第338回(5月16日)切れ目ない安保法制⑮ 今夏成就発言に野党猛反発
 後半国会は来週 ( 5月17日)から、いよいよ安全保障法制の本格的審議に入る。 グレーゾーン事態を含む平時から存立危機 ・ 武力攻撃事態の有事までの切れ目ない安保体制を構築する改正法案と恒久法案は14日に閣議決定、 一括して国会に提出された。 同法案は19日に設置される衆院安保法制特別委員会 (委員長=浜田靖一元防衛相 ) で審議が始まる。 21日の衆院本会議で趣旨説明と質疑を行った後、連日でも開催可能な特別委に移るが、 政府与党は会期延長を予定し同法の成立に全力を挙げる。 日米両政府は 4月27日、外務・防衛担当閣僚協議 ( 2プラス2)をニューヨークで開き、 日米防衛協力のための指針 (ガイドライン) の改定で合意、 翌 28日の日米首脳会談で安倍首相とオバマ大統領は日米同盟の強化を確認した。 しかし、18年ぶりに改定のガイドラインは日米安保条約の事実上の改定と改憲に繋がる内容であるうえ、 国会承認前に米上下両院合同会議で安保法制を 「今夏までに成就させる」 と明言したことから野党は猛反発し攻防は激化しそうだ。 韓国も遺憾の意を表明した。 まずは安保法制と 「車の両輪」 であるガイドラインの内容を検証してみよう。

日米同盟のグローバル化など5点
 「日本は自らの領土だけでなく、その他のパートナーに手を差し伸べるようになる歴史的な転換点だ」 ―― ケリー米国務長官は合意後の記者会見で成果をこう強調し、カーター米国防長官も 「米軍と自衛隊が切れ目なく協力する場面を拡大する」 と期待感を示した。 確かに、新ガイドラインの冒頭に掲げた目的には 「平時から緊急事態までの日本の平和と安全を確保、また、アジア太平洋地域とこれを越えた地域が安定し、平和で繁栄するよう、日米両国間の安全保障と防衛協力は次の事項を強調する」 と謳い,①切れ目のない、力強い、柔軟で実効的な日米共同の対応 ②日米の国家安全保障政策間の相乗効果 ③政府一体となっての同盟の取り組み ④地域及び他のパートナーや国際機関との協力 ⑤日米同盟のグローバルな性質 ―― の5点を挙げている。 初めてガイドラインを策定した 1978年はソ連による日本侵攻、97年の改定は北朝鮮の核開発を踏まえた朝鮮半島の有事を念頭においていた。 今回は軍事力を増大し東・南シナ海で威圧的な海洋進出を拡大している中国を想定、従来のガイドラインでは小さく扱った平時の協力項目を詳細に定め、  「切れ目」をなくしている。

平時でもISR活動やアセット防御
 「日本の平和及び安全の切れ目ない確保」の項目では ①武力攻撃に至らないグレーゾーン事態を含む平時 ②地理的制約なしに後方支援が可能な重要影響事態 ③日本が武力攻撃を受けた事態 (日本有事) ④他国が武力攻撃を受け、集団的自衛権の行使が可能な事態⑤日本での大規模災害 ―― での協力を挙げている。平時の協力項目では 「共同のISR (情報収集・警戒監視及び偵察) 活動」 や 「アセット(装備品) 防御」 「強化された運用面の調整」 など、尖閣諸島を巡る中国の挑発行為などを抑止するため、 海上自衛隊の護衛艦が米空母を守ることはもとより、一体的な ISRや訓練 ・ 演習などが可能になる。 一体的運用を調整するため、有事の作戦調整機関だった 「日米調整メカニズム」 を平時から利用できるようにし、日米双方が要員を相手側に常駐させる。 さらに、有事の取り組みでは、「島嶼」 の防衛が明記され、 尖閣諸島や南西諸島が中国に奪われる場合は、 自衛隊が行う奪回作戦を米軍が 「支援・補完する」 ことが規定された。 日米協力の拡大では、 東シナ海に限らず、 南シナ海でも活用が可能で、平時での日米共同の ISRに加え、南シナ海で中国と米・フィリピンなどが軍事衝突した場合は、日本の平和・安全に重要な影響がある 「重要影響事態」 として自衛隊が後方支援を行うことや集団的自衛権の行使を限定的に容認する 「存立危機事態」 として自衛隊が機雷掃海や強制的船舶検査 (臨検)、 船舶護衛を行う規定が盛り込まれた。

リバランスに必須な地球規模協力
 これには首相がご執心のホルムズ海峡の機雷掃海も含まれる。米国が最大の成果の1つに挙げているのが 「グローバルな協力」 の拡大。 日米が 「アジア太平洋地域及び、これを越えた地域の平和、安全、安定及び経済的な繁栄の基盤を提供するため」 に 「主導的役割を果たす」 と明記された。 オバマ米政権はウクライナ紛争、シリア内戦、「イスラム国」 (IS) のテロなどに有効な手が打てず、「世界の警察官」 としての地位を失墜。 かつてのように潤沢な国防費が投入できない現状では、日米同盟の役割を拡大し、日本が米軍を広範な領域で支援するメカニズムの提供を強く期待している。 オバマ氏が掲げるアジア太平洋地域重視の 「リバランス (再均衡) 政策」 を推進するには、地理的制約を除去する同盟国日本の地球規模の協力 (役割分担) が欠かせない。 2プラス2の共同発表は ①米国は (集団的自衛権行使を認めた) 昨年7月1日の閣議決定、防衛装備移転三原則、特定秘密保護法 など、日本の最近の重要な成果を歓迎し、支持する ②尖閣諸島が日本の施政下にあり、 日米安保条約5条の適用範囲に含まれることを再確認する ③普天間飛行場の代替施設を辺野古に建設することが運用上、政治上、財政上、戦略上の懸念に対処し、普天間飛行場の継続使用を回避する唯一の解決策であると再確認する ―― を骨子としている。

渡りに船とガイドライン改定歓迎
 日本は90年代の湾岸戦争で多国籍軍に130億ドルを支出し、停戦後にはペルシア湾のホルムズ海峡 ・ シーレーン( 海上交通路) で機雷除去もしたが、 国際社会からは評価されなかった。 「積極的平和主義」 を掲げる安倍政権は 「湾岸トラウマ」 を解消すべく昨年7月、憲法解釈変更による集団的自衛権行使の限定容認に踏み切った。 オバマ政権は渡りに船とばかりに喜んで、ガイドライン改定を歓迎した。 新ガイドラインには ①米国に向かう北朝鮮の弾道ミサイルが日本上空を横切る際に自衛隊が迎撃 ②中国が配備を進める 「巡航ミサイルによる攻撃」 の対処 ③米軍と一緒に民間のタンカーや貨物船を守る共同護衛 ④宇宙やサイバー空間の安定利用に向けた協力 ―― なども盛り込まれた。 「ガイドラインは協力の枠組みを定めたもので法的拘束力はない」 と政府は言うが、 野党は安保法制の国会審議を前に日米合意し、米議会で 「夏までに法制を成就する」と公約して既成事実化したと猛反発。

前代未聞、国民・国会軽視と岡田氏
  民主党の岡田克也代表は 4月30日、「法案提出すらされてない段階でこれ程の重要法案の成立時期を外国で約束するなど前代未聞。 国民無視、 国会軽視、ここに極まれりだ」 との談話を発表。他野党も 「立法府を無視している」 (吉田忠智社民党党首)、「じっくり時間をかければ反対世論が多数になるのを恐れての焦りだ」 (山下芳生共産党書記局長) と批判した。 機雷掃海では自 ・ 公両党の間で少し見解が分かれている。 マスコミも 「日米安保条約の極東の範囲を超えているのは明らか」、「車と両輪の関係にあるガイドラインと安保法制がまるで憲法や安保条約の上位にあるかのようだ」 と批判している。 後半国会はアベノミクス第 3の矢 (成長戦略) 関連の重要法案も審議に入るが、与野党論戦は激化しそうだ。 (以下次号)