で襲われた他国の部隊などを助ける「駆けつけ警護」を追加する日程が想定されている。これらの点について中谷防衛相は「統合幕僚監部が5月下旬に作成した。私の指示の範囲内で文民統制上の問題はない。再改定された日米防衛協力のための指針(ガイドライン)と安保法案の内容を説明・周知するのが目的だ」と答えた。中谷氏によると、法案の閣議決定翌日の5月15日に内容を隊員に周知するよう指示。これを受けた統幕の主催で、自衛隊幹部ら約350人が参加した同26日のテレビ会議用に統幕と内部部局が調整し、資料を作成したと説明。「公表を前提に作成されたものではなく、外部に流出したことは極めて遺憾だ」と情報の管理体制を強化する考えを示した。谷垣幹事長も記者会見で、「役所としては、法律が出来た時に『何の準備もしていませんでした』と言うわけにはいかないでしょう」と中谷氏に理解を示している。

苦言呈し野党受け狙う鴻池委員長
 野党はさらに、週刊誌の報道で未公開株を巡る金銭トラブルが発覚して自民党を離党した武藤貴也衆院議員(滋賀4区)に対し、「首相は党総裁として議員辞職勧告をすべきだ」と迫った。21日の参院特別委審議では、中谷元防衛相が他国軍支援に関し、「野呂田(芳成・元防衛庁長官)6類型」を誤って「大森(政輔・元内閣法制局長官)6事例」と答弁したことについて、蓮舫氏(民主)が混同を指摘した途端、首相が「まあ、いいじゃん、それで」とヤジを飛ばしたため、鴻池祥肇委員長(自民)が「自席での発言は控えてほしい」と注意した。首相は「防衛相は間違えただけで、(議論の)本質とは関係ないので、答弁を続けさせてほしいという意味だった」と釈明、発言を撤回したが、首相のヤジ謝罪・撤回は5月の衆院特別委に次いで2回目。鴻池委員長は閣僚の答弁に緊張感が足りないと見てか、委員会終了後に記者団に対し「国論を2分、3分している重要な法案。衆院でドサクサに紛れるような強行採決をやった」と不満を漏らした上、「先の大戦で国会は軍部の独走を止められなかった。貴族院でどうにもならなかったから、参院を置いた。参院の役割は衆院の拙速を戒める立場だ」と持論を展開、自民党内で安保法案の採決時期が9月の総裁選と絡めて発言されていることにも、「極めて不快なことだ。審議の邪魔になる。参院が合意形成の努力をしなければいけない時に、総裁選とか何時までに成立させなければいけないとか、バカのことを言ってはいけない」と苦言を呈した。国民の理解が深まらない苛立ちを示しつつ、委員長として公平な姿勢を強調することで野党の受けも狙った発言、と言えよう。

近隣諸国の安保環境は急激に悪化
 朝鮮半島では4日、軍事境界線に沿った非武装地帯で北朝鮮が仕掛けたと思われる地雷が爆発して韓国軍下士官2人が重傷。韓国側は報復として「金正恩体制の問題点」などを拡声器で流す軍事放送を11年ぶりに再開した。これに対し、北朝鮮は韓国側の「謀略と捏造」による事件と激しく反発。20日にソウル北方約60キロの京畿道連川付近の拡声器に向けて高射砲弾2発を撃ち込み、宣伝放送を「宣戦布告」とみなし、「全面戦争も辞さない」と主張。韓国軍は直ちに北朝鮮の発射地点に向け155ミリ砲弾約20発を応射した。10月10日に朝鮮労働党創建70周年を迎える北朝鮮は米韓合同軍事演習に神経を尖らせ、軍事摩擦を金正恩体制固めと国威発揚に最大限利用しようと「瀬戸際戦術」を拡大した。こうした緊迫した中で22日、南北軍事境界線のある板門店の韓国側施設「平和の家」で南北高官会議が開かれた。韓国は地雷爆発事件の「確実な謝罪と再発防止」(朴槿恵大統領の指示)を、北朝鮮は「宣伝放送の即時中止」をそれぞれ要求したが折り合わず、足掛け4日の25日未明、①北朝鮮は地雷爆発で遺憾表明②韓国は拡声器の宣伝放送を中止③北朝鮮は「準戦時状態」を解除④南北離散家族再開事業を推進――など6項目で合意。軍事の応酬でエスカレートした休戦解除・開戦の「1触即発の危機」はようやく回避された。安倍首相は25日の参院特別委で、「日米同盟がしっかりと機能することで北朝鮮の暴発の抑止に有効に機能する」と述べ、朝鮮半島の緊張など安保環境の急激な悪化に対処し安保法案の成立が必要であることを強調した。

維新対案は個別的自衛権の拡大
 維新の党が提出した対案は、他国への武力攻撃が発生し、日本に直接の攻撃が及ぶ明白な危険がある場合に限り、他国を武力で守る集団的自衛権を認めることが柱。政府が集団的自衛権行使の前提とする「存立危機事態」に代えて、個別的自衛権を事実上拡大する「武力攻撃危機事態」を新設するのが中核。衆院に提出して否決された法案とほぼ同じ内容で、衆院に提出した対案をテーマごとに他党の賛成が得やすいよう8本に分割、このうち5本を提出した。内4本は無所属クラブが賛同した。残り3本は、離党防衛の体制強化を図る「領域整備法案」などで、民主党と再び共同提出を目指し協議し、合意できない場合は単独提出する方針だ。次世代の党、日本を元気にする会、新党改革の3野党も24日、自衛隊の海外派遣に「例外なき国会の事前承認」を義務付ける修正案の提出で合意した。24日は戦後70年の安倍談話、アベノミクス、安保法制などを論点に首相が出席して参院予算委が、25日には参院特別委の集中審議が開かれたが、特別委は海外に派遣する自衛隊の安全確保などを巡り紛糾した。

 維新、次世代が分列状態で審議に影響
  国会は維新の対案を与党が評価し前向きに協議を進めるかどうかが、早期決着を占う鍵となりそう。しかし、維新の党は山形市長選候補を巡って松井一郎顧問(大阪府知事)が柿沢未途幹事長の辞任を要求、柿沢氏の続投が決まったため27日に離党。党創立者の橋下徹最高顧問(大阪市長)も「国政政党から離れ、地方政治に軸足を移す」と記者団に語り、11月の大阪府知事、大阪市長のダブル選に専念する考えを示し、松井氏とともに離党した。両氏は改憲を目指す姿勢で首相や菅義偉官房長官らと意気投合する「大阪系」。野党再編を目指し野党共闘を重視する民主党出身の松野頼久代表ら「永田町(東京)系」国会議員と路線上の対立は深刻で、事実上分裂状態にある。一方、平沼赳夫党首が退任する次世代の党は、28日告示の党首選を前に、立候補が予定されていた松沢成文幹事長が27日の記者会見で、「安倍政権とは是々非々の態度で臨むべきだ」と述べ、路線の違いを理由に出馬を取りやめて離党。対立候補の中山恭子参議院会長が無投票で新党首に選出された。このように野党の分裂状態が続き、安保法案の審議にも色々な影響が出てきそうだ。 (以下次号)