第342回(7月16日)切れ目ない安保法制⑲ 月内成立に向け決戦迫る
 安保論争は会期延長で土俵を広げ、 マスコミが行事役の “場外乱闘” の様相を呈してきた、 と前回の HPで書いたが、 自民党議員勉強会での 「報道を威圧する発言」 が行事役をも怒らせ、 国会は一時紛糾した。 しかし、 ①自民党は直ぐ発言者を厳重注意処分とした ②首相と官房長官が国会などで謝罪した ③維新の党が安保法制の対案を提示し各党と個別協議に入った ―― などで急場を凌ぎ、 平和安全法制特別委は 6日に沖縄と埼玉両県で地方公聴会、 8日に東京で中央公聴会を終えた。 与党の思惑通りに行けば 16日に衆院可決、 多少遅れても、 参院で否決とみなされる 2ヶ月後に衆院で再可決が出来る 「60日ルール」 も視野に入れ、 断固、 会期内に成立させる腹構えだ。 日米同盟が進化されることで大詰めの環太平洋経済連携協定 (TPP)の日米交渉にもプラス材料となろう。 今回は報道威圧発言の経過と維新の党対案の中身、 今後の予想される特別委の与野党攻防などについて触れてみたい。

勉強会主催の局長更迭 ・ 厳重注意
 「沖縄の方の気持ちに反する発言があったことは極めて遺憾。 表現の自由は民主主義の根幹だから配慮していく姿勢をはっきり示さなければならない」 ―― 首相は 6月 29日、 首相に近い自民党議員で作る勉強会 「文化芸術懇談会」 で、 沖縄地元紙を含む報道機関を威圧する発言が出た問題で、 谷垣禎一幹事長と会談した。 谷垣氏は直ちに勉強会を主催した木原稔党青年局長を更迭、 侮辱発言をした 3議員を厳重注意処分とした。 25日に開いた勉強会では作家の百田尚樹氏 (前 NHK経営委員) が 「沖縄の2つの新聞社は絶対に潰さなあかん。 普天間基地は田んぼの中にあった。 基地の周りが商売になると住みだし、 基地の地主は大金持ち」 などと発言。 出席議員からは 「マスコミを懲らしめるには、 広告がなくなるのが一番。 経団連に働きかけよ」 などの発言が相次いだ。 名指しされた沖縄 2紙は翌 26日、 両編集局長名で抗議声明を発表するとともに2日、 日本記者クラブで会見し、「事実に基づかない誹謗、 中傷は看過できない」 と怒りをぶちまけた。 特に百田氏の発言には 「民主主義の否定であり、 冗談で済む話ではない。 甚だしい誤解が定着しかねない」 と懸念を表明。 「百田発言を引き出した自民党議員にこそ問題がある。 自分たちこそ正論だという驕りがあった」 と指摘した。 沖縄県議会も同日、 安倍総裁 (首相)に発言の撤回と謝罪を求める決議を可決した。

閣僚批判、勉強会は贔屓の引き倒し
 2日の自民党派閥 ・ グループ会合でも苦言が相次いだ。 石破茂地方創生相はグループの会合で 「例の 『懲らしめる』『潰せ』 という不穏当な話の余波が残っている。 自民がガタツク時は政策より 『なんか感じが悪いよね』 という国民意識が高まった時に危機を迎える」 と述べ、 岸田派の会合では林芳正農水相が 「開いた口がふさがらない。 論評に値しない」 と批判。 麻生太郎財務相は 「首相応援団の心算だろうけど、 足を引っ張る結果になった」 と国会審議への影響を憂慮、 伊吹文明元衆院議長は 「与党議員もメディアも、 権力を持っているものは抑制的でなければならない」と指摘。 首相側近の勉強会は贔屓の引き倒しに終わった。 維新の党は 8日、 安保関連法案の対案 3案を衆院に提出、 徹底審議を求めた。 自衛隊法など改正案 10本を束ねた 「平和安全整備法案」、人道復興支援活動などに自衛隊の海外派遣を随時可能にする 「国際平和協力支援法案」、平時から自衛隊が離島を警備できるようにする 「領域警備法案」 の 3本。 武力攻撃に至らないグレーゾーン事態に対処する 「領域警備法案」 は民主党との共同提出だ。 採決対応を巡る意見の違いから一時は共同提出を断念したが、 与党が目指す今月中旬の衆院採決を阻止するため、 連携を優先して歩み寄った。

自衛権は 「武力攻撃危機事態」 に限定
 「維新案と政府案を比べながら、 今日の審議で相当理解が深まった。 決めるべき時には決めていただきたい」 ―― 首相は 10日の衆院平和安全法制特別委でこう述べ、 11日の東北被災地視察の際にも記者会見で早期採決の決意を表明した。 両党提案の領域警備法案については、 政府が去る 5月の閣議決定で、 尖閣諸島などの離島防衛を巡り、 自衛隊への出動命令を迅速化する運用見直しを行い、 海上保安庁、警察庁と自衛隊との連携強化が図られたことを指摘、「現時点では新たな法整備が必要とは考えていない」 と国会答弁で明確にした。 既に海保と海上自衛隊は共同訓練を開始している。 維新の対案は政府案で「存立危機事態」 での行使を認めている集団的自衛権は認めず、 日本有事以外で自衛権の行使ができるのは、 日本防衛のために活動する外国軍が攻撃され、 日本も攻撃される明白な危険がある 「武力攻撃危機事態」 に限定。 中東 ・ ホルムズ海峡での戦時中の機雷掃海を事実上できなくした。

維新は個別的自衛権行使の見直し
 戦闘中の他国軍支援について、 政府案は 「現に戦闘行為が行われておる現場以外で実施。 弾薬の提供も可能」 としたのに対し、 維新対案は 「現に戦闘行為が行われておらず、 活動期間を通じ行われない 『非戦闘地域』 で実施。 弾薬提供は禁止」 とした。 総じて維新案は憲法で認められた個別的自衛権で行使できる範囲を見直すことで対処しようとしており、 政府案を 「憲法違反」と指摘した小林節慶大名誉教授は合憲と評価している。 岸田文雄外相は特別委で 「集団的自衛権で対処すべき場合に個別的自衛権の概念を独自に解釈して対処すれば、 国際法違反だ」 と指摘した。 中谷防衛相も機雷掃海の必要性を重ねて強調、 首相は同盟関係にない豪州などとの防衛協力が進んでいる現状を説明、「(米国以外でも) 集団的自衛権の行使は完全に排除できない」と述べた。 政府と維新両案の隔たりは大きく与党が実質的な法案修正に応じるのは難しいが、 維新が協力姿勢に転ずれば勿怪の幸いだ。

反対活動高まる中で採決決断迫る
 反対でも両案を同時に採決すれば野党は欠席し辛くなり、 強行色は薄まるとの思惑が与党内にはある。 そこで民主、 維新、 共産、 社民、 生活の 5野党は 10日、 党首会談を開き、 「強引な採決に反対」 で一致した。 沖縄の地方公聴会では 「沖縄を 2度と戦場にするな」 との反対意見が強く出され、 マスコミの世論調査では 「分かりづらい」 との回答が増えた。 国会周辺では大学生グループの 「学生緊急行動シールズ」、「東京大学人緊急抗議集会」、「女性弁護士 101人大集合」など強行採決に反対する活動も俄かに高まってきた。 首相は 6日から 5日間、 ネットの自民支援者番組 「カフェスタ」 に出演し、 “懇切丁寧” な解説に努め、 自民党も 「平和安全法制推進本部」を 「安保法制整備推進本部」 (江渡聡徳本部長) に改名。 下に実働チームを新たに立ち上げ、佐藤正久参院議員 (元イラク先遣隊長) をモデルにした 「教えて ! ひげの隊長」 のアニメ映像を 製作するなど PRに大童。 安保法案の審議時間は採決目安の 80時間を上回り、 10日で 100時間を突破した。 厳しい駆け引きの中で、安倍政権は 「いざ決戦」の決断時期を数日後に控えており、 国会は緊迫の度を高めている。 (以下次号)