第343回(8月1日)切れ目ない安保法制⑳ 世論背景に野党徹底抗戦
 後半国会の最大焦点である安全保障関連法案は、 参院に設置された平和安全法制特別委 (委員長 ・ 鴻池祥肇元防災相 = 45 人構成 ・ 全 11 会派) で 7 月 27 日に趣旨説明と質疑、 28 ~30 日に首相が出席して総括審議を行い、 本格的攻防に入った。 政府与党は衆院特別委で  116 時間をかけ、 1960 年以降 6 番目の長さの審議時間に達したことから、「 60 日ルール 」 も視野に、 会期内成立に総力を挙げている。 衆院採決を拒否した民主、 維新、 共産の 3 野党は ノーベル物理学賞受賞者を含む 「安保関連法案に反対する学者の会」 が同 31 日の国会周辺で抗議集会を開くなど世論の反対が高まったとし、 参院で廃案に追い込もうと徹底抗戦に出ている。自民党の高村正彦副総裁は 「間違っても 60 日ルールなど使わせないぞ ― との参院の見識を示し審議を進めて欲しい」 と記者団に述べている。 会期末までにはお盆休みや 9 月の連休もあり、実際の審議日数は限られることから、 与党は採決見通しが立たない場合、 「参院で否決したとみなし衆院 3 分の 2 の多数で再可決できる」 憲法 59 条の 60 日ルール適用も辞さない構えだ。  今回は安保法案の与野党攻防点と政府の対応を説明したい。

自衛隊の国際協力、他国軍支援拡大
 関連法案は日米同盟と国際連携を強化し、 切れ目 (隙間) なく抑止力を高めるため、 集団的自衛権の限定行使を容認し、 自衛隊の国際協力活動を拡充するもの。 武力攻撃事態法、 自衛隊法など改正案 10 本を束ねた 「平和安全法制整備法案」 と、 自衛隊による他国軍の戦闘支援を随時可能にする恒久法 「国際平和支援法案」 の 2 本立てで構成している。 衆院特別委が可決した 15 日、 苦労した浜田靖一委員長は 「政府として 10 本に束ねたのは、 いかがなものかと思っている」 と思わず記者団に愚痴を漏らし、 首相も国会答弁で 「未だ国民の理解が進んでいる状況ではない」 と述べた。民主党の岡田克也代表は 16 日、法案採決に先立つ衆院本会議の討論で、「国民からは非常に分かりにくいものとなっている。 意図的に分かりにくくしたのではないか。 法案(を11本に分けると) 1 本あたり 10 時間に過ぎず全く不十分だ。 首相は本気で議論する考えはない」 と批判し、 バラして審議するよう求めた。

中国の海洋進出と北朝鮮の脅威
 首相は海の日の 20 日、 海上自衛隊の洋上訓練を視察した際の訓示で、 中国の海洋進出を牽制した。 首相が一貫して主張するように我が国を取り巻く安全保障環境は極めて厳しい。 中国は尖閣諸島周辺の東シナ海に海洋調査船を派遣し、 ガス田開発など資源探査のプラットホーム 12 基を建設した。 南シナ海では岩礁を埋め立て、 滑走路を建設中で日本経済動脈のシーレーン  (海上交通路) が脅かされている。 北朝鮮は日本全土を射程に置く弾道ミサイル ・ ノドンの配備や核兵器の開発を進め緊張を高めている。 中谷元防衛相が 21 日の閣議に報告した 15 年度防衛白書では こうした中国の海洋進出と北朝鮮の核 ・ ミサイル開発、 中東のテロ組織活発化などを挙げ、 中国が 「力を背景に高圧的な対応を継続させ、 一方的な主張を妥協なく実現しようとしている」と批判した。 首相が言う通り、 もはや 1 国の防衛力では平和は保てず、 朝鮮半島の有事における米艦防護などを可能にして、 抑止力を高めることが喫緊の課題だ。 この基本認識では自公両党と維新は一致しており、 維新は民主党と共同でグレーゾーン事態の 「領域整備法案」 を 提出したほか、 政府案より個別的自衛権に力点を置いた対案も 2 本提出し、 与党との修正協議に臨んでいた。 参院でも修正協議を継続することで一致しており、 接点を探る場面も出てこよう。問題なのは委員会の採決時に多数の民主党議員が浜田委員長席に詰め寄って怒号を上げ、 国会周辺のデモ隊が用いた 「アベ政治を許さない」 「強行採決反対!」 のカラフルなプラカードを掲げ、 テレビ映像に訴えたことだ。 自民党の稲田朋美政調会長は 19 日朝のフジTV番組で 「言論の府なのに、政府案の対案も出さずにプラカードを掲げ、反対するとはどういうことか」と批判した。

日本防衛と国際平和維持の 2 分野
 さて、 これまでの与野党応酬のポイントを整理してみよう。 安保関連法案は大ざっぱに言って、 日本の防衛に関する法案と、 国際的な平和維持に自衛隊を派遣する法案の 2 分野がある。  10 本をまとめた 「平和安全法制整備法案」 の柱は武力攻撃事態法改正案だ。 歴代政権は、  日本が直接武力攻撃を受けた時に自衛隊が反撃できる個別的自衛権だけを認めてきたが、 安倍政権は昨年 7 月の閣議決定で憲法の解釈を変えて、 集団的自衛権の限定行使を認めた。 これに伴い、 同改正案に盛り込まれたのが 「存立危機事態」 の概念。 対処する武力行使の 3 要件として ①密接な関係にある他国への武力攻撃が起こり、 これにより日本の存立が脅かされ、 国民の権利が根底から覆される明確な危険がある (存立危機)  ②他に適当な手段がない ③必要最小限の実力行使――を挙げ、 3 条件を満たせば日本が攻撃されなくても敵国を武力攻撃できると定め、 首相は審議で3要件に当てはまるケースを説明した。

ホルムズ機雷掃海の答弁を修正
 現行では禁止されている朝鮮半島の有事で日本を守るために活動している米艦の防護と、 日本の石油供給ルートに当たる中東 ・ ホルムズ海峡でのイランによる海上封鎖を念頭に置いた機雷掃海である。 紛争中海域での掃海は機雷をまいた国への敵対行為となり、 国際法上は武力行使(戦争行為) と見なされる。 しかし、 首相は 27 日の参院本会議で、 「特定の国が機雷を敷設することは想定していない」 と説明。 同時に 「中東地域の安全環境が不透明さを増し、 あらゆる事態に万全の備えをすることが重要だ」 と答弁した。 これはイラン核協議の最終合意やイランの駐日大使が海上封鎖の可能性を否定したことに配慮し、 衆院答弁の軌道修正をしたものだ。 また、 法改正では東アジアを念頭に置いた米軍を後方支援する 「周辺事態法」 を抜本的に改正、 名称も 「重要影響事態法案」 に変え、 日本と密接な他国に対し、 必ずしも武力攻撃が起きていなくても日本の平和に深刻な影響を与える重要影響事態と政府が判断すれば、 自衛隊が補給や輸送面で他国軍を後方支援することにした。

武器で住民保護や駆けつけ警護も
 自衛隊の活動範囲を日本や周辺とする制約を取り払い、 支援対象も豪軍など米軍以外にも拡大する。 自衛隊の海外活動を拡大するもう 1 つは、 恒久法の 「国際平和支援法案」 だ。2001 年のアフガニスタン戦争ではテロ対策特措法を定め、 インド洋で海上自衛隊が米軍艦などに給油したように、 これまでは他国からの要請に応じて期限付きの特措法を作って対応してきたが、 恒久法では 「現に戦闘行為を行っている現場」 以外なら自衛隊を派遣できるようにした。 弾薬の提供や発進準備中の戦闘機への給油も可能になる。 さらに 「国際平和維持活動 (PKO) 協力法改正案」 による戦争後の平和維持活動の拡大がある。 現行法では原則、 正当防衛でしか武器を使えないが、 法改正では 「任務遂行のための武器使用」 が新たに認められ武器を所持した自衛隊の巡視、 検問などの地元住民を守る活動や離れた場所にいる国連や NGO 職員が武装集団に襲われた場合の 「駆けつけ警護」 も可能になる。 国連主導の枠組みに限らず、 自衛隊がイラクに派遣されたような支援活動ももちろん可能だ。

野党は 9 条の専守防衛違反と反対
 大半の野党は、 衆院憲法審査会で与党推薦の憲法学者までが 「 違憲 」 と唱えたことに勢いづき、 安保関連法案の撤回 ・ 成立阻止で結束を固めている。 特に民主党は、 憲法 81 条により最高裁には違憲立法審査権があるため、 政府や国会議員が提出する法案が憲法に合致しているかどうか、 最高裁にチェックを求める新制度の検討を始めた。 野党は政府の “解釈改憲” が  ① 「専守防衛」 を定めた憲法 9 条に違反し、 憲法が権力を律する立憲主義に反する ②従来の憲法解釈で認められた個別自衛権で対応できる ③政府は新 3 要件に合致する具体的ケースを恣意的に決める構えだ ④重要影響事態の基準が曖昧 ⑤他国軍への後方支援は戦闘と一体の「兵站」 とみなされ、 憲法禁止の 「他国の武力行使との一体化」 で戦争に巻き込まれる ⑥徴兵制度に繋がる ―― など、 自衛隊や国民にリスクの多い 「戦争法案」 (共産、社民) だと反対している。 全面賛成の次世代の党は別として、 新党改革は国会の 「事前承認」 を絶対の必要条件として賛成。 衆院で対案を 5 時間しか審議されなかった維新の党は慎重審議を唱えている。 だが、民主党と共同提案した 「領域整備法案」 の扱いなどで、与党との協議姿勢を維持しており、 これが解決の突破口となる可能性を秘めている。 (以下次号)