第340回(6月16日)切れ目ない安保法制⑰ 専守防衛の考えは不変
 集団的自衛権の行使、 後方支援の拡大、 自衛隊のリスク、 国会承認など安保関連法案を巡る逐条審議で “各駅停車” の攻防を続けていた国会は、 衆院憲法調査会の参考人がこぞって 「違憲」 を唱えたことで野党が勢いづき、 11 法案の成立は “急勾配の曲がり角” に差し掛かった。 首相は集団的自衛権の行使について、 日本の存立が脅かされるなど行使容認の新 3 要件を満たせば、 「専守防衛の考え方は全く変わりない。 基本的論理は一切変更していない」 と強気だったが、 民主党推薦の小林節慶大名誉教授は 「国際法上の戦争に参加することになる以上は戦争法だ」 と談じ、 平和安全法制と名付けた首相や政府の姿勢を 「平和だ、 安全だ、 (と言う) レッテル貼りだ」 と痛烈に批判した。 野党は 「違憲法案を阻止する」 と結束を固めつつある。 そうでなくとも 「切れ目ない対応」 の関連法案は日本への危険度が高い順に、「事態」 の枕言葉に *武力攻撃発生、*武力攻撃切迫、*武力攻撃予測、*存立危機、*重要影響、*国際平和共同対処 ―― などの官製用語で 6 以上の事態が盛り込まれ、 国民には分かりにくい。 政府答弁でも 「事態」の基準や線引きが未整理の状態だ。

存立危機と武力攻撃切迫どう違う
 例えば、 民主党の 辻元清美 氏が、 日本の存立が脅かされる 「存立危機事態」 と、 日本への直接攻撃が差し迫る 「武力攻撃切迫事態」 との違いを追及したケース。 他国への武力攻撃であっても政府が存立危機事態と認定すれば武力行使を認める一方で、 武力攻撃切迫事態では武力行使を認めない法律の根拠を問いただした。 中谷元防衛相は 「他国に武力攻撃が発生したかどうかと、 我が国が直接武力攻撃を受けた時の判断基準に違いがある」 と繰り返し押し問答。 見かねた首相が答弁席に立つと、 辻元 氏が 「中谷大臣に聞いている。 駄目です」 と遮り、 首相が  「早く質問しろよ」 とヤジる一幕も。 首相が断言した 「いささかも変わりない」 という専守防衛にしても、 「防衛白書によると、 相手から武力攻撃を受けた時に初めて防衛力を行使するなど、 憲法の精神に則った受動的な防衛戦略の姿勢」 だと朝日は社説で指摘している。 野党は首相が武力攻撃事態法案について、 「新 3 要件が充当すれば、 他国への攻撃でも武力行使が出来るようになる」 と言うのは、 「安全保障政策の大転換だ」 と強く反対、 浜田靖一委員長が職権で開会を決めた 3 日の特別委を欠席、流会した。

政府裁量、恣意的適用を野党警戒
 野党は、集団的自衛権を行使できる 「存立危機事態」 や他国軍を支援する 「重要影響事態」 に、 明確な認定基準がないことを問題視している。 重要影響事態安全確保法は朝鮮半島や台湾海峡の有事を想定した周辺事態法を改正して新設するが、 首相は重要影響事態の認定基準について、 日本の安全に影響する武力紛争に関する ①当事者の意思と能力 ②発生場所 ③事態の規模 ④事態に対処する外国軍の活動内容 ⑤日本に戦渦が及ぶ可能性⑥国民の被害 ―― を列挙。 この 6 条件に基づき総合的に判断すると答弁、 「個別的具体的な状況に即し、 政府が全ての情報を総合して客観的、 合理的に判断する。 一概に述べることは困難」と説明した。 だが、 民主党の長島昭久元防衛副大臣は 「電話での閣議決定」 の不備を突いた。 政府は有事に至らない「グレーゾーン事態」 への対処で武装集団による尖閣諸島など離島への不法上陸、 占拠や外国軍艦が日本領海に侵入したケースなどを想定、 自衛隊が治安出動や海上警備行動を迅速に行うため、 電話での閣議決定方式の導入を決めている。長島氏はこれを 「不十分」 と断じたが、 首相は 「警察力で対処できないならば直ちに自衛隊が対処するのが一番だ。 閣議決定が速やかにできれば問題ない」と答弁。 野党は国会承認前に電話方式を導入するなどは政府の裁量で恣意的に同法を適用すると見て警戒を強めている。

懇切丁寧に国民説得し法案成立へ
 中国が 2 年に 1 度発表する 5 月末の国防白書は 「陸軍を重んじ海軍を軽んじる伝統的な考え方を打ち破る」 と明記し、 アジア重視のリバランス (再均衡) 政策を取る米国と安保政策の転換を進める日本を牽制した。 中国は南シナ海をまるで自国の内海のように考え、 スプラトリー (南沙)諸島の岩礁での埋め立てや滑走路建設を進めている。 近隣諸国の領有権主張を一方的に踏みにじる、 許せない覇権主義だ。 重要影響事態法は南シナ海のシーレーン (海上輸送路) の防衛も念頭にあり、 こうした新たな防衛環境の変化に対応しようとするものだ。 安保法制与党協議会座長の高村正彦自民党副総裁は 5 日の政府与党連絡会議で、 「1954 年に自衛隊を作った時、ほとんどの憲法学者は違憲だと言っていた。 その後、 3 権の一つ最高裁は砂川判決で主権国 固有の自衛権は否定していない」 と説明。 公明党の山口那津男代表も 「建設的な理論で国民の理解を深めていきたい」 と述べた。 政府は 9 日、憲法9条下でも 「自衛措置を禁じているとは解されない」 との 1972 年の政府見解を引用し, ①技術革新の急激な進展 ②大量破壊兵器の脅威 ―― など、 安保環境の変化を理由に挙げ、「これまでの憲法解釈との論理的整合性及び法的安定性は保たれている」 と反論する見解を各党に提示した。 首相も帰国途上の会見で同趣旨を述べている。 安保審議は大きなヤマ場である。 首相ら政府首脳は 「懇切丁寧に国民に説明する」 と約束しているが、多少の時間をかけても、 国民の納得を得て法案を成立させなければならない。努力が成果を生む。  (以下次号)